魔法戦士リリカルSEED Strikers 作:ぬらりひょん
「それでもっ!守りたい世界があるんだぁぁっ!!」
少年が叫ぶ。
怒りが、悲しみが、憎しみが、少年を駆り立てる。
しかし、力の差は歴然だった。
圧倒的な力が、少年の心と少年の愛機の四肢を焼き付くそうとする。
そして、爆発。
爆炎と共に、少年の想いと力は消え去ったかに思えた。
「あああぁぁぁぁぁァッッ!!」
だから、爆炎の中から現れた白い機影の姿に、男は目を疑った。
機体はすでに半壊状態。動かせるとはいえ、戦える状態ではない。
だというのに、少年は立ち向かってきた。
怯まず、諦めず、猛然と、ただ真っ直ぐに。
「なっ……!」
それはもはや執念が成した結果だった。
まさかこの少年が、人類の夢を具現化したスーパーコーディネーターたる彼が、たかだか女一人の死でこのような醜態を晒すとは。
「……ふっ」
あまりの滑稽さに、男の口元に笑みが溢れる。
結局、この少年もその他大勢の人間と何も変わらない。
人類の夢も、所詮はこの程度。
(いや、滑稽なのは私も同じか……)
自嘲的な笑みを浮かべ、仮面の男ーーラウ・ル・クルーゼは自らの死を受け入れ、この世界から消失した。
◇
(これで、終わった…!)
自分の機体が敵機を貫いたのを確認し、少年は勝利を確信した。
愛機が持つビームサーベルは、確実に敵機のコックピットを貫いた。
現に、敵機は完全に機能を停止している。
(これで……やっと……)
目の前の敵がこの戦闘の元凶であることは、直感的に悟っていた。
だから、この敵さえ堕とせばこの戦闘は、否、この戦争そのものが終結する。
そして、守れなかった彼女にも示しがつく。
(フレイ……)
あの時、無数の閃光に機体を焼かれながら、それでも前へ進めたのは、間違いなく彼女のおかげだった。
(君が…守ってくれたから……僕は……)
敵を倒した実感と、大切な者を守れなかった虚しさを感じながら、固く拳を握り締める。
すると、薬指の硬い感触に、彼女の存在を思い出した。
「ラクス……」
ーー帰らないと、彼女のもとへ。
遠退く意識を強引に引き寄せる。
今度こそ、約束を守る。守らなきゃならない。
そんな使命感にも似た想いに駆られて、半壊状態の機体を動かそうとする。
だが、そんな想いを踏みにじるかのように、コックピット内に警告音が鳴り響いた。
「なっ……ジェネシスがっ!」
気付いた時には遅すぎた。
ジェネシスから放たれる光は、既に少年を呑み込もうと迫っていた。
「間に合わなっーーッッ」
即座に機体を離脱させるが、出力が足りず速度が出ない。
これでは、間に合わない。
(ラクス…ごめんっ)
巨大な光に自らの想いと力を焼かれながら、少年は意識を手放した。
そして、人類の夢とまで謳われた最高のコーディネーター、キラ・ヤマトは、大切な約束を果たせないまま、ラウ・ル・クルーゼの後を追うようにこの世界から消失した。
◇
「ここ…は?」
目が覚めて、目の前に広がる光景に愕然とした。
キラ・ヤマトは、いつの間にか燃え盛る炎の中にいた。
「僕は、なんでここに? っていうか、なんでここはこんなに燃えてるの?」
何一つ状況が掴めない。
というか、何も思い出せない。
否、正確には、自分が何者であるか、今がどのような状況であるかは理解できるし、今までに蓄えてきた知識を無くしたわけではない。
ただ、この状況に身を置く前、自分の身に何があったのか、もっと言えば、自分が今までどのような人生を歩んで来たのかーーつまりはエピソードとしての記憶をまるごと失っているのだ。
(とにかく、このままじゃ駄目だ。早くここから離れないと)
意外に冷静な自分の思考に驚きながらも、キラはこの場を離れながら現状を分析する。
身体に目立った外傷はない。
気だるさはあるが、それも動けない程ではない。
着ている服は、所謂パイロットスーツと呼ばれるものだ。
ということは、自分はMSのパイロットだったということになる。
(にしては、周囲にMSは見当たらないし、って言うか人が一人もいない……)
周囲の状況からして、ここが空港だということは理解できた。
だが、そこに設置してある機器には全く覚えがない。
(どうなってるんだ? ここは一体どこなんだ?)
