魔法戦士リリカルSEED Strikers 作:ぬらりひょん
キラ・ヤマトは記憶喪失だ。
知識として、自分がいた世界の情勢や技術は記憶に残っている。
だが、自分が実際に体験した出来事や、出会った人物に関しては一切覚えていなかった。
だからこそ、この感覚に既視感を覚えた瞬間、全てを委ねようとした自分に違和感を覚えた。
(この感覚は、あの時の)
三年前、ミゲル・アイマンと対峙したときに感じたこの感覚。
思考がクリアになり、あらゆる神経が研ぎ澄まされ、まるで全てを掌握したかのような錯覚を覚えるこの感覚。
(これは、一体なんだ?)
わからない。でも、知っている。
矛盾する記憶と感覚。
記憶からは消えていても、身体が覚えている。
(この感覚に身を委ねれば、僕は勝てるのだろうか)
自分への問いかけも徒労だとわかっている。
これは、そういうものだ。
自分の窮地をいつも救ってくれた、正体不明の力。
(僕の……力)
その時、ふと声が聞こえた気がした。
『想いだけでも…力だけでも…』
誰の声なのかはわからない。
だが、その声は不思議とキラを安心させた。
この想いは、この力は、間違ってなんかいない。
そう、確信することが出来た。
(君は…誰?)
キラは、声の主に問いかける。
すると、姿は見えないが、そんなキラの問いかけに対し、声の主は優しく微笑んだような気がした。
『私はーー』
◇
「ーーラッ! キラッ!?」
「キラくんっ!」
誰かの腕に抱かれている感覚と、必死に呼び掛けてくる二つの声に、キラの意識は覚醒した。
同時に襲い掛かる全身の痛みに、思わず呻き声を上げる。
「うっ……ぼく…は?」
目を開くと、ぼやけて見える視界に見覚えのある顔が写る。
「フェイト……さん?」
「ッーーキラ!」
その名前を口にした途端キラを抱き支えていた本人、フェイトの顔に安堵の笑みが浮かぶ。
よく見るとその姿は未だかつて見たことがないほどぼろぼろだ。
バリアジャケットは中破し、身体のあちらこちらに傷が見える。
「フェイトさん、どうしたんですか? ボロボロじゃないですか」
「うん。事実だけどキラにだけは言われたくない」
未だ覚醒しきっていないキラの発言にもっともな反論をするフェイト。
事実、キラはフェイトに勝るとも劣らずぼろぼろだった。
「キラくん、目が覚めた? それなら早く態勢を立て直して。まだ戦闘は終わってないよ」
不意にキラへとかけられた聞き慣れた声に、意識が一気に覚醒する。
見ると、自分とフェイトを守るようにしてレイジングハートを構えるなのはの後ろ姿があった。
「なのはさん!?」
意識が覚醒すると同時に、現在の状況を改めて認識する。
なのはとフェイトが閉じ込められていた結界を外側から破壊した。
直後、傷付いたフェイトの姿を見て以降の記憶が曖昧だが、とにかく自分は戦闘に介入し、敵を追い詰めた。
だが、止めを刺したと思われた直後、不意をつかれて拘束され、そのまま自爆に巻き込まれた……はずだった。
「……あれ? 僕は、なんで生きてーー」
「コラ、不謹慎なこといわないで。キラはちゃんと生きてるよ」
信じられないものを見るかのようにして自分の両手を確認するキラ。
そんなキラの手を両手で握り、少し怒った様子でフェイトはそう反論する。
「爆発する直前、フェイトちゃんがバルディッシュで結界ごと敵の腕を切り裂いてキラくんを離脱させたの。全く、キラくんもだけど、フェイトちゃんも大概無茶するよね」
「だ、だって、あの時はそれしか方法がなかったから!」
「それでも、普通結界ごと両腕を切る? いくら機械の腕とは言え」
「うっ……わ、わかってる。ちょっと乱暴過ぎたのは反省してる」
「乱暴って言うかバイオレンスだよね、端から見ると」
なのはに問い詰められしゅんとなるフェイト。
いくら部下を助けるためとは言え、迷い無く敵の腕をぶった切った自分の行動に戸惑ってるようだった。
「と、とにかく!キラはもう下がって、後は私達に任せて」
誤魔化すようにそういうと、フェイトは少々強引にキラを下がらせ、なのはの隣に並ぶ。
「ま、待ってください!僕もーー」
だが、それを許すキラではない。
あくまでなのはとフェイトを助けに来たキラとしては、逆に二人に守られることを良しとする筈がなかった。
だが、
「あーーれっ?」
不意に、魔力を込めようとしたキラの身体から力が抜ける。
確認すると、残存魔力が残り二割を切っていた。
これでは、なのは達を助けるどころか、足手まといにすらなりかねない。
「そんな状態じゃ戦闘は無理だよ、キラくん」
「上司として、これ以上の戦闘行動は禁止します」
「いや、でも! ガジェットだってあんなに沢山……」
そこまで言って、キラはようやく気付いた。
なぜ、僕達はこんなに悠長に会話出来てるんだ?
