魔法戦士リリカルSEED Strikers   作:ぬらりひょん

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PHASE-12

一年前 新暦○○七五年 六月

 

その日、とある事件の捜査の為半年振りに戦技教導隊本部を訪れていたキラは、丁度教導を終えたばかりのなのはと再会し、共に食事をとっていた。

お互いの近況報告と他愛のない世間話で一通り会話を楽しんだ後、その話題はキラのこんな一言から始まった。

 

「必殺技?」

 

「はい。それが僕に欠けていると言われてしまって」

 

苦笑しながらそう話すキラ。

話を要約するとこういうことだった。

先日、古代遺失物関係の違法研究事件の捜査中、フェイトと別行動をとっていた際に事は起こった。

犯人が雇ったと思われる高ランク魔導士の傭兵と戦闘になったのだ。

実力は総合的には拮抗していたが、火力は相手に分があった。

その為、ミドルレンジからの砲撃魔法の撃ちあいで、キラは打ち負けてしまった。

戦闘自体は、その直後に機動力を生かした一撃離脱の戦法に切り替えたキラの勝利に終わった。

大した被害もなく、無事犯人を捕まえることも出来たのだが、その後、渉外と事務を担当するシャーリーからこう言われてしまった。

 

『キラくんには、圧倒的な火力が……必殺技が足りない!』

 

そう。そうなのだ。

自覚はしていた。

キラは師であるなのはの意向もあって、基礎的な魔法を重点的に訓練しており、その完成度の高さは折り紙つきだった。

また、圧縮率、変換率、制御率も総じて高く成長し、魔力の運用やコントロールも優秀だった。

戦闘ではそれらを遺憾無く発揮し、フェイトの補佐として十分な実力を持っていた。

だが、そんなキラにも決定的な弱点があった。

それは、潜在的な魔力量が、なのはやフェイト達と比べると圧倒的に少ないというものだった。

これは今更どうこう出来る問題では無い。

潜在魔力とは、その人間が持って生まれた魔力の限界値なので、訓練したからと言って劇的に成長するものではない。

魔力の限界値を伸ばす訓練もあるにはあるが、キラが魔法を始めたのは既に身体がある程度成長した後だ。

身体の成長に伴って魔力の限界値も成長する為、成長期を向かえた後だとその訓練もあまり効果はなくなる。

その為、魔力の消費が激しい高威力の砲撃魔法の使用 は、魔力量が少ないキラにとってそのまま敗北に直結する可能性がある。

以上の理由により、キラは基本的に大火力の魔法は使わないどころか、デバイスに登録すらしていない。

現在のキラが使用する中で最大威力の魔法は、圧縮率の高い複数のフォトンバレットを集束し、螺旋状に放つことで貫通力を極限までに高めた『フォトンバレット・スパイラルシフト』だ。

その威力は確かに高いが、魔力の効率的使用に重点を置いて開発された魔法の為、なのはやフェイトが使う砲撃魔法と比べるとその差は歴然だった。

以上の理由もあり、キラの魔法に火力が足りないのは仕方のないことなのだが、それでもシャーリーは納得しなかった。

 

『キラくんの言いたいことは理解出来るよ。けど、本当にそれでいいの?今回みたいに魔法の撃ち合いになることは今後もあるかもしれない。その時また打ち負けても、キラくんはその結果を仕方ないと言って諦めるの!?』

 

『いや、それはその……何とかしたいとは思うけど』

 

『だったら!出来ることは全てやり尽くしなさい!それをせずに目の前の問題を仕方ないの一言で片付けるのは、例えフェイトさんが許しても私が許さない!』

 

『えっと……シャーリー?なんか怒ってる?』

 

『別に!キラくんが思いの外優秀で最近私の存在が影に隠れ気味なのを逆恨みしてるわけじゃ全然ないんだからね!』

 

『あ、うん。今ので大体わかったよ』

 

シャーリーの私的な感情はどうあれ、言ってることは理解出来たし、正しいとも思った。

だが、キラが一人で考えたところでどうにもならない。

ある程度威力のある魔法なら、今のキラでもリスクを無視すれば使う事は出来る。

だが、それでは駄目なのだ。

キラが欲しいのは、今の自分に出来る最大限の魔法。

師であるなのはに、少しでも近付ける魔法。

 

「と、いうわけで、なのはさんに相談しているわけなんですが」

 

