魔法戦士リリカルSEED Strikers 作:ぬらりひょん
新暦○○七五年 三月
ミッドチルダ南部 某所
その日、陸士386部隊の災害担当部は、ミッドチルダ南部で起こった大規模火災の救助活動に当たっていた。
一般市民も多く巻き込まれたその火災現場は、致命的な人員不足のせいもあり、救助活動は難航していた。
そんな中でも、他とは頭一つ飛び抜けた活躍を見せる二人の陸士の姿があった。
スバル・ナカジマ二等陸士。
ティアナ・ランスター二等陸士。
この二名は陸士訓練校時代から三年間コンビを続けていることもあり、技能相性やコンビネーションはかなりのものだった。
「ッ!スバル下がって!」
「くっ、了解!」
そんな二人でも、現在のこの状況はまさしく絶体絶命だった。
「クロスファイア」
瞬間、ティアナの周囲に複数の魔力スフィアが形成される。
標的は、スバルに誘導されティアナの魔法の射線上に入る。
「シュートッ!!」
ティアナの声と同時に放たれる、六つの魔力弾。
それは必殺の威力を以て目標を破壊する、筈だった。
「くっ……やっぱり駄目か!」
だが、それは叶わなかった。
発射された魔力弾は、目標に着弾する前に打ち消されてしまった。
「また!?もうっ、どうなってるのティアナ!なんでアイツに魔法効かないの!?」
「知らないわよバカスバル!いいから体勢を立て直しなさい!」
その言葉に従い、ティアナを守るように前に立ち、自らのデバイス、リボルバーナックルを構えるスバル。
ティアナもまた拳銃型のデバイス、アンカーガンを構え、目標を迎え撃つ。
だが、形勢は圧倒的に不利だった。
敵の数は三。それに対しこちらは二人。
更に、敵は何らかの方法でこちらの魔法を無効化している。
近代ベルカ式のスバルはまだしも、魔力攻撃主体のミッド式魔導士であるティアナは、敵との相性が悪すぎた。
(ったく!どうすりゃ良いのよ!何か策は!?)
自分の知識を総動員して打開策を練るティアナ。
だが、正体不明の敵に正体不明の能力が相手では、有効な手段などそうそう思い付く筈がない。
(落ち着きなさいティアナ・ランスター!必ず何か、方法があるはずよ!何より、ここで私達が負けたりしたらっ……)
ティアナの瞳が敵の背後に潜む小さな人影を映す。
そこには、逃げ遅れた幼い少女の、恐怖に怯えるすがたがあった。
(敵に気付かれる前にっ……)
(あの子を助けないと!)
負けるわけにはいかない。
勝算は薄い。それでも、助けを求めている人がいる限り、諦めるわけにはいかない。
その強い気持ちが、今の二人に不屈の心を宿していた。
「スバル!援護するから私の合図と同時にウィングロードを展開!」
「了解!タイミングは任せたよティアナ!」
ティアナとスバルが臨戦態勢をとると同時に、敵も仕掛けてきた。
三機のうち、二機がこちらに向かってくる。
(魔法を打ち消す能力。正体は知らないけど、恐らくフィールド防御の一種と見て間違いない)
思考を巡らせながら策を見出だすティアナは、その銃口を敵ではなくその頭上に向ける。
(魔力が消されて通らないなら、発生した効果のほうをぶつければいい!)
そうして撃ち放たれる直射型の射撃魔法、シュートバレット。
魔力弾はそのまま敵の頭上の天井に直撃し、崩壊した天井が敵に襲いかかる。
「今よ!」
「OK!」
ティアナの合図と同時に、スバルは先天系の魔法『ウィングロード』を展開する。
それはその名の通り、空中に光の道を作り出す魔法。
空戦適正の無いスバルにとって、唯一と言っても過言ではない空中を自由に移動する手段だ。
この魔法により、スバルはインドアや障害密集地なら下手な空戦型よりよっぽど速く動くことができる。
(スバル!要救助者の保護を最優先!保護でき次第撤退するわよ!)
(わかった!)
念話でのやりとりの後、スバルはウィングロードで敵の頭上を越え、ティアナは敵を引き付ける為消されるのを承知の上で攻撃する。
天井の崩壊により身動きが取れない二機は、スバルの速さに反応することすら出来ない。
だが、
「ッ!?またっ…!」
再び魔法が無効化され、ウィングロードが消失し始める。
「こん…のおぉぉぉぉぉっっ!!」
だが、完全に消失する前にウィングロードから飛び立つスバル。
そのスバルを後方に控えていたもう一機の敵が狙い撃つ。
「スバルかわして!」
「ッッ!!」
敵が放ったレーザーがスバルに迫る。
それを強引に身体を捻り回避すると、そのまま敵に向けて拳を降り下ろした。
「ナックルダスターッッ!」
先程ティアナが言った通り、魔法無効化と言っても発生した効果までは打ち消すことが出来ない。
それは、物体の運動エネルギーにも適用される。
「うぉぉぉぉりゃあぁぁぁぁっっ!!」
上空から降り下ろされた強力な一撃が炸裂する。
敵のボディは確かに硬いが、スバルの一撃はそれをものともせず打ち砕いた。
「一機撃墜!次!」
(バカッ!それより要救助者よ!)
(あ、そだった!)
ティアナの叱咤に、慌てて保護対象を探すスバル。
「いた!」
隅の方で小さく踞っている幼い少女の姿を確認する。
素早く側まで近付き、状態を確認するスバル。
煙を吸いすぎたのか意識は無いが、幸い息はしている。
命に別状は無いようだ。
(ティアナ!要救助者を保護っ!次はっ……)
(スバル!後ろ!)
