四葉家の死神   作:The sleeper

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48話 オワビ 2

48話 オワビ

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、これからどうするの?」

 

「と、言いますと?」

 

 

董夜と真由美のディナーも順調に食べ進んでいき、デザートに差し掛かった頃。学校でのことなど、温かかった二人の話のネタが十師族に関する少し硬い話に変わる。

二人はこれでも十師族最有力と呼ばれる二家の当主の長男と長女である。必然的にこういう話になるのは予想できていただろう。

 

 

「とぼけないで、董夜くんの戦略級魔法の話よ」

 

 

両手を机の上に置き、真剣な顔の真由美に董夜は特に動揺した様子はなく、水を一杯飲んで息を吐き、真由美を見据えた。

その雰囲気の変わりように、真由美の心は一層引き締まっていく。

 

 

あの魔法(ブラック・ホール)を使ったことに俺の意思はありませんよ。俺も予想外でしたし」

 

「でも四葉の力が強くなりすぎたら………」

 

「『四葉排斥』の動きが出てくる」

 

「…………えぇ」

 

 

十師族に本来序列は存在しない。その為に師族会議では円卓を使用しているのだが、現在は四葉と七草が最有力と言われていることから、暗に序列は存在している。

そして四葉の力があまりに大きくなりすぎた場合、恐らく七草を筆頭に四葉を危険視し排斥しようとする動きが出てくる、と真由美が予想するのは当然のことだった。

 

それでも…………

 

 

「排斥の動きは出ないと思いますよ……いや、()()()()()と言う方が正しいかな」

 

「出れない?」

 

 

董夜の言葉に真由美が訝しげな言葉で疑問を投げかける。十師族とは表立って行動できないものの、超法規的な力を持っている。その為、十師族の行動を制限できるようなものなど無いと真由美は思ったのだろう。

 

 

「世間ですよ」

 

「世間?……………あっ」

 

 

真由美が気づいたように声を上げる。

現代において世間の魔法師に対する評価は低い。しかし、『四葉董夜』は別である。

数ヶ月前、ショッピングモールで暴走した魔法師を捕らえた件を含め、董夜は自身が四葉の当主になった時のために、自身に対する周りからの評価が高くなるように振舞ってきた。事実、彼のルックスも相まって四葉董夜の人気は高い。

そのため、『四葉董夜』を有する四葉家は(他家より)世間を味方につけていると言ってもいい。

 

 

「それに二つ目の戦略級魔法のニュースも『すごい』とか『味方なら頼もしい』と言うようにしか捉えられていないようですし」

 

「でも………………」

 

 

たとえ一般人からの風当たりが酷くならなくても、魔法師界では孤立するかもしれない。

そういう懸念を含んだ真由美の表情に董夜の顔は段々と柔和な感じを帯びてくる。

 

 

「まぁ、俺の知名度を利用して今の状況を作ったのは母さんですから。師族同士の事はあの人がなんとかするでしょう」

 

 

そうして、この話は終わりだ、と言わんばかりにコーヒーを飲んで息を吐いた董夜に真由美はこれ以上の追求を諦めた。

 

 

「でも香澄ちゃんと泉美ちゃんは董夜君のこと心配してたわよ」

 

「あはは、泉美たちにもまた今度ゆっくり顔を出しますよ」

 

「えぇ、そうしてあげて」

 

 

どこかに空いてる日があっただろうか、と頭の中でスケジュールの確認をする董夜は目の前の真由美がどこか落ち着きがないことに気付いた。

 

 

「と、董夜くん!」

 

「は、はい」

 

 

急に大きめの声を上げた真由美に、どうしたんですか? と董夜が声をかける前に真由美の表情が意を決したように変わる。

 

 

「こ、この前は頰を叩いちゃってごめんね!」

 

「あ、ああ」

 

 

真由美の言葉に董夜の脳内で先日の事が思い起こされる。

 

『いい加減にしなさい………………!!』

 

思い起こした董夜は、数日前のことを懐かしむようにフッと笑った。

 

