魔法戦士リリカルSEED Strikers 作:ぬらりひょん
キラとスバルが救助された後、火災は直ぐに鎮静化された。
広範囲に燃え盛っていた炎が一瞬にして凍結し、鎮火されたのだ。
それも、空港ごとである。
あまりに常識はずれの現象に、記憶喪失であることすら忘れて混乱するキラ。
人が空を飛び、ビーム兵器に似た光線で天井を破壊し、大規模火災を現場ごと凍結させて鎮火させる。
キラの記憶にある世界ではおとぎ話の中でしかあり得ない出来事だが、実際目の当たりにしたからには認めざるを得ない。
「これが……魔法」
そう、魔法だ。
今、キラがいるこの世界には、魔力素があり、それを用いた魔法という名の技術が確かに存在している。
これは、キラが知らない技術。キラの世界には無かった技術。
つまり、この世界はキラがいた世界とは異なる世界。
「僕の記憶に無い、魔法が存在する世界……ってことは」
「そう。ここは君がいた世界とは違う、異世界ってことになるね」
「ッ!?」
突然聞こえてきた声に思考が止まる。
声がした方を振り返ると、服装こそ違うものの、見覚えのある少女の姿があった。
「なのは…さん」
「うん、遅くなってごめんね、キラ君」
高町なのは。
この世界を管理する時空管理局に所属する魔導士であり、キラの命の恩人でもある。
現在キラは、ミッドチルダの地上部隊、陸上警備隊104部隊に身柄を保護され、その本部に来ているのだが、そうなるよう手配してくれたのがなのはなのだ。
正確には、なのはの知り合いが取り計らってくれたらしいが、詳しい事情はキラには知らされていない。
キラが知っていることは、今の自分が次元漂流者と呼ばれる、所謂異世界から来た漂流者であり、時空管理局に頼る以外選択肢が無いということだ。
「まだ、混乱してるみたいだね」
「それは…そうですよ。現状は理解はしましたけど、そう簡単には受け入れられません」
「にゃはは、だよね~。いきなり魔法だとか異世界だとか言われても、納得出来ないよね」
苦笑するなのはに、キラも同じような笑みを浮かべて応える。
「でも、なのはさんには感謝してます。命を助けてもらった上に、保護するように掛け合ってまでくれて」
「まぁ、それも私達管理員の仕事だからね」
そう言って、キラの正面に腰掛けるなのは。
二人がいるのは陸上警備隊104部隊本部のゲストルームなのだが、そこには二人以外に人はいない。
本来であれば部隊長と今後について話し合っているはずなのだが、火災の事後処理で忙しく、未だに現場から離れられないらしい。
そこで、休暇中たまたま災害現場に居合わせ救助活動に参加し、キラを助けた張本人てもあるなのはが、キラへの対応を引き受けたのだ。
「さて、それじゃ何から話そうかな。キラ君は何か聞きたいことある?」
「いえ。正直、何から聞けば良いのかすらわからない状態なので」
「そっか。それじゃ順をおって話していくね」
そうして語られた内容は、やはりキラの記憶には無いものばかりだった。
この世界には、大きく分けて二種類の世界がある。
ここミッドチルダのように魔法文化が発達しており、時空管理局の管理下にある次元世界。
それに対し、魔法という文化が存在せず、次元を渡る能力を持たない管理外世界。
基本的に、管理外世界の人間が次元世界に関わりを持つことはない。
管理外世界に対し不可侵とすることが管理局法で定められているからだ。
ただし、例外もある。
管理外世界の人間が、次元震という次元規模の災害に巻き込まれて、次元世界に漂流してしまう場合がある。
そういった境遇の人間を次元漂流者と呼ぶ。
キラもこの次元漂流者に該当するわけだが、ここまで説明を受けてキラの脳裏に疑問が浮かんだ。
「次元漂流者って、みんな記憶を失っているんですか?」
「ううん、そんなことないよ。むしろ記憶を失っているケースの方が稀だと思う。少なくとも私は見たことないな」
「そう…ですか」
なのはの答えに、キラは表情を強張らせる。
記憶を失ったのが次元震のせいではないとなると、キラの記憶はもとの世界で記憶を失われたということになる。
「記憶を失った直後に次元規模の災害に巻き込まれて異世界に漂流って……どれだけ不幸なんだ僕は」
