四葉家の死神   作:The sleeper

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『董夜って優しいし、四葉じゃないみたいだな』

という董夜のイメージを払拭したい。


51話 キョウフ

51話 シンキョウ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………ナ…………ーナ…………リーナ」

 

「………ッ!」

 

 

お昼時、何処かぼーっとしていたリーナを深雪が正気に戻す。

 

 

「どうかした?」

 

「だ、大丈夫よ!」

 

 

エリカが心配そうに覗き込み、リーナは顔の前で手を振った。

どうやら先程、董夜に負けたのが予想以上に響いていたようだ。

 

 

「でもリーナって予想以上に凄かったんだね。そりゃあ選ばれて留学してくるくらいだから相当な実力者だとは思ってたけど、まさか深雪さんと互角に競うほどとは思わなかった」

 

 

幹比古の称賛にリーナは『董夜に勝てなかったのは仕方ない』と言われているような気がして良い気持ちではなかった。

 

 

「驚いているのはワタシの方よ」

 

 

しかし、そんな心情を悟られないようにリーナは目を丸くしてオーバーリアクション気味に驚いてみせた。

 

 

「これでもワタシ、ステイツのハイスクールレベルでは負け知らずだったのに。ミユキには勝ち越せないし…………トーヤには完敗だし」

 

「…………」

 

 

そう言いながらリーナの方顔が下を向き、肩が下がる。

『トーヤ』から先が明らかに声のトーンが落ち、落ち込んでいるであろうリーナに、全員の冷たい目線が董夜に刺さる。

 

 

「(み、深雪が本気でやれっていうから!)」

 

「(……………)」

 

「(はいはい、フォロー入れますよ)」

 

 

董夜は非難の意味を込めた目線を深雪に送るが、結局無言の圧力に屈する。

 

 

「リーナ、実習は実習で、試合じゃない。あんまり勝ち負けなんて考えない方がいいと思うが」

 

「競い合うことは大切よ。たとえ実習でもせっかくゲーム性の高いカリキュラムなんだから、勝ち負けには拘った方が上達すると思うわ」

 

 

何とかフォローを入れたのに、真っ向から反論され、董夜は軽くため息をついた。それに気づいたのは達也と深雪だけだったが。

 

 

「やっている最中は競争心を持つのも大事だろう。でも、終わった後まで引きずる必要は無いんじゃないか?」

 

 

達也のどちらを批判するわけでもない意見に、何故かリーナは達也をじっと見つめた。しかし、それは一瞬のことであり、周りのものはさして気に留めなかった。

 

 

「そうね。タツヤのいう通りかもしれない。ワタシ少し熱くなりすぎていたかも」

 

「熱くなるのは悪いことじゃないさ」

 

「「…………?」」

 

 

達也とリーナの会話にエリカたちは特に何も感じなかった。しかし、深雪と董夜だけは達也の纏う雰囲気がいつもより柔和なことを感じていた。

深雪と話している時程ではないが、少なくともエリカやほのか達と話す時とは違う。しかし、達也は深雪に関すること以外に激情を抱くことはない。そのため、深雪も董夜も『気のせいだ』と切って流した。

 

 

 

 

二人の感じた違和感。

これこそが後に、異質な存在同士の激突を生むとは知らずに。

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「そういえばリーナ、大したことじゃないんだが……」

 

「何かしら」

 

 

暖かかった達也の視線(深雪と董夜しか感じていない)が僅かに冷たさを帯びてリーナを見つめる。しかし、リーナは怯まずに口を開いた。

 

 

「アンジェリーナの愛称は普通、『アンジー』だと思うんだが、俺の記憶違いか?」

 

 

決して動揺するような質問ではない。そのため、エリカや美月たちは時に何も思うことなく二人の会話を聞いていた。

しかし、達也と董夜にはリーナの顔に一瞬、狼狽が過ったのを感じた。

 

 

「いえ、記憶違いじゃないわよ。でもリーナって略すのも珍しいってほどじゃないし、小学校の時に愛称が『アンジー』の子がいたのよ」

 