 

「いや、謝らなくちゃいけないのは俺の方ですよ」

 

「えっ?」

 

「あの時は俺もどうかしてましたから。目を覚まさせてもらって、感謝してます」

 

「董夜くん」

 

 

董夜の心からの言葉に、緊張を孕んでいた真由美の顔は次第に戻っていき。その後、わだかまりがとけた二人はしばらくの間、生徒会などについて言葉を交わした。

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

「起きてください董夜さん」

 

「ん、んん」

 

 

翌朝、董夜の自室では『真由美との食事』という最大の山場を超えた董夜が気持ちよさそうに寝ていた。そして、その側には董夜を起こそうとしている一人の少女の姿があった。

 

 

「雛子ぉ〜、あと五分〜」

 

「もぉ!私は雛子じゃありませんっ!」

 

「……………え?」

 

 

いつも通り少しでも寝る時間を延ばそうとした董夜は、返ってきた明らかに雛子の声ではない声色を聞いて眠気が急激に引いていく。

そして目をゆっくりと開け、その視界に少女を捉えた。

 

 

「………………エ?」

 

「えへへ、来ちゃいました」

 

 

語尾に『(テヘ)』が付きそうなほどお茶目に答えた深雪に、董夜は心底呆れたようにため息をついた。

 

 

「はぁ、とりあえず着替えるから出てってくれる?」

 

「はい!もう朝ごはん出来てるので待ってますね!」

 

 

何がそんなに嬉しいのか、深雪はスキップをしながら部屋から出て行った。

はぁ、と改めてため息をつきながら董夜は寝間着を脱ごうとするが、ここでようやくおかしなことに気づいた。

 

 

「雛子と達也がいない?」

 

 

なんとなく眼で見回した家の中には、深雪以外が感知出来なかったのだ。家の中にいるのは部屋で着替えようとしている董夜自身とリビングで鼻歌を歌いながら皿を並べている深雪のみである。

 

 

「な、なんでいないんだ?」

 

 

一人で考えても分かるはずのない疑問を、恐らく事情を知っているであろう深雪に問いただすため、董夜は着替えを急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「まぁ、私たちが二人で行くと言ったら」

 

「ここしかないな」

 

 

董夜が目覚めたのとほぼ同時刻、まだ朝のニュースが終わっていない時間に雛子と達也は九重寺の門の前に立っていた。

 

 

「とりあえず日中はここで稽古をして、夜は雛子が(うち)に泊まればいいだろう」

 

「そだね、達也なら変な気も起こさないだろうし、そうしよう」

 

 

実は董夜が数日前に深雪をディナーに誘った際、雛子は深雪に『その日は達也と泊まり込みで九重寺に行くから、帰って来るまで董夜の面倒を見てほしい』とお願いしていたのだ。

 

もちろん雛子と達也は口裏を合わせており、その二人からの『董夜と一日中一緒に居られる』というプレゼントというわけだ。

 

 

「泊まり込みって言っちゃった手前、今夜帰るわけにもいかないしね」

 

「九重寺に泊まるのも落ち着かないしな」

 

 

もちろんそうなった場合、司波宅に年頃の男女が一緒に泊まることになるのだが、達也は雛子に劣情など催さないことに加え、雛子は董夜に忠誠を誓った身である。可能性として、将来董夜と体を重ねる事があったとしても、他の男とは有り得ない。

 

 

「先生にはもう話を通してある」

 

「うん、行こうか」

 

 

そのまま二人は並んで九重寺の門をくぐっていく。

 

 

 

 

達也と雛子の、九重寺一日地獄稽古ーーー開始

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「それで、あの二人は明日まで帰ってこないと」

 

「はいっ!」

 

 

董夜宅

そのリビングで董夜は椅子に座ってパンをくわえ、テーブルを挟んだ向かい側では深雪もまたパンを食べていた。

先ほどから深雪ははち切れんばかりの笑顔を董夜に向けており、董夜はその笑顔に若干戸惑って居た。

 

 

