魔法戦士リリカルSEED Strikers 作:ぬらりひょん
キラがシグナムと一対一で戦うという情報は、瞬く間に機動六課全体に広まった。
そうなると自然とギャラリーも増え、気が付けば自由待機時間中の機動六課スタッフ全員が集まるという事態になっていた。
「ったく、何でこんなことになってんだか」
「あはは。まぁ、はやてちゃんらしいよね」
その中に、スターズ分隊隊長の高町なのはと、同じく副隊長のヴィータの姿があった。
「あ、なのはちゃんにヴィータ!何や、二人も観に来たんか?」
「お疲れ様。二人とも休憩?」
そんな二人の姿を見つけて近付いてきたのは、特等席でこの勝負を観戦していたはやてとフェイトだ。
「うん、今休憩に入ったところ。勝負はまだ始まったばかりみたいだね。今どんな状況?」
フェイトの質問になのはがそう答えると、訓練場のキラとシグナムの様子を見ながらそう尋ねる。
その問いに対しては、はやてが妙に生き生きした様子で答えた。
「シグナムの攻めをキラくんが何とか凌いだとこらや。いやぁ、さすがシグナムの攻撃はおっかないなぁ。キラくんもうボラボロやで」
「そうみたいだね。まぁ、あれくらいで倒れるような鍛え方はしてないつもりだけど……さすがシグナムさん、容赦ないなぁ」
はやての答えを受け、なのはは苦笑いしながらそう答える。
すると今度は隣で黙って様子を見ていたヴィータが、忌々しげな表情を浮かべてそれに応じる。
「ったりめぇだ。はやてに変なちょっかい出す奴にシグナムが容赦する訳がねぇ。私だってそうする」
「えっと……どちらかというとちょっかいを出してるのははやての方だと思うけど」
「はやては悪くねぇ。んなことより大丈夫なのかよキラは。これじゃ勝負にならねぇだろ」
フェイトのフォローは聞く耳持たず一蹴し、ヴィータは逆にそう尋ねる。
言葉とは裏腹に心配している様子が見えない。どうやらキラは相当嫌われているようだ。
「うーん、そやな。よし、ならここは師匠であり、キラくんが一番尊敬しているであろうなのはちゃんから、叱咤激励していただこうかな」
「えっ、私?」
はやてのその案に、なのはは一瞬驚いた表情を浮かべる。
だがすぐにその顔は笑みへと変わり、戦場にいるキラに向けてこう声を掛けた。
「キラくーーんっ!簡単に負けたら許さないよーーっっ!!」
すると、その声を受けたキラの身体に力が宿ったように見えた。
「ほら、フェイトちゃんも!」
「えっ?わ、私も!?」
「そうだよ!フェイトちゃんだってキラくんの上司なんだから!」
「そ、そんなこと言われてもっ……ぁぅ」
はやてとなのはにそう急かされるも、何を言えば良いのかわからず戸惑うフェイト。
しかし、意を決したかのように表情を引き締めると、若干恥ずかしそうに頬を赤らめながらも、声を張り上げてこう声を掛けた。
「無茶はダメだよキラッ!気を付けてっ!」
すると、その声を受けたキラの身体から無駄な力が抜けたように見えた。
自分の声が届いたことに安心したのか、フェイトの顔に笑みが浮かぶ。
「なるほど。フェイトちゃんらしいね」
「う、うん。私にはなのはみたいな激励は出来そうに無いし」
そう言って苦笑するフェイト。
すると、今度ははやてが前に乗り出す。
「フェイトちゃんは相変わらず甘いなぁ。ほな、今度は私の番やね!」
そう言うと、大きく息を吸い込むはやて。
直後、
「キラくーーーんっ!負けたら私の補佐に決定や でーーーっっ!!コキ使いまくったるから覚悟しいやーーーっっ!!」
二人以上に声を張り上げてそう声を掛けた。
直後、キラの身体が一際大きく震えたかと思うと、次の瞬間には全身に力がみなぎり、これまで以上に闘志が溢れる。
「うん!これで激励はバッチリやな!」
「……… なんだろう、なぜか納得いかないよなのは」
「………うん。とりあえず、終わったらちょっとお話しなきゃ、キラくんと」
満足げな笑みを浮かべるはやてに対し、なのはとフェイトはどこか不満そうである。
