The ghost who doesn't know 知らない化け物 作:とみぃ@みずき
駄文だとは思いますがお付き合いくださいませ。
【青八木一の予感】
「にしてもうまかったでー、あのパフェ...!」
「パフェよりもチーズケーキの方がうまかったろ」
「どっちもおいしかったと思うよ」
鳴子と今泉の言い合いを仲介する小野田。いつもの光景だ。
青八木と手嶋は微笑みつつそれを見つめていた。隣の鏑木はなにやらニヤニヤしながら鞄を撫でている。
ケーキバイキングのチケットを使うべく最初は手嶋にのみ声をかけていたのだが、「いいですねぇ、バイキング!」「楽しみっす!」と某真っ赤なバカと特別なバカが言ったことにより、インハイメンバー勢揃いで行くことになったのだ。ちなみに杉元兄弟は母親の誕生日、段竹は風邪で来れていない。
「にしてもよくあんなチケット家にありましたね」
今泉の質問に、青八木は内心(今さらかよ)と思いつつ口を開く。
「うちの親、あそこのパティシエだからな」
「へぇ!じゃあケーキ食べ放題やないですか、ええですね~」
鳴子に鏑木もうんうん頷いた。
「いいっすね青八木さん。オレいっぱいお土産持ってきたんですよ~、ほら」
鞄からバラバラと出てきたのは大量の紙ナプキンの包み。なかにはクッキーやチョコレートが入っているようだ。
ニヤニヤした笑顔はそういうことらしい。青八木は思わずため息をついた。
「普通バイキングのケーキとかって持って帰っちゃだめだろ」
常識的な手嶋のツッコミにも鏑木は動じない。
「うまいから仕方ないっす。いやぁ、今度青八木さん家に呼んでくださいよー」
「絶対嫌だ」
「まぁまぁ、ケーキ目当てじゃないでしょうし。だよね、鏑木くん?」
小野田の助け船を鏑木は「ケーキです!」と撃沈させクッキーを一枚口に運んだ瞬間幸せそうに笑顔を浮かべていた。
本当にバカな奴だ。
いつのまにか鳴子と今泉のケーキ論争に手嶋も加わったらしく、ワイワイと騒がしい。これこそ総北。総北はアットホームな雰囲気です!若い世代が活躍してます!...とまるでブラック企業のような言葉を思い浮かべた青八木である。これが事実なのだから仕方あるまい。
「あれ?」
「どうした」
小野田の突然の疑問符。青八木が小野田の視線の先を見ると、小さな坂道があった。
「こんな道、ありましたっけ青八木さん」
「...なかった気がする」
「なかったと思いますけど。おお、謎の匂い!登ってみましょうさぁ!」
興奮した様子で登る鏑木。小野田も気になる様子で、チラチラとこちらを見てくる。
「いいんじゃないか?たまには冒険も」
主将である手嶋の一言に小野田は一気に笑みを浮かべた。
「ですよねっ!何があるかな?」
「...はぁ。まぁいいか、たまには」
「スカすなや。お前も気になるんやろ?」
「別に気になる訳じゃない!」
小野田のあとに今泉と鳴子が言い合いながら続く。当然のごとく手嶋も続こうとするので、青八木はくいっと手嶋のジャケットを引っ張った。
「む」
一文字でも充分気持ちは伝わったらしく、手嶋は苦笑した。
「いいじゃないか青八木。オレら高校生だぜ?まさか命に関わるとは思えねぇし」
確かにその通りではあるのだが。なんだか、嫌な予感がするのだ。胸がざわっとするような。
「さて、先には何があるのかな」
しぶしぶ続いた青八木は、後に後悔することになる。
【今泉俊輔の頑張り】
「案外長いなこの坂」
「せやな。だんだん霧が深くなってきおったし、寒気するで」
先頭を歩く今泉と鳴子はそろって体を震わせる。嫌な空気が漂っているのだ。
「今泉くん、鳴子くん...そろそろ戻る?」
腕時計を見ながらおずおず言ったのは小野田。隣で鏑木がこくこく頷いている。
「そうだな。登っても登っても先は見えないし...また今度にするか。青八木も体調悪そうだし」
気分が悪そうな青八木を連れた手嶋がそういって振り返った瞬間。
さっきまで何もなかった背後に、今泉は恐ろしい物を見た。
グエエ、グエェェ、と鳴き声を出す________化け物。
目玉が飛び出し内臓が抉れ、何故生きているのか不思議なくらい。一応青い布をまとってはいるが、ぼろぼろでもとは何だったのかもわからない。
