魔法戦士リリカルSEED Strikers   作:ぬらりひょん

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PHASE-28

地上部隊の首都防衛隊代表にして防衛庁長官、レジアス・ゲイズ。

入局四十年以上の大ベテランで、地上本部の有りとあらゆる実権を握り多大な影響力を行使できる、事実上の地上本部総司令だ。

古くからの武闘派で人望も厚く、地上の治安維持に対しての意欲は間違いなく管理局一だろう。

だが一方で本局や聖王教会を嫌っており、何かと黒い噂の絶えない油断のならない人物でもある。

 

「……その、レジアス中将から今回の任務の報告書に対して苦言が届いたの。報告書はそちらの都合が良いように書き換えていいものではない、ってね。具体的には、キャロの竜召喚の件とか、例の未確認の魔導士の件とか。こちらとしてはそんなつもりはなかったんだけど、レジアス中将の目にはそう映ったんだろうね」

 

「いやでも、レジアス中将の本局嫌いは筋金入りですし、聖王教会が後ろ楯にいる六課を快く思ってないだけなんじゃ……」

 

「キラくん。レジアス中将はこの地上の治安維持の為に必要な確かな実力者だよ。現に、彼の政略で地上の犯罪発生率は年々低下してる。そんな人が、いくら嫌いとはいえ私的な感情で報告書にケチを付けると思う?」

 

横目で呆れたように睨みながら、キラの発言を注意するなのは。

それをキラは苦笑いで受け流し、視線を反らして誤魔化す。

 

「はぁ。それに私、レジアス中将に対して怒ってるわけじゃないんだよ。それに関してははやてちゃんも見通しが甘かったって反省してるし」

 

「そう…なんですか。じゃあどうして……?」

 

なのはの発言に首を傾げるキラ。

するとなのはは、自嘲的な笑みを浮かべてそれに答える。

 

「……私達の…ううん、私の見通しが甘かったせいで、フォワードのみんなの初陣が正当な評価を貰えなかった。それが、私は凄く悔しい」

 

そう言って、爪が食い込む程に強く拳を握りしめるなのは。

表情こそ笑顔だが、握った拳は彼女の悔しさを表すように震えていた。

 

「今さら遅いってわかってるけど、どうしても考えちゃうんだ。キャロには基礎的な訓練だけじゃなく、竜召喚の訓練もさせた方が良かったんじゃないかとか……エリオにも最低限の防御訓練をさせた方が良かったんじゃないかとか……」

 

そこまで言うと、とうとうなのはの顔から笑顔が無くなる。

辛そうに表情を歪め、それをキラに見せまいと顔を俯かせた。

 

「自分の教導が間違ってたとは思わない。でも、もしかしたらもっとあの子達にしてあげられたことがあって、それに自分が気づいてあげられなかったのかと思うと……悔しくて、情けなくてっ」

 

遂には声が震え出し、自分を責めるような口調になるなのは。

 

「自分が本当に正しいのか……わからなくなって…っ」

 

一度溢れだした負の感情は止まることを知らない。

次から次へと溢れだし、なのはの心を強く締め付ける。

そんななのはの様子は、いつもの温厚ながらも穀然とした姿からは想像がつかない程繊細で脆い。

奇しくも先程のなのはの言葉通り、年相応の少女の姿だった。

 

「……なのはさん」

 

今キラの目の前にいるのは、キラのよく知る不屈のエースではない。

ならば自分も、不屈のエースの一番弟子ではなく、ただのキラ・ヤマトとして、その思いを受け止め、答えることを決める。

 

「……えっ?」

 

不意に感じた温かい感触に、ふと顔をあげるなのは。

見ると、強く握りしめた自分の手を、キラの手が覆うように触れていた。

 

「……今、君が抱えてる苦しみは、僕も…多分みんなも抱えてるはずだ」

 

そう言うと、今度は両手で震えるなのはの手を包み込むキラ。

そして、なのはの手の震えが止まるのを確認すると、安心した様子で言葉を続ける。

 

「だけどきっと、今みんなは前だけを見てると思う。それでも…次こそは…そう自分に言い聞かせて、後悔しながらも前へ進むんだ。なんでだと思う?」

 

真っ直ぐになのはの目を見てそう問い掛けるキラ。

それに対し、なのはは戸惑いながらも考えて答える。

 

「それは……強くなりたいから。みんなそれぞれ事情はあっても、そこだけは同じだと思う」

 

「うん、そうだね。確かに強くなりたいから諦めないし、頑張れるんだと思う。でも、それだけじゃない」

 

そう言ってキラは、包み込むように触れていた両手で、今度はなのはの手を握りしめる。

 

「なのはを信じてるから」

 

自分がどれだけなのはの存在に救われ、勇気付けられてるか、ちゃんと伝わるように。

 

「だから僕は、どんなに転んでも、踏み潰されても、前を向けるんだ」

 

途中から『みんな』ではなく『キラ個人』の想いを告白していることに、キラは気付いていない。

だからこそ、今のキラは伝えるのを止めない。

「だから、なのはが自分が正しいかわからないって言うなら……僕を信じて」

 

溢れだした想いは止まることを知らず、次々に言葉を紡ぎ、

 

「なのはを信じる、僕を信じて」

 

「ーーーッッ」

 

苦痛に悲鳴を上げていたなのはの心に、優しく染み渡った。

 

「……………………あ、あの……キラ、くん?」

 

せっかく上げていた顔を再び俯かせるなのは。

だが、今度は少し様子が違う。

キラに顔を見られたくないというのは同じようだが、今度のそれには恥じらいが含まれているようだった。

 

「どうかした?」

 

