魔法戦士リリカルSEED Strikers 作:ぬらりひょん
新暦○○七五年 五月
遺失物管理部『機動六課』本部隊舎
「それじゃキラくん、後はよろしくな」
「会談はお昼過ぎまでかかるから、戻るのは夕方頃になると思う」
「はい、任せてください。八神部隊長、フェイトさん」
機動六課隊舎の駐車場付近。
そこに、一台の黒塗りの車とキラの姿があった。
車の車内には、各々の制服に身を包んだはやてとフェイトが同乗している。
ちなみに、運転席にフェイトが、助手席にはやてが乗っており、この車自体もフェイトの愛車である。
二人はこれから聖王教会本部にて、教会騎士団のカリム・グラシアとの会談を控えていた。
その為、フェイトが車を出し、はやてを送り届けることになったのだ。
すると、不意に助手席側の窓からはやてが顔を出した。
「今日でキラくんの仕事も一通り片付くやろ。明日からは訓練に参加するん?」
そう言って首を傾げるはやては、どこか申し訳なさそうな表情を浮かべている。
というのも、本来キラはもう少し早くフォワードの訓練に参加するはずだったのだ。
だが、キラが自分の仕事の他にフェイトの補佐、加えて新人達の新しいデバイスの設計も引き受けてしまった為、当初の予定からだいぶ遅れてしまっていた。
もちろん、はやてやフェイトはキラに対し「ここまでする必要はない」と断ってはいたのだが、キラ自身が頑なに手伝おうとするので、とうとうはやて達が折れる結果となった。
「はい、そのつもりです。新人達の訓練も、先日最低限の基礎は終えたそうですから」
そんなはやてとフェイトの気持ちを察してか、キラは二人を安心させるようにそう応える。
「ん、そか」
キラのその言葉に、安心したように微笑むはやて。
続けて、ふと思い出したような表情でこう訊ねる。
「そういえば、確かなのはちゃんから直々に教えてもらうんは久し振りやったな。楽しみなんちゃう?」
「えっと……正直、期待と不安が半々、って感じです。最近デスクワークばかりでしたから」
「あぁそれもそっか。大丈夫なん?」
「えぇ、まぁ多分」
心配するはやてに対し、曖昧に応えながら苦笑を浮かべるキラ。
そのあまりの頼りなさに、はやてだけではなくその隣のフェイトまでもが不安げな表情になる。
「キラ、本当に大丈夫?何なら私の補佐は暫くお休みしても……」
「だ、大丈夫ですって。八神部隊長はともかく、フェイトさんは心配し過ぎです。少しは自分の部下は信用してください」
「うん。信用はしてるんだけど……」
キラの言葉に頷くも、未だ不安を払拭出来ないフェイト。
元々が心配性且つ過保護なだけに、その不安ははやて以上のようだ。
と、そんな時だった。
陸戦用空間シミュレーターの方から、訓練を終えたなのはとフォワードの四人が、こちらに向かって歩いて来るのが見えた。
すると、向こうもキラ達に気付いたようで、途中から駆け足になる。
「お疲れ様です!キラさん、フェイトさん、八神部隊長」
真っ先に駆けつけたフォワード四人は、各々が元気よく挨拶を済ませると、フェイトの車を見て歓声をあげている。
それらを代表して、スバルが目を輝かせながらフェイトに訊ねた。
「すご~い!これ、フェイトさんの車なんですか?」
「うん、陸上での移動手段なんだ」
スバルの問いに微笑みながら応えるフェイト。
横目でキラの様子を気にかけるが、これ以上の心配は無粋だと感じたのか自然と視線を逸らした。
「お疲れ様、みんな。訓練の方はどないや?」
すると、助手席に座っているはやてが、汚れた四人の訓練服を見ながらそう訊ねる。
「あ〜、えと……」
「が、頑張ってます」
はやての質問に対し言い淀むスバルに代わり、ティアナが苦笑混じりに応えた。
他三人も似たような表情を浮かべていることから、各々が厳しい訓練を必死に乗り切っているのが見てとれる。
そんなフォワード達の様子に、はやては満足そうに頷く。
