魔法戦士リリカルSEED Strikers 作:ぬらりひょん
一週間前。
機動六課隊舎内デバイスルーム。
そこに、機動六課のメカニック主任にしてデバイス担当、シャリオ・フィオーニの姿があった。
休み返上でフォワード四名の新しいデバイスの製作に取りかかっていたシャーリーは、朝早い時間から休憩も取らずに働きづめだったのだが、ここにきてようやく区切りの良いところまで作業を終え、一息入れようとしていた。
するとそこへ、タイミング良くデバイスルームの扉が開くと、リィンフォースⅡが入室して来た。
「お疲れ様ですシャーリー!一緒にお昼にするですよー!」
「あ、リィン曹長!」
人懐っこい笑顔で近付いてくるリィンフォースⅡに、シャーリーも同じ笑顔で返す。
少し無理をしている自覚のあったシャーリーだったが、リィンフォースの無邪気な笑顔を見ると、不思議と疲れが和らぐような気がした。
そんな気持ちを知ってか知らずか、リィンフォースⅡはその笑顔を今度はシャーリーが製作中のデバイス達に向けると、顔を輝かせてこう訊ねた。
「デバイスたちの調整ですか?」
「……はい」
リィンフォースⅡの質問にそう応えると、シャーリーも製作中のデバイス達に視線を移す。
培養機の中にあるその四つのデバイスは、どれも一目見ただけだと完成間近のように見えた。
「そろそろ完成ですか?」
リィンフォースⅡの目から見てもそのように見えたのか、小首を傾げてそうシャーリーに訊ねる。
だが、シャーリーは少し困ったような表情を浮かべてこう応えた。
「マッハキャリバーがちょっと手こずってます。スバルのオリジナル魔法『ウィングロード』。あれをこの子からも発動できるようにしたいんですが……」
そこまで言うとシャーリーは肩を落とし、恨めしげに培養機の中のマッハキャリバーを見つめる。
「それがもーっ、難しくって~~!」
駄々をこねる子供のようなその様子に、シャーリーは納得したような表情を浮かべる。
「あーなるほど。ウィングロードは完全に先天系の魔法ですし、術式も普通とはかなり違うんですよねぇ」
「はい。だからスバルの相棒になるマッハキャリバーが一番難しい子なんですが……」
そこまで言うと、シャーリーは落ちていた顔を上げる。
そこには、一転して強気な笑みが浮かんでいた。
「その分やりがいがある……ですよね?」
その笑みを見たリィンフォースⅡが、見透かしたようにそう訊ねる。
「ご名答!」
それに対し、シャーリーは今日一番の笑顔で応えた。
その様子から、彼女の技術者としての自信と、デバイスへの愛の深さが窺える。
「さっすがシャーリーですぅ!けど、無理はしないでくださいね?」
そんなシャーリーを頼もしく思いながらも、そのオーバーワーク気味な様子に心配を隠せないリィンフォースⅡ。
そんな彼女の心配に対し、シャーリーは思わず苦笑を浮かべた。
「そうは言っても、すぐ近くに自分より無理をしてる人達がいますからね~」
「あ、あはは。まぁ、それもそうですね~」
そう言って二人が思い浮かべたのは、曲者の部隊長と、機動六課が誇る最強の隊長陣……そして、
「キラさん、ですね」
「はい。最近はろくに休憩も取らず働きっぱなしですから……正直、たまに人間かどうか疑わしくなります」
二人して呆れたような、だがどこか感心したような表情を浮かべて、今も正に馬車馬のごとく働いているであろう青年の姿を思い浮かべる。
「まぁそれでも、キラさんはキラさんです。シャーリーはあの人ほど頑丈ではないんですから、無理は禁物ですよ?」
「……はい、わかりました」
リィンフォースⅡの言葉に今度は素直に頷くシャーリー。
実際、自分がキラと同じ真似が出来るとは思っていなかった。
それでも、自分より優れている人間が、人一倍努力し、人一倍働いている姿を見せられては、自分も頑張らずにはいられないだろう。
(全く、ホント困っちゃうなぁ)
心の中でそう愚痴を溢すシャーリー。
だが、対照的にその表情は晴れやかなものだった。
と、そんな時、再びデバイスルームの扉が開いた。
直後に入室してきたのは、早朝訓練を終えたばかりのなのはだった。
「ごめんくださ~い。シャーリー、今大丈夫?……って、リィンもいたんだ。お疲れ様」
「はい!お疲れ様ですなのはさん!」
「なのはさん!お疲れ様です。大丈夫ですけど、どうしたんですか?」
なのはの突然の訪問に首を傾げるシャーリー。
普段のなのはであれば、早朝訓練後は軽い休憩を取った後、すぐに午後の訓練の準備に入るはずだ。
その為いつも午後の訓練が終了するまでは忙しく、この時間にデバイスルームに顔を出すのは珍しいことであった。