今は戦闘の真っ只中のはずだ。
戦闘では少しの隙が命取りになることたってある。
それを、プロフェッショナルであるなのはとフェイトか知らないはずがない。
つまり、
「ガジェット? まだ残ってたっけ?」
「ううん。確かに全機撃墜したはずだよ」
「ーーー」
この二人は能力を限定された状態で、無数に召喚されていた新型ガジェットを、キラがニコルを追い詰める僅かな時間の間に全て撃墜したのだ。
それも、手負いの身体でである。
(やっぱり凄い……いや、むしろ当然か)
改めて、エース級魔導士の実力を思い知り、戦慄するキラ。
恐らくキラの助けが無かったとしても、この二人ならばガジェットを全機撃墜した上でニコルを打倒出来ただろう。
キラの介入は、その結果を少し早めたに過ぎない。
「リミッター付きでその強さとは、にわかには信じられないですね」
思わず愚痴るような口調でそう呟くキラ。
そんなキラの様子に、なのはは少し勝ち誇ったような笑みを浮かべて答える。
「弟子にばっかりいいところを持ってかれたら、師匠として立つ瀬がないもん」
「そうそう。いいからキラはそこで大人しくしてなさい」
なのはに便乗したフェイトにもそう言われ、最早従う以外の選択肢が無くなってしまったキラ。
「はぁ、わかりました。けど……」
諦めたように溜め息を吐くと、身体から力を抜き、残った魔力を全て治癒魔法に回してなのはとフェイトの身体の傷を癒す。
「これくらいはさせてください。一応、僕は二人を助けに来たんです。何も出来なかったなんて報告した日には、八神部隊長にどんな目に逢わされるか……」
「あはっ、了解」
「うん。ありがとう、キラ」
キラの治癒魔法を受け、受けたダメージを回復させるなのはとフェイト。
シャマルやキャロの治癒魔法と比べると回復量はそれほど高くはない。
だがそれ以上に、キラが自分を助けに駆けつけてくれたこと、そして何よりキラの魔導士としての成長が二人は嬉しかった。
「憎い」
そんな暖かな空気を切り裂くように、憎悪にまみれた殺意が三人を襲った。
超電磁ライフルによる遠距離射撃。
キラの急所に向けて正確な軌道を描いて撃ち放たれたそれは、なのはの愛機であるレイジングハートが発動させたプロテクションによって防がれた。
「さすがですね。エース級の魔導師相手に、数があるとは言えガジェットだけでは足止めにもなりませんでしたか」
そんな声と共に再び姿を現せたニコルの身体は、最早人間と呼んでいいのか疑いたくなる程の有り様だった。
フェイトに切り裂かれた義手の両腕からはケーブルらしきものが何本も伸び、胸から下は爆発によりその半分が吹き飛んでいる。
その、おおよそ人間とはかけ離れた姿に、さすがのなのはとフェイトも表情を強張らせた。
そんな二人を威圧するように、ニコルは言葉を続ける。
「ですが……例え貴女達でも邪魔はさせません!」
次の瞬間、ニコルの周囲に無数の召喚陣が展開され、そこから無数の対空ミサイルが召喚される。
そのどれもがニコルの魔力によりコントロールされており、更には誘導制御型というおまけ付きだ。
「家族を…仲間を…ピアノを……僕の全てを奪ったストライクのパイロット、キラ・ヤマトッ! 貴方だけは、何としてもここでぇぇぇっっ!!」
「ッ!?」
ニコルの憎しみに満ち溢れた呪詛にも似た言葉に、キラの身体が強張る。
疑問は確信へと変わる。
やはりこの青年もキラの過去を知っているのだ、と。
