投稿が遅れてごめんなさい。
55話 デンワ
十二月二十七日 午後八時半過ぎ
とある家にて、董夜と雛子が温かな雰囲気でテーブルに並んだ食事を挟んで座っていた。
「お、グラタンか。久々だな」
「フフン、今日も自信作だよ」
一通り用意された料理を見渡した董夜の言葉に、雛子は胸を張って得意げに答えた。
「いただきます」
「どーぞ〜!」
prrrrrrrrrr………
「…………ちょっと行ってきます」
「ドーゾ〜」
いざ食べよう、と董夜達がスプーンやフォークを取った時、別の部屋にある秘匿回線を使用した電話が鳴った……………ことを知らせるコールの音がリビングに響いた。
持っていたスプーンを置き、申し訳なさそうに席を立った董夜に、雛子も持っていたフォークを置いて、頰を膨らませながら答えた。
長くなるかもしれないから先に食べてて、と言っても雛子は待つであろうことを察した董夜はそのままリビングから出た。
◇ ◇ ◇
「あぁ、あのグラタン美味そうだったなぁ」
『すまん、夕食の最中だったか』
「あぁいや、大丈夫だよ」
え!?董夜さんグラタンが食べたいんですか?!それなら家に来ていただければ、と後ろで深雪が何やら言っているのをスルーして侘びを述べる達也に、董夜は手を振った。
「それで、どうかした?」
『あぁ、今日エリカと幹比古が戦闘中だった仮面の魔法師と吸血鬼に遭遇した』
「仮面の魔法師…………アンジー=シリウスの認識でいいんだよな」
『あぁ、俺もその筋で確信している』
「ふむ、まぁもうそろそろかと思ってたよ」
『分かっていたのか』
自身の学友であるエリカと幹比古に関しての知らせに、董夜は特に驚いた様子はなく。達也も、董夜が今回の事態を予想していた事に驚く事はしなかった。
「エリカの性格なら一時的とはいえ
『なるほど』
「まぁ達也がいるのは予想してなかったけどね」
そう言って達也の映るモニターを見る董夜が、暗に説明を求める。
『実はエリカたちが衝突する数分前に幹比古から助けを求めるメールが来ていてな』
「あぁ、それで介入できたのか。それにしても幹比古らしいファインプレーだな。どうせエリカには秘密だったんだろ」
楽しそうに笑う董夜に、察しがいいな、と達也が息を吐いた。
「それでエリカはどうなったんだ、その様子じゃ死んではいないんだろ?」
『あぁ、俺が着いた時、仮面の魔法師は左肩を骨折した状態で、エリカも骨折こそないものの仮面の魔法師より大きなダメージを負っていた』
へぇ、と達也の報告を聞いた董夜が舌を巻く。千葉エリカは(戦闘面では)一科生にも劣らず、第一高校の中でも実力者の一人である、というのが董夜のエリカに対する評価だ。しかし、まさかアンジー=シリウスに重傷を負わせるほどとは思っていなかったのだ。
「んで……………仮面の魔法師は逃したと」
『………………』
今まで笑っていた董夜の目の、疑問の色が濃くなった。別に達也は真夜から捕獲を命じられている訳ではなく、董夜から依頼されているわけでもない。それでも遭遇したのなら、何かしらの情報を引き出しておきたいものである。
それなのに手負いの標的を達也が流すとは、どうしても思えなかったのだ。
『あぁ、本題はその事だ』
「?」
しかしその事も想定の範囲内だった達也は特に動揺する事はなく話を続け、董夜は僅かだが、首を捻った。
『【眼】を誤魔化され、雲散霧消の照準を外された』
「まじか………っ」
達也の言葉に董夜の眉が上がり、目がいつもより開かれる。
達也の後ろにいる深雪も先に達也から知らされていたのか、董夜ほどの衝撃はなかったが、それでも目が揺れていた。
「シリウス…………クドウ…………もしかして、【
『流石だな』
片手で口元を押さえ、何かを考えていた董夜が、ハッとした表情で電話の画面を向き直った。十師族 九島家の秘術【パレード】、その概要は達也や董夜ですらも知らない。
『そこで叔母上に【パレード】の仕組みについて教えてもらおうと思ってな』
「あぁ、そういうことか」
ここで董夜は初めて達也が自分に電話をして来た目的を悟った。それはシリウスの戦闘の報告でも、【パレード】についてでもない。
『それともう一つ、風間少佐への接触の許可が欲しい』
「なるほど、俺が電話した方がスムーズだわな」
『頼めるか』
董夜のように、四葉家の当主である四葉真夜への直通電話番号を持っているものは限りなく少ない。そして直通の番号を持っていない達也や深雪が四葉に電話をかけた場合、一旦使用人を挟んで真夜に取り次がれる事になる。
「あぁ、いいよ」
『助かる』