炎が広がっている最中では、それを確認する為に時間を割くことは出来ない。
だが、何故か気になって仕方がなかった。
言い様のない不安が、キラを焦らせていた。
そんな時だった。
「ッッ……今、女の子の声が!」
燃え盛る炎の中から、女の子の泣き声が聞こえてきた。
「助け…なきゃ」
今の自分に、他人を助ける余裕があるとは思えなかった。
「死なせちゃいけない」
記憶を失い、この場所が何処なのかさえわからない自分に、他人を助けられるとは思えなかった。
「もう誰も…死なせるもんかっ!」
それでも、動かずにはいられなかった。
まるで、別の誰かに無理矢理身体を操られているかのように、キラは声のする方へと駆け出した。
目の前に確かに存在する命を、自分の手で救い出すために。
◇
ミッドチルダ臨海第八空港。
この日、そこは炎に包まれていた。
かつてない程の大火災に、消火活動、人命救助共に困難を窮めた。
そんな中、ここエントランスホールにも逃げ遅れた少女の姿があった。
「お父さん………お姉ちゃん………」
少女の呼び掛けに応える声はない。
代わりに、近くの柱が音を立てて崩れた。
「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」
その風圧で、まだ小さい少女の体は宙を舞い、鈍い音と共に硬い床を転がった。
「ッッ……痛いよぉ………熱いよぉ。こんなの……嫌だよぉ。帰りたいよ……誰か……誰か助けてよぉ」
幼い少女には耐え難い痛みと不安に、蹲って泣いてしまう少女。
そんな彼女に追い討ちをかけるかのように、巨大な像が少女目掛けて崩れ落ちてきた。
「あっ……」
少女はその瞬間、死を覚悟した。
抵抗する力も無ければ、その意思を持つことすら許されない。
残酷な現実を前に、少女は何処までも無力だった。
(お姉ちゃん!)
声を上げることすら叶わず、固く目を閉じて身を強ばらせる。
次の瞬間、少女の身体は強い衝撃と共に突き飛ばされた。
「あ…れ?」
だが、予想に反して痛みはそれほど感じない。
不思議に思って目を開けた少女の目に写ったのは、
「よかっ…た。間に…合った」
そう言って、とても優しげに微笑む、
「助けに来たよ」
アメジスト色の瞳をした少年の安堵の表情だった。
◇
なんて格好付けてはみたものの、かなり危なかった。
この少女を助ける際地味に足をくじいた上に、抱き抱えて助けるつもりが勢い余って突き飛ばしてしまった。
(でも、助けられた)
その事実だけで、ひとまず今は上出来だ。
こんな自分でも、誰かを助けることが出来た。
そのことが、今はとても嬉しい。
「……よくがんばったね。もう大丈夫」
その言葉に安堵したのか、少女の瞳に涙が溢れた。
助ける前から泣いてはいたのだが、これでは逆効果だ。
「とりあえず、ここから離れようか。君、名前は?」
少女の涙を止める術が浮かばないキラは、少女を抱き上げるとそんなとりとめのない質問をしてみた。
「スバル…」
「スバル。うん、良い名前だね」
「…お兄ちゃんは?」
「僕はキラ。キラ・ヤマト。よろしくね、スバル」
そう言って再度微笑みかけると、今度はスバルの口元にも小さな笑みが浮かんだ。
キラの存在が挫けかけていた少女の心を支えているのだ。
「よし、じゃあしっかり掴まっててねスバル」
「は、はい!」
そう言ってキラの服を掴むスバル。
その微笑ましい姿に、挫いた足の痛みも、失った記憶のことまでも忘れて走り出すキラ。
だが、それも長続きはしなかった。
予想以上に炎の勢いが強く、その熱さと息苦しさに一気に体力が無くなる。
足の痛みも無視できない程度に強くなってきた。
「ぐっ……」
「だ、大丈夫? お兄ちゃん」
「う、うん。平気平気」
強がりを言ってはみたものの、現実には抗えない。
体力と足の痛みは限界に近い。
炎は勢いを増すばかり。
なのに出口は歩いても歩いても見えてこない。
状況が最悪なのは、火を見るよりも明らかだった。
(それでも、諦めてたまるもんか)
疲労と痛みを意地で抑え込み、歩みを進める。
(もう二度と、あんな思いはしたくないからっ)
自然と、そんな言葉が脳裏に浮かんだ。
と、そこで不意にキラの歩みが止まった。
「えっ……なんで今、僕」
それはまるで、前にも似た出来事があったかのような感覚だった。
「お、兄ちゃん?」
「あっ……ご、ごめんーーっ」
その一瞬の油断が命取りとなった。
勢いよく燃え盛る炎で支えとなる柱を失った天井が、キラとスバル目掛けて落ちてきたのだ。
「しまっーーッ!」
(駄目だ!間に合わない!)
せめてスバルだけでも、と彼女の身体を包み込むように抱き締める。
だが、落ちてくる天井の重量は、二人をまとめて押し潰すには十分すぎる。
どう足掻いたところで、死は免れない。
そう思ったキラが次の瞬間見たものは、
「はっ……?」
落ちてきた天井を一瞬にして消し去る、眩い桃色の閃光だった。
「ビーム…ライフル?」
どこか覚えのあるその閃光に、思わずキラはそう呟いた。
ビームライフル。キラがよく知る光学兵器に、それは良く似ていた。
「MSが、助けてくれたのか?」
そう呟いたキラは、桃色の閃光の発生源を探すように周囲を見回した。
が、それも徒労に終わった。
「良かった。無事だったんだね」
「え?」
何しろ、発生源の方から接触してきたのだから。
「もう大丈夫。助けにきたよ」
「女…の子?」
その時のことを、二人は決して忘れはしないだろう。
少年は、少女が持つ不屈の強さを。
少女は、少年がもつ想いと力を。
決して、忘れはしないだろう。
それが、キラ・ヤマトと高町なのはの、運命の出会いだった。