魔法戦士リリカルSEED Strikers 作:ぬらりひょん
上空に群がる無数の航空型のガジェット・ドローン。
その一機一機が単独で高い戦闘力を持ち、並みの魔導士では、質量兵器による高い攻撃力とAMFによる強固な防御力を前に、全く歯が立たずに撃墜されることも珍しくない。
だが、
『Axle shooter.』
「シュートッ!」
「バルディッシュ!」
『Haken Saber.』
そんなガジェットが束になって襲い掛かろうとも、なのはとフェイトの二人を止めることは出来ない。
なのはの誘導弾とフェイトの中距離斬撃魔法が、複数のガジェットをまとめて撃破する。
同時にフェイトが前に出て敵を引き付け、なのはは後方で砲撃を撃つ準備に入る。
カートリッジが二回ロードされ、レイジングハートが通常のアクセルモードから砲撃用のバスターモードへと切り替わり、膨大な魔力が集束し始める。
(なのは、今っ)
十分に敵を引き付けたフェイトが、なのはに念話で合図を送ると、直後にその場から離脱し、距離を取った。
「オーケイ、フェイトちゃん!ディバイィィンッ……」
それを受けたなのはは、フェイトの陽動により一ヶ所に固まった複数のガジェットに狙いを定め、トリガーを引く。
「バスタアァァァァァァァァァッ!!」
『Divine Buster Extension.』
放たれたのは、桜色の膨大な魔力砲撃。
なのはの魔法の代名詞でもある、ディバインバスターのバリエーション、ディバインバスター・エクステンションだ。
その巨大な光に呑み込まれた複数のガジェットは、為す術もなく、一機も残らずに爆発した。
「相変わらず凄いね、なのはの砲撃は」
その様子を見ていたフェイトは、その威力を知っていながらも感心した様子でそう話しかけた。
「フェイトちゃんこそ、相変わらず凄く速い。タイミングもバッチリだったよ!」
対するなのはも、フェイトの速さに改めて感心したようだった。
そんな二人の活躍により、現場の上空は完全に制圧下にあった。
あの後、連絡を受けて駆けつけたフェイトと合流したなのはは、事件現場上空に出現した航空型ガジェット・ドローンの対応に当たっていた。
フォワードの四人の状況は、現場管制のリィンフォースを通じて把握していた。
現状を見る限り、四人とも順調に任務をこなしている。
教え子達の逞しい姿に胸を熱くしながら、なのはは目の前の敵を見据え、どこか安心したように笑みを浮かべた。
「敵の数もだいぶ減ってきたし、この調子なら大丈夫そうだね」
「うん………良かったね、なのは」
「え?」
フェイトの予想外の返事に、なのはは首を傾げる。
それを見たフェイトは、口許に小さく笑みを浮かべると穏やかな口調でこう続けた。
「だって、いつにもまして張り切ってたのは、フォワード達の初陣ってこともあるんだろうけど……キラに無茶させない為でもあるんでしょ?」
「うっ……」
フェイトに心中を見抜かれたなのはは、ばつが悪そうな表情で小さく呻いた。
いつもフェイトに過保護過ぎると注意していただけに、その動揺は大きい。
「私思うんだけど、なのはも表に出さないだけで結構過保護だよね」
「そ、そんなことないよ!第一、私が心配なのはキラくんのデバイスがまだ未完成だからであって……」
「それにしたって、キラに内緒で戦闘データを解析したり、デバイスの改修案を考えたり、ただでさえフォワード四人の教導で忙しいのに……」
「ちょ、ちょっと待って!なんでフェイトちゃんがそれ知ってるの!?」
「クロノから聞いたの。S2Uの改修の許可と改修案の相談をされたって」
「うっ…クロノくんめ~っ、内緒にしてって言ったのに~っ」
頬を若干朱色に染めながら、恨めしげな表情でそう言うなのは。
そんななのはの様子を、フェイトは微笑ましげに見つめている。
「まぁ、とりあえず……」
そこで一旦言葉を切るフェイト。
次の瞬間、
『Photon Lancer』
『Axle Shooter』
向かい合っていた二人が、何の前触れもなく互いに魔力弾を撃ち合った。
直後、二人の背後で同時に爆発が起こる。
爆発したのは、二人の背後から奇襲を仕掛けようとした航空型のガジェット二機だった。
「……今のは、今朝の仕返しってことで」
背後の爆発のことなど意に介さず、彼女にしては珍しい意地悪な笑顔を浮かべるフェイト。
対するなのはも、何事もなかったかのような様子で、頬を小さく膨らませて拗ねたような表情を浮かべる。
「むぅ……フェイトちゃんが意地悪だ」
『There is no way. Is what you asked for.(仕方ありません。自業自得です)』
「あっ、レイジングハートまで酷いよ~」
「あははっ」
まるで戦闘中だとは思えない和やかな雰囲気のなのはとフェイト。
それくらい、敵との力の差は歴然だった。
「なるほど。管理局のエースは伊達ではないということですね」
故に、その声と共に現れた青年と、その身に宿る大きな魔力反応は、二人の表情から余裕を根こそぎ奪っていった。
「なのはッ!」
「任せて!」
その瞬間、膨大な熱量を感じ取った二人は、一瞬で防御魔法を展開する。
直後、二人を強い衝撃が襲う。
展開された防御魔法越しにも、その威力の高さが伝わってきた。
「これは、質量兵器!?」
