魔法戦士リリカルSEED Strikers   作:ぬらりひょん

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プロローグ

「それでもっ!守りたい世界があるんだぁぁっ!!」

 

少年が叫ぶ。

怒りが、悲しみが、憎しみが、少年を駆り立てる。

しかし、力の差は歴然だった。

圧倒的な力が、少年の心と少年の愛機の四肢を焼き付くそうとする。

 

そして、爆発。

 

爆炎と共に、少年の想いと力は消え去ったかに思えた。

 

「あああぁぁぁぁぁァッッ!!」

 

だから、爆炎の中から現れた白い機影の姿に、男は目を疑った。

機体はすでに半壊状態。動かせるとはいえ、戦える状態ではない。

だというのに、少年は立ち向かってきた。

怯まず、諦めず、猛然と、ただ真っ直ぐに。

 

「なっ……!」

 

それはもはや執念が成した結果だった。

まさかこの少年が、人類の夢を具現化したスーパーコーディネーターたる彼が、たかだか女一人の死でこのような醜態を晒すとは。

 

「……ふっ」

 

あまりの滑稽さに、男の口元に笑みが溢れる。

結局、この少年もその他大勢の人間と何も変わらない。

人類の夢も、所詮はこの程度。

 

(いや、滑稽なのは私も同じか……)

 

自嘲的な笑みを浮かべ、仮面の男ーーラウ・ル・クルーゼは自らの死を受け入れ、この世界から消失した。

 

 

(これで、終わった…!)

 

自分の機体が敵機を貫いたのを確認し、少年は勝利を確信した。

愛機が持つビームサーベルは、確実に敵機のコックピットを貫いた。

現に、敵機は完全に機能を停止している。

 

(これで……やっと……)

 

目の前の敵がこの戦闘の元凶であることは、直感的に悟っていた。

だから、この敵さえ堕とせばこの戦闘は、否、この戦争そのものが終結する。

 

そして、守れなかった彼女にも示しがつく。

 

(フレイ……)

 

あの時、無数の閃光に機体を焼かれながら、それでも前へ進めたのは、間違いなく彼女のおかげだった。

 

(君が…守ってくれたから……僕は……)

 

敵を倒した実感と、大切な者を守れなかった虚しさを感じながら、固く拳を握り締める。

すると、薬指の硬い感触に、彼女の存在を思い出した。

 

「ラクス……」

 

ーー帰らないと、彼女のもとへ。

遠退く意識を強引に引き寄せる。

今度こそ、約束を守る。守らなきゃならない。

そんな使命感にも似た想いに駆られて、半壊状態の機体を動かそうとする。

だが、そんな想いを踏みにじるかのように、コックピット内に警告音が鳴り響いた。

 

「なっ……ジェネシスがっ!」

 

気付いた時には遅すぎた。

ジェネシスから放たれる光は、既に少年を呑み込もうと迫っていた。

 

「間に合わなっーーッッ」

 

即座に機体を離脱させるが、出力が足りず速度が出ない。

これでは、間に合わない。

 

(ラクス…ごめんっ)

 

巨大な光に自らの想いと力を焼かれながら、少年は意識を手放した。

 

そして、人類の夢とまで謳われた最高のコーディネーター、キラ・ヤマトは、大切な約束を果たせないまま、ラウ・ル・クルーゼの後を追うようにこの世界から消失した。

 

 

「ここ…は?」

 

目が覚めて、目の前に広がる光景に愕然とした。

キラ・ヤマトは、いつの間にか燃え盛る炎の中にいた。

 

「僕は、なんでここに? っていうか、なんでここはこんなに燃えてるの?」

 

何一つ状況が掴めない。

というか、何も思い出せない。

否、正確には、自分が何者であるか、今がどのような状況であるかは理解できるし、今までに蓄えてきた知識を無くしたわけではない。

ただ、この状況に身を置く前、自分の身に何があったのか、もっと言えば、自分が今までどのような人生を歩んで来たのかーーつまりはエピソードとしての記憶をまるごと失っているのだ。

 

(とにかく、このままじゃ駄目だ。早くここから離れないと)

 

意外に冷静な自分の思考に驚きながらも、キラはこの場を離れながら現状を分析する。

身体に目立った外傷はない。

気だるさはあるが、それも動けない程ではない。

着ている服は、所謂パイロットスーツと呼ばれるものだ。

ということは、自分はMSのパイロットだったということになる。

 

(にしては、周囲にMSは見当たらないし、って言うか人が一人もいない……)

 

周囲の状況からして、ここが空港だということは理解できた。

だが、そこに設置してある機器には全く覚えがない。

 

(どうなってるんだ? ここは一体どこなんだ?)