それに気付かないキラは、なのはの様子に首を傾げる。

純粋に心配しているようだが、そのせいかなのはの手を包む両手により一層力がこもる。

 

「………て、ちょっといたい」

 

それに答えるなのはの声は、きちんと耳を澄まさなければ聞こえないほどか細いものだった。

 

「えっ………あっ、ごめっーーいや、すみませんっ!」

 

そこでようやく、自分が無意識になのはの手を握っていたことと、名前を呼び捨てにしていたことに気付くキラ。

途端に押し寄せる気恥ずかしさに、思わずなのはと同じように顔を逸らせる。

 

「うん……ゆ、ゆるします」

 

「はい……あ、ありがとうございます」

 

「……………」

 

「……………」

 

そして流れる気まずい沈黙。

お互いにどう切り出して良いかわからず、困っているようだった。

 

「…………あ、あーーっ! もうこんな時間だ!明日も朝から訓練があるし、早く部屋に戻って眠らなきゃね!」

そんな沈黙を破ったのは、なのはの明らかに不自然な棒読みの台詞だった。

 

「そっ……そうですねっ!うん、それが良い!」

 

だが、今のキラにはそれにつっこむ余裕がない。

むしろ救われたような気分で、なのはの棒読みに便乗し答えた。

 

「じゃ、じゃあ私部屋に戻るね! フェイトちゃんも待ってるだろうし!」

 

「そうですね!お二人の夜の邪魔は出来ませんし、僕もそろそろ仕事に戻ります!」

 

「う、うん!頑張って!あんまり無理しちゃだめだよ!」

 

「大丈夫ですよ!ほら!僕人より頑丈ですし!その気になれば単独での大気圏突破だって出来ます!」

 

「わぁっ!それは頼もしいなぁっ!あははははは!」

 

「あはははははっ!」

 

普段なら突っ込みどころ満載の会話だが、今の二人にはその余裕はない。

むしろ、お互い自分が何を喋ってるか理解していないようだった。

 

「じゃ、じゃあっ…また明日ね」

 

「は、はい。……お疲れさまです」

 

そうしてお互いひとしきり笑った後、気まずい空気のまま別れを告げる。

隊舎と部隊長室はそれぞれ反対方向にあるので、必然的に二人は反対方向に歩いていくことになるのだが、このときばかりは六課の間取りに感謝した。

 

(はぁ……何やってんだ僕は。なのはさんに対してあんな大胆な……)

 

歩きながら、先程とった己の行動を振り返るキラ。

いくらなのはを励ますためとはいえ、あれはやり過ぎた。

そう思ったキラは、ほんの数分前の自分を殴り飛ばしたくなる。

と、そんな時だった。

 

「キラくんっ!」

 

まだそれほど離れていない距離から、再びなのはが振り返りキラの名前を呼ぶ。

 

「は、はい!?」

 

突然のことに驚いたキラは、慌てて後ろを振り返る。

するとそこには、

 

「さっきは、ありがと」

 

今まで見たどの女性をも凌駕するほど、

 

「カッコよかったよ!」

 

可愛らしい女の子が、はにかむように微笑んでいた。

 

「ーーーーッッッ!?」

 

不意打ち気味のそれに、思わず顔が真っ赤に染まるキラ。

 

「あっ……えと、そのっ……」

 

「ッッーーそ、それじゃっ」

 

返答の言葉が思い付かず口ごもっている間に、なのはは足早に立ち去ってしまった。

その後ろ姿を見つめながら、思わず天を仰ぐ。

 

「………ッ…くそっ」

 

未だ熱が冷めない顔に手をあて、キラは呟く。

 

「卑怯だ、あんなの」

 

先程のなのはの笑顔を思い出す度、胸が高鳴り、その鼓動は激しさを増す。

 

「明日から一緒に訓練だってのに……どんな顔して会えばいいんだよ」

 

そう毒づきながらも、悪い気はしなかった。

むしろ、初めて感じるこの高揚感は、自然とキラの足取りを軽くしていた。

 

「……単純だな、僕」

 

そう自嘲気味に呟くキラの声が、誰もいない真っ暗な通路に優しく響いていた。




おまけ



なのは「う……ぅっ」

フェイト(なのは……どうかしたのかな?)

なのは(回想)『さっきは、ありがと』

なのは「はぅ……っ」

フェイト(枕に顔を埋めて…何してるんだろ?)

なのは(回想)『カッコよかったよ!』

なのは「ーーーッッ! ーーッッ!!(声にならない悲鳴)」

フェイト(こ、今度は足をジタバタし出した!? ホントにどうしちゃったのなのは!?)

なのは(どうしよう!何カッコいいとか言っちゃってるの私!? 明日から毎日訓練で顔を合わせるっていうのに、どんな顔して会えば良いのかわからないよぉぉぉっ)

フェイト(なのは……ちょっと泣いてる? 報告書の件がよっぽどショックだったのかな。もしくは別になにか辛いことが……)

なのは「うぅ……………キラくんの、ばか」

フェイト(キラ!?キラと何があったの!?)

キラ(回想)『なのはを信じる、僕を信じて』

なのは「ーーッ(赤面)」

フェイト(なに!?キラに何か酷いことされたの!?いやでもまさかキラに限ってそんな……)

なのは「………急に名前、呼び捨てにするなんて。ズルいよ、あんなの」

フェイト(名前!?呼び捨て!?なのは、名前を呼び捨てにされるの嫌だったの!?)







翌朝


なのは「あ、おはようフェイトちゃん!」

フェイト「お、おはようっ……なのは…さん?」

なのは「………へ?」

その後、なんだかんだで誤解は解けた。




おわれ
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