四葉家の死神   作:The sleeper

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ちょっと忙しくて投稿が遅くなりました、ごめんなさい!


つい最近までまったく執筆に手を付けていなくて、『とりあえず書かなきゃ!』と思ったので短いです。




52話 ヘンシ

52話 ヘンシ

 

 

 

 

 

「連続変死?」

 

「うん、渋谷でね」

 

 

土曜日の深夜

レオが特に理由もなく渋谷を彷徨し、エリカの兄、寿一に遭遇している頃。董夜は自宅でソファに座り、コーヒーを飲んでいた。そんな彼の後ろから椅子に座った雛子が話しかける。

 

 

「今日ネットサーフィンしてて、久々に警察省まで足を伸ばしたんだけど」

 

「ああ」

 

 

少女と呼んでも違和感の無い年齢と容姿にして、その実力は【電子の魔女(エレクトロン・ソーサリス)】に届きつつある雛子(藤林 響子談)にとっての『ネットサーフィン』が、常人のそれと同じレベルである筈が無い。しかし、警察省の内部サーバーに侵入した事をケロッと話す雛子に、董夜は別段何も反応しなかった。

 

 

「一番新しい犠牲者が三日前、道玄坂上の公園で発見されたの。死亡推定時刻は午前一時から二時の間」

 

「ふむ、でも渋谷ならありそうじゃ無いか?」

 

 

董夜が言うように渋谷は戦前から荒廃の度を深め、若者同士の抗争が激化していた。そのため夜の無法状態が今でも放置されている。

昼は堅気の会社員が忙しく行き交う街。

夜はアウトロー気取りの若者が徘徊する歓楽街。

昼と夜で二つの顔を持つ街こそが現在の渋谷である。

 

 

「死体は全員衰弱死。七人ともかすり傷以上の外傷なし」

 

「…………毒か?」

 

 

少し眉を顰めて問う董夜に、雛子は怪しく微笑んだ。まるで面白いものを見つけた子供のように。

 

 

「薬物反応は全て陰性。そして傷がないのに血液の推定一割が無くなってる」

 

「全員か?」

 

「全員だよ」

 

 

ソファに座る董夜が背を反らせて天井を仰いだ。

厄介ごとにはトコトン首を突っ込みたい雛子に対して、出来る事なら関わりたくないのが董夜だ。

 

 

「ねぇ、董夜」

 

「ダメ」

 

「なんでぇ〜!まだ何にも言ってないじゃん!」

 

 

口を尖らせ、手を振り回して抗議する雛子に、董夜は嫌なことから目をそらすかのように雛子からテレビのリモコンを探し始めた。

 

 

「何も言わなくてもわかる、お前は余計なことしなくていいんだよ」

 

 

この話は終わりだ、とばかりに正面のテレビを見始める董夜。そんな彼に、雛子がソファの後ろから抱きつくように手を回す。

そこからは二人の、会話とは言えない会話の応酬である。

 

 

「ぶー、ケチ」

 

「なんとでも言え」

 

「頑固者」

 

「お、この女優久々に見たな」

 

「イケメンの無駄遣い」

 

「お、今日映画やるじゃん」

 

「おたんこなす」

 

「このCMしょっちゅう出てくんな」

 

「くそやろう」

 

「CM(と雛子)うぜー」

 

「むむむ」

 

 

いつまでも相手にされない雛子の頰がどんどんと膨らんでいく。深雪がいるときは空気を読んであまりベタベタしない雛子だが、二人きりの時や仕事じゃない時は兄のような董夜に甘えている事が実は多かったりする。

 

 

「………………」

 

「お、もうそろ映画始まるな」

 

 

そして雛子の頰が膨らむところまで膨らんだ時。彼女は言ってしまった。

ずっと思っていて、あえて口にしなかった事を。

 

 

「……………不能」

 

「…………………」

 

 

『ナニを』とは言わなかったが、雛子の視線が董夜の両足の付け根付近に向けられる。

そして、今までしゃべり続けていた董夜の口が止まった。

 

 

「あ、あれ。と、董夜さん、もしかして怒っちゃった?」

 

 