そんなはやての隣のフェイトは、自分が分隊長を務めるライトニング分隊のエリオとキャロの様子が気にかかるようで、少し申し訳なさそうな表情で二人に話しかけていた。
「エリオ、キャロ、ごめんね。私は二人の隊長なのに、あんまり見てあげられなくて……」
そう言って、困ったような表情を浮かべるフェイト。
面倒を見てあげたいのは山々なフェイトなのだが、仕事柄中々顔を出せないのを気にしているようだった。
そんなフェイトを安心させる様に、エリオとキャロは笑顔を浮かべる。
「いえ、仕方ないですよ」
「私達なら大丈夫です!」
そう言うと二人は、傍らに立っていたキラの両側に立つと、嬉しそうな表情をフェイトに向ける。
「なのはさんがしっかり教導してくれますし、それにキラさんも、空いた時間を使ってたまに自主練習に付き合ってくれるんです」
「私も、補助系魔法の効率の良い運用の仕方等を丁寧に教えていただいて、凄く助かってます」
「え、そうなの?」
そんな二人の言葉に驚き、それを確かめるようにキラへと視線を向けるフェイト。
するとキラは少し照れ臭そうに微笑むと、頬を掻きながら応えた。
「えっと、その……二人とは何度か会ってましたし。それに、六課に入隊したとは言え、僕もフェイトさんの部下ですから……」
「ん……そっか。ありがとう、キラ」
そう言って、嬉しそうに微笑むフェイト。
自分へと向けられるその笑顔に、キラは思わず照れたように視線を逸らす。
すると、その様子を傍から見ていたスバルが、気軽な口調でライトニングの二人に訊ねた。
「そっか。エリオとキャロもキラさんと顔見知りなんだっけ?」
「はい!僕は、フェイトさんの仕事を手伝った時に、色々お世話になりました!」
「私は、フェイトさんが仕事で忙しくて会いに来れなかった時に代わりに来てくれたりとか……後、自然保護隊との共同捜査で一緒にお仕事したりとか」
スバルの問いに、二人は揃って笑顔でそう返す。
それに付け加えるように、キラが続ける。
「そんなに大したことはしてないし、出来ないんだけどね。二人とも、フェイトさんの大切な子だから、出来る限りのことはしてあげたいんだ」
そう言いながらキラは二人の頭に手を伸ばし、優しく撫でる。
それを嬉しそうな表情で受け入れるエリオとキャロ。
そんな三人の様子を助手席から眺めていたはやては、思わず表情を綻ばせる。
「仲睦まじいなぁ。まるで兄弟みたいや」
「う、うん……そうだね」
はやての言葉に同意するフェイトだったが、その声はどこか浮かない様子だった。
その妙な反応に首を傾げ、フェイトの顔に視線を向ける。
そこには、三人の様子を複雑そうな表情で眺めるフェイトの姿があった。
その様子を見たはやての口元に、自然と意地悪な笑みが浮かぶ。
「……なんやフェイトちゃん、もしかして嫉妬か?」
「~~~ッッ!?ち、違っ!」
「その反応は図星やな。エリオとキャロがキラくんに盗られると思って不安なんやろ?」
「ーーッ!もう、はやてっ!二人の前でそんなっ……ハッ!」
気付いた時には遅かった。
見ると、その場にいる全員がフェイトの真っ赤に染まった顔を見て、ほのぼのとした笑みを浮かべていた。
「フェイトさんって、以外と子供っぽいところもあるのね……」
「あはは、フェイトさん可愛いね~」
「はい!」
「そういうところも大好きです」
「まぁ、フェイトちゃんはあぁ見えて負けず嫌いなところもあるからね~」
「あぁ、言われてみれば確かに……」
「~~~ッ!もうっ、みんな今のは忘れて!」
全員の反応により一層顔を真っ赤にしたフェイトは、珍しく大きな声を挙げると、それっきり顔を背けて押し黙ってしまう。
そんなフェイトを見て流石に気の毒に思ったのか、なのはが気を取り直してはやてへと向き直る。
「それはさておき……四人とも良い感じで育ってきてるよ。いつ出動になっても大丈夫」
会話を切り替え、改めてフォワード全員を評価してそう言うなのは。
するとはやては、「それは頼もしい」と上機嫌に微笑む。
