眩しい日が差す昼下がりの時間に、太陽の光を身近に感じるような崖の上にそびえ立つ建物の上で、風を纏ったような女性がカメラを片手に興味深そうに上から少年達を眺めていた。
その下では飛龍に背負われた少年が、岩を軽々と登っていく。
「お前って、背が低くていつもふざけて大したことなさそうなのにかなり身体能力いいんだな。」
そう言って少年は飛龍の背中の上で唸った。
「それって褒めてるのか馬鹿にしてるのかわからないんですけどぉ!?」
飛龍は背負っている少年の方を半目で振り向いた。
「いやいや、褒めてるんだよ。うん、」
確かにこの身体能力は、並の人間がちょっとやそっとで鍛えて手に入るものではないと思った。
「まぁそりゃあそうですよ〜この身体能力はそう易々と人間が真似できるようなもんじゃないですからね〜あはは!」
飛龍は、一蹴りでさっきよりも高めにジャンプし、崖の上に見える地面を余裕で通り越し、少年を背負ったまま空中で軽々と姿勢を変えて着地して 背中から少年を下ろす。
「人間が真似できるようなもんじゃないって言ったけど、お前は人間じゃないのか?」
と、少年は鋭く飛龍の方を見た。
「そんなこわい目で見ないでくださいよぉ〜あはは、そんなに心配しなくてもボクは"もと"人間ですから基本的にはあなたと変わりないですってえへへ!」
その目には嘘や誤魔化しはなく、ただの事実として、そう物語っていた。
「そりゃ先が思いやられるよ....はぁ。」
(コイツが暴れだしたら、俺の身体能力じゃあ全くと言っていいほど歯が立ちそうにないな...)
しばらく歩くと、そこには立派で大きな門が見え その両端には獣の耳と尻尾が生え武装した少女が立っていた。
「ほわぁ〜やっぱりいつ見てもおっきな門ですねぇ〜!ほらっあの上の隅っこにある木で彫られている顔が確か、大天狗って言ってました!、まぁ実際に会ったことはないんですけど〜何でも 此処では かなり偉い方だと聞きましたね あはは!」
飛龍は指をさしながら、無邪気そうな笑顔で大きな門に彫られている像の説明をした。
その大天狗の像は常に何か悩み事を抱えている上司の顔をしていた。
「へぇ〜、それにしてもこんなに巨大にする必要ってあるのか?出入りも大変だけど何より、やっぱり管理とか警備の方が大変だろ?」
そう思い、少年は警備をしていると思わしき獣耳っ娘の方を見た。
頭からは、犬のような耳が生え、腰のあたりには尻尾が見える。
整った顔立ちに、遠くを見据える瞳はどこかたくましく感じた。
その後ろには、巨大な門と比べると少し小さな扉があり、その門の前に武装した獣耳っ娘達は立っていた。
「あぁ〜なるほどな。」
(確かにあの扉だけなら警備も楽だわな)
「さぁさぁ、早いとこ入っちゃいますか〜」
そう言って飛龍は警備をしている獣耳っ娘達に話しかけた。
そのしばらくあと、獣耳っ娘達は静かに扉を開けて、少年達はその奥にある敷地に向かって歩いた。
1歩敷地を跨ぐとそこは、妖怪の山に初めて入った時のように、しかし妖怪の山とはまた違った空気がいっきに少年を包み込んだ。
まるでそこには、ものすごく統率の取れたひとつの社会があるようなそんな雰囲気が漂っていた。どこか自分が前にいた世界を思い出すほどに。
そう思い、少年が固まっていると飛龍がいつも通り平常運転で横から少年に話しかけた。
「どうしたんですかぁ〜急に立ち止まっちゃって?そんなに固まらなくてもいつも通りにしとけばいいんですよぉ〜あはは!」
しばらく飛龍は少年の返事を待ったがそれに返事をしたのは少年ではなく、飛龍とはまた別の意味で元気のある快い声が上から聞こえた。
「そうですよ〜そんなに緊張しなくたって、いきなりとって喰ったりしませんから!それは置いておいて、飛龍サンはもう少し緊張感を持っていた方がいい気がしますよ?」
その声が聞こえた方を振り向くと、そびえ立つような門の上に陽の光を背に受ける風を纏った女性だった。
直後にその女性は少年たちの目の前に一瞬で移動して、まるで瞬間移動をしたようにも見えた。
その女性は風を纏っていた、いやむしろ風その者のようにも見えた。
服装は比較的シンプルで、黒いフリルの付いたミニスカートと白いフォーマルな半袖シャツ、赤い靴は天狗の下駄のように少し高くなって、片手にはカメラを持ち その背中に生える黒い羽は彼女が何者かであることを物語っていた。
そして真っ直ぐに少年を見据える瞳は興味で溢れていた。
「はじめまして、射命丸 文と申します。よろしくお願いします!」
「あぁ、よろしく。」
そう言って少年は短い挨拶を交わした。
「......」
珍しくさっきから静かな飛龍の方を横目で見ると、あからさまに不機嫌そうにそっぽを向いていた。
「なぁおい、飛龍?お前さっきから黙ってるけど何かあったのか?」
