四葉家の死神   作:The sleeper

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九校戦の8日目は特に書くことも無かったので飛ばしました。


30話目 九校戦九日目

30話 九校戦九日目

 

 

 

 

 

 

今日からはやっと何も暗いことは考えずに大会を観戦できるというものだ。

その理由として昨日のうちに達也が一昨日の後始末をしてくれた。

昨日の夜に達也の部屋に一応お礼を言いにいったら「国防軍の仕事としてやっただけだが……………………まぁ貸しというならありがたく受け取っておこう」と言われた。女顔の男だったらまだしも見た目が大学生で無表情の達也のツンデレとかほのかしか喜びそうにない………………………………あ、エリカの笑いの種になるか。

 

そして今日は深雪がミラージパッドで優勝して見事第一高校の総合優勝が決まった。余談だが総合優勝が決まった際に将輝の後をニヤニヤしながら無言で付いて行っていたら危うく殴られそうになった。いや、実際に拳は飛んできたのだが間一髪で躱した。その後将輝は半泣きで『来年こそはぁぁぁぁぁぁ!』と言いながら走り去って行った………………………何とも可哀想なやつだ。

 

 

「ああああぁぁぁぁ………………っかれた」

 

 

一昨日、俺がジェネレーターを消したという報告はおそらく藤林さんから風間さんにされている頃だろう。今回の九校戦で十師族や国防軍は四葉の戦力に関して危機感を強めたはずだ。現在十師族内では四葉と七草の二強体制になっているがそれでも戦力的には四葉の方が優っているのは誰の目に見ても明らかだ。最悪『四葉排斥』の動きが起きるかもしれない。

 

 

「そうならない為にもちゃんと働かないとね」

 

 

そしてシャワーを浴びた俺は特に何もするわけでもなくベットに倒れこんでそのまま意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてついに九校戦最終日

今日行われるのはモノリスコードのみだがこれも恐らく克人さんがいることで圧倒的な結果に終わるはずだ。

 

 

「でももしかしたら十文字先輩負けちゃうかもよ〜?」

 

 

モノリスコードの決勝 第一高校対第三高校の試合会場。試合開始まで残りわずかというところでエリカがイタズラ好きな子供のような笑みで問いかけてくる。

現在俺を含むいつものメンバーでモノリスコードの会場に観戦に来ていた。

 

 

「俺も普段はこういう勝負事で断言とかはしないんだけど、でもこればっかりは勝つよ」

 

 

まぁ何かハプニングがあったらキツイね。

と笑う俺に達也も微笑を浮かべる。ハプニングとは【無頭龍(ノー・ヘッド・ドラゴン)】のことを指し、それはもう既に駆除されている。つまり勝ちは安泰というわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後、ついに試合開始を告げる音が会場に鳴り響いた。

 

第一高校対第三高校

宿命の対決とでも言うべきこの試合は誰の目から見ても分かる程に一方的なものになっていた。

先ほどから相手は氷の礫を飛ばしたり、崖を崩して岩を落としたり、沸騰させた水をぶつけたりと地形を利用した多種多様な攻撃を克人に向かって繰り出している。だが、それらの攻撃は全て克人の張った障壁魔法に阻まれていた。様々な攻撃に対して克人は対応する障壁を幾重にも張り、全てを防ぎ、悠々と敵陣に向かう。

 

 

「多重移動防壁魔法【ファランクス】相変わらずエグいな」

 

 

「それを一撃で消したやつが何を言ってる」

 

 

俺が引きつった笑みを浮かべるとすかさず達也がツッコミを入れて来た。それに深雪もクスッと笑う。

レオ達は試合に夢中で聞こえてなかったみたいだが。

 

 

【ファランクス】

この魔法は何種類もの防壁魔法を途切れさせることなく更新し続けるという高度な技術による持続力が強みで、俺には克人さんのような高度な真似は不可能だ。元々、俺が障壁魔法があまり得意ではないことも理由の一つだが、それを抜きにしても感嘆するほどに克人さんの魔法は洗練されている。

 

 

「お?」

 

 