フォワードの四人も、教官であるなのはに高く評価された事が嬉しいのか、各々が照れたような笑みを浮かべる。
「ところで、二人はどこかにお出掛け?」
続けて、なのはがはやてとフェイトにそう訊ねる。
その問いに、ようやく顔の熱が冷めてきたフェイトが応える。
「う、うん。ちょっと六番ポートまで」
「教会本部でカリムと会談や。夕方には戻るよ」
そんなフェイトに続き、はやてがそう捕捉する。
機動六課のある中央区画から聖王教会があるミッドチルダ北部まではそれなりに距離がある。
会談の時間も合わせると、夕方までかかっても仕方がない。
「私はお昼には戻るから、お昼ご飯は皆で一緒に食べようか?」
すっかりいつもの調子に戻ったフェイトが、微笑みながら自然な口調でそう提案する。
すると、フォワード一同の……特にエリオとキャロの顔が輝き、揃って「はい!」と元気よくそれに応えた。
その微笑ましい様子に、傍らのキラもついくすりと可笑しそうに笑ってしまう。
と、おもむろに時間を確認したキラは、少々名残ましそうにしながらも仕事の顔に切り替わる。
「それじゃ、僕は仕事が残ってるのでこれで」
キラは全員に向けてそう告げると、敬礼をして隊舎の方へ歩いて行く。
それを受けて、フェイトとはやても改めて時間を確認すると、少々驚いた表情を浮かべる。
どうやら、思っていたよりも長く話し過ぎていたようだった。
「それじゃ、私達もそろそろ行かないと」
「うん、そやね。ほなまたな、みんな。訓練頑張ってや」
「はい!お疲れ様です!」
なのはと一同フェイトが運転する車は走り出し、一同はそれを敬礼で見送った。
「それじゃ、私達も行こっか。寮でシャワーを浴びたらロビーに集合だよ」
「はいっ!」
車が見えなくなるまで見送った後、なのはが改めてフォワード達に向けてそう告げる。
それに対し、四人は元気よく返答し、足早に寮へと向かい歩いて行く。
その様子を後ろから見つめながら、なのはは微笑ましく笑みを浮かべていた。
◇
その後、寮でシャワーを浴び、ロビーで待機していたフォワードメンバーを迎えにきたのは、シャーリーとリィンの二人だった。
そんな二人に連れてこられた場所は、デバイスの修理や整備・設計・開発を行う専用のラボだ。
最新機具の数々や、様々な状況を映像として伝えてくれるモニターに、整備したデバイスの仕上がり具合を確かめるために作られた別室等、充実した内装と設備を兼ね備えている。
「さて、なのはさんが来る前に、君たちには見せたい物が有ります」
そう言ってシャリオは、この部屋の中央に位置する台座まで歩み寄る。
そして踵を返すと、既に整列しているフォワード陣に彼女らしい親しみのある笑みを向けた。
そのすぐ横には、同じく笑みを浮かべたリインフォースが滞空している。
「本来ならなのはさんがいる中で渡したかったのですが、まあその辺は色々あったので仕方ないとして……」
そう言って笑うリインフォースは、隣にいるシャリオとアイコンタクトを取って互いに頷き、更にこう続ける。
「じゃじゃ~ん!全員、台の上に注目ですぅ!」
少々はしゃぎ気味にそう言うリィンフォース。
すると、その隣にいるシャリオと共に、台座の上を見せるよう左右へとずれた。
そして、これまでシャーリーの影に隠れて見えなかった物が露わとなる。
「これは……」
それを見たフォワード陣は驚きに目を見開き、代表するようにスバルが言葉を漏らした。
台座の上に置かれていた物とは、其々異なった形をした、待機状態のデバイス達であった。
カード。ネックレス。腕時計。そして、二対のブレスレット型。
各々異なった形をした計四つのデバイスが、まるで主を待ち兼ねていたかのように並べられていた。
その様子を見ていたリインフォースが、エリオとキャロに台座の前に出るよう促すと、二人はそれに従い自分の物と思わしきデバイスを各々手に取る。
