魔法戦士リリカルSEED Strikers 作:ぬらりひょん
自分の力が怖い。
それは、キャロ・ル・ルシエが生まれてからずっと抱えている想いだった。
かつて故郷の長老から告げられた言葉は、今も尚キャロの心を縛り付けている。
「強すぎる力は、災いと争いしか生まぬ…」
当時のキャロは幼いながらも、その長老の言葉の意味を漠然と理解していた。
自分が異端であり、そして、この里に自分の居場所は無いということを。
竜召喚は危険な力。
敵のみならず、仲間をも傷付ける恐ろしい力。
だからこそ、今まで一度もこの力を使ってこなかったし、使う気さえ起きなかった。
「エリオくん!」
大切な仲間であるエリオ・モンディアルが、奈落の底へと真っ逆さまに落ちていく姿を見るまでは。
こんなはずじゃなかった。
機動六課フォワード部隊にとって初めての任務となった今回の事件は、ガジェットにジャックされたリニアレールから、ロストロギア『レリック』を回収するというものだった。
任務事態はそれほど難しいものではない。
未確認の飛行型ガジェットは、隊長であるなのはとフェイトが抑える予定であったし、何よりもこれまでの訓練で自分自身が強く成長したという自覚もあった。
だが、頼みの綱でもあり、フォワード部隊の支えでもあったなのはとフェイトとの通信が途絶えたことにより、戦況は一気に逆転し、フォワード部隊は窮地に陥った。
中でもライト二ングの二人は未確認の大型ガジェットと遭遇しており、加えて敵のガジェットは最大の攻撃手段を持つエリオにとって相性が悪く、防戦一方だった。
AMFの範囲が通常のガジェットより広範囲だった為、魔法以外の攻撃手段を持たないキャロは全くの無力だ。
自分を庇いながら必死に戦うエリオを、ただ見ていることしか出来ない。
そして遂に敵の直撃を受けたエリオが意識を手放し、リニアレールの外ーー底の見えない奈落へと投げ出された。
その瞬間、キャロの身体は動いていた。
自分の力を恐れる気持ちは完全に消えたわけではない。
だが、ここで何もしなければ、確実にエリオは死んでしまう。
大切な仲間を、目の前で失ってしまう。
(今は、それが何より一番怖い!だからっ!)
なのはは言った。キャロの力は、仲間を守ることが出来る優しくて強い力だと。
そしてその仲間が、機動六課に入隊してから一番近くで共に戦ってきたエリオが、その命を散らそうとしている。
(守りたい。優しい人、こんな私に笑いかけてくれる人達を……私の力でっ!)
それを救う為なら、例えどんな恐怖だろうと乗り越えて見せる。
「エリオくんっっ!!」
エリオの名前を呼ぶと同時に、何の躊躇いも無くリニアレールから飛び降りるキャロ。
その勢いのまま自由落下するエリオに追い付くと、その身体を両腕でしっかりと抱き止める。
その刹那、キャロとエリオの身体を淡い桃色の閃光が包まれた。
その光はキャロの魔力。なのはの言う通り、大切な仲間を守る優しくて強い力だ。
「フリード、不自由させてごめんね。私、ちゃんと制御するから」
側で寄り添うように飛ぶフリードリヒにそう語りかけるキャロ。
それに応えるように、フリードリヒは鳴き声を挙げる。
その声の意図を理解したのか、キャロは力強く頷いて微笑む。
そして、
「行くよ!竜魂召喚っ!」
遂に、自分の本当の力を解き放つ。
桃色の閃光はさらに輝きを増し、その中心に召喚魔法陣を形成される。
「蒼久を走る白き閃光!我が翼となり、天を駆けよ!」
詠唱と同時に魔法陣から現れる巨大な純白の翼。
その翼は、キャロの想いに応えるように力強く羽ばたく。
「来よ、我が竜、フリードリヒ!竜魂召喚っ!!」
そして、最後の詠唱を終えるキャロ。
その瞬間、桃色の閃光を純白の翼が突き破り、本来の姿を見せる。
現れたのは全長10m以上の巨大な白い竜。
それが「白銀の飛竜」と呼ばれるフリードの真の姿だ。
「……んっ……こ、ここは?」
ここでようやくエリオが目を覚まし、辺りを見回す。
その姿に安堵したキャロは、目に涙を浮かべてエリオの身体を抱き締めた。
「エリオくん!良かったぁ……怪我は無い?」
「わっ!キャ、キャロ!? って、大丈夫!大丈夫だから!」
キャロの柔らかい身体の感触に、エリオは顔を真っ赤に染め、身体を硬直させた。
それでも何とか状況を把握しようと視線を逸らし、ようやく自分が空を飛んでいることに気が付く。
「白い竜……もしかして、僕達は今……」
「うん。フリードの背中に乗ってるの」
エリオの言葉を引き継ぎ、笑顔で答えるキャロ。
その答えに、エリオの顔にも自然と笑みが浮かぶ。
「そっか……良かった。成功したんだね」
そういうとエリオは両手でキャロの肩に触れ、柔らかく押し離し、こう続けた。
「おめでとう、キャロ。それと、助けてくれてありがとう」
そのエリオの言葉に、止みかかっていた涙が再び溢れだすキャロ。
災いと揶揄されていた自分の力で、大切な仲間を助けることが出来た。