少し気になって飛龍に話しかけるが、飛龍は全く聞く耳を持たずに。
「それじゃあボクはそこら辺を散歩してるので話が済んだら呼んでください。」
そう淡々と言って立ち去ろうとしたがそれを引き止めたのは、またもや少年ではなく射命丸だった。
「何言ってるんです?飛龍サン、貴方にも聞きたいことがあるのでぜひ一緒にお茶しましょ?」
射命丸は笑顔を崩さずに、しかし一切の拒否もさせないような口調でそう告げた。
「あなたとお茶するくらいなら、小便飲んだ方がマシですよっ!」
そう言って飛龍は地面を一蹴りで空高く飛んだが、その一瞬あとに射命丸も後を追うように飛び立ち、時間が遅れて気付くかのように少年の周りを風が吹き抜けた。
そのしばらくした後に2人が地面に降りてきて、飛龍はさっきよりも不機嫌そうに、射命丸はさっきよりも機嫌よくお互いが何を話したかは、少年には全くと言っていいほど想像もつかなかったが、そのまま射命丸に連れられて部屋へと案内された。
その部屋は家具があまりなく、シンプルで背の低いテーブルと座り心地が良さそうなソファーが向かい合うように並べられていた。
しばらくして射命丸がお茶(のようなもの)を人数分テーブルの上に置いた、洒落たカップのデザインに目を惹かれた。
お茶を飲みしばらく、くつろいだ後に先に口を開いたのは、射命丸の方からだった。
「それで、私に聞きたいこととはなんでしょうか。」
そう静かに言って、射命丸はコップに口を付ける。
「あぁ、その事なんだが、幾つか聞きたいことがあるんだけどいいか?」
と少年はゆっくりカップをテーブルの上に置いた。
「えぇ、質問する分には構いませんが、もちろん"タダ"で情報を渡すわけには行きません。」
そう言って射命丸はコップに口を付けたまま、少年を試すように見据えた。
「あぁ、もちろんタダでとは俺も思ってはいないさ。そうだな、俺が外の世界からきたって言えばどうかな?」
と少年は、こう言えば必ず食いついてくると確信した上でその情報を匂わせた。
「やはりそうでしたか、大体予想はしていましたが、いいでしょう先に質問してかまいませんよ。」
と射命丸は別に驚きもせずに、ゆっくりとした口調でそう告げた。
「そうか、それじゃあ俺がここ(幻想郷)に来てからずっと疑問に思っていたことなんだがこの世界において"鬼"って一体なんだ?」
少年は、最初からずっと疑問に思っていた、魔理花があそこまで取り乱した"鬼"という存在を知りたかった。
「やはり気になりましたか、わかりました教えましょう。」
そう言って射命丸は、無理に落ち着かせるような手つきで、カップをテーブルの上に置いた。
「異変....はご存じですか?まぁ要するに、ちょっとした騒ぎのようなものです。騒ぎと言ってもその事の大きさは様々ですが、私が知る限りあの"鬼"が起こした異変は一番酷いものでした。 ここまで言えば大体予想はつくでしょう、そう....この幻想郷において最初で最後の死者が出た異変です。」
そう告げた射命丸はどこか 嫌な記憶を思い出し、悲しい表情で 掠れた声を絞り出すようにそう話した。
「その死者とは.....」
とそこまで口に出したところで、すこし俯きしばらくした後に覚悟を決めたような口調で告げた。
「その死者とは、博麗の巫女の博麗霊夢です。そして、その異変のあとに行方不明になった霧雨魔理沙も被害者の一人です。」
そこまで言うと、苦虫を噛み潰したような表情で またしばらく俯いていた。
(霧雨魔理沙か....魔理花となにか関係がありそうだな。)
「どうしてその"鬼"はそんなことをしたんだ?」
と少年はただ疑問に思ったことをそのまま口に出した。
「それが分かれば、こんな事にはならなかったでしょう、最後まで博麗の巫女はその異変の原因である"鬼"を倒そうとはしませんでした。彼女は最後まで信じ続けたのです....しかし結果は先程述べた通りです。」
そう言い終えたあとに、これ以上は話したくないという雰囲気が射命丸から漂っていた。
「そうか....嫌なことを思い出させて悪かった。」
そう言って少年は、味が悪そうに俯いた。
「いえいえ!なんかしんみりしちゃいましたね!他に何か聞きたいことはありますか?」
そう言って射命丸は気持ちを切り替えるように、表情を変えて話しかけた。
「あぁ、そうだなぁ ここ(幻想郷)で一番強い奴って誰なんだ?」
少年は何かを企んでいるようにそう聞いた。
「ん〜そうですねぇ、他のみんなに聞けば間違いなく自分って言いますが、こう見えてもいろんな方を見てきたのでたぶん間違いなく答えられますよ。」
それは、
「春野 龍助です。」
と、そう確信して自信げに言った。
(春野 龍助か....聞いたことのあるような、うーん....)
