昼でも薄暗い青々とした竹が生い茂る竹林の中に、1人の少年が朦朧とした意識のまま倒れていた。
しばらくして薄れかけた意識の中で感じ取れたのは、鼻につく土の匂いと、薮の奥で聞こえる虫の音色が少年の周りを包んでいた。
そこへ一定のリズムで歩き近づいてくる何者かの足音が聞こえ、音の大きさや歩幅から推測すると子供の足音だろうか、薄く目を開け靄がかった視界で見えたのは、心配そうにコチラを見つめる まだ幼さが残った少女だった。
それが、目覚める前に見た最初の記憶だった。
今の自分が置かれている状況を整理すると、何故か竹林の中で倒れていたのを 偶然通りかかった少女もとい幼女にここまで運んでもらい、いつの間にか着替えさせられ清潔で真っ白な心地の良い布団の上で寝かされて、目の前にまだ幼さが残る整った顔立ちの....いや どちらかと言うと可愛らしい顔をした頭から兎の耳を生やし制服を着た幼女が少年の事を心配そうに見つめている。
幼い子の扱いに慣れていない少年は怖がらせないように不慣れに笑顔を作り自分が思う穏やかな声で話しかけた。
「やっ....やあ 少し聞きたいことがあるんだけ...ど、いっいかな?」
ただでさへ、目つきが悪く相手にあまりいい印象をあたえない少年が不慣れに笑顔を作り笑う、その顔はさながら今から少女に乱暴をしようとしているような男の邪悪な笑みそのものだった。
「ひっひゃい!? なんでしょうですっすすか!?」
肩を震わせながら少女は怯えた声で返事をした。
「あっ...いや!? 俺は何もしないから安心してくれ!?....ん?」
そう慌てて取り繕い不意に少女の瞳を覗くと、仕草こそ 怯えているかのように見えるが、その目を見れば全く怯えて居らず、悪戯っぽく目で笑っているのを少年は見逃さなかった。
「はぁ....悪戯するのはかまわないけど話くらいはさせてもらうぞ?」
「えぇ〜もうバレちゃいましたぁ? むぅ....」
そう言ってわざとらしく頬を膨らませ不機嫌そうにこちらを見つめる、幼い顔の少女が薄暗く笑った。
「それでどうして俺はこんな所にいるか聞いてもいいか?」
「やっと聞いてくれましたね! それは〜あなたが竹林で倒れているところをボクが見つけてここまで運んだんですよぉ?」
そう言って恩着せがましくこちらを見つめる。
「いや、そういうわけじゃなくてだなぁ....」
と次の言葉を言おうとするよりも先に少女の方から勢いよく話かけてきた。
「なんですかその言い草はぁ! 命の恩人の前でそんな気持ちのこもってない顔と態度でいいんですかぁ!」
「あっあぁ....わかったよ!? そ....それで俺は何をしたらいいんだ?」
「ふふふっ! さすが読み込みが速いですね! それではボクに付いてきてくださ〜い!」
「あぁ....わかったよ」
そう言い半目で少女を見た。
(それを言うなら飲み込みが速いじゃねえのか?)
その後すぐに少女が襖を開け長い廊下に出て 背の低い少女の後ろを付いて行った。
「なぁ?そう言えばお前、名前はなんて言うんだ?」
「へっ?あっあぁ まだ言ってなかったですっけ? あたしの名前は飛龍奈姫です! 気軽に 奈姫って呼んでくれていいですよぉ〜」
そう言って悪戯っぽく振り向き不慣れに敬礼のようなポーズをするその姿は少し可愛げがあった。
「そうか、わかった それで俺はいったいどこへ行かされてるんだ?」
「そのうちわかりますよぉ〜でもその前にあなたのこと少し見させてもらいますけど?いいですよねぇ〜?」
そう言い先程まで巫山戯ていた瞳が紅く染まりその瞳を覗き込んだのと同時に気付いたら奈姫の姿はなく見渡せるのは、ただ永遠に続くような錯覚を覚える長い廊下だけが続いていた。
「ん? 急に居なくなりやがって....一体どういうことだ?」
そう思い先ほどのことを思い出す。
(俺のことを少し見させてもらう....か?)
.....まさか
そう思い先程まで少女が居た場所を姿は見えないが手当り次第に腕を動かし、しばらくしてその手に触れた感触に頭を悩まされたがそこにあったのは二つの柔らかい感触が少年の両手を包みこんだ。
(確かここらへんに.....おぉっやっぱりな!)
