しばらく歩き続け、無縁塚と言うところから出た途中、再思の道とよばれるところを抜けて、魔法の森の入口に香霖堂と言う店がありそこに行く事になった。
気付いたら、もうとっくに日は暮れて辺りは薄暗く、夜空には忽然と輝く満月があたりの闇を仄明るく照らし木々の間からは月の光が透けさまざまな形をした影が顕れ、見方を変えれば見たことのないような化け物のようにも見え一人で出歩いて行けば容赦なく精神を蝕んでいく。
そうこうしている内に近くまで辿り着いて居たようだ。
見た目はそこまで古くはないが周りは雑草だらけで、余り手入れもされていないだろうか、店と言うわりには何処か物寂しく不思議な雰囲気が漂っていたが、近くには見事な桜の木が一本生えていた。
「やっぱり日も暮れて居るから客は全く来ないのか?」
そう言って少年は物寂しい店の周りを見ながら話しかけた。
「まぁ、日が暮れる関係なしにいつも客はすくないし、今日は店を閉めてたのもあってさ、でも少なからずお得意さんもいるんだよ。」
少し自身気にメガネの位置を直す仕草をしながらそう言った。
「へぇ、こんな目立たない所に立ってる店に買い物をしにくるなんて物好きも居るもんだな、どんなものを売っているんだ?」
どんな店か不思議に思い少年は聞いた。
すると彼は、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの表情で話し出した。
「これを探すためにわざわざ、あんな所まで行ってたのさ」
そう言って、最初に見せてきた物と同じで、どこに隠してたか気になるほど大きめの袋を開き、中からガラクタと言うのに相応しい物を次々と見せてきた。
「まさか....これを売ってるわけじゃないだろうな?」
その袋の中から出てきたものを見て少年は素で聞いてしまった。
「あぁ、 もちろんこれ以外にもたくさん売ってるけど、どれも似たような物が多いね。」
「こんなガラクタが本当に売れるのか?」
「こう見えて僕は、道具の名前と用途がわかる能力を持ってるのさ」
と、さっきまでとは違った自身気でもなく人間が歩くのが当然と言わんばかりにそう言った。
「ん? なんだその能力は?」
怪訝に思い少年は探るよう聞き返した。
「まぁ、外の世界から来たばかりなら信じられないのも仕方ないか、それじゃあ、少し見せてあげるよ。」
そう言って、先ほど袋の中に入れてあった薄汚れて綻びかけた本を取り出した。
「これは、魔導書と言って魔力が込められた本だよ、かんたんに言うと魔法に疎い人でも魔法が使えるってわけさ。」
そう言って片手で薄汚れた分厚い本を開き、ゆっくりと目を瞑った。
「そのボロボロの本で魔法が使えるのか?」
(魔法が本当に使えるのなら、使い方次第で何かの役に立つかもしれない。)
そう少年が聞いたが既に集中しているのか、少年の声は彼の耳には届いていなかった。
「それじゃあ今から魔法を見せてあげるから、少し離れてて」
そう言って薄汚れた魔導書を開き何かの呪文を詠唱した、魔力の胎動が周りの空気を巻き込み小規模な風を巻き起こす、先ほどまで薄汚れていた本が淡く輝き出し右手を前に突き出し詠唱が終わると同時に右の手のひらから、数十メートル先まで跡形も残さず焼き尽くす炎が放たれた、まだ熱気が漂う中かろうじて目を開き目の前で起こった現状を確認した。
「嘘だろ....? これが魔法なのか!?」
先ほどまで木が生い茂っていた森の一部が跡形もなく焼き尽くされて、いまだに熱が漂う中初めて見た魔法に驚きを隠せず唖然としていた。
「まぁ、初めて魔法を見たんだ当然の反応だよ。」
(外の世界は、同じような事を魔法などを使わずに出来てしまうと何処かで聞いたことがあるけど、さすがにこのくらいの魔法になれば驚きもするのもおかしくはない。)
「その本を使えば、俺も同じような魔法が使えるのか?」
(魔法の使い方次第で何かの役には立つと思ったが想像以上の力だった、その魔法を使いこなせれば何か面白いことが出来そうだ)
「確かに魔法に疎い人でも魔法が使えるようになるとは言ったけど、魔導書の場合この本の意味と用途がわからなくちゃダメだね、でも道具の用途がわかる能力があるから魔法使いでもない僕でも使えたのさ。」
