魔法戦士リリカルSEED Strikers 作:ぬらりひょん
「やっと……終わった……」
夜の機動六課隊舎の隊員オフィス。
各陸士部隊へのプレゼンの為不在のはやてから、情報処理全体の統括を任されていたキラは、ようやく任されていた仕事を終え、自分のデスクでぐったりとしていた。
「お疲れ様です、キラさん」
そんなキラを気遣い、コーヒーを差し出したのは、機動六課の後方支援部隊『ロングアーチ』の情報処理担当、ルキノ・リリエ二等陸士だ。
キラの部下である彼女は、今日一日大量の仕事に追われるキラの補佐をしていた。
「ありがとうルキノ。今日は助かったよ。僕一人じゃ多分終わらなかったと思うし」
「いえそんな!私そんなに大したことしてないですよ!情報処理だって、ほとんどキラさんに任せっきりでしたし!」
コーヒーを受け取りつつ柔らかく微笑み感謝を述べるキラに、ルキノは恐縮した様子でそう応える。
「あはは。まぁ、一応上司だからね。これくらい出来ないと部下に示しがつかないし」
そんなルキノの様子に苦笑しながらそう言うキラ。
だが、その苦笑もすぐに優しい笑みに変わる。
「でも、ルキノが居てくれて助かったのは事実だよ。だから、ありがとう」
「ーーッ」
キラのストレートな感謝の言葉に、ルキノは思わず言葉を失う。
照れ臭さから赤くなる頬を隠そうと顔を背けるが、それすらお見通しのようにキラは微笑む。
すると、
「あんまり部下を困らせないでくださいよ、キラさん」
そんなルキノに助け船を出すように、ロングアーチの指揮官補佐であるグリフィス・ロウランが間に入ってきた。
副官である彼は、はやてが不在の際には全体への指揮を任されている。
その忙しさはキラに勝るとも劣らないのだが、これも経験の差か、キラとは違い疲労の様子は窺えなかった。
「お疲れ様です、グリフィス君」
「グ、グリフィス准陸尉!」
そんなグリフィスに対し、キラは落ち着いて、ルキノは慌てた様子で敬礼をする。
「いいよルキノ、楽にして。八神部隊長の意向で、ここはそう言う部隊だから」
「は、はい」
グリフィスにそう言われ、楽な姿勢に戻るルキノ。
それを見ながら、隣のキラは口元に手を当て可笑しそうに笑う。
「ルキノはちょっと真面目過ぎるね。もう少し肩の力抜いた方が良いと思うよ」
「あ、えっと……は、はい。努力します」
ルキノのそんな堅い返答に、今度は少し困った様子で笑うキラ。
すると、その様子を見ていたグリフィスが少々厳しめな表情でキラを見る。
「そういうキラさんは力を抜き過ぎです。自分の部屋では無いんですから」
「あはは、ごめんね。ちょっと疲れちゃって……」
そう言ってぐったりしていた姿勢を正すキラ。
そして、液晶モニターを操作し、自分が処理していた情報のデータを整理し、グリフィスに見せる。
「一応、区切りの良いところまでは終わらせました。計測データに未記録の部分があったのでログを拾い直してあります。あと、フェイトさんに渡す捜査資料もまとめてあるので、こちらも確認をお願い出来ますか?」
「了解しました。すみません、通常の業務に加え、八神部隊長やフェイト執務官の補佐まで任せっきりで……」
「ううん、自分で選んだ仕事だから。グリフィス君こそ、副官の仕事大変でしょう。大丈夫?」
「はい。ここのスタッフは新人が多いですけど、みんな優秀ですから」
そう言ってグリフィスは、キラの隣で緊張た面持ちを浮かべるルキノに視線を移す。
「ルキノも今日はありがとう。キラさんの補佐は大変だっただろう?」
「あ、いえ!そんなことはっ……」
「隠さなくてもいいよ。この人の情報処理能力は人外染みてるから、着いていけないのが普通だ」