「それでリーナは『アンジー』じゃなくて『リーナ』って呼ばれるようになったのか」

 

 

納得、という風に達也は頷く。

一瞬でも狼狽してしまったことに自分でも気づいているリーナはその様子にほっとする。しかし、すぐに別の標的に顔を向けた。

 

 

「もうそろそろ学食にも飽きて来たな」

 

「それじゃあ!またお弁当を再開しますか?!」

 

 

しかし、その時既に董夜はリーナの顔など見ておらず、隣の深雪と話していた。

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

魔法科高校には学生寮は存在しない。その為、学校から二駅ほどのところにある、少人数家族用のファミリータイプの間取りの部屋をリーナは借りている。

 

 

「お帰りなさい、リーナ」

 

「シルヴィ、先に帰っていたんですか」

 

 

リーナがマンションのドアを開けると、今回の任務で彼女の補佐をしているシルヴィア准尉が迎えた。そして居間にはさらに別の人物が、緊張した面持ちでリーナを迎えた。

 

 

「ミア、来ていたんですか」

 

「はい、お邪魔しております、少佐」

 

 

彼女の名前はミカエラ・ホンゴウ。ミアというのは愛称だ。

リーナと同じ日系アメリカ人だが、リーナとは違い外見はほとんど日本人と区別がつかない。彼女はリーナ達よりも一足先に日本に送り込まれた諜報員の一人。とは言っても本職のスパイではない。

彼女の本職は放出系魔法を研究する国防総省所属の魔法師であり、十一月にダラスで行われたブラックホール実験にも参加していた才媛だ。そして、今は『本郷未亜』としてエンジニアになり、魔法大学に潜り込んでいる。

 

 

「新しい情報はまだ無いですか………まだまだこれからですね」

 

 

ミアとシルヴィから新情報の有無を聞き、来日数日にしては当然の結果を聞いたリーナがシルヴィに入れさせたお茶を飲む。

 

 

「リーナは如何です?少しはターゲットと親しくなりましたか?」

 

 

シルヴィからの反問にリーナは顔を曇らせ、それを見たミアとシルヴィは首を傾げた。

 

 

「少しは親しくなった、と思いますけど」

 

 

そしてリーナから今日までの学校でのことを聞いたミアとシルヴィは顔を驚愕に染めた。

 

 

「ミユキ シバと同点、というだけでも驚きなのに」

 

「完敗…………ですか」

 

 

ここで初めてミアとシルヴィはリーナが先程顔を曇らせた理由に気づいた。

 

 

「ええ、『あと少し』ならまだしも、まるで歯が立ちませんでした」

 

「【シリウス】でも歯が立たないなんて」

 

 

リーナの言葉に、ミアが絶望に似た表情を見せる。それだけ母国の魔法師部隊のトップが負けたというのは衝撃が強かったのだろう。

 

 

「それにタツヤとミユキとは少し親しくなりましたけど、トーヤはよくわからなくて」

 

「…………?」

 

「どういうことですか?」

 

 

先程まで暗かったリーナの顔は幾分かマシになったが、今度は不安に駆られたような顔に変わる。

 

 

「トーヤは何だか私のことを…………なんというか…………観察対象として見ているような気がして」

 

「…………?」

 

 

適切な言葉を探して出てきた言葉が『観察対象』

それはシルヴィ達の心中に言い知れぬ不安感をもたらした。

 

 

「しかも『その』目で見られているのが私だけじゃなくて、他の学友のこともそう見ているような気がして…………」

 

 

まるで友人として見ていないような。

 

ここまでくればシルヴィたちの心中は不安から恐怖に変わる。

それは『ヨツバ』に対するものか、はたまた『トウヤ ヨツバ』に対するものか。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

リーナたちが董夜に対して言い知れぬ恐怖を感じている中。当の本人は自宅の地下、その中でも特に情報セキュリティや盗聴盗撮耐性の高い黒塗りの部屋で、やはり黒いソファに腰をかけていた。