「うん。あのね、シャーリーにお願いしたいことがあってきたんだけど……」
そう言ってなのはがおもむろに取り出したのは、シャーリーにとっては見慣れた、一つの待機状態のデバイスだった。
「これを、強化・改修してほしいんだ。シャーリーなりのやり方で」
ストレージデバイス『S2U』。
現提督クロノ・ハラオウンからキラに託された、汎用型の万能デバイスである。
持ち主のキラが同じフェイトの執務官補佐だったこともあり、シャーリーは何度かメンテナンスを請け負ったこともある。
その為、一から作り直す必要が無い分、強化・改修はそう難しくないのだが、問題はなぜそうする必要があるのか、だ。
「はぁ、それは全然構わないんですが……どうして、なのはさんがこれを?」
なのはからS2Uを受け取りながら、シャーリーは訊ねる。
「キラくんから預かったの。忙しくてメンテナンス出来ないって言ってたから。それで、改修する理由なんだけど……」
そこまで言うとなのはは液晶のモニターを操作し、とあるデータを見せる。
シャーリーとリィンフォースⅡは、なのはの両側からその液晶モニターに映るデータを覗き込んだ。
「これって……」
「シグナムとキラさんの模擬戦のデータ、です?」
そこにはリィンフォースⅡの言葉通り、先日の模擬戦時に計測された、シグナムとキラの各々の詳細なデータが記録されていた。
「そう。それで注目してもらいたいのは……ここ、なんだけど」
そう言ってなのはが指し示したのは、キラがフォトンランサー・ファランクスシフトを発動した際の計測データだ。
「ここの、キラくんの思考速度とS2Uの処理速度を見て、何か気付くことないかな?」
そう言われたシャーリーは、その二つのデータを見比べてみる。
直後、その異常に気が付いた。
「これ…って!?」
それに気付いたシャーリーは、信じられないといった様子で驚きに目を見開く。
同じように、リィンフォースⅡもまたその表情を驚愕に染めていた。
「そう。私も最初は信じられなかったんだけど……」
驚く二人に静かな口調でそう言うと、なのはは言葉を続ける。
その瞳は、その事実を受け入れても尚、驚きに揺れていた。
「キラくんの思考速度が、S2Uの処理速度に追い付いてきてる。このままだと、いずれデバイスの方が耐えきれなくなるよ」
◇
隊舎中に鳴り響いたアラートの音に、連日の勤務で辟易としていたキラの顔に緊張が走った。
隊舎の至る所に設置されていた赤いランプが点滅し、モニターの画面全てに『ALERT』という文字が表示されている。
この事態に、キラのみならず、司令部であるロングアーチのスタッフ全てに緊張が走る。
このアラート音は、“一級警戒態勢”と呼ばれる、非常事態を伝えるものだ。
機動六課にとって、初めての出動要請。
それも、任務内容はロストロギア『レリック』が関わる危険なもの。
となると、緊張するなという方が無理な相談だろう。
「各自、配置に着け!ロングアーチ03は情報の整理と報告を!ロングアーチ04はその補佐を!」
そんなスタッフ陣を奮い起たせるように、司令部内に響き渡る声で指示を飛ばすグリフィス。
「了解!」
「情報、来ました!未確認のレリックが貨物リニアレールに乗って移動中。そのレリックを狙ったガジェットドローンがリニアを占拠して制御不能に。確認済みの飛行型・大型の有無は不明ですが、その数は30以上であると予想出来ます!」
そんなグリフィスに応えるように、ロングアーチ03、04ーーアルト・クラエッタとキラ・ヤマトが素早く指示に従い、動き出す。
それに触発されるように、その他のロングアーチスタッフも各々の持ち場に着き、仕事に取りかかる。
するとそこへ通信が入り、モニター越しにロングアーチの指揮官、八神はやての顔が映し出された。
『こちらロングアーチ00、八神はやてや。みんな、もう配置に着いとるか?』
「こちらロングアーチ01。司令部は大丈夫です。全員配置に着きました。八神部隊長は今どちらに?」
『こっちは今聖王教会を出てそっちに向かってるところや。グリフィスくん、私が着くまで部隊の指揮を任せてもええか?』
「はい、問題ありません」
そこまで言うと、今度はグリフィスの補佐をするキラに視線を向けるはやて。
『キラくんは状況によって出動してもらうことになるかもしれへん。せやから、いつでも出られるよう準備しておいてな』
「……わかりました」
キラははやての指示に頷くと、処理した情報をアルト以下、管制と情報処理担当のスタッフ達に引き継ぎ、席を立つ。
「みんなごめん、後は任せる!」
「はい!」
「大丈夫です、任せて下さい!」
謝るキラに、ルキノとアルトが笑顔で応える。
