空を見上げると日はまだ高い位置にあり雲一つない澄み切った青空を虚ろな瞳で眺める、目に複雑な模様を浮かべた少年が忘れ去られた約束の場所で1人佇んでいた。
目を閉じるとあの日の出来事を思い出し ひとり苦笑をもらしながら時が過ぎ変わってしまった世界をどこか別の次元を見ているかのような瞳で見渡した。
そして最初に思ったことを呟こうとするよりも先に同じ言葉を先に懐かしい声が聞こえ後ろをゆっくりと振り返った。
「ここだけは、やっぱり変わらない....だろ?」
そう言ったのはヘラヘラと笑いながら最初から居たかのように後ろに佇む 鋭い目付きに背が高く、整った顔立ちだが 挑発的に笑うその表情からは何を考えているか悟らせず、全てを見透かしたその余裕の笑みに懐かしいものを感じると同時に無意識に警戒をしいられ すべては彼の思い通りに事が進んでるような そんな錯覚さえ覚えた。
「やっぱりお前だったか、久しぶりだな龍助。」
「あぁ、久しぶりだな 今はその名前で呼ばれるよりも 道化師っての方がしっくりくるな。」
「道化師? なんだよそれ ははは!」
「いいじゃないか? 俺にピッタリな呼び名だろ?」
「ははっ お前はちっとも変わってないな、でもまぁ その方が安心するけどな」
「それをお前が言うかよ、お前こそ昔のままじゃねえか ははは」
「それで? 俺に会いに来たって事は何か用事があったんだろ?」
「あぁ、そうだったな、これは親友としての忠告だ 受け取っとけ」
そう言い 手渡されたのは薄汚れ読み古された童話のような本だった。
「これは、なんの本だ?」
「あぁ それはお前の忘れもんだ 暇な時にでも見とけ。」
その目は少年ではない誰かに話しているようなそんな気がした。
「そして これは道化師としての お前に対する期待だ。」
そう言って道化師を名乗る彼の方を見るとその表情は先程と変わらず、ただ挑発的に笑っているだけだが、一瞬だけその表情が揺らぎ不可避の一撃が少年を捉えた。
不意に少年を捉えた不可避の一撃を青白い光を放つ瞳で一瞬遅れて虚空から刃を出し辛うじて相殺したがその余波だけで意識が朦朧とし 互いが一撃で決着を付けられることが可能なほど近い間合いで少年が呟いた。
「まだ 気が早いんじゃないか? もうちょい思い出に更けさせてくれよ?」
「お前ならもう 薄々勘づいていたんじゃないか?」
「どういうことだ?」
「ん?俺はただお前との約束を果たしに来ただけだ、まっお前は忘れてるだろうけどな」
そう言い先程と変わらず挑発的に笑うその瞳には揺るがない意思があった。
「約束だと? そんなものまったく覚えがないな?」
「そのうち思い出すさ、まぁ生きてたらだけどな?」
そう言い道化師は少年を容赦なく連続で斬りかかる中で 少年は青白い光を帯びた瞳で 勘でかわし 誘導で攻撃を相殺し 予測で反撃をするほどに道化師と互角に渡り合っていた。
「お前とこうして戦うのも久しぶりだな」
青白い光を帯びた強い意志を持った瞳で少年が話しかけた。
「そうだな、せっかくだし楽しませろよ?」
そう言ったのは右目が 夜天を映し出した鏡のような瞳で、全てを見透かした余裕の笑みで呟いた。
道化師がそう言ったのと同時に彼の後ろに複雑な模様を浮かべた魔法陣が展開され 彼が、ひとこと発した瞬間に少年に向かって一斉に弾幕が発射された。
色取りどりの弾幕が規則正しい形を保ちながら少年を包み込むように向かい その中でもひときわ目立つ眩しく光り輝く理不尽な力を帯びた太い光はその暴力的なまでに激しく 美しい軌道を描く光の柱に 心を奪われた。
(全てかわすのは不可能か....それなら。)
先程まで青白い光を帯びていた瞳が 薄紫色に変わり少年の周りを瞳と同じ淡い光が包み込んだ。
迫り来る死を前に少年は不敵な笑み浮かべ道化師の方を見た。
道化師と目が合ったその瞬間 彼が一瞬 驚いた顔をしたのを見逃さずにその時 生じた彼の動揺から境界を創り それによって 現れた亀裂の中に少年は消えていった。
意識の境界を操り 道化師の意識の中に姿を消した少年は彼の意識の中で記憶の底に刻まれた 彼の過去を見た。
そこに映ったのは、薄暗い山の中に籠る 純粋で孤独な 少年だった。
その無垢で純粋な瞳は 努力は必ず報われ、どんな強者でも倒せると 誰よりも強く信じ 誰にも気付かれないように独り修行する少年だった。
その少年の運命を変えたのはある少女との出会いだった。
いつものように独り山の中で修行して 休憩のために木の上で休んでいた時に 下の方で 桜の花びらのような儚さと 美しさを体現したかのような姿に夜天を映し出す鏡のような瞳と、曇のない晴天のような、青い瞳をした、どこか幻想的な雰囲気を漂わせる少女が複数の男に追われていた。
