これを2017年の内に見たい頂いている方へ
本当にこの一年ありがとう御座いました!!
2017年の2月11日に『四葉家の死神』を書き始めて、今では2千人を超える人にお気に入りしていただいて、本当に嬉しかったです!
来年も頑張って続けていくので、これからもよろしくお願いします!!
良いお年を!!!!
そして2018年になってから見て頂いている方へ
明けましておめでとう御座います!!
今年もよろしくお願いします!
投稿が遅かったりと、イライラさせてしまうこともあると思いますが、何とか続けていこうと思っています。
他の小説の様に面白くないかもしれませんが、その度に批評などを見て精進していきますので、どうかこれからも読んでいただけると幸いです。
2018年が皆様にとって良い年でありますように。
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53話 オモワク
「ふぅ、ねむ」
「あっ……! 董夜さん!」
「おおぅ、お前はいつでも元気だな」
翌朝、あくびを噛み締めながら教室のドアを開けた董夜は、駆け寄ってきた深雪の嬉々としたオーラに気圧されていた。その『嬉々』の理由が自分だと分からないまま。
「シールズさんは今日家の所用で欠席だ」
「………え」
ホームルームが始まり、教室の誰もがリーナの不在に気付いて落ち着きがなくなっていた頃。その理由は担任によって告げられた。そして董夜がリーナの不在に気付いたのもこのタイミングである。
「(『昨日ので精神的にやられた』だったら軟弱過ぎるな。別の理由があるのか)」
ボーっと窓の外を眺めているように見える董夜だが、内面ではリーナの欠席について軽く分析をしていた。
董夜にとってリーナは『面倒ごと』でしかない為、できることなら関わりたくないのだろうが。それでもリーナが彼にとっての『レッドライン』を超えた場合。彼も動くのだろう。
「ままならないな」
◇ ◇ ◇
「「欠席?」」
「えぇ」
昼休み
いつも通りに達也たちE組勢と昼食を共にする為に、食堂に向かった董夜、深雪、ほのかは、達也たちに担任と同じセリフを伝えた。
「……………」
その際、達也が董夜に訝しげな目線を一瞬向けたのは達也と董夜しか知らず。董夜が達也の目線に気付いたことは、達也すら知らない。
◇ ◇ ◇
USNA大使館
特別ミーティング室
そこにはリーナを含む数人と科学者然の男性がいた。
「つまり、フォーマルハウト中尉の大脳皮質には異質なニューロン構造が形成されていた、ということですか?」
「そのとおり、人間にはないものがね」
リーナと同席している魔法師の質問に科学者が答える。リーナ達が通信ではなく、呼ばれたのは秘匿性の高い話だからだろう。
「つまり、フォーマルハウト中尉の大脳に形成された新たなニューロン構造は未知の精神機能とリンクによるものだと考えられます」
科学者の仮説に、参列者の顔に困惑が浮かぶ。いくら優秀な魔法師と言えども『大脳皮質にて見つかった未知のニューロン構造』などと言われれば完璧に理解できるはずもないのだろう。
「少佐、何か?」
しかし、そんな中でも手を挙げたリーナはやはり優秀と言えるだろう。
「ドクター、その未知の精神機能が、外部からの魔法干渉による可能性はありますか」
「ないと思います。他者の精神に干渉することは出来ても、それが大脳の組織構造にまで影響を与える事は無いはずです。他者の精神の構造そのものを作り変える魔法でもなければ」
科学者の間髪いれぬ返答に、リーナは納得したように頷いた。
そして『精神の構造そのものを作り変える魔法』というフレーズに対して、その場にいた全ての者が一人の魔法師の伝説を思いだしていた。
二十年も入院生活を続け。現在は療養中である一人の女性。
そしてその魔法師が思い出されれば、自然ととある一族に話題が行くのは必然だった。
「そういえば少佐はあの四葉董夜と接触しているんでしたね」
「え、えぇ」
科学者のその言葉に、その場にいた全員の視線がリーナへと向かう。
やはり全員が、おそらく世界初であろう他国の戦略級魔法師との対面を気にしていたのだろう。
「ふん、戦略級魔法を二つ持っているだけのガキでしょう。恐るるに足りませんよ」
「(違う………………!)」
「それもそうですね、少佐にかかれば」
「(違う…………!)」
まだ四十代ぐらいの若い高級武官の言葉に続いて、別の魔法師も同調する。
しかし、それらの言葉にリーナは下唇を噛みながら心の中で否定した。それが口の外に出なかったのは彼女のプライドがそれを許さなかったからだろう。
◇ ◇ ◇
第一高校の某所
まだ午後の授業が続いている為、一、二年生が教室に拘束される中、二人の男女が向かい合って座っていた。