多少董夜の纏う空気が変わったことに雛子がたじろぎ始める。今頃彼女の心境は『言っちゃった』という軽い後悔と自責の念で埋められていることだろう。

 

 

「……っあひゃう!」

 

 

雛子が董夜の纏う想子(サイオン)に微弱な揺らぎを感じた直後。奇声をあげたと思いきや、身体を仰け反らせて崩れ落ちた。

 

 

「…………はぁ」

 

 

雛子の意識が落ちた事を(サイト)で確認した董夜はソファから立ち上がり、後ろで倒れている雛子を抱き上げる。いわゆる『お姫様抱っこ』というやつである

 

 

「うっせ、ほっとけ」

 

 

すでに意識のない雛子に董夜がつぶやく。

ところで『ナニを』とは言わないが董夜は不能ではない。

女性の下着姿を見れば多少照れるし、深雪と同じベッドに入れば年頃程度には興奮する。ただ、それを隠すのが上手いだけである。

 

 

「お前は別だけどな」

 

 

しかし、雛子に関しては『妹(状況次第で私兵)』という家族感覚な為、裸体を見せても見せられても、一緒に寝ても興奮しない自信が董夜にはあった。

 

 

「あぁー、めんどくせー」

 

 

雛子を抱きかかえて彼女の寝室に向かう最中、董夜は特に足取りが怪しくなる事なく歩く。

 

 

「…………重い」

 

 

その途中にて董夜がつぶやいた一言に、意識が無いはずの雛子が弱々しく腕を上げて拳を董夜の頰に押し当てる。

それを見た董夜がフッ、と笑みをこぼした。

 

とても数時間前に大国の魔法師を恐怖へと追い込んだ男とは思えない程の。

 

静かな夜だった。

 

 

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

ほぼ同時刻

 

リーナはベットで横になっていた。

時間からして寝ていてもおかしくは無いが部屋の電気はつけられており、事実として彼女は寝ていなかった。

いや、寝られないと言った方が正しいだろう。

 

 

『こっちにいる間は、余り余計なことはしない方がいい』

 

 

『ミカエラ・ホンゴウによろしく、シリウス殿』

 

 

「(………………ッ!)」

 

 

リーナの頭の中で数時間前の声がフラッシュバックする。しかし布団の中で涙を滲ませるリーナの目は弱っていなかった。

 

 

「リーナ、リーナ!」

 

「何事ですか、シルヴィ」

 

 

唐突に開かれた部屋の扉に『ノックぐらいしてください』と憤慨することもせず、リーナは毛布の中で涙を拭ってベッドから降りた。

 

 

「カノープス少佐から緊急の連絡です」

 

 

シルヴィアから帰ってきた答えに何か言葉を返すことなく、リーナは通信機の前へ走った。

 

 

「ベン、お待たせしました」

 

『こちらこそ、お休みのところ申し訳ございません』

 

 

リーナの中でベンジャミン・カノープスはスターズでも有数の常識人だ。そんな彼が時差を承知の上で通信をしてくる程の内容に、少しだけリーナが緊張を感じる。

 

 

「構いません、一体何が起こったのですか?」

 

『先月脱走した者たちの行方が分かりました』

 

「何ですって!?」

 

 

先月発生した『アルフレッド・フォーマルハウト、及び七名の魔法師、魔工師の脱走』はスターズの不祥事に留まらず、軍首脳部に大きなショックを与えた。

アルフレッド・フォーマルハウトの処分は既にリーナが終えているが、他がまだであった。

 

 

「どこです、それは!?」

 

『日本です。横浜に上陸後、現在は東京に潜伏していると思われます』

 

 

その言葉にリーナは大きな衝撃を受けた。まさか探していた脱走兵がこの東京にいるとは思わなかったのだろう。

そしてベンから現在の任務の優先度を下げて、脱走兵の追跡を最優先にする旨を伝えられ、通信は終わった。

 

 

「(………絶対に追い詰めてやる!)」

 

 

数時間前に感じた恐怖など、今の使命感で彼女の中から消えてしまっていた。

 

 

 

 

『日本にいる間は董夜に気をつけろ』

 

 

 

達也からの警告諸共。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





次はもっと頑張ります!

あと董夜は不能じゃないです。

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