純粋な少年は事情を考えるよりも先に体が動き、一瞬にして複数の男の前に立ち塞がり、迫り来る男達を次々と倒して行った。
後ろを振り返り幻想的な少女に話しかけた少年は、少女がまだ怯えて震える手を握り事情は聞かずに落ち着くまで匿うと幻想的な少女に約束をした。
彼女の名前は 春野小桜と言い、その頃の少年は山で修行をしていた事もあり何も知らずに 彼女の名前を聞いても何も思わなかった。
彼女はすこし驚いた顔をして 少年にそれでも匿ってくれるかと聞いたが少年の答えは最初と変わらなかった。
少年はずっと 疑問に思っていた小桜の左右別々の瞳について尋ねた。
小桜は一瞬 戸惑った顔をしておそるおそる自分の瞳について話した。
その事情を聞いた少年はなぜ 小桜が追われいるか全て理解し 自分の瞳の事を話してしまったことにより また追われることになるのかと怯えている小桜に対し少年は優しく、宥めるように呟いた。
すると 小桜の左右別々の瞳から涙が頬を伝い 儚くも美しい桜の花びらのようだった。
それから少年と 小桜は2人で行動することが多くなり、少年が色んな所を案内し 見たことのない場所に連れていき そのつど 小桜の驚く顔や嬉しがる顔を見るのが純粋で孤独な少年にとっては一番の幸せだった。
少年は今の時間が永遠に続けばいいと 心の隅で思いながら、過ぎ行く日々を2人で時間を忘れるだけ楽しんでいた。
しかしその日々は永遠には続かなかった。
ある日の丑三つ時と呼ばれる時間である、いつものように少年は敵の襲撃に備え見回りをしていたところ、2人で一緒に過ごしていた建物から爆発音が聞こえ、自分の出せる限界以上の速さで駆けつけたがそこに小桜はもう居なく攫われた後だった。
しかし攫われてさほど時間が経って居ず、近くにあった足跡を全速力で辿りまだ無知だった少年は敵の戦力や数を確認せずに突っ込んだ。
最初に小桜を救ったのもあり 敵は対して強くないだろうと思い込み、目に付いた相手から自分の持てる全ての力で倒し、なんとか小桜を解放することが出来たが、その場を立ち去ろうとした瞬間に不可避の一撃が少年を捉え暗転しかけた意識をなんとか保ち 朦朧とする視界で闇の中さらに邪悪に笑うその男が立っていた、なんとかその男の隙を付き 小桜と 逃げ出すことが限界で逃げている途中に少年が倒れ、瀕死の少年は自分の無知さと力不足さを後悔した。
視界が薄れ、暗転しかける意識の中 孤独だった少年は既に孤独ではなく、少年の純粋な瞳に最後に映る 幻想的な少女を、少年は死を悟り ゆっくりと目を閉じ 少女が涙ぐんだ声で最後に言った言葉を消滅しかける意識の中 ゆっくりと聞いた。
「あなたのお陰で".....初めて信じることが出来た".....! あなたが居たから".....今の私がいる".....!!、あなたが"色の無かった".....世界に色を与えてくれた"....!! あなたが孤独だった私の"......! 全てだった".....!! だからこれからもずっと".....あなたと".....一緒に居てもいいですか....?」
そう言って少女は淡く輝きだし、息をしていない少年を抱き締め少女を包んでいた光が少年を包み込み、その光ごと少女が少年の中に消えていった。
しばらくして目を覚ました少年は、まだ体に残っている抱き締めた温もりを感じながら、少女から引き継いだ左右別々の瞳から桜の花びらのような涙が一筋流れた。
そこで道化師の記憶は終わっていた、しばらく 道化師の意識の中で遠くを見つめていると内側から道化師が話しかけてきた。
「ぜんぶ 見たんだろ?」
そう言ったのは意識の中 自分の姿を映し出した道化師の分身が少年の後ろにいた。
「あぁ....なんかすまんな....」
「いや お前に見てもらいたかったんだよ」
「どうして....? 俺に?」
「言ったろ? これはお前に対する 道化師としての期待だってさ?」
「あぁ....でもこれが何の意味があるんだよ」
「それは今のお前じゃあ無理な話だ、そろそろ元の体に戻してやらねえとな?」
「あぁ.....そうだな 」
「久しぶり会えて嬉しかったぜ? でも次会うときは初めまして....?だよな はっははは」
そう言って道化師が夜天を映す鏡のような瞳で少年を見つめた瞬間、少年の意識は暗転した。
「それじゃあ、あとは ゆっくりやすんでな 」
意識のない少年を竹が多く生い茂る竹林の中に置いて、道化師はそのまま闇の中に姿を消していった。