四葉家の死神   作:The sleeper

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お久しぶりです。

日の空いた投稿になってしまったので、前話を一度読んでから、読まれた方がいいかも。


66話 ニンギョウ

 66話

 

 

 

「とりあえずピクシー、離れてくれ」

 

『畏まりました』

 

「なっ、もう人形と会話するレベルにまで達しているのか……ッ!」

 

「しつこいぞ、董夜」

 

 

 名残惜しそうにしていたピクシーは、達也が董夜を睨みつけている間に腕の拘束を解き、達也から離れた。

 

 

「美月、ピクシーの中を覗いて見てくれ。幹比古は美月が大きなダメージを負わないようにガードしてほしい」

 

「……ピクシーに何か憑いていると考えているのかい?」

 

「これはもう確定だろ、幹比古」

 

 

 間接的な幹比古の問い掛けに、董夜がそう吐き捨てた。

 幹比古は呪符を取り出し念を込める。美月も達也の考えを悟ったようで、緊張した、少し怯えた面持ちで、それでもしっかりとピクシーを見据えて眼鏡を外した。

 

 

「います……パラサイトです」

 

 

 美月の言葉に誰かが息を呑んだ。美月を除く全員が、それぞれのやり方で驚きを示し、それぞれのスタイルで身構える。

 

 

「でも、このパターンは……」

 

 

 美月の呟きはまだ終わって無かった。眉を潜め悩んだ後、美月は急に振り返った。身構えていた面子は首を傾げ、美月の視線を追った。

 

 

「えっ、なに?」

 

 

 彼女の視線の先にはほのかがいた。じ~っとほのかを凝視した後、美月は何度かほのかとピクシーの間で視線を往復させる。

 

 

「このパターン……ほのかさんに似てる」

 

「ええっ!?」

 

「どういう事なの?」

 

 

 そして紡ぎ出した美月の結論に、ほのかが仰天の声を挙げ、花音が率直な疑問を口にした。

 

 

「パラサイトはほのかさんの思念波の影響下にあります」

 

「ええと、それって光井さんのコントロールを受けているということ?」

 

「いえ、そういう繋がりでは無いと思います」

 

 

 珍しくきっぱりとした口調で答え、五十里の問いに首を横に振る美月。

 

 

「ほのかさんとパラサイトの間にラインが繋がってるんじゃなくて、ほのかさんの思念をパラサイトが写し取った感じです。あるいは、ほのかさんの『想い』がパラサイトに焼き付けられた、と言うべきでしょうか」

 

 

「私、そんな事してません!」

 

「ほのかが意図してやったと言ってるわけじゃない」

 

 

 パニックを起こしかけているほのかの頭を、達也が優しく撫でる。

 

 

「そうだろ、美月?」

 

「あっ、はい。意図的なものじゃなくて、残留思念に近いと思います」

 

 

 ほのかのパニック発生は防げたが、深雪とエリカの視線が達也に突き刺さっている。しかし、落ち着きがなくなっているほのか顔を、董夜が面白そうに覗き込んだ。

 

 

「残留思念……つまりほのかが何かを強く想った事が、偶々近くを漂っていたパラサイトに写し取られ、その後ピクシーに憑依。もしくはピクシーの中に潜んでいたパラサイトに光井さんの想念が焼き付いた……って事だろうね、ほのか?」

 

 

 董夜のセリフは、自分の思考を纏める為という意図が一割、ただ単にほのかをからかおうという意図が9割だった。

 そして一泊置いたのち、ほのかは顔を赤くして俯いてしまった。

 

 

「へぇ、それにしても『強い想い』ってなんだろうね、達也?」

 

「鬼かお前は……」

 

 

 舌の止まらない董夜に達也がため息をつき。他の人は気まずそうに目を見合わせた。そして、顔の赤いほのかが回復する前に、その答えは示された。

 

 

『その通りです。私は、彼に対する、彼女の特別に強い想念によって覚醒しました』

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

『私は貴方に従属します』

 

「俺に? 何故」

 

「深雪。今絶対、達也ドキッとしたよな」

 