「はぁ……ホンット、何やってんだか」
そんな三人を見ていたヴィータは、呆れたように一つ溜め息を吐くと、再開したキラとシグナムの戦闘に再び視線を戻すのだった。
◇
激戦は続いていた。
キラの魔力刃が、シグナムのレヴァンティンが、激突しせめぎ合う。
キラのデバイス『S2U』から放出され、固定化されている魔力刃は、高密度に圧縮されたフォトンスラッシュだ。
これと合わせて、『S2U』自体の強度も接近戦を前提とした改良が施されている為、アームドデバイスを駆使するベルカ式魔導士相手でもある程度接近戦を繰り広げる事が出来る。
だが、
「そこっ!」
「くっ…!」
いくらデバイスを改良しようと、キラ自身の腕が上がる訳では無い。
師であるなのはからは、クロスレンジでの戦闘法も教わってはいる。
だが、なのははあくまで重装甲火力型の砲撃魔導士だ。
近距離戦のエキスパートであるベルカ式魔導士と比べると、そのどうしても見劣りしてしまう。
師であるなのはですらそうなのだ。ならば、その弟子であるキラが敵うはずもない。
「どうしたヤマト。接近戦で自分に分がないことなど最初からわかっているだろう。なぜ自分の距離で戦わん」
キラの攻撃をあえて受け、鍔迫り合いに持ち込みながらそう尋ねるシグナム。
それに対し、キラは自嘲的な笑みを浮かべて答える。
「僕の射撃魔法では、貴方の防御は破れない。いや、破れる魔法はあるにはあるけど、貴女を相手にするには発動までに時間がかかり過ぎるんだっ」
「なるほど。それならその魔力刃でバリアごと切り裂いた方が手っ取り早いという訳か」
「ッ!そういうことだっ!!」
そう言って魔力刃を一閃させ、強引に距離を取るキラ。
改めて体勢を整え、S2Uを下段に構え直す。
(と言っても、僕とシグナムでは接近戦の技能の差があり過ぎる。まともにやりあっても勝てる相手じゃない。………ならっ)
身体を巡る魔力に意識を集中させる。
頭の天辺から足の指先まで、全身に魔力を満たしていく。
(外部だけじゃない。身体の内側に至るまで、可能な限り強化する……っ!)
そうして魔力が全身に行き渡り、準備は完了する。
そんなキラの様子に何かを感じ取ったシグナムは、その口許に思わず笑みが零す。
(何か仕掛けるつもりか、ヤマト)
正眼の構えを取り、迎え撃つ体勢を取るシグナム。
「何をする気かは知らんが……やれるものならやってみろ、ヤマト」
そう言って、闘志を溢れさせるシグナム。
「正面から受けて立つ。全力で来い!」
その構えに隙は無く、油断も慢心も無い。
キラの全力に対し、己も全力を以て受けるつもりだ。
「……うん!」
そんなシグナムの闘志を肌に感じながら、キラの心は震えた。
歴戦のベルカの騎士が、全力で自分の攻撃を受けてくれることに、純粋な喜びを感じた。
一年前は足元にも及ばなかった。
だが、今は違う。この一年で自分は確実に強くなった。
それをこの戦いを通して感じ取ったキラは、当初の目的すら忘れ、今目の前にいる圧倒的な強さを誇る相手に、自分の全力をぶつけたくなった。
「受けてみて……これが今の僕の、全力全開だ」
瞬間、キラの姿が消えた。
同時に、シグナムを青い閃光が襲う。
(ッ……速いっ!)
その一撃をレヴァンティンで受けるシグナム。
だが、攻撃はそれで終わりでは無かった。
(後ろかっ!)
正面からの攻撃の直後、背後からの追撃。
それを、今度は『受ける』のでは無く『受け流す』シグナム。
その速さを目の当たりにし、受け止めるだけでは追撃に間に合わないと判断したのだ。
ここに来て、初めてシグナムが接近戦で後手に回った。
その後もキラは追撃の手を緩めず、繰り返しシグナムの死角から超高速の斬撃を浴びせ続ける。
(これは……テスタロッサと同じ魔法か!)
その攻撃の正体に気付いたシグナムは、堪らずその口許に笑みを浮かべた。
自分の予想を超えてきたキラの実力に歓喜したのだ。
(面白い!だが、甘いぞヤマト!)
