本音を言うと、このまま何も言わず失踪してしまおうか、と思っていました。
元々、この小説を書き始めてからと言うもの、僕は一切先の展開について計画することなく、その場その場で思いつきに任せて書き続けてきました。
その結果として、『達也のヒロインにリーナを据える』という展開で行き詰まってしまいました。
『皆さんに誠心誠意謝って、達也にヒロインを据えず、来訪者編を書き直そうか』
そんなことを考えていましたが、結局このまま進むことにしました。
今話は本当に短いです、一旦の作者の語彙力諸々のリハビリ会だと思って我慢していただけると幸いです。
達也と深雪は、自動運転車の車中で今日あった事を話していた。
「ロボットに魔物が取り憑くなど、思いもよりませんでした」
「ヒューマノイドタイプだから、なんだろうな。とんだ付喪神だ」
まだ信じられないという表情の深雪に、信じたくないと言わんばかりの口ぶりで達也が答えた。
何故このような場所で会話しているのかというと、深雪を送り迎えする上での保安対策と箔付けの為だ。そうと知る者は多くないが、深雪は良家の子女、つまり『お嬢様』である。それもかなりハイクラスの。
「それでお兄様……どうなさるおつもりですか?」
「どう、とは、ピクシーをどう扱うかということかい? 家に連れて帰るわけには行かないからな。適当な口実を作って、学校で情報を引き出す事になるかな」
「……連れて帰らないのですか? ピクシーはそれを望んでいるはずでは……」
「家に入れられるはずがない。パラサイトの生態や性質は殆ど分かって無いんだ。あのパラサイトが嘘を吐いていないという保証は何処にもないからね」
「しかしそれですと、訊問してもその答えを信じて良いのかどうか、分からないのではありませんか?」
「その点は人間の捕虜を訊問する場合も同じだよ。もたらされた情報の真偽は、こちらで判断するしかない」
達也が淡々とした口調で断じる答えを聞いて、深雪の顔からは翳が取れていった。
「(董夜も
達也の思うように、董夜は深雪に軽い?制裁を加えられたのち、特に何もアクションを起こすことなく達也と別れた。まぁ、達也とほのかを盛大に揶揄ったことを考えればアクションを起こしたことになるのだろうが。それだけだった。
◇ ◇ ◇
「いつも通り、時間になったら迎えに来るから」
「はい、お迎えをお待ちしています」
そう言ってドアの向こうに消えていく深雪を見送って、達也は軽く息を吐いた。
深雪がピアノとマナーのレッスンに通っているこの教室は男子禁制。上流階級にはつきもののボディーガードといえど中には入れてもらえない。
いつも通り、近くの飲食店の窓辺の席に座り、ボンヤリと窓の外を眺めていると、達也の『眼』を使うまでもなく、見知った顔がこちらに向けて手を振っているのを見つけた。
「ご一緒してもいいかい?」
「それは座った後に言うセリフじゃないな、これは偶然か?」
ハハハ、と笑いながら飲み物の注文を済ませる董夜に、達也は先ほどよりも深く息を吐いた。リーナが転校してきてからというもの、自分の中の正体不明の感情が元で董夜との間に見えない溝が生まれているのを、達也は自覚していた。
ピクシーの時のように、表面上はいつも通りの関係に見えるものの、達也自身、董夜の心のうちは今だに見えないままだった。
「偶然じゃないよ、一つ良いことを教えてあげようと思ってね」
「…………良いこと?」
董夜の言葉に一瞬身構えた達也だったが、その顔と声色に悪意が無いことを感じ取って肩の力を抜いた。
しかし、次の言葉で世界有数の頭脳を誇る達也の思考が停止する。
「達也がリーナに抱いてる正体不明の感情。世間ではそれを【恋】と呼ぶんだよ」
「…………はッ」
「おめでとう司波達也、
少数ではあれど、先程までいたはずの客や従業員が、自分たちの周囲から消えていることに、達也が気付くのには、まだ時間がかかりそうだ。
最後になりますが、前回投稿から一年近く待っていただいた方、失踪気味の作品なのにお気に入り登録していただいた方、好評批評問わずに感想を送っていただいた方、本当にありがとうございます。
これからもこの自己満駄作品をよろしくお願いします。
題名はシンプルに思い浮かびませんでした。