「董夜さん、少しお静かに」

 

 

 パラサイトの言語能力についてなど、基本的な情報を聞き出したのちの発言に達也が首を傾げた。

 

 

『貴方のものになりたい。私は彼女――個体名「光井ほのか」の、この想念によって休眠状態から覚醒しました』

 

「〜〜〜〜〜ッ!」

 

 

 声にならない悲鳴の後、塞がれた口から漏れる呻き声が達也の耳に届いた。チラリと振り返ってみると、深雪とエリカが二人掛かりでほのかの口を押さえていた。

 

 

『我々は強い想念に引き寄せられ、その想念を核として「自我」を形成します』

 

「強い想念? それはどんな種類の想念でも良いのか?」

 

『いいえ。私たちの自我を生み出す事が出来るのは純度の高い想念のみです』

 

「純度が高いとは、単一の欲求に基づく想念という意味か?」

 

『その通りです。貴方がた人間の言葉では「祈り」という概念が最も近いと思われます』

 

 

 達也はこの「祈り」について深く追求する事はしなかったのだが、ピクシーが聞かれもしない事を丁寧に話してくれた所為で、ほのかが羞恥心に耐えられなくなりその場に崩れ落ちた。口を塞いでいた深雪とエリカもつられるように崩れ落ちたが、達也はその三人に目を向けただけで、ピクシーに質問を続けた。

 

 

「お前たちに自我があるという事も意外なら、お前たちがあくまでも受動的な存在だというのも意外だ。つまりお前たちは望んでこの世界に来たのではない、ということか」

 

 

 この後も、細かな質問を続けた後、達也はピクシーに命令し、表情を変える事と、サイキックを無断で使う事を禁止したのだった。

 そして、全員が退室しようとしたとき。

 

 

『貴方のものになりたい。私は彼女――個体名「光井ほのか」の、この想念によって休眠状態から覚醒しました』

 

「〜〜〜〜ッ!」

 

 

 何処からともなく流れた先ほどの音声に、落ち着きかけていたほのかが再び崩れ落ちた。

 誰もが振り返りピクシーの方を見るが、既にピクシーはスリープモードに移行しつつある。

 そして、誰よりも先に達也が、今の音声が意識ではなく、直接耳に聞こえていることに気づいた。

 

 

『貴方のものになりたい』

 

「〜〜〜〜!」

 

『貴方のものに』

 

「〜〜〜!」

 

『なりたい』

 

「〜〜!」

 

「ハッハッハ」

 

 

 達也が周囲を見渡すと、崩れゆくほのかの耳元で携帯端末から音声を流している董夜がいた。

 

 

『貴方のもbbbbbbb…………』

 

「…………あれ」

 

 

 端末から流れていた音声が乱れ始め、突如として止まった。首を傾げた董夜が端末を見ると、所々に霜が降りている。

 

 

「董夜さん」

 

 

 それまで呆れた様子で見ていた幹比古たちが顔を青くするほど底冷えした声が、董夜の耳を奥まで冷やした。

 

 

「み、深雪」

 

 

 董夜の頬を流れた汗が、顎から滴り落ちるより早く凍りつく。

 

 

【スリープモードへと移行、完了】

 

 

 機械的な眠りについたピクシーが最後に記録したのは、董夜の悲鳴だった。

 

 

 

 

 

 

 ,

 

 

 

 

 

 

 





皆さんに報告したいことが二つあります。


一つは董夜の性格、加えて周りの董夜に対する扱いを忘れかけていた、という事。今話を見て違和感を感じたのなら、それが理由です。指摘していただけると助かります。


そして2つ目。

達也にヒロインを作ったことを、若干後悔しています。
今後リーナをどうしていくのか、構想が浮かんできません。全く浮かんでこないという訳でもないのですが、その案もかなり強引で、突拍子も無いものになってしまいます。
ここまで投稿に時間が空いたのはそれが理由という事もあります。

この2つ目に関しては、完全に私の計画性のなさが招いたことです。どんな批判でも甘んじて受け付けます。




では。

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