「それで、そいつとは会えるのか?」
「そうですねぇ、前は一緒にスクープを追うのに協力してくれてたんですけどねぇ〜、最近は全く会いませんね。あっそうそう彼の口癖がこうでした、「ネタがないならその原因を作っちまえばいいんだよ。」って言ってましたっけ….」
そう言って、何かを思い出すかのように苦笑した。
「確かに彼が言ったことは全部起こりましたがどうにもその内の何件かは怪しかったんですよねぇ、それに会おうと思って探したところで絶対に会えませんから....はぁ、私も何度か会いに行こうと思って探したんですけど向こうから会いにこない限りか偶然出会えるかの何よりの気分屋ですからねぇ…」
どこか遠くを見るような目でそう言った。
「へぇ〜、それでソイツはただ強いだけじゃないんだろ?例えば何か重要な役割でも担ってたりして?。」
そう言って少年は何かを企み確信した上でそれを聞いた。
「えぇ、もちろん。ですが私には答えられません。」
そこまで言うと射命丸はきっぱりと答えるのを断った。
「そっか、それでまだ そのスクープってのは探してたりするのか?」
と少年は、欲しい情報はすべて手に入れた上で、射命丸を値踏みするような目でそう言った。
「はい もちろんです! 皆さんに真実をお届けするのが私の使命ですから 何かスクープがあったらぜひ教えてくださいね!」
と射命丸は目を輝かせながら少年を見つめた。
しばらく少年は目を瞑り、考えたフリをした後に ゆっくりと目を開き 隣で寝提灯を掻き出した飛龍を目の隅に、不敵な笑でこう告げた。
「いいぜ、取って置きのスクープがある。」
そのかわりに利用させろ、と。
幾つかの条件と部屋を移動してそれを話した。
「それが本当なら大スクープですよ!ええ ぜひとも協力させて下さい!」
そう言って射命丸は少年と握手を交わした。
「それじゃあ俺はこれで帰るけど、俺がもらった情報の対価はさっき言った事が起きるってことでいいか?」
そう言って少年はその事実が起こることを確信した上で、射命丸に告げた。
「えぇ!もちろんそれが本当ならこっちが渡したりないくらいですよ!」
と、やはり目を輝かせながら射命丸はそう言った。
「あぁ、ネタがないならその原因を利用しちまえばいいんだよ。」
と、少年は不敵な笑みで"彼"を思わせるそんな顔でそう言った。
「それで?ボクの居ないところで2人でなに話してたんです?」
と飛龍は怪訝そうに話しかけた。
「ん?いやいや、ちょっとした取引だよ。」
(そう、ただの"天狗の交渉"さ。)
そう思い、少年は飛龍の背中に来た時のように乗った。
「そうそう、飛龍サン 今日は お話を聞けなかったのでまた日を改めてじっくりお話しましょうね〜お茶の用意もしてまってますから〜」
そう言って射命丸は夕焼けを背に、元気よく少年達に手を振っていた。
「だ〜か〜ら!あなたとお茶するくらいだったら小便飲んだ方がマシって何度も言ってるじゃないですか!あんな何が入ってるか分からないもの飲めるわけないですよ!」
そう言った直後に飛龍は黄昏時の空を一蹴りで空高く駆け抜けた。
(ちょっとまて!?いま何が入ってるか分からないっていったか!?)
と少年がそう思うよりも早く既に少年の意識は黄昏時の空に飛び、五感は風を捉える事しか出来なかった。