 

炎が広がっている最中では、それを確認する為に時間を割くことは出来ない。

だが、何故か気になって仕方がなかった。

言い様のない不安が、キラを焦らせていた。

そんな時だった。

 

「ッッ……今、女の子の声が!」

 

燃え盛る炎の中から、女の子の泣き声が聞こえてきた。

 

「助け…なきゃ」

 

今の自分に、他人を助ける余裕があるとは思えなかった。

 

「死なせちゃいけない」

 

記憶を失い、この場所が何処なのかさえわからない自分に、他人を助けられるとは思えなかった。

 

「もう誰も…死なせるもんかっ!」

 

それでも、動かずにはいられなかった。

まるで、別の誰かに無理矢理身体を操られているかのように、キラは声のする方へと駆け出した。

目の前に確かに存在する命を、自分の手で救い出すために。

 

 

ミッドチルダ臨海第八空港。

この日、そこは炎に包まれていた。

かつてない程の大火災に、消火活動、人命救助共に困難を窮めた。

そんな中、ここエントランスホールにも逃げ遅れた少女の姿があった。

 

「お父さん………お姉ちゃん………」

 

少女の呼び掛けに応える声はない。

代わりに、近くの柱が音を立てて崩れた。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

その風圧で、まだ小さい少女の体は宙を舞い、鈍い音と共に硬い床を転がった。

 

「ッッ……痛いよぉ………熱いよぉ。こんなの……嫌だよぉ。帰りたいよ……誰か……誰か助けてよぉ」

 

幼い少女には耐え難い痛みと不安に、蹲って泣いてしまう少女。

そんな彼女に追い討ちをかけるかのように、巨大な像が少女目掛けて崩れ落ちてきた。

 

「あっ……」

 

少女はその瞬間、死を覚悟した。

抵抗する力も無ければ、その意思を持つことすら許されない。

残酷な現実を前に、少女は何処までも無力だった。

 

(お姉ちゃん!)

 

声を上げることすら叶わず、固く目を閉じて身を強ばらせる。

次の瞬間、少女の身体は強い衝撃と共に突き飛ばされた。

 

「あ…れ?」

 

だが、予想に反して痛みはそれほど感じない。

不思議に思って目を開けた少女の目に写ったのは、

 

「よかっ…た。間に…合った」

 

そう言って、とても優しげに微笑む、

 

「助けに来たよ」

 

アメジスト色の瞳をした少年の安堵の表情だった。

 

 

なんて格好付けてはみたものの、かなり危なかった。

この少女を助ける際地味に足をくじいた上に、抱き抱えて助けるつもりが勢い余って突き飛ばしてしまった。

 

(でも、助けられた)

 

その事実だけで、ひとまず今は上出来だ。

こんな自分でも、誰かを助けることが出来た。

そのことが、今はとても嬉しい。

 

「……よくがんばったね。もう大丈夫」

 

その言葉に安堵したのか、少女の瞳に涙が溢れた。

助ける前から泣いてはいたのだが、これでは逆効果だ。

 

「とりあえず、ここから離れようか。君、名前は?」

 

少女の涙を止める術が浮かばないキラは、少女を抱き上げるとそんなとりとめのない質問をしてみた。

 

「スバル…」

 

「スバル。うん、良い名前だね」

 

「…お兄ちゃんは?」

 

「僕はキラ。キラ・ヤマト。よろしくね、スバル」

 

そう言って再度微笑みかけると、今度はスバルの口元にも小さな笑みが浮かんだ。

キラの存在が挫けかけていた少女の心を支えているのだ。

 

「よし、じゃあしっかり掴まっててねスバル」

 

「は、はい!」

 

そう言ってキラの服を掴むスバル。

その微笑ましい姿に、挫いた足の痛みも、失った記憶のことまでも忘れて走り出すキラ。

だが、それも長続きはしなかった。

予想以上に炎の勢いが強く、その熱さと息苦しさに一気に体力が無くなる。

足の痛みも無視できない程度に強くなってきた。

 

「ぐっ……」

 

「だ、大丈夫? お兄ちゃん」

 

「う、うん。平気平気」

 

強がりを言ってはみたものの、現実には抗えない。

体力と足の痛みは限界に近い。

炎は勢いを増すばかり。

なのに出口は歩いても歩いても見えてこない。

状況が最悪なのは、火を見るよりも明らかだった。

 

(それでも、諦めてたまるもんか)

 

疲労と痛みを意地で抑え込み、歩みを進める。

 

(もう二度と、あんな思いはしたくないからっ)

 

自然と、そんな言葉が脳裏に浮かんだ。

と、そこで不意にキラの歩みが止まった。

 

「えっ……なんで今、僕」

 

それはまるで、前にも似た出来事があったかのような感覚だった。

 

「お、兄ちゃん?」

 

「あっ……ご、ごめんーーっ」

 

その一瞬の油断が命取りとなった。

勢いよく燃え盛る炎で支えとなる柱を失った天井が、キラとスバル目掛けて落ちてきたのだ。

 

「しまっーーッ!」

 

(駄目だ!間に合わない!)

 

せめてスバルだけでも、と彼女の身体を包み込むように抱き締める。

だが、落ちてくる天井の重量は、二人をまとめて押し潰すには十分すぎる。

どう足掻いたところで、死は免れない。

そう思ったキラが次の瞬間見たものは、

 

「はっ……?」

 

落ちてきた天井を一瞬にして消し去る、眩い桃色の閃光だった。

 

「ビーム…ライフル?」

 

どこか覚えのあるその閃光に、思わずキラはそう呟いた。

ビームライフル。キラがよく知る光学兵器に、それは良く似ていた。

 

「MSが、助けてくれたのか?」

 

そう呟いたキラは、桃色の閃光の発生源を探すように周囲を見回した。

が、それも徒労に終わった。

 

「良かった。無事だったんだね」

 

「え?」

 

何しろ、発生源の方から接触してきたのだから。

 

「もう大丈夫。助けにきたよ」

 

「女…の子?」

 

その時のことを、二人は決して忘れはしないだろう。

少年は、少女が持つ不屈の強さを。

少女は、少年がもつ想いと力を。

決して、忘れはしないだろう。

 

それが、キラ・ヤマトと高町なのはの、運命の出会いだった。

 

 

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