「「「何だ(や)、あれ」」」
今泉、鳴子、手嶋の声が見事にシンクロし、それが幻ではないとはっきり認識させる。
三人の声に小野田と鏑木も振り返りカチンとフリーズする。気持ちはわかる、今泉だって立っているだけで精一杯だ。
「逃げるぞ、純太!お前らもだ!」
そのフリーズを溶いたのは青八木だった。気分は相変わらず優れなそうだが、現状一番しっかりしているのは彼である。
「っわかりましたぁあ青八木さん!小野田さん、行きましょう!」
「う...うん!」
それを合図に今泉たちもダッシュで坂を登り出す。化け物はゆっくりとだが確実にこちらへ来ており、あいつに近くまで来られたら________まぁ少なくともプレゼントとかは無い。
「純太、どうする」
「どうするもこうするもねぇ!取り敢えずこの坂登りきる、今泉!」
突然声を掛けられたが今泉の耳はバッチリ反応した。
「はいっ!」
「警察に通報しろ!化け物とは言うな、ナイフを持った不審者とかで!鳴子、先頭走れ!青八木と鏑木はその後ろ、鏑木は青八木の体調を見てやってくれ!今泉と小野田が次!オレは最後を走る!」
つまり一番危険なのは手嶋ということだ。最悪自らを犠牲にすることもいとわないであろう並び順である。
「小野田、手嶋さんのこと見てろ。出来るか?後ろに化け物近づいてきたら叫ぶだけでいいから」
手嶋を犠牲に自分たちは助かる?冗談じゃない。
こっそりと囁くと、さすがに青ざめていたがしっかりと小野田は頷く。
「わかった。任せて今泉くん」
「よし」
スマホを取りだし110に連絡。1コール、2コール、3コール...14コールめでやっと繋がった電話に今泉は叫んだ。
「すいません!!今襲われて________」
『申し訳ありません、只今回線が込み合っております。また、おかけなおしください』
上品な声がしたあと無情にもスマホは不通音を流した。
待ち受け画面を少しだけ見つめ、今泉は小野田にねぎらいの意味もふくめて肩をぽんと叩く。
レースでは恐ろしいメンタルを発揮する小野田もさすがにこの状況には恐怖を隠せていないし動揺している。鳴子や鏑木も体の末端部が震えてるようだ。
今泉も自分が比較的冷静なのは何故なのか知りたいのだが(確実にメンタルは強くないと知っているし)冷静なのだからその分頑張れなければいけない。自分のやるべきことは手嶋を支え、青八木を助けること。そして一・二年を引っ張る。それだけだ。
「この坂なかなか終わらないやないか!先見えろやいい加減!」
「大丈夫っすよ鳴子さん!きっとありますって!富士山じゃあるまいし!」
「...富士山にも終わりはあるけどな」
鳴子の文句に鏑木のとんちんかんなフォロー、青八木のツッコミ。
まぁまぁ鳴子たちも冷静になってきたか。
背後をちらりと振り返れば化け物との距離が縮まっている。手嶋はさっきから20秒ごとに振り返っているので少々遅れているようだ。
「手嶋さん!交代します、小野田の隣を走ってください!」
「はぁ?オレのオーダー聞け!オレが最後尾だっつのー!」
「オレの方がコンパス長いし、小さい手嶋さんがいるより合理的っす!」
今泉がそこまで言うと、手嶋はふっと微笑んだ。
「ありがとな、今泉。でも、さ。オレ、総北のキャプテンだからよ」
手嶋の瞳には強い光が浮かんでいる。今泉は思わずそれに引き込まれた。
次の主将は今泉だ。なんだか自分が器ではない気がするのは________金城が、手嶋が立派だったからだ。
がっちりとチームの支柱になった金城。正確な判断と熱い走りで引っ張った手嶋。
オレは手嶋さんのような主将になりたいと思っています。あなたのような強い主将に。
その言葉を胸に秘め、今泉は頷いた。
「...わかりました。死なないでくださいよ」
「エリートに心配された!日記につけとくよ」
手嶋はニヤリと笑みを浮かべる。今泉も珍しく笑い返し、前を向く。
「っ見えたで!家や!」
鳴子の叫びに、一斉に安堵の雰囲気が広がった。鏑木にいたってはガッツポーズしている。
しばらく走れば今泉にも見えた。家というか館だ。さらにいえば廃墟。だが扉は開いている、ここの中に取り敢えず立てこもれれば大丈夫だろう。
「よし、入れ鳴子ぉ!取り敢えず立てこもる」