「そんな、人を化け物みたいに……」
「あ、あははは……」
グリフィスの冗談に笑いつつ、その例えには同感せざるを得ないルキノ。
今日一日のキラの仕事ぶりを見れば、誰でもそう思うだろう。
だが、さすがのキラも今日の仕事量には慣れていないらしく、こうしている今も表情に疲労の色が隠せないでいる。
「えっと……キラさんはこの後自由待機時間(オフタイム)ですよね?」
そんなキラを気遣い、ルキノは確認するようにそう訊ねた。
それに対し、キラは少し申し訳なさそうな笑顔で応える。
「うん。悪いんだけど、後はお願いして良いかな?」
「はい、任せてください!」
そんなキラの不安を払拭するように、ルキノは力強く応える。
「引き継ぎはルキノから受け取っておきますから、キラさんはゆっくり休んでください」
そんなルキノの言葉に、グリフィスもそう付け加える。
「うん。ありがとう」
そんな頼もしい部下と上司の言葉を背に、キラはオフィスルームを後にした。
◇
そうして一仕事終えたキラは、ようやく自分の部屋がある寮に帰ってきた訳だが、
「……………」
「……………」
「……………」
帰って早々、年頃の女の子二人が服を乱しながらくんずほぐれずもめ合ってるのを見て、思考が停止していた。
暫く膠着状態続いた後、ようやく我に帰ったキラは、大いに勘違いした様子で明後日の方向を見ながら言った。
「……………あ、ごめん。お邪魔だったかな?」
「違いますっ!」
「だ、大丈夫!六課の人達はみんな寛大だし、そういう偏見は持ってないと思うし!」
「だから違うってーーっ!」
「いや、それ以前に僕が黙っていれば良いのか。うん、約束する。このことは絶対誰にも言わないから」
「人の話を聞けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」
勝手に自己完結するキラに、もみ合っていた二人の内、オレンジ色の髪の方ーーティアナ・ランスターがキラへ魔力弾を放つ。
それを咄嗟に発動した簡易防御魔法で防ぐキラ。
大した威力は無かったが、その優秀な生成速度と魔力制御に、キラは関心した表情を浮かべる。
「凄いね、デバイス無しでよくここまで……」
「あ、はい。それほどでも………ってじゃなくてっ!」
キラの思いがけない言葉に思わず恐縮するティアナ。
すると、今まで黙り混んでいたもう一人の少女ーース バルが不意に立ち上がり、
「キラ・ヤマト……さん?」
ティアナの言葉を遮って、キラの名前を呼んだ。
「えっ?」
自分の名前を呼ぶスバルの姿に、キラの脳裏にあの大規模火災の記憶が甦る。
「君は、この間の……」
ようやく思い出したスバルの姿に、キラは驚きの表情を浮かべる。
すると、同時にティアナのことも思い出した様子で、改めて向き直る。
「ってことは君は、あの時のガンナーか」
そんなキラとスバルに毒気を抜かれたティアナも、小さく溜め息を吐くと落ち着きを取り戻す。
そして改めてキラを見ると、少々ばつが悪そうにこう言った。
「あの時は、その……助かりました。ありがとうございました」
「ううん。当たり前のことをしただけだし」
明後日の方向を見ながら礼を述べるティアナに、苦笑しつつもそう応えるキラ。
そしてその隣のスバルに視線を移すと、彼女は何か言いたげな表情を浮かべるも押し黙ってしまった。
「ちょっとスバル。何黙ってんのよ」
そんなスバルの様子に、ティアナは声を潜めてそう訊ねる。
するとスバルは泣きそうな表情をティアナに向けると、
(どうしようティア!何から話せばいいのかわかんないよ!)
