四葉家の死神   作:The sleeper

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50話 アンジーorリーナ

50話 アンジーorリーナ

 

 

 

 

 

 

 

『初詣の奇妙な異人…………安っぽい小説のタイトルみたいだな』

 

「あぁ、とにかく服装が前時代的だった」

 

 

西暦ニ〇九六年の元旦も過ぎ、今日は三学期最初の登校日。日が昇ったばかりの午前六時過ぎに達也と董夜は電話をしていた。

董夜は正月に本家での集まりへ参加を強要させられて、行けなかった初詣での話を達也から聞いている。

 

 

『異人といえば今日だったな、留学生が来るのは』

 

「他人事みたいに言うな、クラスメイトだろう」

 

 

年頃の男子高校生らしい会話をし、お互いの問答に笑みを浮かべていた達也と董夜だが、その表情から笑みが消える。

 

 

『注意だけはしておけよ、何者かは分かってないんだから』

 

「あぁ、もしもの時は深雪を任せたぞ」

 

 

そして二人は三学期初日からフルタイムである授業に備えて、登校の準備をするために通信を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

国立魔法大学付属第一高校

その一年A組では朝からクラスメイトが落ち着きなくザワザワしていた。

そしてその一角では董夜と深雪とほのかが話をしていた。

 

 

「あぁー、やっぱりドキドキします!」

 

「フフッ、そうね」

 

「俺はそんなにだな」

 

 

やはりいつもより落ち着きのないほのかに、それを見て微笑む深雪。そして興味なさそうに机につっぷして、いつでも寝られる体勢をキープしている董夜。三者三様である。

 

 

「(変な事にならない…………訳ないよなぁ)」

 

 

今回の留学生に対する董夜のスタンスは『積極的には関わらず、来るなら拒まず』といったものらしく。何か自分からアクションを起こす事はしないようだ。

 

 

「それじゃあ、話題になってると思うが留学生を紹介する。入ってきてくれ」

 

 

朝のS.H.Rの為に入ってきた担任教師が入り口の方へ顔を向ける。そしてその扉がゆっくりと開かれた。

 

 

「「おぉっ!」」

 

 

教室に入ってきたのはかなりの美貌の持ち主だった。

その目は深い蒼をしており、頭の両脇にリボンで纏めた波打つ黄金の髪は、解けば背中の半ばを超えるだろう。

高校一年生にしては大人びた顔つきにそのコケティッシュな髪型は不釣り合いな気がしたが、逆に親しみやすさを演出していた。

 

 

「アンジェリーナ=クドウ=シールズです。短い間ですが、今日からよろしくお願いします」

 

 

そう言ってペコリと頭を下げるリーナに、彼女の流暢な日本語に驚いていたのか、数秒遅れて拍手が起きた。

 

 

「(目が合わなかったな)」

 

 

リーナが自己紹介をしている間、彼女はクラスを見渡すことはあっても董夜や深雪を特出して見ることは無かった。

深雪ならまだしも、有名な四葉董夜がいるにも関わらず。

 

 

「それじゃあシールズさんだけど、四葉の隣に座ってもらえるかな」

 

「はいっ」

 

 

その担任の言葉にクラスでざわめきが起き、深雪の笑顔が一瞬固まる。現在、董夜の右隣には深雪が座っており、左隣は机が置かれてすらいない空きスペースがあった。今日朝学校に来て机が置かれていたことから、なんとなく察していたクラスのメンバーだが。既に『絶世の美少女』と言っても差し支えない深雪が隣の席であるにも関わらず、さらにリーナまで董夜の隣となると、クラスの男子の黒い視線が董夜に刺さるのは必然だった。

 

 

「えぇーっと、だれか放課後にシールズさんを学校案内に連れて行ってくれる人はいるか?」

 

 

そしてその担任の言葉に、微かに男子勢が色めき立つ。しかし、その期待は本人の言葉で砕け散った。

 

 

「それなら、ミユキとトーヤに案内してほしいわ!」

 

「えっ?」

 

「(うげ)まじか」

 

 

深雪と董夜は何故自己紹介すらしていない自分たちが指名されたのか分からなかったが、さぐりを入れに来たのかと警戒心を強めた。

 

 

「そうか、それじゃあ頼んだぞ」

 

 