「お二人はちゃんとしたデバイスの使用経験が無かったみたいなので、これまでは基礎フレームと最低限の機能だけが搭載された物を渡していましたが、これからは、その六課の前線メンバーとメカニックスタッフが技術と経験の粋を集めて完成させた最新型を使ってもらうです!」
「あれで最低限……」
「綺麗……」
リィンフォースの言葉に、エリオは驚いた様子で手の中にある待機状態のストラーダを見つめる。
そして、その隣に立っているキャロの両手の上にも、待機状態のケリュケイオンが置かれている。
二人の前で自慢げな表情をしているリインフォースによると、一見すると以前と変わらない二人のデバイスだが、その性能は比較にならない程の高さを秘められているらしい。
「ほら、二人も手に取って見て。ネックレス型のがスバルので、カード型のがティアナのね」
「はい……」
エリオ達にに続き、今度はスバルとティアナの二人が、シャーリーに促され自身のデバイスを手に取った。
「もともと、六課に入ってくる君たちには訓練の進行具合で、この実戦用の新デバイスに切り替えてもらう予定だったから、今回の故障は丁度いいタイミングだったのかもね」
シャーリーの言う通り、スバルとティアナのデバイスは、先程の訓練で限界を迎えてしまっていた。
それを良い切っ掛けと見たなのはが、訓練用から実戦用のデバイスに切り替える時期だと判断したのだ。
「これが、私の新しいデバイス……」
ティアナは、手に取ったカード型のデバイスに向けて感慨深げにそう呟く。
一方のスバルも、感動した様子で自身のデバイスを見つめていた。
その様子に、設計者であるシャリオは満足した様子で頷くと、こう続ける。
「設計主任は私。協力はなのはさん、フェイトさん、レイジングハートにリイン曹長。あと、みんなの魔力量、運用性、制御率、圧縮率等の計測データを元に、キラくんが各々のデバイスの調整に手を加えているの」
そう言ってシャーリーは、四人の手の中にあるデバイス達を代わる代わる見つめ、嬉しそうに笑みを浮かべる。
「その子達は、どれも部隊の目的とあなた達の個性や特性に合わせて開発されたものだから、文句なしの最高の機体よ」
そのシャーリーの言葉に、今度はリィンフォースが慈愛に満ちた笑顔を浮かべてこう続ける。
「それに、その子達はまだ生まれたばかりの機体ですが、色んな人の願いや思いが込められてて、一杯時間をかけて作られた物ですから。ただの武器や道具だとは思わないで、大切に……だけど、性能の限界まで思いっ切り使ってあげて欲し いです!」
「この子たちも、きっとそれを望んでいるから」
まるで、自慢の我が子を預ける親の様に、スバル達に渡したデバイスについてそう語るシャーリーとリィンフォース。
そんな二人の思いを汲み取り、フォワードの四人は力強く頷いた。
すると、
「……ん?あれって……」
ふとエリオが首を傾げ、シャーリーの後ろにある培養機のような物を見つめる。
「あ、エリオも気付いた?私も気になってたんだけど……」
そんなエリオの様子にスバルが気付き、同じく培養機を見つめる。
その中には一機の待機状態のデバイスが入れられている。
「あ、これ?」
そんな二人の様子に気付いたシャーリーは、その培養機が見えやすくなるよう横に移動する。
そうして露となったそのデバイスは、何の変鉄もない普通の無骨なストレージデバイスのようだった。
「あの、それはどなたのデバイスなんですか?」
「見た感じ、私達のとは違ってインテリジェントじゃないみたいですけど……」
「……あー、えっと、これはねぇ」
少々興味を惹かれたのか、今度はキャロとティアナがシャーリーにそう訊ねる。
するとシャーリーは、少し困ったような、だがどこか嬉しそうな表情を浮かべると、培養機の中のデバイスを見つめながらこう続けた。
「何だかんだ言って心配性な師匠から、無茶ばかりする弟子への贈り物……かな?」
そう言って、培養機の下部に書かれた文字を指でなぞるシャーリー。
そこには、このデバイスの名称らしきものがこう書かれていた。
「ね、F4U」
Freedom for you.