「夕食のお店を予約してるの七時なんだけど、それまでどうする?」

 

 

そう、董夜の本来の予定では七時の予約に間に合わせるために六時に深雪を迎えにいき。その後は昨日と同じ行程にするはずだったのだ。

その予定がスタートする前から崩れ去った董夜の問いに、深雪は顎に指を当てて首を傾げ、考える動作をした。

 

 

「お任せします…………というのは困りますか?」

 

 

深雪が少し申し訳なさそうな顔をして董夜の顔を覗き込んだ。一方の董夜は特に困った様子も不快な様子も見せずにパンをひと噛みして……

 

 

「いや、そんな事ないけど」

 

 

しかし、そうは言っても董夜の本来の予定は夕食からであり、行く場所の候補すらない。そんなとき………

 

『現在の◯◯島の様子です』

 

偶々つけていたテレビの映像が東京からほど近い小島の様子へと切り替わった。

 

『今日、首都圏では朝から天気が良く。雲ひとつない青空が広がっています。この天気は明日まで崩れることはなく…………』

 

キャスターの言葉通り、その島の映像では青空が広がっており、波も穏やかだった。

そして、この映像を見た董夜と深雪は顔を見合わせて小さく笑った。

 

 

「………行こっか」

 

「そうですね!」

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

横浜事変が終局し、董夜の【ブラック・ホール】が戦略級魔法に認定されてから、マスコミは董夜のことを血眼になって探し回った。

第一高校前に集まるのは当然として、董夜の自宅を探すマスコミまで現れる始末である。

しかし、董夜の自宅は『秘密主義』の四葉が隠している事に加え、董夜も帰る際は他の目を欺くなどしたため、今のところはバレていない。

 

そして、董夜はマスコミとの接触を極限まで避け、不用意には外出せずに雛子や真由美をディナーに誘った際も細心の注意を払っていた。

 

しかし、深雪と出かける場合。もし深雪が四葉の車に乗っていることがバレると、深雪や達也と四葉の関係が怪しまれてしまう可能性がある。

 

 

「こんな車があったなんて知りませんでした」

 

「秘密主義の四葉らしいな」

 

 

現在、董夜たちが海に向かうために乗っている車は『見た目はタクシー、中身は四葉家の車』という(ある意味)特殊車両である。

 

 

「董夜さま、深雪さま。到着いたしました」

 

「あぁ、お疲れ様」

 

「お疲れ様です」

 

「お心遣い、骨身に沁みます」

 

 

タクシー運転手ではありえないほど遜った運転手をねぎらった後、董夜と深雪は車を降りる。

ちなみに二人はもしものために帽子とサングラスを掛けており、それが逆に芸能人のようなオーラを放っていた。

 

 

「予想より少ないとはいえ、やはり休日ですから人がいますね」

 

「まー、流石にいないとは思ってなかったけどな」

 

「あ、あの董夜さん」

 

 

多いとは言えないが、少ないとも言えない人の量に董夜が開き直ったように歩き出すと、その背中を後ろから深雪の少し小さな声が呼び止めた。

 

 

「ん、どうした?」

 

「あの、手を…………えと」

 

 

董夜が振り返ると、手をほんの少しだけ董夜の方へ伸ばした深雪が俯いて何かをモゴモゴと呟いていた。

普段、自分が受け身のことに関しては驚異的な鈍さを発揮する董夜だが、流石にこれには気づいたのか、はぁ、と息を吐いて深雪の手を取った。

 

 

「あっ………」

 

「さ、行くぞ」

 

 

 

 

 

「ふぅ………………いいねぇ」

 

 

手を繋いだ状態で浜辺へと歩いて行く二人を、四葉の(一日)タクシー運転手が車を背にタバコを吸いながら眺めている事にふたりは気付かない。

 

 

「こうやって足だけ海に入るのも良いものですね」

 

「夏みたいに思いっきり泳げないのが残念だけどな」

 

 

色々なしがらみを忘れた二人は等身大の高校生の休日を楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ!あれって四葉董夜じゃない?!」