「なるほど、そういうことか」
「それじゃあ中に入ろうか、あっ 先に注意して欲しいことがいくつかあるんだけどいいかい?」
そう言って彼は少し申し訳なさそうに話した。
「あぁ、かまわないけど何かあるのか?」
「まずは、店に置いてあるものにむやみに触らないこと、使い方を間違えてしまうと命の保証はしないからね、そしてもう一つが.....」
そう言って家の中を諦めた目で見ていた。
「もう一つは、その時になればわかると思うよ....」
正面の玄関からは入らず、外側に付いてある裏口のような場所から中に入った、手元のロウソクに火をつけ、部屋を薄暗い蝋燭の明かりが灯る中やはり先程も見たようなガラクタにしか見えないような品物がたくさん並んでいた。しばらくして、さっきまで薄暗かった部屋が光に包まれ、夜目が効いてきた目には眩しいほどの光が天井から照らしていた。その後彼は 何食わぬ顔で今日、仕入れた物の整理を始め出した。
「この光も魔法か何かなのか?」
「いいや、これは外の世界にもある電球と言うものに少し手を加えただけの物だよ。」
「そうか、しかし本当に似たような物を売っているんだな。」
「入る前にも言ったと思うけど、触る時は気を付けてくれ、何か飲み物を持ってくるよ。」
そう言って奥の方へ消えていった。
しばらく椅子でくつろいでいると、奥の部屋から物音が聞こえた。部屋を移動する足音がだんだんと、この部屋に近づいて来た。あまりに飲み物を持ってくるのが早すぎると思い少し不審に感じ扉の方を見ていると足音の主が扉の前まで来て勢いよくドアを開けた。
扉を開けた者に視線を向ける、歳は自分と同じくらいの見た目で最初に目に入ったのは、その透き通るように金色に輝く髪の毛と、光を反射する輝きに溢れた、髪と同じ色をした金色の瞳。 端正な顔立ちで明るく自信に満ち溢れた声で紛うことなき美少女だ、がしかし.....
「おい、霖之助! あたしの着替え用意してっていつも言ってるじゃん、いちいち取りに行くの面倒臭いんだよ。」
「それくらい自分でしたらどうなんだ?、それに今日は仕入れで帰りが遅くなるのは伝えてあったのにお前が聞いてないのがいけないんだろ?」
そう言って奥から飲み物を持ってくる、半目で呆れながら歩いている彼の姿が見えた。
「はぁ....それに着替えがなくても、裸で歩き回るなってアレほど言ったのに....」
そう....紛うことなき美少女なのだが、何故かタオル1枚の半裸状態で店の主と会話をしていた。
目のやりどころに困る格好の中、金色の髪と瞳をしている少女は、まだ少年に気付いていない。
「なんだ霖之助!風呂上がりに飲み物用意してくれるとか気が利くじゃん!」
そう言って彼が手に持っている飲み物を取ろうと手を伸ばしたが、その手を振り払い。
「この飲み物は魔理花のじゃない、お客さんのだ。」
そう言って彼が少年の方を見た。
しばらくして金色の瞳も後を追うように、少年の姿を捉えた。
「よ、よう....俺は何も見てないぞ!?だからあんしっゲフハッ....」
安心しろと言うよりも先に拳が右の頬にめり込むのを確認するよりも早く意識は暗転した。
どれほど時間が経っただろう、まだ重い頭を起こして朦朧とした意識の中、最初に視界に捉えたのは顔を赤らめながらコチラを見つめる金色の少女だった。
「よ、よう 」
殴られて気絶していたことを思い出して再び殴られる事を心配しながら恐る恐る声をかけた
「なんだ思ったより元気じゃないか、もう少し強く殴った方がよかったか?」
そう言って何も悪びれる様子もなく少年を見た。
「いやいや!? 全然、元気そうじゃないだろ? それに普通に気絶してたのにもう少し強く殴った方がよかったってお前は殺す気か!?」
「はは、そうだな私もいきなり殴ったのは謝るぜ、 だけどお前もよけなかったのもあるから、おあいこな!」
「ちょっと待て、いきなり殴りかかってきたのはお前だろ!?それでよけなかった俺がわるいのか!?」
「何言ってんだ?、そんなもん当たり前だろ? 」
まったくの暴論だ、あの距離で姿を直視できなかった状況にも関わらずよけなかったほうが悪いなんて、そんな理不尽な事があるのか!?
