魔法戦士リリカルSEED Strikers   作:ぬらりひょん

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PHASE-22

一時間前 機動六課隊舎 デバイスルーム

 

 

 

「なのはさんが……僕に?」

 

「そう。師匠から愛弟子へのプレゼント、ってとこですね」

 

出動待機中、不意にシャーリーに呼び出されたキラは、デバイスルームにてある物を受け取っていた。

 

オリジナルデバイス『F4U』。

正式名称は『Freedom For You』と言い、なのはが依頼し、シャーリーが製造したストレージデバイスだ。

キラがクロノから託されたS2Uを強化・改修した機体で、汎用機であったS2Uに対し、F4Uは完全にキラ専用の機体に仕上がっている。

 

「処理速度を最大限に引き出す為、こちらで不要だと判断した機能は全てオミットしてあります。その為、魔法使用時の予測演算機能や自己判断機能は必要最低限のものしか登載していません。その点は注意してください」

 

「つまり、そこは僕自身で何とかしろ、ってことだね?」

 

キラのその質問に、シャーリーは笑顔を浮かべて頷く。

 

「さっすがキラさん、理解が早くて助かります」

 

「伊達にシャーリーのメカニック補佐をやってないからね。考えそうなことは大体わかるよ」

 

上機嫌な様子のシャーリーに、キラは苦笑で応える。

だが同時に、こんな無茶な仕様にしたのは、彼女なりのキラに対する信頼の証だということも理解していた。

 

「あと、キラさんの戦い方に合わせて三つの形態への変形機構を登載しています」

 

そう言うとシャーリーは液晶モニターを操作し、その三つの形態を画面上に表示させる。

 

「万能型、高機動型、砲撃特化型……それぞれキラさんに合わせて調整してあるので、直ぐ身体に馴染むと思います」

 

「うん、ありがーー」

 

「た・だ・し!」

 

強引に詰め寄ってキラの言葉を遮るシャーリー。

すると、思わずたじろぐキラに念を押すように指を指し、こう続けた。

 

「このデバイスはまだ未完成なので、くれぐれも丁寧に扱ってください! 一応キラさんの無茶にも応えられるよう頑丈に造ってはいますが、油断は出来ません!」

 

そこまで言うと、シャーリーは更に顔を寄せてキラに詰め寄る。

あからさまに、キラの所業を疑っている様子だった。

 

「く・れ・ぐ・れ・も……壊さずに返すように。いいですね?」

 

「り、了解しました」

 

シャーリーの疑わしげな瞳に冷や汗をかきつつ、それを了承するキラ。

その言葉に満足げな笑顔で頷くと、シャーリーは再び元の位置まで戻り、改めて向き直る。

 

「それじゃ、私に出来るサポートはここまでです。後はキラさん自身で、ご自分と、そして大切な人達を守ってください」

 

そう言って、珍しく大人びた笑顔を浮かべるシャーリー。

自分より年下の女の子に、これほど大人びた表情をさせる程心配をかけさせていたことを自覚し、少し反省するキラ。

だが、それでもキラは止まるつもりはない。

今までも、そしてこれからも、時には無茶をして、沢山の人に心配と迷惑をかけるだろう。

 

「……ありがとう」

 

だから、せめて一つだけ約束を交わす。

 

「必ず帰るよ。みんなと一緒に」

 

それは、誓いのような言葉でもあった。

無理をする。無茶もする。だが、必ず帰ってくる。

そんな強い意志を込めたキラの言葉に、シャーリーは目一杯の信頼を込めて応えた。

 

「はい、待ってます。みんなと一緒に」

 

 

 

 

 

 

 

機動六課隊舎 ヘリポート

 

 

 

『えぇか、二人とも。改めて任務を確認するで?』

 

「はい」

 

「お願いします」

 

機動六課隊舎に設置されたヘリポートの中央。

そこに、液晶モニター越しのはやてと向かい合う二つの人影があった。

一つは言うまでもなくキラなのだが、もう一つは方は中々見慣れない姿をしていた。

 

湖の騎士 シャマル。

シグナムやヴィータと同じ、夜天の書の主である八神はやての守護騎士『ヴォルケンリッター』の一人であり、主に後方支援を担当しているれっきとした六課の戦力の一人だ。

普段は主任医務官として医務室に籠りきりであるが、時には現場へ出て戦闘指揮を行うこともある。

そんな彼女は今、キラを現場に送り届ける為、長距離空間転移魔法用の魔法陣を展開していた。

 

『シャマルは転移魔法でキラくんを現場まで転移させ、その後は管制を頼むで。まぁ問題ないかと思うけど、座標を間違えんようにな』

 

「はい、お任せください」

 

はやての言葉に自信をみなぎらせて応えるシャマル。

元より、後方支援を専門とする彼女だ。失敗のイメージなど端から無いのだろう。

するとはやては、次にキラの方へと顔を向ける。

 