全員で館の中に突入。扉を固く閉めて鍵をかける。
「ふぅ。取り敢えず安心っすね」
「ああ。だが大きな声出すなよ」
ぶすりと釘を刺した今泉。今泉もまた青八木と同じく後悔することになる。
【基本情報】
冷静さの基準
100~90% 冷静かつ頭も回る
89~80% 冷静だが頭はそこまで回らない
79~70% 冷静(通常時)
69~60% 少々冷静じゃない
59~50% 少し狂う(飲酒するとここくらい)
49~40% かなり狂う
39~30% 狂人ぎりぎり
29~20% 狂人
19~10% 言語も話せなくなる
9~0% 死亡確定
・手嶋純太
霊感 普通
妖気に対する耐性(以下耐性) やや高め
現在の冷静さ(以下冷静さ) 79%(責任感だけで持たせている)
・青八木一
霊感 最強
耐性 最弱
冷静さ 94%(慣れているから)
・小野田坂道
霊感 普通
耐性 やや低い
冷静さ 67%
・今泉俊輔
霊感 やや強い
耐性 普通
冷静さ 81%(あれは当たり前のことと思い込むことで冷静さをたもっている)
・鳴子章吉
霊感 やや強い
耐性 やや高い
冷静さ 63%(常に低め)
・鏑木一差
霊感 ほぼない
耐性 高い
冷静さ 60%
【青八木一の後悔】
あの化け物を見たとき青八木の胸に浮かんだのは、「ああ、あの時もっととめておけば・・・」という後悔だった。
青八木はもともと幽霊なんかが見えるたちで、心霊スポットなどに近づくだけで気分が悪くなる。あの時は食べ過ぎて気分が悪いと思ってしまった。
だが、ここまで来れば(嫌なことに)慣れている自分がなんとかしなければ。
「取り敢えず玄関口にいるのはやめよう。塩でぐるりと囲っておけば取り敢えず大丈夫なはずだ」
そういって塩を取り出した青八木を皆が驚きの視線で見つめる。
「何で塩持ってんだお前」
「一応。残念ながら食塩なのでそこまで効果は無いが」
端的に答えてドアに塩をかけ指で十字を描く。おまじないだ。
「うおお、無口先輩凄いやないですか!安心感ありますー」
「慣れてるからな」
「慣れてるんかいな...」
鳴子が青八木を珍しいものでも見る目で見ている。まあ実際青八木は珍しい。
玄関ホールを抜け廊下に出る。取り敢えず奥の扉を開けると、そこは倉庫のようだった。
「武器持っときますか」
今泉がそういって倉庫をごそごそとあさりだす。
数分後、青八木たちの前にゴルフクラブ3本と斧1本、金属バット2本が転がされた。
「こんなもんですかね」
今泉が一番使いずらい斧を真っ先に握る。手嶋はバットを小野田と鳴子に渡し、鏑木と青八木・自分用にクラブを掴んだ。
「これで殴ればちょっとは効果、ありそうっすね」
「せやな。バッチリホームラン決めたるさかい!見とけ!」
「さすが鳴子さん、あれっすね、あれ...あ、スリーストライク!サヨナラホームラン!ってやつですね!」
「サヨナラホームランが出ただけ褒めてやるが、スリーストライクだともうアウトでホームランは打てないぞ」
「マジっすか!」
必死に明るくしようと頑張る鳴子と鏑木。
思えば鳴子は二年生になってから、一人で盛り上げようと頑張っていた。まず青八木、今泉が盛り上げるとはかけ離れた性格をしているのもあるだろうが、鳴子がムードメーカーとなっていたことは確かだ。
「取り敢えず固まろう。塩を全員持っとけ」
そういって配られた塩を鏑木がまじまじと見つめ________
「バカバカチョコレートにかけるな!」
「だって青八木さん、甘いものに塩かけるとうまいっていうじゃないすか。あ、うめぇ」
「なんのために塩配ったんだ!」
「え?なんかみつけたら塩つけて食えってことでしょ?」
だんだん頭痛がしてきた。青八木はこめかみを押さえつつ訪ねる。
「おい鏑木。お前なんでオレが塩を扉にかけたと思ってる」
「何でかすっげえ聞きたかったっすよ。何でですか?」
鏑木の予想以上のバカさ加減にため息がでる。
だが、これはこれで楽しい雰囲気を作り出せただろう。体調もこれ以上悪くならないし、しばらくはここにいて大丈夫だろうか。
この予想を、黙っていた手嶋がひっくり返すことになるのだが...それはまた、別の話だ。
読んでくださりありがとうございました!
後編、早くあげますがんばります!