と言いたいところを抑えて苦笑しながら言った。
「それじゃあなんだ、ここじゃあ何もしなかったヤツが悪いんだな?」
「あぁ、そうだぜ そんなもん当たり前だろ。」
と金色の少女は自信満々に語る、それを少年は何か物言いたげな顔で金色の少女を半目で見つめた。
しばらくして店の主が声をかけてきた。
「へぇ、君たちいつの間にそんなに仲良くなったんだい?」
そう言って少しニヤケ気味に遠くから荷物の整理をしていた、店の主が声をかけてきた。
「これの何処が仲良く見えるんだよ!?、急に殴りかかってきた女だぞ!?」
そう言って少年は金色の少女を指さした。
「急に殴ってきたとは何だよ!! お前が見たのが悪いんだろうが!」
と顔を赤らめながら、彼女も遅れを取らずに反論する。
「そう言えば、君はこれから行く場所はあるのかい?」
そんな言い合いをしている中、店の主は急に冷静に話しかけた。
「唐突だなぁ..... あぁまだここに来たばかりで何処に行けばいいのかさっぱりわからないな。」
と少年は思ったままの事を口にした。
「そうだねぇ、普通なら博麗神社に行くところだけど今はそこに行くのは余り勧めないよ。それなら里の方に行ってみたらどうかな?」
「へぇ、里があるのか そうだな俺も気になる事があるし行ってみるよ。 里まではどうやって行けばいいんだ?」
少年は少し興味を持ち、詳しく聞こうとした。
「妖怪の森を抜けて、したに降りていったらそのうちたどり着くよ。」
と店の主は簡単に説明した。
「なんか、大まかだな....そんなんで行けるのか?」
少し不安に思い窓の外を眺めながら聞いた。
「それなら道案内に、あいつを連れていくかい?」
と店の主は少年の隣に立っている金色の少女を見ながらそう言った。
「おい、魔理花 里まで行くから道案内してやってくれ」
と店の主が声をかける。
「えぇ〜なんで私が.....めんどくさいなぁ〜」
金色の少女はあからさまに不満な表情を浮かべる。
「妖怪の森を通るのに人間が1人で行けると思うのか?それにここじゃあ何もしなかったヤツが悪いって言ったのは魔理花だろ?、それならお前が連れて行ってやるのが当たり前だな」
と先程、金色の少女が言った言葉の揚げ足を取るように言った。
「ぐぅ....わかったよ、連れて行けばいいんでだろ!!」
渋々 受けたように金色の少女は勢いよく返事をした。
「まってくれ、妖怪の森って言ってたけど、まさか妖怪が居るんじゃないよな?」
少年は今まで見たことの無い妖怪にすこし不安げに思った。
「何言ってんだお前? そんなもん居るに決まってるだろ、妖怪の森だぜ?」
それが当然かのよう金色の少女は首を傾げた。
「妖怪がでたら、どうすんだよ!? 逃げれるのか。」
とさらに不安になり、そう聞いた。
「ははっそのために私が、一緒にいくんだぜ?そんときは跡形もなく吹き飛ばしてやるぜ!!」
と自信満々に金色の瞳を輝かせながら活発な声でそう言った。
「それって俺も巻き込んだりしないよな!? 心配でしょうがねぇよ!」
「安心しな、爆風でも近くで受けたら死ぬだけだぜ☆」
舌を出しテヘペロのような感じで可愛くそう言った。
「安心出来ねえよ! 俺の近くで使うんじゃねえぞ!?、てか使うお前は大丈夫なのかよ!?」
「私は、魔法でどうにでもなるから心配いらないぜ」