そして、その側では雛子が直立不動で立っている。

 

 

「本郷未亜」

 

 

董夜の手には幾枚かの書類があり、それに目を通しているようだ。

そして、誰に聞かせるわけでもなく内容をつぶやく。

 

 

「マクシミリアン・デバイス日本支社 。セールス・エンジニ担当。現在は魔法大学に派遣されている」

 

 

特におかしい点はない日本人のプロフィールを、董夜が読み上げていく。しかし、そんな事を董夜が四葉ではなく、雛子に調べさせるわけがない。

 

 

「……………その正体は北アメリカ合衆国、国防総省所属の魔法研究者、ミカエラ・ホンゴウ」

 

 

そこまで言うと董夜は資料を机で揃えて手を離す。その背後からはいつのまにか雛子は消えていた。

 

 

「俺の専属研究室(ファン)の者か、それとも別か。どちらにせよ、どっちが本命だ?」

 

 

董夜はそのまま背もたれに身を預けると、頭の中で先日来た留学生を思い描きながら思考を続けた。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「今日は風が少し冷たいな、リーナ」

 

「そうね、タツヤ」

 

 

第一高校敷地内 某所

 

そこでは達也とリーナが二人で並んで歩いていた。達也が腕章を付けていることから分かるように、二人は別に逢引をしているわけでは無い。

 

『ここの風紀活動を見学してみたい」

 

リーナのその一声により、今回巡回の当番だった達也が案内役として白羽の矢が立ったのだ。

 

 

「疲れたのか?戻ろうか?」

 

「いいえ、大丈夫よ」

 

 

実験室が並ぶ特殊練の端、実験練から裏庭に降りる昇降口でリーナが足を止め、達也が気にかける。

 

 

「タツヤは何故劣等生のフリをしているの?」

 

「…………は」

 

 

唐突なリーナの質問に、一瞬達也の喉が詰まる。別に慌てているわけではなく、ただ驚いただけなのだが。

 

 

「フリをしているのに、どうして簡単に実力を見せちゃうの?」

 

「別にフリをしているわけじゃ無い。実技試験では劣等生だけど、喧嘩は強い、ってだけだ」

 

 

幸いリーナが丁寧に質問したおかげで、達也はボロを出さずに済んだ。

 

 

「試験の実力と実践の実力は別物だ、という意見にはワタシも賛成よ」

 

 

いつも使っている言い訳で逃げ切れると思っていた達也に、リーナの返答は完全に予想外だった。

 

 

「ワタシも、学校の秀才じゃなくて、実践で役に立つ魔法師になりたいと思っているの」

 

 

リーナからキナ臭いオーラがユラリと立ち上る。そして、達也は一応として【精霊の眼(エレメンタル・サイト)】で周囲に人が、自分とリーナを除いて()()()()()()()()を確認した。

 

 

「穏やかじゃ無いな」

 

「分かるのね、凄いわ」

 

 

達也の目から熱が消え、リーナが研ぎ澄まされた刃のような笑みを浮かべる。

 

 

リーナの手が跳ね上がった。

襲い来る掌底を、達也が捉える。

最小の動き鋭く突き出されたリーナの右手、その手首を達也が掴み取っていた。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

お互い数瞬の沈黙の末、リーナは掴まれていた右手を指鉄砲の形に、人差し指を突き出した。

達也の顔に突きつけられる、形のいい爪。

達也がリーナの右腕を外側に捻り上げ、リーナが顔をしかめて、指先に集まった想子が霧散した。

 

 

「物騒だな」

 

「避けられると思ってた」

 

 

達也は捻り上げていたリーナの腕を離し、二人が数歩の距離を取る。

 

 

「……まだ何か?」

 

「いや、もういい。それから普通に喋ってくれ。そんな風に、上品に振舞われるとリーナじゃないみたいだ」

 

「ワタシの何処が上品じゃないって言うのよ!」

 

「キャラが違うだろ」

 