そして電話を取り次ぐ使用人は四葉の使用人序列の中でも下位である。そのため、達也が真夜の甥だということを知っていても、四葉にとって道具に過ぎない事も知っている。結果として、取り次ぎの途中で切られてしまう可能性があるのだ。
「早く着替えて来なよ、そんなカッコで電話したらカンカンだぜ?」
『あぁ、五分ほどで戻る』
そう言って達也は電話をそのままにしたまま深雪とともに部屋から出て言った。
切らねぇのかよ、と一瞬思った董夜だが、すぐに手元の携帯で、真夜への直通のメールを送った。
「『今お時間ありますか、相談したいことがありまして』と」
『えぇ、大丈夫よ』
「うわ、返信早っ」
仕事中に電話をするのも悪いと思ったのか、董夜が先に真夜に対してアポイントを取る。そして早すぎる自身の母からの返信に、若干引き。そのまま達也たちが帰って来るのを待った。
冷えていくグラタンを前に、食卓でずっと座って待っている雛子のことなど忘れて。
◇ ◇ ◇
「夜分遅くに悪いな、母さんに取り付いてくれ」
『滅相もございません御子息様、しばしお待ちください』
白髪と黒髪が入り混じった頭髪を携えた壮年の使用人(下位)が、董夜の言葉に恭しく頭を下げる。
現在、董夜の電話の画面には、中央で頭を下げる使用人と、右上の小さなモニターに深雪が映っている。
達也は深雪の後ろに見えないように控えているはずだ。
そして使用人の映っていた画面が切り替わる。
「夜分遅くに申し訳ございません」
『良いのよ。それより董夜さんはともかく、深雪さんまで電話して来るなんて珍しいわね』
年齢不詳の美貌に真意不明の笑顔を貼り付けた真夜が画面に登場した。その隣には、葉山が直立不動で控えている。
『董夜さんはあげないわよ?』
「……………え」
『そんなっ………!』
「深雪?」
要件を述べようとしていた董夜の言葉を遮って告げられた真夜の言葉に、今まで頭を下げていた深雪が勢いよく顔を上げた。
『深雪さんより、七草の長女なんかはいいお嫁さんになりそうねぇ』
『…………!、………!』
「…………あの」
なかなか口を挟めない董夜を置いて、真夜の口撃に深雪が絶句し、絶望的な表情を浮かべた。
『あ、一条の娘でm「母さん!」…はいはい、冗談よ』
ふー、と息を吐いて葉山が用意したであろう紅茶を飲む真夜に、深雪とその後ろにいる達也が意外そうな顔を浮かべる。
二人のイメージでは真夜はこんな冗談を言うような人ではないのだ。
『それで、何の用だったかしら』
『…………っ!』
「はい、達也から用事があるらしく」
しかし、粗方冗談を言い終えた真夜の雰囲気が一瞬にして変わる。その事に深雪が一瞬息を飲んだが、董夜にその様子はない。
『達也さんが?それはまた、本当に珍しいわね』
『叔母上、実はお訊ねしたい事が一つと、お許し願いたい事が一つ、あるのですが』
『遠慮はいりませんよ』
機嫌よく、真夜が頷く。
やはり董夜に話を通して置いて良かったな、と達也はここで改めて思った。
◇ ◇ ◇
『パレードは老師より弟さんの方がお上手だというお話を言いた記憶があります』
パレードについて聞きたいという達也の願いに、真夜は別の口にされていない問いかけに対する回答をした。
『ありがとうございます。叔母上、どうやら今回の一件は我々の手に余るようです。そこで援軍を頼みたいと思うのですが』
『それが許しを請う方の要件なのですね?』
まっすぐ自身を見つめる達也から目線を外し、真夜は一度董夜の方に目を向けた。
『貴方はどう思う?』
「はい、確かに今回の件は【
董夜の言葉を真夜と達也は黙って聞いている。
「我々の力だけでどうにかなるのなら、それが一番ですが。どうやらそうもいかないようですし」
『そうね、分かりました。風間少佐との接触を許可します』
そう言って小さく頷いた董夜に、真夜も同様に頷いて達也の要請に対する許可を出し。達也は頭を下げて画面の外へ下がった。
◇ ◇ ◇
「ああー、終わったぁ」
真夜との電話を切り、達也から礼を受けた董夜は大きく伸びをして椅子から立ち上がった。そしてそのまま部屋から出てリビングに向かう。
「ひ、雛子………あさん」
「…………………」
そこで董夜は、数十分前までは温かかったたであろう料理を前にして座り、一人うなだれる雛子の迎えを受けた。
「いや、その、思ったよか電話g「ねぇ」…………なんでしょうか」
「忘れてたでしょ……………私のこと」
「あ、いや、その、えぇと」
結局、董夜はその後、美味しそうに料理を食べる雛子の前で、一人カップラーメンを啜ることになった。
「温かいけど……………少ししょっぱいや」
涙をぬぐいながら。
いやぁー、来訪者編終わる目処つかねぇー!!