魔法戦士リリカルSEED Strikers 作:ぬらりひょん
遺失物管理部『機動六課』隊舎 空間シュミレーター内部
回転する車輪の音に、舞い散る火花。
歯を悔い縛り、自分の持てる限りのスピードをもって、スバルは五機のターゲットを追い掛けていた。
「はあぁぁぁっ!!」
気合いのこもった声と共に跳躍し、並走するターゲットに向かって拳を突き出す。
瞬間、その拳から圧縮された魔力弾が放出され、ター ゲットに向かって勢い良く飛んでいく。
だが、ターゲットはその攻撃を察知し、すぐに回避行動を取った。
「ちょっ、何これ、動き早っ!」
自分の攻撃を易々と回避するターゲットに、スバルは悔しげな声を漏らす。
だが、スバルの役目は攻撃だけではなく、ターゲットをある地点まで誘導することでもあった。
そしてその地点には、槍型のアームドデバイス『スト ラーダ』を持ったエリオが待ち構えている。
「……!」
目標を確認したエリオはストラーダを構ると、自慢の機動力を活かした突進を仕掛ける。
それに対し、ターゲットはエリオに近付かれないよう弾幕をはるが、彼は高い運動性を駆使してそれをかいくぐり、弾幕の外に跳躍した。
それから壁を蹴って更に上へ上昇すると、魔力刃を生成し、ターゲットの頭上から合計二発撃ち放った。
ルストメッサーと呼ばれるその射撃魔法は、周囲の空気を圧縮、加速させ、真空の刃を撃ち放つ。
生成された魔力刃は、それだけで鋼鉄をも切り裂くほど高い威力を持っている。
だが、当たらなければその威力も発揮されない。
五機のターゲットは、いち早くその攻撃を察知すると、一度散開し速度を上げて易々と回避した。
「はぁ…はぁ…。駄目だ、ふわふわ避けられて当たらな い」
息を切らしながら悔しげな声を漏らすエリオは、敵の予想外の動きに対応しきれず、その場に立ち尽くしてしまう。
ターゲットは、そんなエリオを嘲笑うかのようにその場から離脱して行った。
すると、見兼ねた司令塔のティアナが、念話で二人に指示を飛ばす。
『前衛二人、分散しすぎ!後ろの事も考えて! 』
「は、はい!」
「ごめん!」
厳しい口調で二人をそう咎めると、ティアナはすかさず合流した五機のターゲットを目線で追いかける。
そして、膝を着いていた体勢から立ち上がり、カート リッジシステムを搭載したオリジナルデバイス『アン カーガン』を両手で構えた。
すると、その銃口に、オレンジ色の魔力弾が形成されていく。
「チビッ子、威力強化をお願い!」
ティアナがそう声をかけたのは、後方に控えていたキャロだった。
「はい!」
ティアナの指示に、キャロは立ち上がってそう答える。 そして、両手に装着したグローブ型のブーストデバイス『ケリュケイオン』を構えた。
直後、彼女の足もとに円形の魔方陣が現れる。
「ケリュケイオン!」
キャロが自身のデバイスの名を呼ぶと、手の甲にある桃色の結晶が点滅し『Boost Up. Barret Power.』と女性の機械的な音声を発した。
続けて、そのまま左手をティアナの方へ振ると、彼女の足もとに展開していたオレンジ色の魔方陣がその輝きを増し、同時にアンカーガンの銃口に形成されてい た魔力弾がその威力を増幅した。
それを確認したティアナが、両手で正面に構えていたアンカーガンのグリップに力を籠める。
「シュート!!」
ティアナが叫ぶと同時に、アンカーガンから四発の魔力弾が連続で発射される。
その瞬間、逃走していた5体のターゲットが一斉に振り返り、フィールドらしき何かを展開した。
すると、ターゲットへと接近していた四つの魔力弾が、何もない空間で跡形もなく消え去ってしまった。
「チッ!」
その光景を目の当たりにして、魔力弾を発砲した本人であるティアナが悔しげに舌を打つ。
「今のは、 フィールド系?」
「魔力が消された!やっぱりあの時と同じ!?」
キャロはその正体に気付き、ターゲットを追っていたスバルはティアナ同様悔しげな声を挙げていた。
すると、不意にこの訓練の教官であるなのはから、全 員に向けて念話での説明が入る。
『そう。そのターゲット……ガジェット・ドローンに は、ちょっと厄介な性質があるの』
なのはの声が四人の耳に届く。