「にゃ、にゃはは……」
自らの不幸に顔を青くするキラに、苦笑を浮かべるなのは。
だが、キラが置かれている現状が笑い事ではないのは確かだ。
「大丈夫だよ」
落ち込む肩に手を置き、温もりを感じさせる声色でそう言うと、なのはは優しく微笑みかける。
「もとの世界の記憶が知識として残ってるなら、直ぐに探し出せると思う。ううん、必ず探し出してみせるよ。だから、心配しないで」
「なのは…さん」
その笑顔に、キラの表情が和らぐ。
思えば、この世界に来てからと言うもの、なのはには助けられてばかりだった。
恩返しがしたいと思うが、生憎今のキラは記憶喪失且つ次元漂流者だ。
「本当に…ありがとうございます、なのはさん」
出来ることなど、こうして感謝の気持ちを直接伝える事くらいしかない。
「……うん、どういたしましてっ、なの!」
それでも、なのはは本当に嬉しそうな笑顔を浮かべて応えた。
(こんなに喜んでもらえるなら、捨てたものじゃないな)
先程まであった不安すら忘れてそう思うキラ。
能天気な自分の思考を、今は素直にありがたいと感じた。
「何や良い雰囲気のとこ悪いんやけど、話進めてもらってえぇかな?」
「にゃっ!?」
「うわっ!?」
突如割り込んできた少女の声に、二人揃って裏返った声を上げるキラとなのは。
慌てて声のした方を振り返ると、なのはとは違う制服を着た少女が、にやけ顔で二人の様子を伺っていた。
「は、はやてちゃん!?」
「お疲れ様なのはちゃん。仕事片付いたから様子見に来たんやけど、お邪魔だった?」
「そんなんじゃありませんっ。まったくもう」
からかう少女に対し、呆れた様子で応えるなのは。
いまいち状況の掴めないキラはきょとんとするばかりだ。
「あの、この人は…?」
「あ、ごめんねキラ君。えっと、この人は八神はやて一等陸尉。時空管理局の特別捜査官で、私の親友なんだ」
「ま、今はこの部隊で指揮官研修中やけどね」
なのはに紹介され、少女ーー八神はやてはキラの前に出て握手を求める。
「八神はやて言います。仲良くしたってな、キラ・ヤマト君」
「あ、はい!よろしくお願いします」
差し出された手を握り返し、握手に応えるキラ。
と、名乗った覚えがないにも関わらず名前を呼ばれたことに首を傾げる。
それに気付いたはやては親しみやすい笑みを浮かべて応える。
「君のことはなのはちゃんから聞いてたんよ。女の子助ける為に結構な無茶した記憶喪失の男の子がおるって部隊内でも話題になっとったし」
「そ、そうなんですか?」
「うん。境遇が境遇やしね。記憶喪失の次元漂流者なんて滅多に聞かへんから」
はやての言葉に、改めて自分の境遇がミッドチルダでも珍しいことを自覚するキラ。
となると、はやてがここに来た理由にも大体の予想がついた。
「あの、それで、八神さんは……」
「あ、そうやった。なのはちゃん、キラ君にはどこまで話しとるん?」
「この世界については大まかにだけど説明したよ。これからキラ君がいた世界について話してもらおうと思ってたところ」
「ならグッドタイミングやったな。特別捜査官として、私も話を聞かせてもらいたいんやけど、えぇかな?」
親しみやすい笑顔のまま、それでも管理局の捜査官としての顔つきになってそうたずねるはやて。
「……わかりました」
こうなることを予想していたキラは、特に驚きもせずそれを了承する。
キラは次元漂流者の中でも珍しい境遇だ。
そんなキラが事件に関与してるとなれば、管理局の特別捜査官として見過ごせるはざもない。
「ごめんな。気を悪くせんといて……って私が言うのもおかしいとは思うけど」
「いえ、大丈夫です。それが…えっと、八神陸尉の仕事なんですから、気にしないでください」
はやてに理解を示すように応えるキラ。
まだ出会ったばかりではあるが、キラははやてをある程度信用出来る人間だと判断していた。
というより、今のキラの状況下では彼女達を信用する以外に選択肢はないのだが。
「えっと……それじゃ、はじめますね」
そうしてキラは話し始める。
遺伝子操作により生まれた新たなる種族、コーディネーター。
その誕生と、戦争の歴史を。