 

『キャラ』と言う言葉が正しい意味で伝わるか一抹の不安があった達也だが、その不安も杞憂に終わった。

 

 

「そんなことないわよ!これでも大統領のお茶会に招かれたことだってあるんだから!」

 

「ほぅ…」

 

 

リーナの言葉を聞いて達也はニヤリと笑った。その笑みから、ヒヤリとする冷気が漂い出し、リーナは反射的に口を押さえた。

 

 

「大統領に面会可能な魔法師は確か…」

 

 

しまったという顔をするリーナに達也が悪い笑みを浮かべて近付こうとするが、風紀委員に支給されている無線機の着信に遮られた。

 

 

「はい、こちら司波達也」

 

『達也くんっ!』

 

「千代田先輩?」

 

「カノン?」

 

 

達也が無線に応じると、何かで焦っているような花音が無線に出た。リーナも何事かと首を傾げている。

 

 

「どうしましたか?」

 

「どうしましたかじゃないわよ!『司波達也が裏庭で留学生と逢引をしている』って通報があって!、今それを聞いた深雪さんを抑えるのに必死なんだから!』

 

「あ、あぁそうですか」

 

『とりあえず早く戻ってきて!!』

 

 

そう言って花音との無線は切断された。誰かが暴れ、何かが割れる音が花音の後ろから聞こえたのは達也の気のせいではないだろう。

 

 

 

取り敢えず早く戻らなければ、と達也の足が風紀委員室に向かう。

 

 

「どうかしたの?」

 

「いや、とりあえず委員会室に戻る………ぞ……」

 

「タ、タツヤ?」

 

 

急ぐように風紀委員室に向かおうとした達也の足が数歩で止まり、信じられないものを見るような顔になって目を見開く。

 

 

「どうかしたの?」

 

「(そんなバカな! ここには誰もいなかったはず………っ!!)」

 

 

リーナが達也に襲いかかる数秒前、達也は【精霊の眼】で周りに人がいないか確認していた。その時は周囲に人は()()()()()のだ。

 

なのに、達也とリーナが裏庭にいたと言う通報があった。

 

誰もいないはずなのに。

 

 

「っ!!!」

 

「ねぇ!どうしたのタツヤ!」

 

 

今度は【精霊の眼】を使うことなく、肉眼で周囲を見渡す達也。しかし、周囲には誰もいないし、裏庭に面した教室にも誰もいない。

急に様子がおかしくなった達也に、リーナを言い知れぬ不安が襲う。

 

 

「ねぇ、タツヤったら!」

 

「いくぞ、リーナ」

 

 

不安そうに胸の前で組むリーナの手を、達也が強引に掴み早足で歩き出す。

 

掴まれた手を見てリーナが頬を紅潮させていることにも気付かずに。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

「別に、逃げることないじゃないか」

 

 

魔法科高校にはベランダがある。あまり広いとは言えないことから、昼休みも放課後も人はあまりいないが裏庭を望むことができるベランダがある。そこの手すりに身を預け、董夜が風に揺られていた。

 

 

「(それにしてもリーナと話す達也のあの顔………)」

 

 

持っていた携帯端末から、風紀委員に掛けたとされる発信履歴を削除しながら董夜は空を見上げる。

 

 

「(ホント、アイツ(リーナ)お前達(司波兄妹)に凄まじい刺激をくれるな)」

 

 

リーナと話している時の達也の顔。それは董夜や深雪など、彼を理解するものにしか気づかない程度だが、確かに表層のみじゃない、優しさや柔らかさが感じられた。

 

 

「……ははは」

 

 

そして董夜は達也に手を取られた時のリーナの顔を思い出しながら、達也たちが消えた方を見つめていた。

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

「ねぇ!タツヤったら!」

 

「あ、あぁ。スマン」

 

 

風紀委員の委員会室まであと少しといったところで、達也はようやく引いていたリーナの手を離した。

 

 

「まったく、どうしたのよ急に」

 

 

