広い脱衣所からは木の匂いが香り、そこで衣を脱ぎ大浴場に続く扉に手をかけた。
扉を開けるとそこに広がっていたのは様々な大きさと形をした石で囲まれた湯船に、竹で編まれた塀が広い大浴場の周りを取り囲むように造られ湯気が少年の周りを包み込み、しばらくして風で湯気が晴れて上を向けば竹で編まれた塀の向こうに無数に生い茂る竹林が広がっていた。
しばらくその光景に見とれていると後ろから聞き慣れた特徴のある声が聞こえてきた。
「ふふっ! どうですかぁ? 永遠亭自慢の大浴場は!」
少女は何故か自慢げに胸を張ってそう言った。
「なんでお前が自慢げに言ってんだよ、でもまぁ確かにこれは驚いたな。」
「うんうん そうですよね〜私も初めて来た時はそりゃあもう」
「いやちょっといいか?」
(なんでコイツは俺と一緒に風呂に入ってるんだ!?)
そう言って飛龍の方を一瞬だけ見たがやはり予想通り何も身にまとって居らず、生まれたままの姿で少年の隣に平然と立っていた。
「はい?なんでしょう?」
「はい?なんでしょう?....じゃねえだろ!?お前がなんで俺と一緒に風呂に入ってるんだよ!?」
「そんなの決まってるじゃないですか! 永遠亭に男湯はあるわけないですし、せっかくの湧きたてなのに入らない理由がどこにあるって言うんですか!」
「お前なぁ!それならそうと先にいえばよかったんじゃねえの!?それなら俺が時間をヅラすなり出来ただろ!」
「はぁ....そんなこと後から言ったってどうなるんですかぁ?それともアレですか!ボクの裸に興奮しちゃうから一緒に入りたくないとかですか〜 あはっ!」
「いや....!? それは....ねえぞ!? うん!そんなことはない!」
「へぇ〜なんですかさっき否定する時、一瞬 口がとまりませんでした?」
そう言って飛龍は少年を半目で見つめる。
「なっ!?なんだよその目は!? よしわかった!じゃあこうしよう、湯船の半分から向こうがお前が使え!もう半分を俺が使う!それなら問題ないだろ!?」
「あ〜それなんですけどぉ....」
「なんだよ まな板!まだなんかあんのか!?」
「えぇ....それがですねぇ....って ん!?いまボクのことまな板って言いました!? 」
「あ?別にホントの事なんだから気にすることねえだろ?」
「そんなこと言うならもーどうなってもしりませんからね!これから他の子達がお風呂に来るって言うことを伝えたかったんですけどもう何もしませんからね!」
そう言って飛龍はまたわざとらしく頬を膨らませ、目を押さえ舌を出して あっかんべーっとそのまま湯船の方へ走っていった。
「は!? おいちょっと待て!なんでお前はそうやって大事なことをいっつも最悪なタイミングで言うんだよ!?」
少年はすぐさま飛龍の後を追いかけて湯船の中へ入っていった。
しばらくして脱衣所の方から大勢の少女達の話し声が聞こえて、勢いよく飛龍と同じくらいの子が脱衣所の扉から何も身につけていない姿で飛び出してきた。
「やったー!私が一番乗りだぁ!!! 」
その後すぐ後ろからも落ち着いた声が聞こえてきた。
「そうやってはしゃいでると転けるから気を付けなさ....ってほら」
そう言うよりも先に飛龍と同じくらいの少女がお決まりのように転げたのだった。
その後に続くかのように大勢の少女達が次々に大浴場に入ってきた。
「おい!?どうすればこの状況をなんとか出来るんだ!? 早く教えてくれ!」
何とかバレないように岩の影に隠れたが、しかしこのまま皆が入って来たらバレるのも時間の問題だった。
「えぇ〜?あんなこと言う人に教えませんよ〜、それにお願いするのにその言い方はどうかと思いますけどね〜?」
わざとらしく頬を膨らませたまま少年を煽るようにそう言った。
「わかった! なんでもするから! 早く教えてくれ!?」
「ほう? いまなんでもっていいましたぁ?ふふっ」
その言葉を待っていたかのように飛龍は薄暗い笑みを浮かべた。
「わかりました、いいでしょう! 私が何故この岩陰にあなたを連れてきたかをよく考えてみてくださいな?この下に外に続く抜け穴があります! しばらく息を止めないといけませんが今はそれしかないですよ?」
「わかった!助かったよ それじゃあそこに行くからちょっとどいてくれるか?」
「それはいいですけどぉ?今ボクが動いたら多分バレちゃいますよ?」
「ん?じゃあどうやってその穴に入ればいいんだよ!?お前がどいてくれないと行けないだろ!?」
「さっきから目を逸らしてばっかりでちゃんとよく見ないからですよぉ?ほら?私の股の間を通っていけばいいじゃないですか!」
「はっはい!? あーもう!それしかねえならいくぞ!?」
「そのかわり変なとこ触らないでくださいよぉ?」
「わかってるよ! でもお前 小さいからもうちょい足開いてくれねえと通れねえよ!?」
「もー仕方ないですね!ちゃんと約束守ってもらいますからね?あはっ!」
「わかったわかった! じゃあ通るぞ? ってんん!?」
そう言って飛龍の股の下を通ろうとした時だった。
「あっ奈姫っちじゃん! なんだよぉ私が一番乗りだと思ってたのにぃ?先に入ってたの?」
飛龍と同じくらいの少女が話しかけてきた。
「えっ!?あっ....うん! そうですよぉ! せっかく一番乗りだと思ってた所をなんかすいませでしたぁ? てへへ!」
声や仕草こそ普通のようだがが湯船の中から少年は飛龍の目を見ると、その目はかなり動揺していた。
「奈姫っち〜こんなところで何やってんの?みんなの所いこーよ!」
「えっ? あ.....あぁはい! わかりました!すぐ行くので先に行っててくださいな!」
「そうなの? なんか変なの〜 それじゃあ皆のところ先に行ってるね〜っあれ?」
「奈姫っち誰か足の下にいるよぉ?」
「あっいえいえ!これはそのぉ....そうっ」
と言いかけたが長い間、湯船の中に潜っていて少年の息が限界に達し湯船の中から勢いよく顔を出した。
「え?奈姫っちだれ?この人?」
「あのぉそのぉ.....これはですねぇ!?」
そう言うよりも先に少年の方から飛龍と同じくらいの少女に話しかけた。
「あぁ! 自己紹介が遅れたな!俺はこいつの兄ちゃんだ!まぁよろしくって言いたいとこなんだけど、こいつと2人で風呂に入ってたら何か知らない間に人が増えちゃってさ、変に目立つとあとで面倒臭いからここにある抜け穴から出ようと思ってたところなんだよ!」
「そそそっそうですそうです! ですから他のみんなには内緒でお願いしますね!」
「ん〜そうなんだ!奈姫っちの兄ちゃんだったんだ! うん 誰にも言わないよ!」
「それじゃあ俺は早いとこいくよ」
湯船の中に潜り抜け穴をしばらく進むと外へと繋がっていた。
なんとか外に出ることが出来、安心して竹が生い茂る林の上で寝転び息を整えていると竹林の奥から誰かの声が聞こえてきた。
「何が嘘で何が本当か、それをよく考えないと戻れなくなるわよ?」
その声はしばらく酔いしれるほどに幻想的でどこか懐かしく、その後聞こえるのは虫の音だけだった。