とやはりまた自身気に袖をまくり上げ細い腕をL字型に曲げる。
「はぁ....そうか、もうどうにでもなれ。まぁ頼んだぞ」
と半ば呆れ気味にそう言った。
「めんどくさいけど、付き合ってやるぜ」
何故か最初は渋々だったのにもう既に乗り気になっていた。
「それじゃあ、2人とも準備が出来たらすぐにでも行くのかい?」
とそれまでのやり取りを聞いて店の主が話しかけた。
「私はいつでも準備出来てるぜ!」
親指を立てながらそう言った。
「俺は、気持ちの準備と死を受け入れる準備がまだだわ....」
「何言ってんだお前は? さっさと行くぞ、早く歩かないと置いていくからな〜」
そう言い、玄関を出て少年のことを気にする様子もなく先を歩く金色の瞳の少女を急いで追いかけた。
「えっ!?おいっちょっとまてよ!! お前は鬼かよ!?」
と普通なら誰も気にしないような無意識に出た言葉をそのまま言った。
「.......」
しかし先程までの、ふざけた空気はどこに行ったのか出会って間もないが今までに見たこともないような、さっきまでの面影を残さないほど、真面目な顔で金色の少女は少年の目を覗き込んだ。
「.....いまお前、なんて言った?」
変に答えればそれだけで、問答無用な力を向けられるようなその金色の瞳の視線には明確な殺意と殺気がたちのぼっていた。
(下手な返事はできねぇ....コイツは、一体何に反応しやがったんだ!?)
と自分が発した言葉を全て頭の中で再生した、その中で一つだけ自分でも知らない言葉を言っている事に気付いた.....
「....鬼と」
その瞬間、無意識に口に出していることに気付くよりも早く目の前に今までに体験したことのないような光と熱が全身を覆うような錯覚を覚え、半ば夢見心地で現実を受け入れる間もなく強力な力が自分の目の前で弾けてぶつかった。
たちのぼる土煙が視界を阻むなかで、息を荒らげながら怒りに身を任せ絶叫のような怒声が聞こえた。
「もう一度、ハッキリと私の前で言ってみろ!!」
何が起きたのか理解出来ぬまま、現実逃避を始めていた頭はようやく我に帰り、今起きている現状を把握することに務めたが....
目の前に居たのは、怒声を浴びせてきた金色の少女ではなく先程まで荷物を整理していた、眼鏡をかけ銀色の髪をした店の主だった。
しかしその疲弊しきった顔から察するに途方もない力を消費しただけではなく、おそらく人間の五感では光と熱にしか捉えられなかったさっきの衝撃を防いだときに出来たのだろうか手のひらからは血の滴が滴っていた。
「魔理花....落ち着け、この少年は外から来た人間だ....お前がそうなるのも分かるが、取り敢えず腕を下ろしてくれ」
そう言って次に、土煙がなくなり周りを見渡すと少し前まであった木や森の一部が、初めて見た魔法の時と同じかそれ以上の火力で跡形もなく消し飛び強い熱気が、溶けた地面から立ち上っていた。
「これを、お前がやったのか....?」
そう言って、魔理花と呼ばれる少女の方を向き表情を確認した。
「あぁ....そうだよ、さっさと付いてこないと次は本当に置いていくからな」
そう言って、落ち着きを取り戻したように、しかしまだ震える手を冷静に繕いながら、もとから重かった足取りがさらに重くなりながら2人は森へと入っていった。