その頼もしい同僚の姿に笑みを浮かべながら、キラは司令室を後にした。
それを確認したはやては、続けてロングアーチスタッ フ全員に向けて言葉を紡ぐ。
『みんな、初めての出動やからって気負うことはあらへん。機動六課のスタッフは、全員が私にとって自慢の人材や。自信もって、各々の仕事に取り組んでください!』
「はいっ!!」
はやての言葉に力強く応えるロングアーチスタッフ一 同。
それを受けたはやては誇らしげな笑顔を浮かべる。
その笑顔に、不安は微塵も感じられない。
自分の部下達に対する全幅の信頼と、事件解決への絶対の自信が窺えた。
こうして、機動六課にとって初めての出動ーーファーストアラートが始まった。
◇
レリック発見の知らせを受けたフォワード部隊は、大型運送ヘリに同乗し、最高速度で現場へと向かっていた。
ヘリの内部にある席に座る四人は、各々が新しいデバイスを握りながら、緊張した表情を浮かべている。
その中でも特に不安げな様子なのは、ライトニング分隊のキャロだ。
現場が近付くに連れその表情は更に強張り、何かに怯えるようにその小さな身体は震え出していた。
そんなキャロの隣に座るエリオは、その様子を心配そうに見つめており、そんな幼い二人の様子を、教導官であり隊長でもあるなのはは考える様な表情で見つめていた。
そうしている間にも、現場までの距離は残り数分という所まで近付いていた。
すると、緊張による沈黙を破るように、ロングアーチからヘリへと通信が入る。
『ガジェット反応! 空からです!』
『航空型、現地観測隊が補足!』
通信担当のアルトとルキノの声がヘリの内部に響く。
現場の状況が伝わるにつれ、ヘリの中の空気も一気に慌ただしくなっていき、緊張感も更に高まっていく。
その後もロングアーチから矢継ぎ早に現場付近に現れたガジェットの情報が届き、それに合わせてなのはとリインの表情も引き締まり、部隊長であるはやてと通信でやり取りを行う。
フォワードメンバーの四人は、その様子を固唾をのんで見守っている。
暫くして作戦を話し終えたのか、なのはは端末を閉じるとコックピットへ向けて声をかける。
「ヴァイス君、私も出るよ。フェイト隊長と二人で空を押さえる!」
「うっす、なのはさん。お願いします!」
そんななのはの言葉に答えたのは、機動六課専属のヘリパイロットであるヴァイス・グランセニック陸曹だ。
その後のやりとりで、現地に現れた航空型ガジェットの集団は、空戦可能ななのはとフェイトが担当する主旨が伝えられ、現地管制はリイン引き継ぐこととなった。
そしてなのはは、変わらず緊張した表情を浮かべる新人四人の方を向くと、安心させるように優しい微笑みを浮かべる。
「じゃ、ちょっと出てくるけど……皆も頑張って、ズ バッとやっつけちゃおう!」
なのはの言葉に、気合いの籠った声で応えるフォワード達。
だが、キャロだけは、
「は……はい」
と、不安と恐怖が入り交じった様子で、やや遅れて応えた。
そんなキャロの様子を見たなのはは、微笑みを浮かべながらキャロへと近付き、しゃがんで目線を合わせる。
そして今にも泣き出しそうな表情を浮かべるキャロの頬に優しく手を当てると、穏やかな口調で言葉を紡いだ。
「……大丈夫。離れていても、通信で繋がってる。一人 じゃないから、ピンチの時は助け合える。キャロの魔法は、皆を助けてあげられる優しくて強い魔法なんだから」
「あっ……はい!」
巨大な力を持つが故に、それ相応の不安と恐怖を抱え、今までの日々を過ごしてきたキャロ。
そんな彼女にとって、力を使わなければならない可能性のある実戦は、想像していた以上に苦しいものだった。
争い事を好まない優しい心を持つキャロにとって、自分が傷つく事以上に、 自分の力で仲間が傷つく事の方が怖かったのだ。
そんなキャロの抱える恐怖を理解していたなのはは、彼女に対し一人で戦う訳ではないと優しく諭す。
そのなのはの言葉は、キャロが胸のうちにずっと抱えていた恐怖を少しだけ溶かした。
「いい返事。それじゃあ、行ってくるね」
キャロのしっかりとした返事を受けたなのはは満足げに頷き、開いたハッチからその身を空に踊らせる。
かなりの高度を飛ぶヘリから落下しながら、なのはは空中でレイジングハートを展開する。
(キラくんのデバイスはまだ完成していない。だから最低限、空は私とフェイトちゃんの二人でしっかり押さえないと!)
バリアジャケットに身を包みながら、なのはは決意を新たに空中を飛ぶガジェットの集団に向って高速で空を駆ける。
「スターズ1、高町なのはっ……行きます!」
こうして、機動六課フォワード部隊の初陣が始まった。