「すまんな、目立たない場所だとここが適切だと判断した。今四葉を刺激するのは十文字家としては避けたい」
「まぁ確かに休み時間だと董夜くんもいるしね。それにウチと四葉は冷戦状態だし」
あの狸親父、董夜くんとの仲がギクシャクしたらどうすんのよ………!、と忌々しげに愚痴る真由美に、克人は失笑を漏らす。一応二人は互いに婚約者候補同士なのだが。入学時から成績を争ってきたためか、お互いに男女として見れなくなっていた。
「十文字くん。父からの、いえ、七草家当主、七草弘一からのメッセージをお伝えします。七草家は十文字家との共闘を望みます」
「穏やかではないな。『協調』じゃなく『共闘』か」
言葉を切り、視線で説明を求める克人に真由美は先の『吸血鬼事件』で七草が受けたダメージを伝えた。
「しかし、それならば尚のこと四葉とも協力すべきだと思うが」
「ホントはそうすべきなんだけど……
「だが、それでも四葉がここまで態度を硬化させるのは珍しい。董夜も実際この件では何も言ってきていない」
四葉は良く言えば自主独立路線、悪く言えば唯我独尊路線、他家が何をしようと気にしないスタンスを通してきた。取り憑かれたように自らの性能アップに邁進し十師族の頂点に並び立ち、そして【四葉 董夜】という
しかし、そんな四葉でも氏族会議を分裂させるような姿勢は示してこなかった。そんな四葉の今の姿勢に、克人は疑問を感じていた。そんな彼に、今度は真由美が顔をしかめる。
「私も詳しくは知らないんだけど、四葉の息が掛かっている国防軍情報部の某セッションに、あの狸親父がコッソリ割り込みを掛けたらしいのよ。それがバレちゃって」
「なるほど」
今にも歯ぎしりを始めそうな真由美に、克人は相槌を感じ打つことしかできなかった。
そして克人はここで初めて自分が思った以上に、会話に集中していだことに気づいた。そして部屋の扉が開いていることに。
「盗み聞きとは感心しませんな………四葉殿」
「え………うひゃあぁ!」
「やっと気づいて頂きましたか、十文字殿」
学校にあるにしては少しだけ上等な椅子に座っていた二人の少し離れた場所にある椅子。そこにいつの間にか董夜が座っていた。
「待ちくたびれましたよ」
しかし、それは克人や真由美の後輩ではなく。氏族会議 四葉家の彼だった。
「それで、何をしに?」
「ああ、いや十文字殿にではなく真由美さんに用があってきました」
「えっ、私に?」
董夜の言葉に一瞬真由美が嬉しそうな顔を見せるが、状況を弁えてすぐに真剣な表情に戻した。
「この事は僕も当主には伝えてないので、真由美さんが父上に教えようが教えまいが僕は構いませんが」
「…………っ!」
普段は見せない董夜の射抜くような視線に真由美の背筋が引き締まり、この話に関しては無関係な克人にまで緊張感が伝播する。
「先日、ウチが構ってる軍のセッションがそちらからちょっかいを出された事はご存知ですね?」
その董夜の言葉に克人は『先程の会話までは聞いていなかったのか?』と推測するが、董夜の表情を読む事はできず、結局は推測で終わった。
「あ、その件は本当に……」
「いえ、これはいいんですよ。もうこの件に対する姿勢は当主が決めていますから」
「……う」
「実はこの件の次の日のことなんですが」
演技か本心かは定かではないが真由美が申し訳なさそうな顔をし、それに対する董夜の突き放すような言葉に真由美の膝が折れそうになる。しかし、本番はこれからだった。
「僕の家のサーバーに何者かからちょっかいが入りまして」
「……………え?」
董夜の言葉に真由美の顔から血の気が引いていく。そして克人は何と言ったらいいか分からないのか目元を抑えた。
「まぁ何も見られずに済んだんですが、調べてみたらどうやら七草家からのようでして」
「う、あ、あの、クソ、オ、ヤジ」
先ほどから董夜が言葉を発するたびに何か反応を見せている真由美だが、今度こそ膝から崩れ落ちた。
「ほどほどにお願いします」
「…………四葉殿」
「はい?」
それだけを言い残して部屋から出て行こうとする董夜に克人が後ろから呼び止めた。
そんな克人に対し董夜は、威圧感を与える事はなく、ただ決して温かくない笑みを向けた。
「あの留学生について、四葉殿はどう感じる?」
克人の董夜に対する質問に、床で灰と化していた真由美が董夜に真剣な視線を向ける。そして董夜は側から見たら考えている風に見えるように顎に手を当てた。
「現在、十文字家と七草家が対処しようとしている事件についてはこちらも把握しています。その上で、彼女にはあまり重きを置かなくてもいいかと」
それだけ言い残して、董夜はそのまま部屋から出て言った。残された克人と真由美は、董夜との長年の付き合いからその助言を真剣に受け取った。
それすら彼の思惑とも知らずに。