僕は昔から音楽が嫌いだった。
耳障りで。
周りの音が聞こえなくなって。
何より、彼女が音楽を愛していたから。
決して嫉妬とかじゃなくて。もう二度と戻らない過去に思いを馳せていた。
小学校、中学校、高校、大学...
その過程の中で彼女は失われていた。
1987年8月19日。あれはとても暑い日だった。小学生だった僕には特に大きなこともなく
友人と遊んでいたがその翌日、彼女は唐突に失われた。
その後僕の家の近くにすむ河合裕氏さんが殺人犯として逮捕された。しかし、彼は犯行
時刻とされる20:00には我が家に居り、僕と一緒に夕飯を食べたというアリバイがある。に
もかかわらず警察は裕氏さんの自宅にあった犯行時に使われたと思しき包丁を発見。逮
捕に踏み切り28年たった今でも無実の罪を償っている...
「どうしたの?ぼさっとして。」
彼女は佐々木亜紀。僕のバイトの後輩だ。
「い、いや、ぼうっとしていただけです。」
「なら、配達を頼んでいい?」
僕は今、札幌市で漫画を書きながらバイトで食いつないでいる。先日、唯一週刊誌に乗
っていた僕の漫画は打ち切り。それ以降は売れない漫画を描いては出版社に持って行
き、首を横に振られながら日々バイトにいそしんでいる。
「分かりました。」
「事故だけは起こすなよ?」
厨房の奥から野太い声が聞こえた。ここの店長の石川悟だ。面倒見のいい子供の好きな
男性だと思う。僕はその声に応じながら店のバイクに乗り、外へ出た。
「っ...」
今日は8月4日。北海道の都市と言えども、夏は暑い。店の制服を汗に濡らし交差点に差
し掛かった時。赤信号にもかかわらずトラックが突っ込んできた。歩道を歩いていた少年
が空高く放り上げられ、警察を呼ぼうとした瞬間。
「っ...?]
それは、確かにさっき見た交差点の前だった。
「...?」
しかしその数秒後僕は思い知る。さっきと同じトラック。さっきと同じ光景。そして、巻き戻る
。これが僕の初めての「ループ」だった。僕は4回目のループの時思わず少年にとびかかりトラックから庇おうとした。その瞬間さっきと同じようにトラックが突っ込んできて...
鋭い目つき。太ももにある打撲痕。今思えば彼女は虐待を受けていたように思える。しか
し、彼女は助けを求めないし当時僕は小学生だったというのもあって誰も気づきはしなか
った。
「あんた、よくやった」
いつもの口癖が聞こえた気がした。
「かぁ...さん?」
「そうじゃなかったら誰に見えるのさ」
青森の独特のイントネーションの残る共通語。後ろで一つにしばった髪型。しかし、僕の
知る母より少しだけ若く見えた。下を見ると僕は...背が縮んでいた。
「あんた、いじめられている子をよく助けた。」
これは、覚えている。僕が小学4年の時、いじめられていた...名前は思い出せないがその
子を助けた気がする。その後僕は殴られて気を失って...
「先生!目を覚ましました!」
気が付くと僕は病院のベッドの上にいた。2005年8月。
僕は
僕だ。
僕は過去をやり直したい。
誰一人として、悲しませないために。