そして三高の選手は克人の歩みを止めることはできず徐々に距離は縮まっていき、そしてお互いの距離が十メートルを切ったところで克人さんが歩みを止めた。

否、止まったのではない。一瞬の停滞は次の行動に向けての溜めだった。一歩、そして勢いよく地を蹴った。加速・移動魔法が掛かった克人さんの身体は水平に宙を飛ぶ。そのままショルダータックルで相手選手めがけて突っ込み自身の周囲に張ったままの対物障壁で相手を吹き飛ばした。克人さんは吹き飛ばした相手には目もくれず、次のターゲットめがけて跳躍する。相手がどんな魔法を行使しようとも、克人さんはそれを真っ向から叩き伏せる。なすすべもなく三人目の選手が吹き飛ばされ、圧倒的な結果でモノリスコードの優勝は一高に決まった。

 

 

 

 

 

 

「凄いですね……あれが十文字家の【ファランクス】ですか……」

 

 

観客席で手を叩きながら呟く深雪の感想はありふれたものだった。ただそれだけ衝撃を受けている証拠だろう。実際、俺もこの試合、いや克人さんの魔法に圧倒されていた。

もし俺が【全反射(フルカウンター)】を使えなかったら、克人さんを抑えるのは苦労しそうだ。少なくとも、俺がモノリスコードのレギュレーションの中で勝つのは至難の技だろう。

 

 

「違うな……あれは多分、本来の【ファランクス】じゃない。最後の攻撃……あれは【ファランクス】本来の使い方ではないように思える」

 

しかも達也が言ったように未だに本気ではないのだから恐れ入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無事に表彰式も終わり、閉会式の挨拶やその他諸々も終了した。それならば早く帰りたいところなのだが、そういうわけにもいかない。開会前と同じくパーティーが開催されるからだ。幸いなのは開会前の懇親会とは違って本当の意味で親睦を深める場だということか。

それに他校の生徒や大会関係者、挙句の果てにメディアの関係者まで纏わりついてくるので、うんざりとした気分になるのにはあまり変わりがないかもしれない。

 

 

「TBCです。それで今回初の九校戦となりましたが2つの種目で優勝と快勝でしたね、参加してみてどうでしたか?」

 

 

「そうですね、学校で練習に付き合ってくれた同級生や指導していただいた先輩方のおかげだと思ってます。また来年も参加したいですね」

 

 

と、いうわけで絶賛マスコミにたかられ中である。

四葉家の、しかも戦略級魔法師が参加しているのだからこの展開は予想していたがまさか記者の数がここまで多いと思わなかった。

遠くでは一校や他校の生徒が物珍しいような目で見て来ている。

 

 

「書売新聞です。戦略級魔法師が学生の大会に参加することには反感も予想されましたが、そのことについてはどう思いますか?」

 

 

「そうですね…………それでもこの九校戦の為に切磋琢磨して練習して来た同学年の人たちに対して手を抜くなんて失礼なことをする考えは最初から頭にありませんでした」

 

 

「NNKです。ーーーーーーーーーーー」

 

 

あぁそろそろめんどくさくなって来た、夕食を食べるのはこの後のマスコミや他校の生徒が出てからの第一高校の優勝パーティーで良いのだが、それでもずっとマスコミに囲まれるのは疲れる。

ふと辺りを見回すと真由美さんと目が合った、手を『オイデオイデ』と振っていて、恐らく『こっちに避難して来たら?』という意味だろう、この機会を逃すわけにはいかない。

 

 

「あ、先輩に呼ばれたんで、そろそろ失礼します」

 

 

俺が立ち去ろうとするとここぞとばかりに様々なことについての感想を求めて来た。しかしそんなマスコミも俺を呼んだのが真由美さんだと気づくと『四葉董夜は七草真由美嬢と懇意があるのか?』などという声に変わった。

 

 

「助かりました真由美さん、なんか変な事書かれそうですけど」

 

 

俺と真由美さんが一緒にいるのを見かけた深雪がすごい形相でこっちに来ようとしているのを達也が止めているのが視界の端で見えた。

 

さすがに他校の人やマスコミがいる中で深雪と一緒に行動したら俺と深雪の関係がさぐられてしまう…………………そう今の俺と真由美さんみたいに。

 

 