「なるほどねぇ。確かに、シャーリーの言ってることはは正しいね。その動機は不純だけど」

 

一通りキラから話を聞いたなのはは、苦笑しながらも シャーリーの意見を肯定した。

 

「キラくんには自分の短所を長所で補うよう教えてきたから、それに偏りすぎちゃったのかもしれないね」

 

「はい。僕自身、弱点を克服することより長所を伸ばすことを優先してきましたから。でも、フェイトさんの執務官補佐になった以上、このままの僕じゃ通用しない……」

 

そう言って、キラは改めてなのはと向き合う。

その瞳には、なのはに魔法を教えて欲しいと言ったあの日と同じ、強い意志が宿っていた。

 

「だから、お願いします。僕に……」

 

キラの脳裏に浮かぶのは、何度も自分を撃ち墜としてきたあの桃色の閃光。

その威力は今更語るまでも無く、他の誰よりもキラ自身が身をもって知っている。

だからこそ、この魔法を手にすることを望んでいた。

 

「僕に、ディバインバスターを教えてください」

 

 

 

 

 

 

「で、私は反対したのにキラくんは全く言うこと聞いてくれなくて、仕方なくディバインバスターを教えた。でも、その時大事な約束をしたよね……覚えてる?」

 

「……………………………はい」

 

「じゃあ、言ってみて」

 

「……………………………なのはさんが完成したと認めるまで、ディバインバスターは使用しないこと」

 

「うん、ちゃんと覚えてるね。それで、私は何て言ったっけ?」

 

「……………………………瞬間出力が安定していないせいで暴発の危険性がある。だから、暫く使用は控えるように、と」

 

「なるほど。ちゃんとわかってるってことは、それを覚悟の上でディバインバスターを最大出力で使ったんだね。…………ところでキラくん」

 

「………………………………はい」

 

「選んで。魔法と物理」

 

「なんだろう。こんなやりとり昔あった気がする」

 

明後日の方向を見てそう呟くキラの頭に、なのはが拳骨を降り下ろす。

 

「もう!ちゃんと真面目に聞いてよキラくん!」

 

「~~~~ッッ!な、なのはさん!?今魔力込めませんでした!?スッゴく痛いんですが!!」

 

「当たり前です!痛くないと反省しないでしょ!?」

 

「反省はしています!後悔はしていません!」

 

「もう一発必要かなっ!?」

 

「な、なのは、少し落ち着いて!キラも変な口答えしないで!」

 

「フェイトちゃんはどっちの味方なの!?」

 

「フェイトさんはこの件に関してはもう何も言わないって言ってました」

 

「フェイトちゃん!?」

 

「えぇっ!?私に矛先が向くの!?」

 

ヒートアップする弟子と師匠の言い争いに巻き込まれ、途方にくれるフェイト。

つまり、なのはの言い分はこうだった。

リスクを伴う為使用を禁じていたディバインバスターを、要救助者を救う為とは言え、あろうことか最大出力で使用したキラ。

そんなキラを、師として簡単に許す訳にはいかない、と。

なのはの言い分は十分理解出来るし、正しいとも思う。

だが、状況が状況だっただけに、キラのとった行動を間違いだと断じることも出来ない。

現に、それで救われた人がいたのは確かであるし、当人であるキラもこうして無事であるのだから。

 

「なのはもキラも間違ってはいないと思うから、どっちが正しいかなんて私には決められないーー」

 

「ちなみに、キラくんはソニックムーブも使用したそうです」

 

「ーーと思ったけどやっぱりキラが悪い。ていうか、どういうことか説明して。確か、衝撃緩和が上手くいかないから使用は控えるって約束したはず」

 

「ちょ待っ…違うんですフェイトさん!!…って言うかそもそも何でそんなこと知ってるんですかなのはさん!!」

 

「全部シャーリーが教えてくれたよ」

 

「くそっ!覚えてろよあのメカオタ眼鏡!!」

 

全ての元凶を知り、思わず上司と師がいるのも忘れて怒鳴るキラ。

だが、怒鳴ったところで現状が変わる訳ではない。

フェイトまでも敵に回った今、キラは完全に逃げ場を失っていた。

 

「って言うかフェイトさん!この件に関してはもう何も言わないって言ってましたよね!?」

 

「それとこれとは話は別だよ!安全性に欠ける内は使用しないって言うから教えたのに!………もしかして、ブリッツアクションも使ってるんじゃ?」

 

