魔法戦士リリカルSEED Strikers 作:ぬらりひょん
『キラさん、フェイトさんとの約束の時間は何時ですか?』
「……三時半です」
『それで、現在時刻は?』
「……よ、四時半…ちょっと過ぎくらい、かな?」
『四時四五分です!!計一時間と一五分の遅刻です!!これは一体どういうことなんですか!?』
「………いや、だからその……これには理由が」
『えぇ知っています。ミッドチルダ南部で起きた大規模火災の救援に当たっていたと』
「うん。だから……」
『それで、救援要請を受けたんですか?』
「…………」
『一体!誰の許可を得て!火災現場に向かったんですか!?』
「じ………自分の内なる声に従って……」
『どこの中二病ですか貴方は!それを独断専行って言うんですよこのバカッッ!!』
「シャーリー」
『なんですか!?』
「中二病って、なに?」
『話を逸らすなあぁぁぁぁっっ!!』
「あ、あの二人共?そろそろ話を始めたいんだけど……」
ミッドチルダ中央区画 湾岸地区 古代遺失物管理部 【機動六課】本部隊舎。
そのロビーにて、端末の電子モニターに映る眼鏡の少女から、正座で説教を受けるキラ・ヤマトの姿があった。
向かい側には、そんな様子に苦笑を浮かべるフェイト・T・ハラオウンの姿もある。
『全く!フェイトさんが貴重な時間を割いてくれてるっていうのに、それを無駄にするつもりですか!?』
「まぁまぁシャーリー。キラの救援があったから、死傷者なしで被害を抑えられたらしいし、もうその辺で……」
『むっ……フェイトさんはキラさんに甘すぎると思います』
やんわりと止めにはいるフェイトに、少女、シャリオ・フィニーノは不満げな言葉を漏らす。
しかし、上司であるフェイトの言葉には逆らえないのか、渋々それを受け入れた。
『とにかく、キラさんはちゃんと反省してください!私と同じフェイトさんの執務官補佐なんですから、もっとしっかりしてもらわなきゃ困ります!』
「はい、すみませんでした」
『……じゃあ、私は仕事に戻りますね。フェイトさんも、あんまりキラさんを甘やかしちゃ駄目ですよ?』
「う、うん。仕事、頑張ってねシャーリー」
『はい、それではまた』
そう言って、通信が途切れる。
残されたキラとフェイトとの間に、なんとも言えない沈黙が流れた。
「と、とりあえず座ってキラ!変に目立っちゃってるから!」
「は、はい」
沈黙に堪えかねたフェイトが、キラに席に座るよう促す。
それに大人しく従い、キラはフェイトの向かい側に腰掛けた。
「はぁ……えっと、とりあえず今回の件何だけど」
「は、はい」
今回の件というのは、今日ミッドチルダ南部で起きた大規模火災の救助活動に、キラが独断で参加したことを言っている。
通常、火災等の災害時における救助活動には、陸士部隊の災害担当部からの救援要請が無ければ、キラのような外部の管理局員が参加する事は出来ない。
だが、キラは今日それを無視し、独断で救助活動に参加していた。
しかも、現在のキラの直属の上司であるフェイトと打ち合わせを兼ねた食事の約束をすっぽかして、だ。
「キラのやったこと、個人的には間違ってないと思う。でも、キラの上司としては素直に褒められない。当然、相応の責任は負うことになるけど、わかってるよね?」
「はい」
「けど、キラはそれを覚悟の上で行動したんだよね?」
「はい」
フェイトの問いに、キラは一寸の迷いもなく答える。
その瞳から揺るがない強い意志を感じ取ったフェイトは、呆れたように、同時に感心したように肩の力を抜くと、彼女らしい優しい微笑みを浮かべた。
「……それじゃあ、私からはもう何も言わないよ。きちんと反省して、今後に活かすこと。いいね?」
「……は、はい!」
フェイトの言葉をしっかりと受け止め、返答するキラ。
同時に、フェイトの甘いとも言える優しさに少し拍子抜けする。
「やっぱり、キラも甘いって思う?」
そんなキラの様子に気付いたフェイトは、苦笑しつつ尋ねた。
表情に出ている自覚がなかったキラは、フェイトのその問いに対しあからさまに慌てふためいた。
「い、いえ!そんなことは!」
「ううん、いいよ。なのはやシャーリーにもよく言われるから」
そう言って笑うと、フェイトは軽く息を吐いて困ったような表情を浮かべる。
「でも、どうしても責める気にはなれないんだ」
そのフェイトの言葉に、キラは首を傾げて「どうして?」と答える。
それに再び苦笑した後、フェイトは普段あまり見せない悪戯っぽい笑みを浮かべて答えた。
「だってきっと、私も同じことすると思うから」
◇
フェイト・T・ハラオウンとキラ・ヤマト。
現在の二人は、上司とその部下という関係にある。
あの空港での大規模火災から三年経った今、訓練校と戦技教導隊での訓練を経て管理局員となったキラは、一年前にフェイトの指名を受け、彼女の執務官補佐として働いている。