先の宣言通り、キラの全力を己の全力で受けきるシグナム。
目で追えない速さの攻撃を、直感だけで次々と受け流していく。
この攻防は、先に動きを止めた方が負ける。
そう考えた二人は、身体が限界を迎えるまで、ひたすら激しい攻防を繰り返し続けた。
◇
「あれは……ブリッツアクションにソニックムーブか。フェイト、お前が教えたのか?」
一方、その様子を外から見ていたヴィータが、隣に立つフェイトに向けてそう尋ねる。
その言葉通り、キラが今使用しているのは、フェイトが教えた高速戦闘用魔法『ソニックムーブ』と『ブリッツアクション』だ。
すると、フェイトは少々驚いた様子で答えた。
「う、うん。でも、ついこの間までは使いこなせてなかった。衝撃緩和が上手くいかないせいで、使用する度身体の内部にダメージを受けてたから。でも……」
「あぁなるほどな。アイツ、身体強化を内部にまで張り巡らせることで使いこなしてやがるのか。ったく、器用なことするぜ」
フェイトの言葉を受け、そう納得するヴィータ。
だが、それだけでは勝てないと即座に判断した。
今のキラの攻撃は確かに速いが、本家であるフェイトには及ばない。
対するシグナムはそのフェイトと互角以上に渡り合い、一度は勝利しているのだ。
「甘いぞキラ。そんなんじゃ、私らの将は倒せない」
そう言ってほくそ笑むヴィータ。
だが、
「ヴィータちゃんこそ」
その笑みは、次の瞬間驚愕へと変わった。
そんなヴィータに、なのはは強気な笑みを向けてこう続けた。
「私の弟子を、甘くみないで」
そう言って笑うなのはの表情は、どこか誇らしげだった。
◇
キラの攻撃が止んだ。
ソニックムーブとブリッツアクションによる超高速の連続攻撃。
一対一では抜群の威力を発揮するその攻撃だが、その一方で体力と魔力を著しく消費するというデメリットもある。
攻撃をしている間は無敵だが、攻撃を止めた瞬間隙だらけになるのだ。
つまり、攻撃する側は体力か魔力が尽きる前に勝負を決めねばならないし、受ける側は最後まで受けきれば勝利となる。
そして今、キラは体力を使い果たし攻撃の手を止めた。
対するシグナムは攻撃を全て受けきり、ほぼ無傷だ。
キラは追撃を恐れてか若干距離を取ってはいるが、そこはシグナムの間合いだった。
勝った。そう確信したシグナムは、カウンターを狙いレヴァンティンを振るおうとする。
だが、
「駄目だシグナム!囲まれてるぞっ!」
ヴィータの声で、ようやく自分が未だ窮地に立たされていることを知った。
いつの間にか、シグナムの周囲を無数の魔力刃が包囲していたのだ。
「これはっ!?」
ここに来て、ようやくキラの意図に気付く。
あの超高速連続攻撃は、この為の布石だった。
(まさか!あの攻撃の最中、一撃を加える度に魔力刃を形成し直していたのか!?)
そう。シグナムの見解通りだった。
キラはあの連続攻撃の最中、シグナムに一撃を加える度に魔力刃を切り離し、滞空させ、再び形成し直していた。
それを何度も繰り返し、シグナムを無数の魔力刃で包囲していたのだ。
キラの優秀な魔力制御と、そのデバイス『S2U』の高度な処理能力があったからこそ出来た、キラの新たな必殺技だった。
「僕には、フェイトさんみたいに一度に沢山の魔力弾を展開することは出来ない」
キラの合図に合わせ、無数の魔力刃がその性質を変える。
フォトンスラッシュから、フォトンランサーへと。
「だから、僕なりのやり方でこの魔法を完成させたんだ」
そして、解き放たれる。
「槍陣展開ーー!」
キラの、全力全開が。
「フォトンランサー・ファランクスシフトッッ!!」
対するシグナムも、その攻撃を全力で迎え撃つ。
「レヴァンティン、シュランゲフォルム」
『Jawohl.(了解)』
シグナムの声に答え、レヴァンティンはカートリッジを一つ消費する。
西洋剣から蛇腹剣へとその姿を変えたレヴァンティンを、シグナムはすかさず鞘に納める。
その状態で再びカートリッジをロードし、魔力を圧縮する。
「飛竜ーー!」
そして、シュランゲフォルムの鞭状連結刃に魔力を乗せ、全力の一撃を撃ち出した。
「一閃っっ!!」
解き放たれるシグナムの中距離斬撃魔法、飛竜一閃。
その威力は、斬撃魔法ながら砲撃魔法をも相殺する。
「打ち砕けぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」
「斬り刻めぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」
そしてぶつかる、互いの全力の魔法。
勝敗は、激しくぶつかり合う魔力の奔流に包まれ、見えなくなった。