「フェイトちゃん!」
「わかってる!」
その光景を目の当たりにしたフェイトとなのはは、すかさず臨戦態勢に入る。
「レイジングハート!」
『All right. Cannon mode.』
「バルディッシュ!」
『Get set.』
二機のデバイスは主の言葉に従う。
レイジングハートはその姿を変え、砲撃仕様のカノンモードに。
バルディッシュは必殺の為の布石を。
次の瞬間、ニコルが召喚した対空ミサイル全てが金色の光に拘束される。
「ッ!? これは、バインド!?」
驚く間もなく、自身も同じように拘束されるニコル。
何重にも掛けられた強力なバインドに、成す術もなく身体の自由を奪われてしまう。
『Lightning Bind complete.』
「ありがとう、バルディッシュ」
バルディッシュが仕掛けた拘束魔法ライトニングバインド。
それらは全て、これからフェイトが放つ魔法の為の布石。
「キラ、ちゃんと見ててね」
術式を展開しながら、フェイトは背後のキラにそう呼び掛ける。
「これが、本家本元のーー全力全開だよ!」
その声に合わせて発動したのは、高濃度に圧縮した貫通射撃弾を大量に布陣し、槍の嵐にして撃ち放つ大魔法。
かつてフェイトが、唯一無二の友にして生涯のライバルに対し放った、全力の一撃。
「槍陣展開! フォトンランサーッ」
一つ違うことがあるとすれば、それが一点集中型ではなく広範囲殲滅型であるところか。
だが、
「ファランクスシフトッッ!!」
その威力は、以前と何ら変わらず圧倒的だった。
次々に撃ち出される圧縮魔力弾の嵐。
その一つ一つが確実にミサイルを捉え破壊していく。
「ぐっ……このぉぉぉぉぉっ!!」
その光景を目の当たりにし、五体不満足の身体で懸命にもがくニコル。
だがいくらもがこうと、強力な魔力で構成されたフェイトのバインドは解除されない。
そして遂に、ミサイルは一機も発射されることなく、全機残らず破壊された。
「なのは!」
「OK!」
フェイトの声を合図に、なのははレイジングハートを構える。
瞬間、レイジングハートの砲口に膨大な魔力が収束されていく。
「貴方が過去のキラくんと何があったのかは知らない。もしかしたら、沢山の人と戦って、沢山の人を傷付けてきたのかもしれない」
砲口を真っ直ぐ向け、迷い無き言葉をニコルへと突き付けるなのは。
その瞳は、僅かな悲しみと、大きな怒りに揺れていた。
「けどっ! 私は今のキラくんを信じてるからっ! だから、貴方なんかに奪わせはしないっっ!!」
『Divine Buster Extension.』
「バスタァァァァァァッッ!!」
撃ち放たれる必殺の光。
その光は、一直線にニコルへと向かっていく。
「くそっーーくそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおっっ!!」
なのはの放ったディバインバスターの光に、飲み込まれるニコル。
決着はあまりにも圧倒的で、尚且つあまりにも呆気なかった。
「す……凄い」
自らが目標とする二人の魔導士、高町なのはとフェイト・T・ハラオウン。
わかってはいたが、リミッターがあっても尚衰えないその圧倒的なまでの力を前に、キラは呆然とする他無かった。
「……ふぅ、状況終了っと」
そう言って振り返るなのは。
その表情は、いつも通りの晴れ晴れと笑顔だった。
「じゃ、帰ろっか……みんなのところへ!」