当初は慣れない仕事に戸惑い失敗も多かったキラだが、フェイトや同じ執務官補佐であるシャーリーのフォローもあり、最近では徐々に仕事にも慣れつつあった。
『と、思ってたんだがな』
「す、すみません」
「クロノ、その件についてはキラも反省してるから……」
現在、フェイトの愛車の車内にて、キラは本日二度目の説教を受けていた。
相手は時空管理局 次元航行部隊所属の提督、クロノ・ハラオウンだ。
彼はフェイトとキラも一時期任務で搭乗していたXV級艦船『クラウディア』の艦長であり、またフェイトの義理の兄でもある。
キラとはフェイトの執務官補佐に就任した時に知り合い、それ以降、何度か任務を共にし親交を深めていった。
クロノ自身、魔導士としてのキラを『自分と似たタイプ』と気に入っており、模擬戦を通して得意のバインド術を伝授するなど、色々と世話を焼いていたりする。
ちなみに、その際嫌と言うほど縛りまくられたキラはそれが若干トラウマになっている。
『まぁ……あまり口を挟むつもりはないが、あまり義妹を困らせるなよ』
「はい、気を付けます」
『それと、間違っても手を出すなよ』
「はい、気を付けま……何の話ですか?」
「もうっ、クロノ!」
クロノの冗談混じりの注意を呆れた様子でたしなめるフェイト。
その隣でキラはきょとんとしている。
そんな二人の様子を一通り楽しんだ後、クロノは表情を改めてキラと向き合った。
『そういえば、デバイスの調子はどうだ?フェイトから聞いたんだが、少し手を加えたらしいな』
「はい。処理速度を上昇させる為登録してある魔法を整理しました。あと、カートリッジシステムを付け加えたのと、それに伴い魔力運用の効率化の為システム面をちょっと……」
『……途端に生き生きしだしたな』
「あはは。まぁ、キラらしいよね」
一変して、クロノとフェイトが若干引くほど饒舌になるキラ。
その手には、いつの間にか待機状態のデバイスが握られている。
ストレージデバイス S2U。
以前クロノが使用していた、汎用型のオリジナルデバイスだ。
旧式ながら近接、中距離、遠距離、防御、補助と様々な状況にも対応出来る万能型のデバイスであり、クロノが定期的にメンテナンスをしていたこともあって最新型相手でも遜色ない性能を発揮出来る。
現在はクロノからキラが譲り受け使用している。
「それにしてもカートリッジシステムの搭載には苦労しました。やっぱりミッド式とは相性が悪いみたいで、目的はあくまでも魔力量の底上げ何ですがどうしても調整が上手くいかなくて、シャーリーの協力が無ければ正直完成は難しかったと……」
「あの、キラ?その辺で……」
『フェイト。キラはいつもこうなのか?』
「うん。B級デバイスマイスターの資格を取ってからは特に」
『いっそメカニック専門になったらどうだ。割りと本気で』
呆れを通り越して感心した様子のクロノ。
ちなみに、近い内にシャーリーと同じA級デバイスマイスターの資格を取ろうと目論んでいるのをフェイトはまだ知らない。
「ほらキラ、そろそら着くから降りる準備してね」
「あ、すみません。つい熱くなっちゃって」
『あぁ。今後君にデバイスの話をするのは控えることにする』
「あ、あははは……」
フェイトに言われ、デバイスを仕舞うキラ。
そうこうしている内に、車は目的地の目の前まで来たようだ。
すると、クロノが訝しげな表情をフェイトに向ける。
『念のためもう一度確認するが、本当にデートでは無いんだな?』
「もう、さっきから違うって言ってるでしょ。今後の確認と話し合いを兼ねて夕食を一緒にするだけだよ」
「というか、そんなことしたら僕、フェイトさんのファン達に殺されますよ」
『安心しろ。それより先に僕が殺す』
「「全然安心できませんよ(ないよ)っ!」」
クロノの物騒な発言に戦々恐々としながらも、車は目的地に近付いていく。
と、そんな時だった。
不意にフェイトの端末からメールの着信を知らせる電子音が鳴った。
「ん?誰だろう?」
一旦車を止め端末を開くフェイト。
どうでも良いが、メールの確認をするのにわざわざ車を停車させるのが実にフェイトらしい、とこの時キラは思っていたりする。
すると、
「……え"っ」
メールを確認したフェイトが、不意に不穏な声を漏らす。
そんなフェイトの反応に首を傾げるキラ。
「どうかしたんですか?」
「ぇ、えー……っと」
キラの問い掛けに対し煮え切らない様子のフェイト。
そして、なぜか申し訳なさそうな表情を浮かべると、
「着いてからだと流石に可哀想だから……先に言っておくね、キラ」
残酷な現実を突き付けた。
「なのは、来るって」
「……………………………………………………………………………え"っ?」
どうやら、夜はまだまだ長くなりそうだった。