魔法戦士リリカルSEED Strikers 作:ぬらりひょん
響き渡る激しい剣閃の音が、その戦闘の凄まじさを物語っていた。
何度も交差しながら互いの武器をぶつけ合う二つの影。
片方の剣型アームドデバイスを持つ方は、未だに傷らしい傷も無く、その口許には余裕を表す笑みが浮かんでいる。
そしてもう片方、槍のように展開したストレージデバイスを持つ方は、全身傷だらけで立っているのもやっとという状態だった。
すると、二つの影は互いに一旦距離を取り、武器を構えて向かい合う。
「なるほど、確かに強くなったようだなヤマト」
「お褒めに預かり光栄だよ、シグナム」
賛辞を受けつつもそれを素直に受け入れられず、その顔には忌々しげな表情が浮かぶ。
それほど、二人の力量差は歴然だった。
キラ・ヤマトと守護騎士シグナム。
魔力の量、剣の才、戦闘経験。
シグナムは、その全てにおいてキラ・ヤマトを上回っている。
だが、それも仕方ない。
方やロストロギア『夜天の魔導書』によって生み出された守護騎士ヴォルケンリッターの将にして、ミドルレンジの勝負になればあのフェイトですら及ばないとされる一騎当千の戦騎、シグナム。
方や身体能力、知的能力は極めて高いが、魔法を初めてまだ三年。魔力量も少ないとは言わないが凡人の域を出ないミッド式魔導士、キラ・ヤマト。
誰の目から見ても、この二人の勝負の結果は目に見えていた。
「どうしたヤマト、息があがっているぞ。まさか、こらで終わりではないだろう」
「当たり…前だっ。勝負はここからだぞシグナム!」
「フッ……そうこなくてはなっ!」
だがそれでも、キラ・ヤマトは負ける訳にはいかなかった。
どうしても、この勝負に勝たなくてはいけない理由があったのだ。
「キラくーーん!簡単に負けたら許さないよーーっ!」
それは、こうして激励してくれる師、高町なのはの為であり、
「無茶は駄目だよキラ!気を付けて!」
こうして不安げな表情で心配してくれる上司、フェイト・T・ハラオウンの為である。
そして何より、
「キラくーーーんっ!負けたら私の補佐に決定やでーーーっっ!!コキ使いまくったるから覚悟しいやーーーっっ!!」
「………絶対に負けられない理由が、僕にはあるんだっ!」
屈託のない笑顔で死刑宣告を告げる八神はやてから、己の身を守る為でもあった。
◇
時間は今朝まで遡る。
昨夜フェイトから連絡を受け、キラはミッドチルダ中央部の湾岸地区に来ていた。
そこにあるのは、古代遺失物管理部『機動六課』。
その名の通り、古代遺失物『ロストロギア』関連の事件を専門的に担当する為新たに設立された地上部隊だ。
なぜそんなところに呼び出されたのか理由がいまいち思い当たらないキラだったが、先日の食事の際ここが待ち合わせ場所だったこともあり、それが関係しているのだろうと予想する。
現に、フェイトはロストロギア関連の事件をいくつも担当していた。
今回もその調査と補佐の為呼び出されたのだろう。
そう、思っていた。
待ち合わせ場所に、困り顔のフェイトと、したり顔で笑う八神はやての姿を見つけるまでは。
「おはようキラくん。朝から呼び出して悪いなぁ」
「お疲れ様です八神二等陸佐。では、僕はこれで失礼します」
「アハハ、面白い冗談やわキラくん。とりあえずに遠慮せんとここ座り」
「放してください八神二等陸佐。僕、フェイトさんと約束があるんです」
「何言うてんのキラくん。フェイトちゃんやったらここにおるやん」
「そのフェイトさんがさっきから念話で『ごめんねキラ。私、キラを守れなかった』ってわりと本気なトーンで謝ってくるんですよ!?ろくな目にあわないのは火を見るより明らかじゃないですか!!」
「大丈夫や。悪いようにはしないから」
「それ悪いようにする気のある人が言う台詞ですよ!」
出会い頭に激しいボケとツッコミのやり取りを繰り返すキラとはやて。
面白がっているはやてとは対照的に、キラは必死である。
「キラ、落ち着いて。とりあえず話を聞いてほしいんだけど」
「いくらフェイトさんの頼みでもこればっかりは聞けません!これまで僕が八神二等陸佐にどんな目に遭わされてきたか知ってるでしょう!?」
「もう、さっきから何やその他人行儀な呼び方。いつも通り『はやて』って呼んでぇな」
「あぁもう!貴女はちょっと黙っててください!!」
「それは出来ん相談やな。黙ったらキラくんからかえんやんか」
「それをやめてほしいから黙れって言ってるんですよ!」
「嫌や!私の生き甲斐を奪わんといて!」
「僕をからかうことを生き甲斐にしてたんですか!?」
「イヤ、そんな訳ないやん。冗談や冗談。自惚れんといてぇなキラくん」
「ーーーッッ!ーーーッッ!!(声にならないツッコミ)」