それが何かわからない少年は不思議そうに念入りに触っているとしばらくして少年の頬に物凄い衝撃が走りその衝撃に暗転しかける意識の中、幻覚が解けて最初に見えたのは白く透き通った白銀の長い髪に謎めいた雰囲気で不気味な笑顔の女性の大きな胸を掴んでいたことを理解し、なんとも言えない感覚に襲われそのまま暗転する意識に身を委ねた。
本日二度目の目覚めを迎えた少年は、見慣れた部屋で最初と同じように寝かされていた。
しかし最初と違うのは飛龍こそ居るものの意識が落ちる前に最後に見たあの女性もそこに居たのだった。
急いで飛び起き布団の上で正座し、すぐさま飛龍の方を見るがやはりその瞳はただ面白いものを見るような悪戯っぽい瞳が少年の姿を映し出していた。
少年は白銀の髪の女性に聞こえないような小声で飛龍の耳元で話しかけた。
「おっおい! お前 さっき俺になにかしたろ!?」
「なにかしたって?何のことでしょう! それよりお師匠様、目も覚めたようですのでお話されては如何でしょうか!」
「えぇ、そうね さっきはよく眠れたかしら?」
「えあっまぁ....お陰様で、それよりもさっきの....」
「えぇ そのことなら気にしなくても大丈夫よ? またうちの子があなたに悪戯したのでしょう?」
「あぁ!わかって貰えてたのなら助かるよ」
そう言い少年は胸を撫で下ろすように安心してため息をついた。
「あぁそう言えば、話ってそれ以外で俺になんの話があるんだ?」
「そのことなのだけど、しばらくの間はあなたにここに居てもらうことになったわ、それまでに 何か分からないことがあったら、あなたの隣にいるその子に聞くといいわ。」
そう言って白銀の髪の女性はそのまま襖の向こうの廊下の奥に消えていった。
「え?いやどういうことだ?しばらくの間ここに居るようになったってさ」
「はぃ? あなたは目付きだけじゃなくて頭も悪いんですかぁ?そのままの意味じゃないですか! それにぃ お師匠様の言葉には黙って従っていればいいんですよっ!」
「やっぱりお前 ヤバいやつだな!?」
(でもよく考えてみればここが何処かも分からないうちは下手に動くよりも情報を集めた方が得か。)
「わかった、それじゃあまずはこの建物の中を案内してもらえるか?」
「えぇ!もちろんです ボクに付いてきてください!」
「あとそれなんだが、次なにか俺にしたら覚悟しとけよ?」
そう言って半目で飛龍のことを見た。
「そんな怖い顔しないでくださいよぉ?大丈夫ですって何もしませんから!ふふっ」
(そうボクは今からは何もしません!だってもう先にしてありますから☆)
「あぁ?そうかそれならいいんだけどな」
しばらくして永遠亭と呼ばれる建物の中を案内してもらいながら飛龍と同じ制服に兎の耳を生やした少女が何人かすれ違ったが彼女たちが少年に向ける瞳は何故か怯えている者もいれば鋭く睨みつける者もいた。
「なぁ....おい飛龍、さっきからすれ違うお前と同じ制服を着たやつらの視線が痛いんだけど....俺何かしましたっけ!?」
そう言い半泣きで祈るように問いかけた。
「いやぁ〜噂ってやっぱり怖いですよねぇ?兎の間だと噂って一瞬で広がっちゃいますからねぇ!あははっ」
わざとらしく少年を煽るように悪戯っぽくそう言った。
「噂って?どんなうわさなんだよぉ!?」
少年は泣きそうになるのをこらえてやけくそ気味に問いかけた。
「それは一つしかないでしょ!初対面でお師匠様の胸をいきなり掴んだのは紛れもなくあなたが初めてですから!そりゃあそんな噂 一瞬で広がりますよっあはは!」
「なるほど....どおりでさっきからすれ違う奴らの視線が痛いわけか....ってそもそもその噂ってお前が広めたんだろ!?」
「えぇ〜ひどいなぁ!なんの証拠があってそんなこと言ってるんですかぁ!」
そう言ってまたわざとらしく頬を膨らませる。
「あぁもういい!案内はもう大体終わっただろ!俺は部屋に戻っとくからな!」
そう言って部屋に戻ろうと襖に手をかけた瞬間に廊下の方から物凄い足音をたてながら走ってくるガタイのいい男が少年の前で立ち止まった。
「あっゴウさんお疲れ様です!」
そう言ってまた飛龍が不慣れに敬礼をするかのようなポーズをとる
「おぉ!飛龍か珍しいなお前が仕事なんてガハハ!」
「いえいえ!ボクもちゃんとやる時はやるんですよあはっ!」
「おぉそうか!それよりも兄ちゃんあんた!初対面でお師匠様の胸を掴んだらしいじゃねえか!よくやったもんだぜぇ!? 俺でもそんな命知らずな真似は出来ねえぜ!これからよろしくなガハハっ!」
「えっ!?あっあぁ...よろしく?」
「それじゃあお客さんお風呂が湧いたようなので先に入っちゃってくださいな! 湧きたてなのできっと気持ちいですよぉ?」
「お客さんって俺のことか? あぁそう言えばここに来てから1回も風呂に入ってなかったしちょうどいいかもな、それじゃあ遠慮なく入らせてもらうぜ?」
「えぇ!どうぞどうぞ! 着替えはコチラで準備しておくのでごゆっくり〜☆」
そう言われ案内された大浴場の脱衣所で服を脱いだ。