『ほな次はキラくんやけど、やってもらいたいことは二つある』

 

そう言うとはやてはキラに握った右拳を向け、人差し指を立てる。

 

『まず一つは、スターズとライトニングの援護や。今四人はリニアレール内の制圧に当たっとるんやけど、その状況が芳しくない。スターズは何とかふんばっとるけど、ライトニングの二人は新型のガジェットと遭遇して苦戦しとる』

 

「エリオとキャロが……!」

 

はやての言葉に、キラの顔に緊張が走る。

ライトニングの二人のことは、キラも良く知っている。

二人とも自分以上の才能を秘めた魔導士なのだが、如何せん実戦経験に乏しいため、新型のガジェットを相手取るのは少々荷が重いだろう。

 

(せめて、キャロの竜召喚が上手くいけば……)

 

鍵を握るのは、特殊能力『竜使役』を持つキャロなのだが、彼女は過去のトラウマから召喚竜をコントロー ル出来ずにいる。

だがもし、何かの切っ掛けがあって竜召喚に成功すれ ば、状況は一気に好転するだろう。

そしてその切っ掛けになり得るのは、キャロのパート ナーであるエリオの存在だ。

 

『それと、スターズの方も状況は極めて厳しい。リニアレール内の制圧は順調やったんやけど、リニアレール外からの攻撃に手間取っとるようや。二人とも空戦が出来ない分どうしても防戦一辺倒になってもうてる』

 

はやての報告に、今度はスターズの二人ーースバルと ティアナの顔を思い浮かべる。

この二人も、ライトニングに負けず劣らず才気溢れる魔導士だ。

だが心配なのは、二人とも突撃思考の気があり、キラ以上の無茶をする可能性があるということだ。

 

『そしてもう一つが、なのは隊長とフェイト隊長の救援や。というか、戦況が敵に傾いとる最もな原因がこれやな』

 

「……はい」

 

はやての言葉に、キラも同意して頷く。

どちらもそれを正確に理解し、その上で未だに信じられないという様子だった。

高町なのはにフェイト・T・ハラオウン。

管理局が誇るエース級の魔導士である二人が、現在完全に敵に抑え込まれている。

この状況は、誰もが予想し得なかったまさかの展開だった。

 

『現在、なのは隊長とフェイト隊長はAAAランクの捕獲用結界に閉じ込められとる。中の状況はこちらからは確認出来ひん上に、通信も一切不能や。あの二人をどうにか出来る存在がそうそういるとは思えへんけど、物事に絶対はない』

 

「はい。ですが、二人を助け出せればこの戦況は一気に逆転する……ですよね?」

 

キラの言葉に、はやても無言で頷く。

確かに、二人を助け出せればそれだけで戦況は覆るだろう。

だが、それは容易なことではない。

AAAランク相当の強固な捕獲用結界に、それを展開した正体不明の敵の存在。

そしてそれを守るように複数の航空型ガジェットが周囲を取り囲んでいる。

そのどれを取っても、今のキラには少し荷が重いように思われた。

 

『フォワードの救援と隊長二人の救援……どちらを優先させるかは、現場でのキラくんの判断に任せようと思う。全責任は私が持つ。せやから、キラくんが思うように動いてほしい』

 

それでも、はやてはキラを信じて全てを託すことを選んだ。

部隊長として、その判断が正しいかどうかと問われると、肯定は出来ない。

それを自覚していながらもその判断を下したのは、キラへの深い信頼の表れだった。

 

「……はい!」

 

はやての言葉から自分への深い信頼を感じ取り、キラは力強く応える。

その瞳に、声に、なのはと同じ不屈の意志を見出だしたはやては、一度深く頷き通信を閉じる。

 

「それではキラくん、準備は良いですか?」

 

それを見ていたシャマルが、通信を終えたキラに声をかける。

キラはそれに頷くと、F4Uを構え、その名前を静かに唱えた。

 

「F4U、セットアップ」

 

『Standby Rady.』

 

キラの声にF4Uが応える。

直後、眩い光がキラの身体を包み込み、その姿を変える。

六課の制服は、瞬く間に白を基調としたトリコロールカラーのバリアジャケットへと変わり、その手には先端に実態刃を装備した杖が握られている。

そのデザインからは、いたるところに元となったS2Uの存在が感じられるが、追加で装備された尖端の実態刃がより攻撃的な雰囲気を醸し出している。

 

「そのデバイス、キラくんが持つにしてはちょっと過激過ぎるわね」

 

その様子を見ていたシャマルが、冗談混じりにそう話しかける。

それに対し、同意するように苦笑を浮かべるキラ。

 

「確かに、僕よりデバイスの方が強そうです」

 

「フフッ……優しいものね、キラくんは」

 

シャマルのその言葉に「…からかわないでください」と少し照れたように応えるキラ。

その様子に、益々シャマルの笑みが深くなる。

と、そんな時だった。

 

(キラくん、ちょっとえぇか?)