「うん、多分ミサイルかな。それも、幻術系の魔法で姿を見えなくしてる」
奇襲を防ぎ、即座に臨戦態勢に入るなのはとフェイト。
そして、改めて敵の姿を確認する。
その見た目から予想するに、歳は二人と同じかそれ以下と言ったところだろう。
癖のある薄い緑色の髪に、中性的で整った顔立ちをしている。
肌の色は男性にしては白く、それも相成ってどこか儚げな雰囲気を醸し出していた。
「貴方は誰?レリック事件の関係者かな?」
「どちらにしても、ここで拘束させてもらう」
既に攻撃を受けたこともあり、なのはもフェイトも反撃を辞さない様子だった。
そんな二人の様子に、青年は初めて表情を見せる。
それは、どこか悲しげな想いを感じさせる、自嘲的な笑みだった。
「貴女方の質問には答えられないし、拘束されるわけにもいきません。ですが、自分が間違ったことをしている自覚はあります」
「え?」
敵の予想外の言葉に、なのはは思わずそう声を漏らし、フェイトは訝しげに眉を寄せる。
「ですが、もう止まれない…止まるわけにはいかないんです。僕は、何としても帰らなきゃいけないっ」
その言葉と同時に、青年の背後に展開される無数の魔方陣。
そこから、次々に航空型のガジェットが召喚される。
「召喚魔法!?」
その光景に驚きを露にするなのはとフェイト。
その間に、敵の姿も変わって行く。
赤のインナーの上から黒いロングコートを羽織り、同色のロングパンツを履いたその姿は、彼の魔導士としての防護服ーーバリアジャケットである。
そしてそんな彼の両手の甲には、グローブ型のブーストデバイスが装着されている。
「カンタービレ、僕に力を」
『Boost Up Strike Power.』
青年の声にデバイスが応え、ライトイエローの魔力光が身体を包みこむ。
同時に、彼の両手の近くに大口径のアサルトライフルが出現する。
青年はそのグリップを握り締めると、銃口をなのは達に向けて構える。
それに習うように、召喚された無数のガジェットも動きだし、青年を守るように陣形を組む。
「ッ……レイジングハート!」
「バルディッシュ!」
『Yes. Axle shooter.』
『Yes Sir. Photon Lancer.』
その光景を前に、なのは達もそれぞれ魔力弾を展開する。
そんな一触即発の空気の中、青年はおもむろに口を開くと、誰に言う訳でもなくこう言った。
「ニコル・アマルフィ……戦闘を開始します」
こうして、戦いの火蓋は切って落とされた。
◇
機動六課隊舎 指令部
「スターズ01、ライトニング01、共にアンノウンと戦闘を開始しました!」
「ッ……戦闘領域内に結界の発生を確認!隔離されます!」
「ジャミングにより結界内との通信不能!……駄目です!魔力反応も確認出来ません!」
なのはとフェイトがアンノウンとの交戦に入り、結界内に隔離されたことによって、戦況は一変した。
上空のガジェットは、そのほとんどがなのはとフェイトによって撃墜されていた。
だが、僅かに残った航空型ガジェットがリニアレールの制圧を開始し始めたのだ。
リニアレール内部の制圧に当たっていたスターズとライトニングの四人は、それぞれが新デバイスを駆使し、目覚ましい活躍を見せていたが、さすがに外からの攻撃までは対応のしようがない。
このままでは、任務の完遂は極めて厳しいという状況にまで追い込まれていた。
「八神部隊長、このままでは状況は悪くなる一方です。 追加戦力を送りますか?」
時間の経過と共に厳しくなっていく戦況に、司令官補佐であるグリフィスは、固い表情で戦況を見つめるはやてにそう問い掛ける。
「……うん、それしかないみたいやな」
グリフィスの問いに頷くと、管制官に指示をだし、回線を開くはやて。
そうして空間モニターに映し出されたのは、待機中のキラの姿だった。
「キラくん、戦況は把握しとるか?」
『はい、問題ありません』
「よし。ほな、キラくんには追加戦力として出動してもらう。戦況はかなり厳しいけど、お願い出来るか?」
『大丈夫です、任せてください』
はやての問いに、力強く応えるキラ。
その姿は、いつものどこか頼りない青年の姿からは想像出来ないほど、自信に満ち溢れていた。
(なのはちゃんからのプレゼントがかなり効いたらしいな。まるで別人やないか)
キラの様子から事情を察したはやては、その頼もしさに思わず笑みを浮かべる。
「よし、ほな任せたで! みんなを助けてあげてな、キラくん」
『……了解!』
はやての言葉に笑顔で頷くと、通信を終え、出動の準備に入るキラ。
現場への運送は、ヘリではなく転移魔法により行う。
そちらの準備は、主任医務官であり、はやての守護騎士でもあるシャマルが担当することになっている。
(生憎、他の守護騎士は別の任務で出払っとる。ここはもうキラくんに任せるしかない)
刻一刻と動く戦況を固唾をのんで見守りながら、はやては握った拳に力を込める。
「ーーッ」
だが、気付いてしまった。
握った拳が、何かに怯えるように震えていることに。
(……アホ。私がそんな臆病でどうするんや)
ふと脳を過った不吉な予感を忘れ去るように、はやては固く目を閉じる。
「……頼むで、キラくん」
司令部の誰もが対応に追われ荒ただしく動く中、そんなはやての声が、祈るように響いていた。