エリオの言葉がその実感を確かなものとした。
今のキャロにとって、これ程嬉しいものはないだろう。
「うんっ。これからは、もっとエリオくんの力になれるから……だから!」
そう言って、キャロは自身のデバイス『ケリュケイオン』を通してフリードリヒに魔力を流し込む。
「一緒に戦って!背中は私が守るから!」
キャロの決意に続くように、フリードも逞しく鳴き声を挙げる。
見据える先には、エリオを窮地に陥れた新型の大型ガジェットの姿がある。
「フリード!ブラストレイ!」
詠唱と同時に展開されるミッド式魔方陣。
ケリュケイオンから供給された魔力魔力が、フリードの口元に集束し、凄まじい熱量を持った火炎弾へと変化する。
「ファイア!!」
キャロの命を受けて火炎砲を撃ち放つフリードリヒ。
キャロのブーストによって着弾時爆裂効果と簡易バインドが付与されているその魔力砲は、数少ない六課新人フォワード陣の使える範囲制圧攻撃である。
直撃すれば、たかがガジェット一機、苦もなく戦闘不能に出来るだろう。
「くっ……やっぱり、硬い」
だが、ガジェットが持つ強力なAMFは直撃を許さなかった。
真の姿になり、本来の力を発揮したフリードの魔法を持ってしても、AMFの硬い守りは破れない。
「あの装甲形状は砲撃じゃ抜き辛いよ。僕とストラーダがやる」
悔しげな様子のキャロの前に立ち、ストラーダを構えるエリオ。
それに気付いた大型ガジェットは、アームを器用に使い重い本体を動かす。
だが、その程度の動きではエリオからは逃げ切ることは出来ない。
「キャロが僕の背中を守ってくれるなら……」
「我が魂は、聖銀の剣。 若き槍騎士の刃に祝福の光を! 猛きその身に力を与える祈りの光を!」
エリオの言葉に耳を傾けながら、キャロは詠唱を始める。
エリオの言葉がキャロに勇気を与え、キャロの魔法がエリオに力を与える。
「僕は……キャロの全てを守ってみせる!」
「ブーストアップ・ストライクパワー!!」
詠唱の最中、両腕を左右に大きく広げるキャロ。
すると魔力もそれに合わせ二つに分断され、それぞれ違った力を宿す。
そして、前に立つエリオに向けてこう続ける。
「行くよ!エリオ君!!」
「了解!キャロ!!」
キャロの言葉に頷くエリオ。
それを確認したキャロは、最大限に高まった自身の魔力を解き放つ。
「ツインブースト!スラッシュ&ストライク!!」
二つの魔力の奔流が、キャロの手からストラーダへと注ぎこまれ、その切っ先から桃色の魔力刃が出現した。
文字通り、キャロから刃を授かったエリオは、そのままガジェットに向かい、突攻を試みる。
だが、
「ッ!駄目!」
先に異変に気付いたキャロが、全方位にフィールド系の防御魔法を展開する。
直後、あらゆる死角から複数のレーザーが撃ち放たれ、展開した防御魔法を大きく揺さぶった。
「くっ!なんだ!?」
突撃体勢に入っていたエリオは途端にバランスを崩し、肩膝をついてしまう。
見ると、いつの間にか周囲を飛行型のガジェットに取り囲まれていた。
なのはとフェイトが閉じ込められたことにより制空権を奪ったガジェットが、スターズ、ライトニングの両部隊に奇襲を仕掛けてきたのだ。
「あれは新型の…っ!」
「気を付けてエリオくん!」
状況を把握したエリオは、立ち上がりストラーダを構え直す。
だが、そうしたところでこの状況が変わる訳ではない。
放出系の遠距離魔法が効かないうえ、アタッカーのエリオは自由に飛行出来ない。
戦況は、圧倒的にライトニングが不利だった。
「くっ、このままじゃ…っ!」
悔しげな表情を浮かべるエリオは、スタラーダを握る手に力を込める。
だが、この状況を打破する策は浮かばない。
圧倒的な戦力差に絶望するライトニング。
そんな時だった。
『Photon Bullet Multishot.』
「シュートッ!」
上空から降り注いだ無数の鮮やかな青の奔流が、ライトニングの二人を取り囲んでいた飛行型ガジェットを一機残らず貫いた。
「フォトンバレット!? それにっ…!」
「この魔力光は!」
窮地を救った青色の無数の魔力弾。
見覚えのあるその魔法からその正体を悟ったエリオとキャロは、希望に満ちた笑顔を浮かべて空を見上げる。
その隙を突くかのように、大型のガジェットがアームを伸ばし、エリオ達を強襲する。
だが、
「F4U、フォトンスラッシュ!」
『Ok master.』
超高速で降下した白い影がそのアームを両断し、エリオ達を守るように立ち塞がった。
身に纏うのはなのはと同じトリコロールカラーのバリアジャケット。
その手に持つのは、名機『S2U』の面影を残す剣槍型のストレージデバイス。
「遅くなってごめんね。エリオ、キャロ」
そしてその声はこの状況下でも相変わらず穏やかで、同時に強さも兼ね備えていた。
キラ・ヤマト。
新たな剣をその手に、彼は戦場に舞い降りる。
大切な仲間を守り、その敵を自らの手で射つ為に。