安堵からくる油断が隙を招いた。
ティアナの念話に振り返ると、先程破壊した筈の敵がスバルに銃口を向けていた。
「くっ!防御を!」
すぐさま防御魔法を発動しようとするスバル。
だが、
「しまった!」
敵との距離が近すぎた。
魔法を無効化するフィールド内では、魔力結合が打ち消され、魔法を発動することが出来ない。
それは防御魔法にしても同じことだ。
「スバルッッ!!」
ティアナがらしくない悲痛な声でスバルの名前を呼ぶ。
それほど、この状況は絶望的ということだ。
(せめて、この子だけでも!)
腕の中にいる幼い少女だけでも守ろうと、強く胸に抱き締めるスバル。
そんなスバルの背中を、敵は容赦なく撃ち抜こうとする。
最早、敗北は免れないものかと思われた。
その時だった。
『Sonic Move.』
聞き慣れない電子音声が聞こえたかと思うと、スバルを守るように何者かが立ち塞がった。
「ヴァリアブルスラッシュ」
直後、青い閃光が敵の胴体を切り裂いた。
「えっ?」
「だ、誰!?」
突然の乱入者に驚くティアナとスバル。
その問いには答えず、乱入者は次の標的に向かって攻撃を放つ。
「カートリッジロード」
その声に反応し、デバイスがカートリッジを二発消費する。
『Variable Bullet』
「シュート!」
放たれた魔法は、攻撃魔法の弾を、AMFを突破する外殻の膜状バリアでくるんだ多重弾殻射撃だ。
誘導性こそないが、連射性、速射性は高い。
未だに身動きの取れない敵に、その攻撃を回避する術はなかった。
攻撃が命中し、爆発する二機。
その一連の攻防に、ティアナは感嘆の息を漏らした。
(無効化フィールドを抜く為の多重弾穀射撃。それを応用した斬撃魔法。凄い、かなり熟練されてる)
乱入者の様子を注意深く見るティアナ。
性別は男で、整った顔立ちをしている。
管理局の魔導士が多く利用するバリアジャケットを着用していることから、管理局員なのは間違いない。
歳はティアナより少し上に見える。
中肉中背の体型に、長く伸ばしたブラウンの髪を後ろで結っている。
何より、
「アメジストの……瞳」
強い意思が感じ取れる、アメジストの瞳。
それが、何より印象的だった。
「あ、あの…貴方は?」
守られる形になっていたスバルが、その背中に声をかける。
すると、男性は振り返り、スバルを安心させるように優しげに微笑んだ。
「大丈夫、味方だよ。助けに来たんだ」
その顔に、その表情に、その瞳に、スバルは激しい既思感を覚えた。
過去に、同じような事があった。
確信はあったが、すぐには思い出せない。
「それより、今は早くこの場から脱出しよう」
「あ、はい!ティア!」
「わかってる!」
要救助者を抱えあげるスバルに、ティアナが駆け寄る。
すると、出口へと続く通路の天井が崩れ、その退路を塞いだ。
「そんな!」
「これじゃ出られないよ!」
再び訪れる絶望的状況に、それでも男性は笑みを崩さなかった。
「君達、空戦は出来る?」
「いえ。でも……」
「私の先天性魔法なら空中を移動することが出来ます!」
「OK。それじゃ上を撃ち抜くからそこから脱出しよう。大丈夫、安全な場所まで一直線だ」
そう言うと、男性はデバイスを斜め上に構える。
「S2U、カートリッジロード」
キラの言葉に応じストレージデバイス、S2Uはカートリッジを三発消費する。
そうして満ち溢れる膨大な魔力が、S2Uの先端に集束する。
そして、解き放つ。
「ディバイィィィンッ!」
その、聖なる光の奔流を。
「バスタァァァァァァァァァッッ!!」
そうして放たれた強力な魔力の砲弾は、易々と天井を撃ち抜き、外へと続く脱出口を作り出した。
「今だ!」
「はい!ウィングロードッ!」
合図に応え、ウィングロードを展開するスバル。
後は、出口まで一直線に進むだけだ。
すると、不意に男がティアナに向けて手を差し出した。
訝しげに首を傾げるティアナ。
それに対し、男は変わらぬ穏やかな笑みで答えた。
「掴まって」
「え、いやあの……必要なっ」
必要ない、と答えようとしたティアナの意思は無視された。
直後、強引に腕を掴まれ、抱き抱えられるティアナ。
「ちょっ!必要ないって言ってるでしょ!?」
「でも、時間無いから」
「はぁ!?何の時間よ!?」
「上司との待ち合わせ。あと五分くらいしかないんだ」
「それアンタの都合じゃない!」
「あの、ティアナ……早く脱出しないと建物が」
「ッ!……あぁもう!わかったわよバカ!」
珍しく正論をいうスバルにたしなめられ、大人しくなるティアナ。
そんな二人に苦笑しつつ、男は出口へ向けて飛び立つ。
それに続き、スバルもウィングロードをローラーブーツで駆け抜ける。
「あ、あの!」
並走しながら、スバルは男に声をかけた。
「ん、なに?」
それに、男は微笑んで応える。
やはり、その笑顔に見覚えがあった。
そう、三年前のあの空港火災。
あの日、管理局のエースにして憧れの存在でもある高町なのはに助け出される前に、自分を助けてくれた一般人の少年。
その、アメジストの瞳は見間違えようもない。
「貴方の、名前は?」
高揚する気持ちを抑えながら尋ねるスバル。
それに対し、やはり男はあの日と同じ、優しげな笑みで答えた。
「キラ・ヤマト。君と同じ、管理局の魔導士だ。よろしくね」
こうして、キラ・ヤマトとスバル・ナカジマは、三年ぶりの再会を果たした。
共に、管理局の魔導士となって。