自由奔放なはやてに振り回されるキラ。
そう、八神はやてとキラ・ヤマトは、いつからかこういう関係性になっていた。
はやての悪戯にキラが振り回され、それを実に楽しそうにはやてが眺める。
そんな二人のやりとりは最早地上部隊内で名物化しており、裏では『管理局の夫婦コンビ』と呼ばれている程だ。
「はぁ……はやて、いい加減にして。話が進まないよ?」
「あはは、ごめんごめん。久し振りにキラくんと会ったもんやからテンション上がってもうた」
見るに見かねたフェイトが助け船を出し、ようやくはやての暴走がおさまる。
だが、十分満足したのか、その表情は晴れやかだ。
息が上がり、疲労困憊な様子のキラとは対称的だった。
「はぁ…はぁ…はぁ……と、とにかく用件を聞きましょう。そしてさっさと帰りまーー」
「ーーせん!」
「帰ります!速攻で!!」
「帰しません!」
「はやて!」
「反省も後悔もしていない!」
「まだ何も言ってないよ!?」
「あの、本当にお願いします。話を進めてください。そして帰してください。もしくは帰ってください」
「あ、うん。そんな真面目にお願いされると普通に傷付くわ」
隙あればボケるはやてに目に涙を浮かべて懇願するキラ。
その様子を見てさすがに反省したのか、はやては若干傷付いた表情を浮かべると、咳払いで気を取り直してこう続けた。
「ほな、本題に入ろうか」
その一言で、はやての中でスイッチが切り替わった。
年相応の少女から、管理局の二等陸佐へと変貌する。
「細かい話は後にして、単刀直入に言うな。キラくん、君を機動六課にスカウトしたいんや」
そこからの話しは無駄なくスムーズに進んだ。
機動六課が設立された経緯とその目的を、順を追って簡潔に説明した後、構成メンバーと後見人を紹介していった。
この機動六課という部隊は、知れば知るほど驚きに満ちた部隊であった。
その中でもキラが特に驚いたのは、そのあまりにも充実し過ぎている構成メンバーだ。
八神はやてが課長及び総部隊長を務め、本局の航空戦技教導隊より出向の高町なのはが教官兼分隊長、同じく本局から出向となる執務官、フェイト・T・ハラオウンが法務担当兼分隊長を勤める。
また、はやての守護騎士であるヴォルケンリッターは、シグナムとヴィータが各フォワード分隊の副隊長、医務官にシャマル、遊撃戦力としてザフィー ラが所属する。
隊長格三名が全員オーバーSランク。
副隊長もそれぞれS-とAAA+と常識外の戦力を保有し、後方支援部隊も新人が多いものの非常に優秀な人材が揃っている。
それに加え、後見人には総務統括官のリンディ・ハラオウンに提督のクロノ・ハラオウンとレティ・ロウランの三人がいる。
規格外の戦力に強力な後ろ楯を誇るこの機動六課という部隊は、キラだけではなく、誰の目から見ても無敵を通り越して異常だろう。
「………と、言うのが、この機動六課という部隊の概要なんやけど。どやろ、受けてくれないやろうか?」
「私の他に、シャーリーも通信主任兼メカニックとして配属が決まってるの。その他のスタッフもキラと顔見知りの人が多いし、キラの能力を活かせる場面も多いから、きっと働きやすい職場になると思う」
はやての説明にフェイトが補足としてそう付け加える。
確かに、話を聞いた限りでは理想的な職場だった。
師であるなのはから長期間の教導を受けられるというのは、キラにとって魅力的な話しだった。
何より、古代遺失物専門の部隊と言うことは、ロストロギア『レリック』に関わる事件を担当することになる。
『レリック』とは、四年前に発見され、現在最も問題視されている超高エネルギー結晶体のことだ。
過去に周辺を巻き込む大規模な災害を引き起こしていることからこの存在はかなり危険視されており、管理局も総力を上げて解決に当たっている。
そんな『レリック』だが、これが関わる事件にはとある共通点が存在する。
それは、事件現場に『ガジェットドローン』と呼ばれる機械兵器が出現しているということだ。
魔力結合を打ち消すAMFを単機で使用し、極めて強力な光学兵器、質量兵器を装備し、自立型AIを搭載するその謎の機械兵器は、まるで『レリック』を追い求めているかのように頻繁に出現していた。
そして三年前、キラが巻き込まれた空港火災と襲撃事件、そして先日の大規模火災にもこの『ガジェットドローン』は出現しており、あのミゲル・アイマンと合わせてキラが正体を追っている存在の一つでもある。
その『レリック』と『ガジェットドローン』が関わる事件を専門的に調査出来るとなれば、最早選択の余地はない。
「わかりました。そのお誘いをお受けします」
真っ直ぐはやてと向き合いそう答えるキラ。