そう、現在行われている訓練でフォワードの四人が相手をしているのは、ティアナとスバルも先日の大規模火災の際に遭遇した機械兵器『ガジェット・ドロー ン』だった。
『攻撃魔力をかき消すアンチ・マギリング・フィール ド、“AMF”。普通の射撃は通じないし……』
なのはが説明する間にも、ガジェット・ ドローンはそ の動きを止めることはない。
四人から逃れるために、今度はビルの屋上へと登っていってしまう。
「あぁ、くそ! このぉ!」
その光景にスバルが悪態を付くと、彼女の足もとから青い魔力光が現れる。
直後、彼女の先天性魔法『ウィングロード』が展開さ れ、ガジェット・ドローンの後を追うように伸びて行 く。
「スバル、バカ危ない!」
それを見たティアナが咄嗟に声をかけるが、スバルの耳には届かない。
すると、屋上に逃げていた一体のガジェット・ドロー ンが、展開していたAMFの出力を上げ、その効果範囲を拡大させた。
『それに、AMFを全開にされると……』
既に、スバルは自身で作り出した乗り込んでいる。
そして、あと一歩でガジェット・ドローンのいる屋上に届くと言った所で、
「あれ? おわたたた!」
順調に伸びていたウィングロードが徐々に消滅し、ゆらゆらと安定感を無くしていく。
それに足を取られてしまったスバルは、堪らずバランスを崩し、
「きゃああああぁぁっ!!」
そのまま近くのビルの窓ガラスに、勢いよく突撃してし まった。
『飛翔や足場作り、移動系魔法の発動も困難になる。スバル、大丈夫?』
「っ~……なんとか」
ガラスに突っ込んだスバルは、なのはの問いかけにそう答えながら頭を押さえて立ち上がる。
『このバカスバル!ホンット学習能力が無いんだか ら!』
『ごめ~ん、すっかり忘れてたよ~』
ティアナの叱咤に苦笑いで答えるスバル。
どうやら怪我は無いようで、すぐに体勢を立て直した。
『まぁ、訓練場では皆のデバイスにちょっと細工をして擬似的に再現してるだけなんだけどね。でも、現物からデータをとってるし、かなり本物に近いよ』
全員の耳に、なのはとは違う女性の声が聞こえてきた。 それは、メカニック主任としてこの訓練に参加していたシャリオ・フィオーニであった。
ちなみに、今いる訓練用空間シュミレーターは、彼女が基礎設計を担当している。
「なるほど。道理であの時も……」
説明を受けたティアナが、納得したようにそう声を漏らす。
すると、
「上等じゃない。あの時の雪辱を晴らす良い機会だわ」
その口元に好戦的な笑みが浮かんだ。
そう、あの火災後、手も足も出なかった相手への対策を、あのティアナが取っていないはずが無かった。
『あの男の胸を借りるみたいで癪に触るけど、この際我慢するわ。スバル!』
『うん!わかってるよティア!』
ここから、フォワード四人の反撃が始まった。
◇
「これは……!」
「うん……正直、予想外だったね」
今、目の前で繰り広げられた攻防に、なのはとシャーリーの二人は驚きを隠せなかった。
フォワード四人の能力と特性は理解しているつもりだった。
その上で、この訓練メニューを作成したのだ。
難易度は、今の四人がぎりぎりでクリア出来るレベルに設定してあるつもりだった。
だが、
「まさか、ファーストコンタクト後、ものの数分でクリアされるとはね」
そう言って苦笑するなのは。
その視線が見つめる先には、歓喜に沸くフォワード四人の姿があった。
(……この結果を招いたのは、間違いなくこの娘の力)
そんな中、なのはは一人に視線を集中させる。
ティアナ・ランスター。
射撃と幻術に優れ、味方を生かして戦う戦術型のエリートガンナー。
なのはのその見立ては間違っていない。
ただ、今回彼女が立てた作戦は、対ガジェットドローンを想定したものだったのだ。
(そっか。確かティアナとスバルは、前所属の部隊でガジェット・ドローンと遭遇してたんだっけ。う~ん、私も教導官としてまだまだだなぁ)
ここに来て、自分の見通しの甘さを痛感するなのは。
だが同時に、一度遭遇しただけで打開出来る程、ガジェット・ドローンという兵器が甘くはないことも知っている。
「………ってことは、やっぱり原因はキラくんかな」