「………………………………………………………………………………イエ、ツカッテマセンヨ?」

 

「キィィィラァァァッ?」

 

「くっ、芋づる式に次々とっ!これも全部シャーリーのせいだ!」

 

「いや、キラくんが嘘つくの下手過ぎるんだと思うよ?」

 

「うん。キラはプライベートになるとすぐ顔に出るから」

 

「………………」

 

フェイトとのやりとりを見て少し冷静になったのか、なのはが落ち着いた口調で呆れたように口を挟むと、フェイトもそれに便乗する。

それに対し思わず言葉に詰ったキラは、諦めたように息を吐いた。

 

「はぁ………わかりました、僕の負けです。謝りますからもう許してください」

 

両手を挙げ、降参の意思を示すキラ。

納得はしていない様子が見て取れるその様子に、なのはとフェイトは顔を見合わせる。

そして次にキラに向けた表情は、二人とも真剣なものだった。

 

「キラくん、真面目な話をするとね……私、凄く怖いんだ」

 

そう言って小さく笑うなのはの瞳は、その言葉通り不安げに揺れていた。

 

「私が教えた魔法でキラくんが怪我をしたらって思うと……凄く、不安になるの」

 

「ッ!」

 

なのはの言葉に表情が固まるキラ。

ここにきて、ようやくなのはの真意を理解した。

 

「そんなことになったら……きっと私は自分を許せない」

 

「なのは…さん」

 

「私は、キラくんに強くなって欲しくて魔法を教えたんだよ。強くなって自分の身を少しでも守れるようになれれば……って」

 

そう言って、そっとキラの手に触れるなのは。

その手から、なのはが内に抱える感情が伝わってくる。

戦う術を教えるのが仕事である戦技教導官にとって、自分が教えた魔導士が危険な現場に向かうのは避けられないことだ。

それが優秀な魔導士であればある程、危険は高くなる。

なのははその度に、同じ様な不安を感じているのだろう。

 

「誰かを守りたい、助けたいっていうキラくんの気持ちはわかるし、間違って無いと思う。でも、その為に自分の身を省みないのは間違ってる」

 

キラの瞳をい抜くようにして見つめるなのはは、そう断言する。

それはどこか、自分に言い聞かせているようでもあった。

そんななのはの様子に、フェイトもどこか辛そうな表情を浮かべる。

 

「自分を大切に出来ない人に、誰かを助ける資格なんて無い」

 

その重みのある言葉に、キラは表情を歪ませる。

なのはの気持ちを察してあげられなかった自分に対し、苛立ちを募らせていた。

すると、なのはの手がキラから離れ、その顔に自嘲的な笑みが浮かぶ。

 

「なんて思うのは、やっぱり私の我が儘になっちゃうのかな。戦う理由は人それぞれだし、そこに口を出す資格なんて私にはないんだから」

 

「そ、そんなことはないです!なのはさんの気持ち、ちゃんと伝わりました」

 

「うん。そう言ってくれると、師匠としては嬉しいし、ちょっと安心かな」

 

そう言って笑うなのはの顔に、さっきまでの憂いはない。

垣間見えたなのはの素の感情は、もう既に覆い隠されていた。

 

「なのは……」

 

「ごめんねフェイトちゃん。せっかくのお食事だったのに水差しちゃて」

 

「ううん。何かと無茶するキラには良い薬になったと思うし」

 

「わ、わかりましたから!今度はホントに反省してます!」

 

「とか言って、きっとまた同じことするんでしょ?」

 

「なのはさん、もしかしなくても許す気ないでしょう?」

 

困り顔のキラを、意地悪な笑みを浮かべてからかうなのはとフェイト。

重い空気もいつの間にか霧散し、普段通りの明るい雰囲気となる。

だが、なのはの思いを知ったことで、キラの中で確かに変わった物もあった。

まだまだ未熟な自分と、そんな自分を支えてくれる師と上司の存在。

いつか、その全てを守れるくらい強くなろうと、気持ちを新たにするキラだった。

 

「さて!それじゃあ食べよっか!せっかくの料理が冷めちゃう前に」

 

「うん。今日はキラの奢りだから、遠慮せず食べて」

 

「ちょ、フェイトさん!?」

 

その前に、まずは自分の財布を守る必要がありそうだった。

キラの前途は、まだまだ多難である。

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