そんなキラの答えに対し満足げな笑みを浮かべたはやては、隠し持っていたらしい液晶端末の音声録音機能をおもむろに起動させる。
『わかりました。そのお誘いをお受けします』
「オッケー!言質は取ったで!」
「すみません。やっぱり今のなしで」
不穏な雰囲気を感じ取ったキラは、即座に席を立ちその場から逃走をはかる。
が、
「おっと。何処へ行くつもりだヤマト」
いつの間にか背後にいたはやての守護騎士シグナムに、彼女のアームドデバイス『レヴァンティン』の切っ先を突き付けられ、あえなく失敗する。
「あかんで~キラくん。男の子なら自分の発言にはきちんと責任取らな」
「じゃあ貴方は僕の身に何かあったらきちんと責任取れるって言うんですか!?それとシグナム!とりあえず剣を下ろそう話せばわかる!」
「や、ややわキラくん。そんな責任取れやなんて……遠回りなプロポーズ?」
「貴様っ!さては我が主が目的かっ!?認めん…私は決して認めんぞ!!」
「それだけは絶対に無いので安心してください!あとシグナム?さっきから切っ先が若干刺さってるんだけど気付いてるかな?」
「そんなっ!私とは遊びやったって言うの!?」
「貴様っあぁぁぁっ!我が主に何をしたあぁぁぁっ!!?」
「あぁぁもうわかったわかりましたっ!!大人しく話を聞きますから今にも僕を切り殺しかねないこのバーサーカーを何とかしてくださいっ!!」
生真面目なシグナムが加わりより混沌と化すはやてのボケに、最早対応不能といった様子のキラ。
それに満足するとはやてはシグナムを下がらせ、キラは観念した様子で今一度はやての向かいに座り直す。
「それで、聞かせてもらいましょうか。一体僕に何をさせるつもりですか?」
「まぁまぁそんな身構えんと。私も鬼や無い。キラくんが考えてるような非常識な仕事を押し付けるつもりは無いから安心してええよ」
「自分がどんな風に思われてるかという自覚はあったんですね」
「シグナム」
「はっ」
「わかりました!黙って聞きます!」
話を進める為キラに口答えすら許さないつもりのはやて。
話が進まない最もな原因が自分にあるというのを自覚しているのかは謎である。
「キラくんにお願いしたいのは主に三つ。まず一つは遊撃戦力として新人のフォワード部隊のサポート。もう一つはメカニック担当のシャーリーの補佐。そして……」
「そして?」
「有事の際は部隊長補佐として私と一緒に行動すること」
「お断りします」
「シグナム」
「はっ」
「こ、こればっかりはいくら脅されても承諾出来ません!断固拒否します!」
「ふむ、キラくんも中々強情やね」
「貴女が言いますかそれをっ!」
「キラ、落ち着いて!またはやてのペースに巻き込まれちゃうから!」
身構え臨戦態勢をとるキラと、それを宥めるフェイト。
そんな二人を無視し、はやては告げる。
「ほな、勝負をしようかキラくん」
「勝負?」
「そや。キラくんが勝ったら、どの部署に配属するかキラくんの意思を最大限に考慮する。私が勝ったら、四の五の言わずに私の補佐につく。どうや?」
「………なるほど、わかりやすくて良いですね。それで、その内容は?」
「シグナムと一対一のタイマン勝負や」
「異議あり!」
「異議を却下します」
「横暴だ!!」
「上等や!!」
「開き直らないでくださいっ!!」
「まぁまぁ落ち着き、キラくん」
取り乱すキラを無視し、はやては続ける。
「二人の戦闘力に差があるのはわかっとる。せやから、シグナムにはハンデを付ける」
そう言ってはやては隣に立つシグナムを見ると、そのデバイスに触れる。
「レヴァンティンとシグナム自身に出力リミッターを掛ける。そやな、最大でBランク相当の魔力しか引き出せんようにする」
「ッ!」
はやての出した条件は破格だ。
確かに、リミッターを掛けた状態のシグナムとなら戦えるかもしれない。
何より、自分はあの高町なのはの弟子であり、フェイト・T・ハラオウンの部下だ。
「どや、これならキラくんにも『少し』は勝ち目があるんちゃうか?」
こんな挑発を受けて、黙っている訳にはいかない。
「いいですよ。受けて立ちます」
そう言って立ち上がったキラは、制服の内ポケットから自身のデバイス『S2U』を取り出し起動させる。
「後悔しても知りませんよ、八神二等陸佐」
その言葉を受け、はやては口許に『計画通り』とでも言いたげな笑みを浮かべる。
「OK!その言葉、そっくりそのまま返したるわ!」
こうして急遽、キラとシグナムの実戦形式の勝負が執り行われることとなり、
「もう……どうなっても知らないよ」
そう言って、隣で溜め息を吐くフェイト。
もう何を言っても聞いてくれそうに無い二人を前に、成す術の無い本局執務官殿だった。