そう言ったなのはが思い出したのは、複数のガジェット・ドローンを纏めて撃ち抜いた、ティアナのヴァリアブルシュート・マルチシフトだ。
ヴァリアブルシュートとは、攻撃魔法の弾を、AMFを突破する外殻の膜状バリアでくるんだ多重弾殻射撃だ。
外部の膜状バリアが相手フィールドに反応してフィールド効果を中和、その間に中の魔力弾をフィールド内に突入させる。
本来はAAランク魔導師のスキルで『射撃型最初の奥義』と言える技術であるが、並の射撃型は汎用性が低い為このランクまで到達しない者も多い。
ティアナはそんな高等技術を必要とする魔法を、あろうことか三つ同時に形成し、制御して見せた。
「ティアナのヴァリアブルシュート……魔力の運用と制御の仕方がキラくんのヴァリアブルバレットと似てましたね」
録画された訓練の映像記録を見ながら、シャーリーがそう訊ねる。
その問いかけに、なのはは訳あり顔で答えた。
「うん。つまり、『そういうこと』なんだろうね。確か彼女、一度キラくんの魔法を見てる筈だから」
「一度見ただけで模範するどころか応用したって言うんですか!?AAランク相当の技術を!?」
「うん、凄いよね。キラくんでも、習得するのに一月以上かかったのに」
そう言って嬉しそうに笑うなのは。
自分の予想を上回る教え子の才能に歓喜している様子だった。
(これは、キラくんも負けてられないな)
そう心の中で呟くと、早速予定していた次の訓練メニューに修正を加えるなのは。
その表情には、これまでに無い程楽しげな笑みが浮かんでいた。
◇
その日の夜。
隊舎の寮にある共有スペースに、フォワード四人の姿はあった。
だが、そこにいる四人に今朝の元気は見る影もなく、まるで生きる屍のような有り様だった。
スバルはソファによりかかり、ティアナとキャロは寄り添うように、エリオは壁にもたれて、各々が着替えもせず訓練服のままくつろいでいる。
「ティア~……起きてる~?」
そう声をかけたのは、ソファに寄りかかり身体を休めるスバルだった。
「あによ……静かにしなさいよバカ。エリオとキャロが起きちゃうでしょ」
対するティアナは、気だるそうな声でそう応える。
二人共既にグロッキー状態といった様子で、完全に体力を使い果たしていた。
「すっごい……疲れたね~」
「……えぇ。正直嘗めてたわね~。今までも結構鍛えてたつもりだったけど……」
そう言って、寄り添って眠っているキャロを優しく退かせると、そのままソファに寝かせるティアナ。
そしてゆっくりと立ち上がると、身体の調子を確かめるように各所を動かした。
「なのはさんの訓練を受けると、今までのがお遊びだったように思えるわよ」
「言えてる~。ティア、明日は絶対筋肉痛だよね~」
「うっ……シャワー浴びたらストレッチ忘れないようにしなきゃ」
「アハハ、大変だね~」
嘆くようにそう呟くティアナに、スバルは苦笑して応える。
だが、すぐにそれは満足げな笑みに変わる。
「でもさ、誉められちゃったね」
そう、嬉しそうに笑いかけるスバル。
それに、ティアナも照れくさそうにしながら応える。
「まぁ、アレはその……私が元々ガジェット・ドローン対策に多重弾殻射撃を練習してたから……だから、たまたま上手くいっただけよ」
「アッハハ、ティア照れてる~」
「ッ!……うっさいバカスバルッ!」
「あだっ!い、痛いよティア!もう~最近のティア暴力的すぎ~!」
「アンタがバカ過ぎるのよ!」
訓練後、あれほど疲れていたと言うのに、元気にじゃれ会うスバルとティアナ。
つまりは、それほど今日の訓練が充実しており、その上で満足のいく結果を残せたのが嬉しかったのだ。
それこそ、疲れを忘れてしまうくらいに。
「ティア」
「なによ!?」
「良かったね!機動六課にきて!」
「……フン、まだ始まったばかりでしょ」
「もう、素直じゃないんだから~」
そっぽを向くティアナににじり寄ると、にやついた笑顔を浮かべるスバル。
その笑顔に苛つき、再びティアナが拳を振り上げようとした、その時だった。
「あれ、こんな時間に誰かいるの?」
「え?」
不意に現れたその姿に、スバルとティアナの動きが止まる。
そこにあったのは、仕事を終えて寮に戻ってきた、制服姿のキラ・ヤマトの姿だった。