と、念話で泣き言を漏らした。
それに若干の苛立ちを覚えたティアナは、おもむろに手を振り上げると、そのまま勢いよくスバルの背中を叩いた。
「ッ、キャアッ!?」
叩かれた勢いのままキラの前に躍り出た形となるスバル。
(アンタみたいなタイプは変に考えたって無駄よ!思ってることを素直に言葉にすればいいの!)
そんなスバルの耳に、ティアナからの叱責が念話で届く。
それを受けたスバルは、顔だけ振り返ると不満そうな表情をティアナに向ける。
(む~っ、だからって叩かなくても……)
(アンタが焦れったくへたれるからでしょ。なのはさんの時みたいに伝えればいいのよ。待っててあげるから早くしなさい)
スバルの不満の声にそう返すと、ティアナはそっぽを向いて視線から逃れた。
その態度に不満は残るが、こうなってしまえば逆に覚悟も決まってしまう。
意を決してキラの方へ向き直ると、その目を真っ直ぐに見つめる。
「えっと……なに、かな?」
そんなスバルにキラは首を傾げ、少々戸惑った様子でそう訊ねた。
するとスバルは、まるで仇敵に挑みかかるような勇ましい表情で口を開いた。
「あの!私、スバル・ナカジマって言います!所属はフォワードのスターズ分隊で、ポジションはフロントアタッカーです!」
「う、うん。なのはさんから聞いて、一応知ってるよ。よろしくね、スバル」
「あ、はい……よろしく、です」
「…………」
「…………」
「えっと……」
「あ、いや!そうじゃなくって!」
(気合いが空回りしたのか、それともただのバカなのか、どっちなのスバル?)
念話越しに聞こえるティアナの呆れた声に、がっくりと項垂れるスバル。
「あの、スバル?あの火災事故でのことだったら、気にしなくてもいいよ。ていうか、勝手に居なくなっちゃってむしろごめん、って感じだし」
そんなスバルの様子からある程度心中を察したのか、キラはそう言いながら微笑みを浮かべる。
そんなキラの言葉に、スバルは項垂れていた頭を勢いよく上げる。
「違う!違うんです!私がキラさんに助けられたのは、あれが初めてじゃないんです!」
「……えっ?」
スバルの予想外の言葉に、キラは驚きの表情を浮かべる。
思わず告げたかった事実を口にしてしまったスバルは、一瞬躊躇うような表情を浮かべる。
だが、今度こそ意を決し、再度口を開く。
「キラさんは覚えてないかもしれませんけど……四年前、ミッド北部の空港で起きた火災事故に、私巻き込まれて……その時助けてくれたのが、なのはさんと……」
そこまで言うと言葉を切り、物言いたげな表情でキラを見つめるスバル。
その瞳が、言葉の続きを物語っていた。
「ーーッ!じゃあ、君はあの時の!」
そこでようやくキラは、あの空港火災で自分が助けた女の子がスバルだったことに気付く。
「……そっか。言われてみれば、確かに面影があるね」
そう言うとキラは優しく微笑み、スバルの頭へと手を伸ばす。
それを黙って受け入れるスバルの口元にも、自然と笑みが浮かんだ。
「あの……私、ずっとお礼が言いたくて。でも、あの時意識が朦朧としてたから……キラさんの顔と名前、覚えてなくて……」
スバルの四年間の思いが込められた言葉に、キラは黙って耳を傾ける。
徐々に涙混じりになるその声は、自然とキラの心を温かくしていた。
「なのに、またキラさんに助けられて……また、お礼を言い損ねて……だからっ、こうしてまた会えて、ホントにすっごく嬉しいです!」
「うん。僕も、また会えて嬉しいよ、スバル」
お互いに微笑み会うキラとスバル。
そんな二人の様子を後ろから見守るティアナの口元にも、自然と優しい笑みが浮かんでいた。
「今まで助けてくれて…ありがとうございます、キラさん」
「……うん、どういたしまして」
こうして二人は、二度目にしてようやく、本当の意味での再会を果たしたのだった。