 

「あ、バレた」

 

 

 

等身大の高校生の休日

 

五分足らずで終了

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「そうか…………そうだったな」

 

「……………はい」

 

 

あれから董夜が予約していた料亭に入り、楽しい夕食も終わりに近づいてきた頃。董夜は深雪の口から『自身が人を(あや)めたこと』を聞いていた。

本来深雪は、自分よりも大変な仕事をし、自分よりも大変な重圧(プレッシャー)が掛かっているであろう董夜に『人を殺した()()の事』で不幸ヅラなんてしたくはなかったのだ。しかし、兄である達也に並んで最も心を許せる董夜と話をしているうちに、深雪の心を閉ざしていた壁が決壊してしまったのだ。

 

 

「必要な経験だったとはいえ【コキュートス】を人に使うのは、少しくるものがあるからな」

 

「……………」

 

 

人を殺すことを『その程度』と認識してしまう、必要な経験に『人を殺す』事が入る。それが深雪たちが現在いる環境である。

 

そして董夜に同情されるたびに深雪の心に『余計な心配をさせてしまった』という罪悪感が湧いてきて、深雪の顔を一層暗くさせていった。

 

 

「でも」

「っ………!?」

 

 

俯いてしまった深雪の頭に、いつの間に近づいたのか董夜の手が置かれ、弾かれたように深雪が顔を上げる。そして、すぐ近くにあった董夜の顔を見て顔を真っ赤にさせた。

 

 

「達也が近くにいたとはいえ、深雪のおかげで五十里先輩や桐原先輩、それにみんなが助かったのも事実だ」

 

「董夜さん」

 

「奪った命を忘れろとは言わない。ただ、救った命もある事は忘れるな」

 

「っ!………はいっ………はい」

 

 

董夜の言葉に深雪の目から涙が溢れ出し、深雪は董夜の体に顔を埋めた。そして、それから三十分弱、深雪が落ち着くまで董夜は深雪の頭を撫で続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

2095年 11月某日 PM 11:24

 

 

「今日は本当にありがとうございました」

 

「………うん」

 

「董夜さんのお陰で立ち直る事ができました」

 

「そ、それはよかった」

 

「明日の学校からm「ねぇ深雪」……なんですか?」

 

「なんで当然のように俺のベッドに入ってきてんの?」

 

 

料亭から董夜の家に帰って互いに風呂に入り、何故か自分の家に完備されている深雪の着替えに、董夜が疑問を覚える暇もなく二人は寝床についた…………同じベッドに。

 

 

「え?」

 

「え?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「おやすみなさいっ!」

 

「おい」

 

 

董夜のツッコミも虚しく、深雪はそのまま布団の中で董夜にしがみついた。普通の男ならばベッドの中で深雪にしがみつかれようものなら、興奮のあまり理性が崩壊するか失神する筈なのだが。董夜はそのような気配を見せずにため息をついた。

 

 

「おやすみ、深雪」

 

「おやすみなさい、董夜さん」

 

 

先ほどとは違い静かで、しかし耳に溶けていくような深雪の声を聞いて董夜の意識は闇へと落ちていく。

 

 

こうして、董夜の波乱の三連休は終わりを迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

同日 AM 09:25(現地時刻)

 

北アメリカ大陸合衆国 某所

 

 

十四使徒の内の一人。

 

四葉 董夜が目を閉じたのと、ほぼ同時刻。

 

 

 

「うーーーんっ! 今日もいい朝ね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦略級魔法師

 

 

アンジェリーナ = クドウ = シールズが目を覚ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法科高校の劣等生 来訪者編

 

 

coming Soon……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お伝えしたいことがあります!!



① 今話の最後のcoming soonは一度使って見たかったので使いました。『調子のってんなコイツ』とか思われた方も、多分もう使うことはないと思うので我慢してください!

② 雛子 < 真由美 = 深雪の構成にする予定が、雛子 < 真由美 < 深雪に、なってしまったような気がします。一応董夜のヒロインはまだ確定していないので悪しからず。


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