「フフフ董夜くん、『七草家の長女と四葉董夜が婚約か?』ですって」

 

 

「そうですね、誤解は早くとかないと」

 

 

この中では真由美さんと行動する方が1番無難なのだ、いや克人さんといた方が無難なのだがさっきから見当たらない。

 

 

「それより真由美s「なにかしら?」……………近いです」

 

 

話しかけようとしたら速攻で返事をして来た、しかも俺の右腕をホールドして。あぁほら、そんなことするから周りから注目を集めてる、記者たちも慌ててカメラを探してるがこの会場では撮影禁止でカメラは没収されている。

 

 

「すこし夜風にあたりに行きませんか?」

 

 

人目を避けたいので。

と言う俺に真由美さんは一層強く俺の腕をホールドして

 

 

「それは2人っきりで暗がりに行きたいっt「注目をされたくないので」…………もう」

 

 

そんなこんなで2人で会場を出て少し通路を進んだところにあるバルコニーにやって来た。

俺たちが会場を出ると記者たちが後を追おうとして来たがホテルの従業員さんが俺たちが会場を出てすぐに扉を閉めてくれた。これで一時的にだが記者たちは会場に閉じ込められたことになる、あの従業員さんには帰る前に何か差し入れをしよう。

 

 

「夜風が涼しいわね」

 

 

「そうですね」

 

 

夜風を浴びて涼しそうにしている真由美さんの言葉をつい素っ気なく返事した。すると真由美さんは怒った(ように見せる)ように頰を膨らませてこちらに顔を向けた。

 

 

「なんだか私にだけ素っ気なさすぎない?」

 

 

「そんなこと………………あるかもしれないですけど。でもそれは真由美さんだから素が出せてるって意味ですよ」

 

 

「ありがと………………ハッ、今のってまさかプロポーズ!?」

 

 

「もしそうだったら俺は克人さんにも将輝にもプロポーズすることになりますよ」

 

 

小悪魔みたいなところがあって腹のなかが黒気味な真由美さんでも一応将輝と克人さんと同じぐらいの付き合いだ、これでも信頼はしているのだ。ただ………………

 

 

「それで?数あるお見合い候補の中から誰を選ぶのかしら?それとも複数?」

 

 

この話題だけは苦手だ。まぁしょうがないのはわかっているのだが真由美さんは2人きりになると必ずこの話題を出してくる。

まぁ俺がこの話題を苦手としているのを知っててからかっているのだろうが。

 

 

「重婚は絶対にありませんよ、弘一さんを非難するつもりはありませんけど、この先何を強いられても妻を複数娶ることは絶対にありません」

 

 

「………………そう」

 

 

俺の宣言とも取れる言葉を聞いて真由美さんはすこし嬉しそうな顔をした。まぁ夫が自分以外の女性を愛していてもいい、なんて人は稀だろう。

 

 

「それなら婚約に関しては高校を卒業してから決定すると………………………てかこの説明何回めですか」

 

 

そう、この説明は四葉家に俺宛のお見合いの申し出が来るたびにしているのだ。いい加減この台詞も飽きて来た。

 

 

「フフフ、そうねごめんなさい」

 

 

「はぁ」

 

 

まったく悪びれていないのが声色から丸わかりだ、まぁこの人はこういう人だとわかっているからいいのだが。

 

 

「会ったばかりの時はこんな人じゃなかったのに」

 

 

「あら?そうだったかしら?」

 

 

「え?だって初対面であいさつする時に思いっきり何もない廊下で転んだり、お茶を持って来た時もまた転んで俺にお茶を「わああああああああ!!!!」…………………すみません、耳元で大声出さないでくだs「董夜くんが変な事を言うからじゃない!!」…………ホントの事じゃないですか」

 

 

ほとんど最後まで言わせてもらえなかった。でも隣で真っ赤になって息を切らしている真由美さんを見たらそんな事がどうでもよくなって面白く思えて来た。

 

 

「もう、そんなに笑わないでよ」

 

 

「いや、今の真由美さんとのギャップが凄くて」

 

 