 

不意に聞こえてきた念話の声に、キラの意識が向けられる。

 

(はやて?)

 

(うん。ごめんな、出動前に……)

 

声の主は、先程まで通信越しに会話をしていたはやてだった。

だがその声色は、先程までとはまるで違う。

これは、部隊長としてではなく、一人の友人として接する時のはやての声だった。

それに咄嗟に気付いたからこそ、キラも同じように応答したのだ。

 

(どうしたの? 伝え忘れたことでもあった?)

 

(ちゃう、そんなんやない。ただ……)

 

キラの返答に対し、珍しく歯切れの悪い様子のはやて。

その様子に、キラは心の中で首を傾げる。

職務中に、ましてや出動前の部下に対し、私用で念話を使うことすら滅多にないのだ。

キラがはやての挙動に疑問を感じるのも無理はない。

 

(……その……敵は、あのなのはちゃんとフェイトちゃんを単独で結界内に閉じ込めるような相手や。新型ガジェットの数も当初の予想を遥かに上回っとる。さっきはあぁ言ったけど、正直私はキラくんを一人で行かせとうない)

 

(は、はやて? それはっーー)

 

(わかっとる!部隊長としてこんなこと言うんは間違えとると思うし、なのはちゃん達を助けなアカンって心の底から思ってる!)

 

キラの言葉を遮り、はやては饒舌に捲し立てる。

 

(でも、それでも不安なんや。何だか、嫌な予感しかせぇへん。まるで四年前のあの時みたいな…嫌な胸騒ぎがするんや)

 

はやての言葉は、まるで自分を責めているかのように聞こえた。

実際、責めているのだろう。

大切な友人と部下の危機に何も出来ない自分と、それを助けに行こうとしているキラを引き留めてしまう自分を。

だが、それでもそうせざるには得ない理由がはやてにはあった。

だが、今はまだそれを話すわけにはいかない。

この部隊の部隊長としてもそうだが、何より、この世界を愛する一人の魔導士として。

そのどうしようもない歯痒さが、今はやての心を蝕み、苦しめていた。

 

(大丈夫だよ)

 

そんなはやてに、キラはいつも通りの口調で告げる。

何の気負いも無く、迷いも無い。

少し頼りないが、聞くだけで人を安心させる不思議な声。

 

(待ってて…すぐ戻るから)

 

馬鹿だ、と思う。

これから赴く戦場がどれだけ過酷なものか理解しながら、お気楽に笑顔を浮かべるキラを。

そして、

 

(……ズルいわ、どあほ)

 

そんなキラの声に安心してしまう、自分自身を。

 

(あぁもう!アホ!ど阿呆っ! もう知らん!さっさと行って早くみんなを助けてきて!)

 

(引き留めておいてその言いぐさは酷いんじゃない?)

 

(うるさい!言っとくけど、早く戻ってこなかったら減給やからな!)

 

(本当に酷いな!理不尽過ぎるよ!)

 

キラの反論も虚しく、一方的に念話が切られる。

そんな、ある意味いつも通りに戻ったはやての様子に、キラの口許に小さく笑みが浮かぶ。

と、その直後だった。

 

(………信じとるから、はよ帰ってきてな)

 

「えっ?」

 

一方的なその念話に、思わず声が漏れる。

今の声は、今までとも先程までとも違う。

キラの知らない、初めて聞く八神はやての声だった。

 

「………何だったんだ、一体」

 

少し首を傾げながらも、どこか浮き足立つ気持ちに戸惑うキラ。

 

「キラくん、どうかしましたか?」

 

「えっ!あ、いや……何でもないです」

 

不自然なキラの様子に首を傾げるシャマルに、慌てて気持ちを入れ替える。

出動前に余計な詮索は任務に支障をきたす。

そう思い直し、表情を引き締めて前を見据えるキラ。

 

「問題ありません。転送、お願いします!」

 

F4Uを構え直し、転移魔法を展開するシャマルにそう告げるキラ。

 

「はい! クラールヴィント」

 

シャマルはそれに頷き、展開し待機状態にしていた転移魔法を発動させる。

直後、キラの足元に緑色の魔方陣が浮かび上がり、シャマルの魔力が身体を包み込む。

 

「強制転移魔法、いきます!」

 

シャマルの声に合わせ、漂う魔力が臨界点に達し、強制的にキラの身体を目標地点へと転移させる。

 

「キラ・ヤマト、いきます!」

 

そして、キラは戦地へと赴く。

大切な仲間と、過去に自分が犯した罪が待つ戦地へと。

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