しかし、断れるはずもなく二人は放課後にリーナの案内役を務める事になるのだった。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「トーヤ、あなた程の有名人にあえて光栄です」

 

「あぁ、よろしく。えぇと」

 

「リーナでいいですよ、私も下の名前で呼びますから」

 

「(リーナ?アンジーじゃなくてか?)そっか、それじゃあリーナと呼ばせてもらうよ。あと、同い年なんだから敬語は無しで頼む」

 

「ええ、わかったわ」

 

 

朝のS.H.Rが終わり、早速董夜とリーナは打ち解けていた。そして深雪もその輪の中に入ろうとする。

 

 

「よろしくね、私もリーナと呼んでもいいかしら」

 

「えぇ、よろしくねミユキ」

 

 

第一高校に限らず魔法大学の付属高校には編入の制度がない。その為、留学生のリーナの話題は上級生にまで広がっていた。それなのに何故、リーナの周りに人だかりができずに董夜達と話せているかと言うと。

 

 

「うわー………絵本の世界みたい」

 

「ち、近づけない」

 

 

絶世の美女と言っても過言ではない深雪とリーナに加え、その二人と会話をしているのは高校生らしからぬスペックを携え。そのルックスも申し分ない董夜である。

美男子と美少女が話をすればその周りには自然と入りづらい空気が形成されるものである。

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「ご一緒させてもらってもいいかしら」

 

 

昼休み

董夜と深雪とほのかを学食で待っていた達也たちは、いつもいない人間がいる事に「おやっ」と思った。

そう、リーナである。

 

 

「リーナ、とりあえず皿を取りに行こう」

 

「皿?」

 

「お料理のことよ」

 

 

達也たちは既に自分達の分を取って来ている。今日はお弁当を持って来ていたほのかを席に残して、董夜たち三人は料理を取りにいった。

 

 

「あの三人が並ぶと迫力あるねぇ〜」

 

「ほんとですよ、一緒に歩いてて居づらかったですから」

 

 

同じような美少女ではあっても見るものを圧倒するというタイプではないエリカが、その光景に感嘆を漏らし、ほのかが疲れたように息を吐いた。

 

 

「お待たせしました、お兄様」

 

「ご紹介しますね」

 

 

料理を取って帰ってきた三人は自然と空いていた席に座り深雪を挟んで董夜とリーナが座った。そしてほのかがリーナの紹介をする。

 

 

「アンジェリーナ=クドウ=シールズさん。もうお聞きのこととは思いますけど、今日からA組のクラスメイトになった留学生の方です」

 

「リーナと呼んでくださいね」

 

リーナは金髪を軽やかに揺らして椅子に座ったまま一礼をした。

しかし、達也がリーナの言葉を聞いて「おやっ?」とした顔になり、董夜は目を細めた。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

アンジェリーナ=シールズは、第一高校にセンセーショナルなデビューを飾った。今まで深雪のものだった『女王』は『双璧』となり、董夜を含めた三人がよく行動を共にしていることから、一層輝いて見えた。

 

 

「ミユキ、行くわよ」

 

「いつでもどうぞ」

 

 

第一高校内の某実習室。そこには同じ器具がずらりと並んでいるが、クラスメイトのだれもが手を止めて深雪とリーナを見ていた。いや、クラスメイトだけでなく、中二階の回廊状見学席には、自由登校になった三年生がずらりと並んでいた。

それに加えて、授業が終わって昼休みに差し掛かっていることから、他クラスの生徒も見学しており、真由美や摩利に達也を始めとするE組の生徒もいた。

 

 

「スリー、ツー」

 

 

実習の内容は同時にCADを操作して中間地点に置かれた金属球を先に支配する、という魔法学習の中でもシンプル且つゲーム性も高いものだ。そして、シンプルだからこそ二人の単純な力量差が露わになる。

ちなみに、深雪は董夜を抜いた新旧生徒会役員に軒並みこの実習で勝利している。

 

 

「ワン」

 

 

リーナがそう口にすると同時に、二人は揃ってパネルの上に手を翳した。

 

 

「GO!」

 

 

最後の合図は二人で声を揃えて。

深雪の指がパネルに触れ、リーナの掌がパネルに叩きつけられる。

眩い想子の光輝が、対象となった金属球の座標と重なり爆ぜる。そして、金属球がリーナへ向かってコロコロと転がった。

 

 