その後は2人とも無言になって夜空を見上げた、今まで気づかなかったが夜空には満天とまではいかないものの東京よりは格段に多い量の星が瞬いていた。「これはいい雰囲気」とでも思ったのだろうか、真由美さんが目を閉じてーーー

 

 

「董夜くん……………いいよ」

 

 

「ハッハッハ、真由美さんがよくても俺がダメです」

 

 

「………………いけず」

 

 

「それにこんなことしてたら泉美と香澄に怒られますよ『はしたない!』って」

 

 

「そ、そうね。泉美ちゃんには殺されちゃうかも」

 

 

「?」

 

 

確かに泉美も怒るだろうが何故香澄を外したのだろうか?それに真由美さんは苦虫を噛み潰したような顔をしている。泉美と何かあったのだろうか?

 

 

(クッ…………!まさか泉美ちゃんまでも董夜くんのことが好きだなんて、確かに思い返してみれば家で董夜くんの話をする時泉美ちゃんだけ無表情だったわね)

 

 

「それじゃあそろそろ戻りましょうか、そろそろ一校の優勝パーティーが始まりますよ」

 

 

真由美さんは何か怖い顔で考え事をしていたがこのままここにいるわけにもいかない、俺が話しかけると真由美さんはハッとして慌てて立ち上がった。

 

 

「そ、そうね!そろそろ戻りましょうか………………………あ、最後に写真撮らない?」

 

 

「え?なんでそんなこと……………………………はぁ、余計な人には見せないでくださいよ。面倒ごとは御免です」

 

 

普通に断ろうかと思ったが「そうよね」と悲しそうに俯かれたら敵わない。これで涙目で上目遣いとかだったら確実に演技だから無視していたが。

 

 

「はい!チーズッ!」

 

 

結局写真を撮ることになった。昔に流行ったらしい『自撮り』と言うやつで写真を撮った。写真を見ると顔を近づけて写っている俺と真由美さんがいた。

 

 

「それじゃあ戻りましょうか!」

 

 

明らかに上機嫌になった真由美さんの後を少し小走りで追いかける俺だった。

 

 

 

この時、この写真のせいで少しだけ面倒なことになるとは俺は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と長いこと夜風に当たっていた様ですね」

 

 

「…………………………はぃ」

 

 

おかしい数十秒前まで嬉しそうにしている真由美さんの後をため息をつきながら追いかけていたはずなのに、何故いまパーティー会場の入り口の前で深雪に怒られているんだろうか…………………………うわ深雪顔怖っ!!

 

 

「女の子の顔が怖いだなんて、随分とデリカシーが無くなりましたね」

 

 

「あれ、俺口に出してt「まさか本当に思っていただなんて」………すみません」

 

 

やばいマジで深雪が泣きかけてる、長年の付き合いからあれは演技じゃなくてガチなやつだ、俺の後ろにいる達也の殺気がマズイことになってる。てゆうか真由美さんは何で何も弁解してくれないのだろうか。

 

 

「あ、あの、真由美さんも何か言ってくださいよ」

 

 

「まさか董夜くんが暗がりであんな…………………!」

 

 

「アハハ、ちょっと黙ってもらっていいですか?」

 

 

やばい真由美さんのくだらない嘘のせいで深雪の顔を直視出来なくなった。ていうか見なくても怖いのがわかる。

 

 

「七草会長、そろそろ全体のパーティーが終わって一校の優勝パーティーの準備があります、戻った方が良いかと」

 

 

深雪から目配せをされた達也が真由美さんをこの場からどかそうとして真由美さんもそれに乗じて「そうね、ありがとう達也くん」と速攻で会場に入って行ってしまった。

 

 

「え、あ、ちょ、真由美s「董夜さん」…あ、はい」

 

 

「あの部屋に入りましょうか………………幸い誰も人がいない様ですし」

 

 

その後、俺は悪い意味で忘れられない時を過ごした。時間にして10分にも満たなかっただろうがそれでも俺の体感時間では優に10時間を超えていた。

 

この後一校の優勝パーティーで様々な人と踊り、何故かそれに対抗した深雪と真由美さんに絡まれたのはまた別の話。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の終盤での真由美と董夜との会話でも触れていましたが董夜が将来的に複数の妻を持つ【重婚】をすることは絶対にありません。


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