優しく握られており、そこまで痛くなかったのかリーナは離された手を数度振っただけだった。

しかし、達也の顔は真剣そのものである。

 

 

「リーナ、忠告がある…………いや、警告と言った方がいいか」

 

「タツヤ?」

 

 

今までに見たことがないほど、真剣な表情の達也に、リーナの心も引き締まる。そして、達也は意を決したように言った。

 

 

「日本にいる間は董夜に気をつけろ」

 

 

 

 

今章は、留学生アンジェリーナ=シールズが日本で紡ぐ物語であり。

 

同時に達也と董夜の衝突の物語でもある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

数十分後

 

魔法科高校の最寄の駅ではリーナがキャビネットを待っていた。リーナのとしては今日、達也と帰ろうとしていたようだが、当の達也に『取り敢えず今日は帰った方がいい』と言われて結局一人になっていた。

 

 

『日本にいる間は董夜に気をつけろ』

 

 

達也が何を思って、どんな覚悟でそれを言ったのかはリーナには分からない。しかし、あの冷静沈着な達也があんなに慌てた原因が董夜にあるとすると、リーナの心を不安が渦巻いた。

 

 

「(はぁ、やっぱりワタシに潜入は向いてないな)」

 

 

ため息をついて肩を落とすリーナ。しかし、周りには彼女を慰めてくれる人はいない。

 

 

そして、死神は音もなく歩み寄る。

 

 

「やぁ、リーナ」

 

「ッッッッッ!!!???」

 

 

一人だと思っていた空間で急に話しかけられて驚いたリーナは、話しかけてきたのが董夜だと気付いて警戒心をあげた。

実を言うと、CADを董夜に突きつけ掛けたのはリーナしか知らない。

 

 

「別にそこまで警戒しなくてもいいだろ」

 

「な、なんだトーヤか。ビックリさせないでよ」

 

 

董夜の口調や雰囲気に何か異様なものは感じられない。しかし、外面はフレンドリーなリーナでも、内面では先ほどの達也の忠告が頭に響いていた。

 

 

「それじゃあ、ワタシは行くわね。また明日」

 

 

リーナの運が良かったのか、董夜と遭遇した直後にキャビネットが駅にやってきた。一緒に乗ると言い出されないか不安だったリーナだが、董夜の様子を見るにそれは心配ないようだ。

 

しかし。

 

 

こっち(日本)にいる間は、余り余計なことはしない方がいい」

 

 

座席に座ったリーナの耳に、先ほどとは別人のように冷たく尖った声が刺さる。

 

 

「(やっぱり! コイツにもバレてる!)」

 

 

リーナが先ほどの達也の時とは違い、敵意の篭った目を董夜に向けた。しかし、董夜の顔を見たリーナが驚愕に染まる。

 

 

「(表情(カオ)が………見えない……ッ!)」

 

 

リーナから見て、董夜の顔は黒いモヤがかかったようになっており。表情が全く読めなかった。しかし、その事実がリーナの心をさらに恐怖で襲う。

 

 

「ーーーーーー」

 

「……あ……………あ」

 

 

董夜が身を乗り出し、車内に座っていたリーナの耳元で何かをつぶやく。すると、リーナの顔は驚愕から絶望に似た色へと変わっていった。

 

 

「それじゃあリーナ。また明日」

 

 

キャビネットのドアが閉まり、発車する。あの空間から逃げられたという現実が、リーナの体から力を奪い。目に微かな涙を浮かばせた。

 

 

 

『ミカエラ・ホンゴウによろしく、シリウス殿』

 

 

 

 

彼が知るはずのないその名前。

 

軍人として、精神面を鍛え上げたリーナでなければ、次の日から学校を休み、引き篭もってしまう程の恐怖が、彼女に巣食っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はかなり董夜を悪く描いて見ました。

なんで達也の【精霊の眼】に董夜が引っかからないかについてですけど。
観察者とは観察する側であり、される側ではない。とだけ言っておきます。

感想待ってます。

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