「あーっ、負けた!」

 

「フフっ、これで二対二ね」

 

 

そう、まさに互角である。

それは見学者がため息をつくほどに。

 

 

「あっ、董夜さん!」

 

 

ホッとしたように息を吐いた深雪が、一人だけ離れたベンチに座ってこちらを見ていた董夜に向き直った。

 

 

「ん、なに」

 

「董夜さんもリーナと手合わせをしてみてはいかがですか?」

 

「…………っ!」

 

 

眠たいのか、まるで雫を連想させる董夜の返答に深雪が嬉々として喋る。そして、その深雪の言葉にクラスメイトや見学者を問わずにざわめきが起こり。微かにだがリーナの目に火が灯った。

 

 

「あー、まぁ、やろうかな」

 

「フフフ、負けないわ!」

 

 

断るのも変だと思ったのか、先程まで深雪が立っていた位置に董夜が立ち、二人は鉄球越しに向かい合った。

 

 

「(まぁ、負けない程度にやるか)」

 

 

昼ごはんを食べる際に疲れているのが嫌なのか、董夜が少し手を抜いて挑もうとすると。

 

 

「董夜さん、この場で手を抜くのは私たちに対する冒涜ですよ?」

 

「そ、そんなことするわけないじゃないですか」

 

 

満面の笑みで牽制する深雪に、結局董夜は本気で挑むことになった。

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「(負けられない、絶対に!)」

 

 

とある実習室、クラスどころか学年を超えた野次馬が集まる中、リーナは鉄球の向こうにいる董夜を睨みつけながら決意した。

 

いままでリーナはスターズの総隊長に就いてから。そして戦略級魔法師となってから、こと魔法に関する勝負には負けたことがなかった。その事実が現在のリーナのプライドを形成しているといっても過言ではない。

 

そのため、先程深雪に四回勝負で二敗した際、リーナは外面以上に悔しがっていた。

しかし、今回の相手は自分との共通点である『戦略級魔法師』の四葉董夜である。

 

 

「(負けるわけにはいかないんだから!)」

 

 

正直なところ、リーナは董夜を侮っている。初めて教室であった際も『顔立ちは良いけれど、余り覇気がない』程度にしか思わなかった。

 

『戦略級魔法を二つも持ってるから【世界最強の魔法師】って呼ばれているだけで、魔法の実力は大したことないんでしょ』というのが現在のリーナの董夜に対する評価だ。

 

 

「カウントは任せるよ」

 

「ええ、わかったわ」

 

 

しかし、上には上があるものである。

 

 

「スリー、ツー、ワン」

 

 

リーナのカウントと同時に先程と同様、二人はパネルの上に手を翳した。そして、そんな二人を、というよりリーナを見て申し訳なさそうにする深雪の表情に、当のリーナは気づかなかった。

 

 

「「GO(!)」」

 

 

 

 

 

 

 

北アメリカ合衆国

 

国家公認戦略級魔法師

アンジー=シリウス

 

もしくは交換留学生

アンジェリーナ=クドウ=シールズ

 

異国の精鋭はこの日、格上というものを知ることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「ちょうど四回やったし、そろそろ終わろうか」

 

「えぇ、そうね」

 

 

始まる前と変わらない声のトーン、そして同じく変わらない表情の董夜がそう言い、リーナも実習器具を後にする。

先程までリーナが立っていた場所の方向へ転がる鉄球を背に。

 

 

結果は董夜から四対〇

 

 

素人から見ても董夜の圧勝

 

そして深雪や真由美、達也といった高等な魔法師から見ると、董夜とリーナとの間には隔絶的な差があるのが分かった。

 

 

「負けた」

 

 

誰にも聞こえないように、リーナが小声でつぶやく。

 

先程この実習はシンプルだといったが、作戦勝ちというものもある。

『バランス』と『パワー』

先程のリーナと深雪のように、どちらに重きをおくかによって勝敗が左右する場合だってある。

 

 

しかし、それは実力が拮抗していた場合にのみである。

 

 

「(負けた………っ!)」

 

 

全てにおいて董夜はリーナを上回っていた。その差は僅かではなく、見上げるほどの差。

 

 

アンジェリーナ=クドウ=シールズは、この日才能と異質の傑物、四葉董夜に完全敗北を喫した。

 

 

 

 

 

 

 

 


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