四葉家の死神   作:The sleeper

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58話 シリアス?

58話 シリアス?

 

 

 

 

 

 

「さて、どうしてくれよう」

 

 

リーナから剥ぎ取った仮面を手の上で転がしながら董夜がリーナを見下ろす。

その目に一切の温情などはなく、リーナを人とすら見ていないような冷たく、ドス黒い瞳だった。

 

 

「董夜、これからリーナをどうするつもりだ」

 

「あぁ、とりあえず持って帰って、それからいろいろ話を聞く」

 

 

吐き捨てるような董夜の言葉に達也は舌打ちをするのを何とか堪えた。

元々達也はリーナを捕縛した後、何とか話を聞いて解放するつもりだったのだ。しかし、予想外の董夜(イレギュラー)が現れてしまった。

 

 

「な、何も言うわけないでしょ!」

 

 

リーナが何とか喉を通して発した言葉は震えており、彼女の心理状況を明確に表していた。

リーナの恐怖に染まった、けれど決意に満ちた言葉を聞いた董夜は一切表情を変えることなく言い放った。

 

 

「シリウス、お前の意思は聞いていない」

 

 

その言葉を聞いても、リーナは負けじと董夜のことを力強く睨みつける。しかし、次の言葉に今度こそ表情が崩れた。

 

 

「大丈夫、まともな意識と感覚があるのは最初だけだ」

 

 

今まで冷血で表情のない顔をリーナに向けていた董夜が、初めて微笑む。

その不気味さに、リーナがようやく目の前に立っている男が【四葉(アンタッチャブル)の家系】である事を実感する。

 

 

その時だった。

 

 

「何のつもり?達也」

 

「お、お兄さま?」

 

 

今までリーナを拘束していた達也がその拘束を解き。ゆっくりと立ち上がって董夜の前に立ちはだかった。

 

 

「……………」

 

 

その顔は『リーナを守る』という決意に満ちた表情……………とは程遠く、自身の行動の意味すら理解していないような、そんな困惑に満ちたものだった。

 

 

「タ、タツ………ヤ」

 

 

達也の後ろにいるリーナは拘束を解かれても尚、未だに動くことすら叶わない。

 

 

「達也、そこを退………っ!?」

 

「………………」

 

「お兄さま!?」

 

 

いつまでも喋らない達也に、董夜が手を伸ばした瞬間。董夜はとっさに跳びのいた。

董夜が着地し、再び達也を見据えた時。二人の周囲にあった木が数本、チリとなって消え、達也の右腕も丸ごと消失した。

しかし、達也の右腕は人が瞬きをする間に復元された。

 

 

「な、なんなの?」

 

「そんな………お兄さま………董夜さん」

 

 

状況を飲み込めていないリーナが困惑の表情を浮かべる中、傍観者の中で深雪だけが詳細な状況をつかめていた。

 

まず董夜が達也に手を伸ばした瞬間、達也が董夜の四股に向けて【分解魔法】を発動。

それを【観察者の眼(オブザーバー・サイト)】で感知した董夜は飛びのくとともに【全反射(フルカウンター)】を使ったのだ。

そして反射された【分解】の内、三つは周囲の木を消し去り、残りの一発が達也の右腕へと反射された。

 

 

「な……………何故」

 

「…………………」

 

 

自分が董夜に向けた銀色に輝く【シルバー=ホーン】を見て、達也の困惑の度合いが深まる。

そしてそんな達也を、董夜はただ無言で見つめていた。

 

そして

 

 

「……………はあ、もういいよ」

 

「………………は」

 

「………………え」

 

 

ため息を深くついて、董夜は両手で降参の意を示した。そんな董夜に、達也と深雪から似合わない間の抜けた声が漏れた。

 

 

「もともと俺はリーナを捕まえに来たわけじゃない。ただこの場で話を聞こうと思っただけ」

 

「………それは」

 

「第一、俺がここでリーナを無理やり拉致して連れ帰ったりしたら。それはただUSNA (アッチ)の政治的口実を作るだけだし」

 

 

冷酷な雰囲気を霧散させ呆れたような声色の董夜に、深雪が安心したのか深い息を吐き、リーナは未だに董夜を睨みつけている。

 

 

「そんな怖い顔するな、俺が連れ帰りたかったのは吸血鬼の方。それがいない以上、さっさと退散するよ」

 

 

そう言って身を翻し、達也たちとは反対の方向へと歩き始める董夜に誰も声をかけることなど出来ず、気がつけばその先に雛子が立っていた。

 

 

「……………」

 

「ほら、帰るぞ」

 

 

董夜に上着を着せた後、達也のことを一瞬睨んだ雛子。その顔を董夜は手のひらで掴んで帰るよう促す。

 

雛子にとって董夜は自身の身も心も、人生ですらも捧げると誓った存在。そんな彼女からしたら、董夜が敵と定めるものは己にとっても敵であり。董夜に牙を向ける者も同様。

それがたとえ、同じ師匠の元で指導を受けている達也だとしても。

 

 

「はぁ、リーナ」

 

「わかってる、ワタシの負けだわ」

 

 

董夜がこの場を去ったことにより、重圧から一気に解放されたリーナが荒い息を吐く。

 

 

「話してくれるな?」

 

「ただし!」

 

 

未だに立つことができないのか、座ったままのリーナに達也は首を傾げた。

 

 

「YesかNoで答える。ここは譲れないわ」

 

 

リーナの強かさは達也の予想を大きく超えるものだった。

 

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「雛子」

 

「……………なに」

 

 

自宅に戻り、風呂を済ませてリビングに戻った董夜は、ソファーに座って未だにムスッとしている雛子に今日何度目か分からないため息をついた。

 

 

「俺としてはこれしきの事であいつと対立するわけにはいかないんだよ」

 

「…………でも」

 

「あの時、あいつは明確な意思を持って俺を攻撃したわけじゃなさそうだし」

 

「………む」

 

 

理屈はわかるが納得できない、そんな様子の雛子をなんとか説得しようと、董夜も雛子の隣へ座る。

 

 

「そうだ、風呂まだだろ?久々に髪乾かしてやるよ」

 

「……………てよ」

 

「へ?」

 

 

満面の笑みで雛子の頭に手を乗せる董夜を、不機嫌を全面に出した雛子が見つめる。

 

 

「乾かすだけじゃ足りない。身体ぐらい洗いなさい」

 

「し、正気かお前」

 

「なに、恥ずかしいの?」

 

「な訳あるか、今更お前の裸ぐらい。いくら見てもなんとも思わんわ」

 

 

深雪より少しばかり大きい胸を張って、何故か勝ち誇っている雛子を董夜が吐き捨てた。

 

 

 

 




今回も遅くなってごめんなさい!

もうちょっと早くできるよう頑張ります!

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