魔法戦士リリカルSEED Strikers 作:ぬらりひょん
こんなはずではなかった。と、戦闘防護服バリアジャケットに身を包んだキラは内心で頭を抱えつつそう思う。
その十数メートル先の正面には、瞳を輝かせながら戦闘開始の合図を待つスバルと、少し戸惑った様子のエリオとキャロが立っている。
そしてそんな彼女らの中央には、
「いいわねみんな! 上官だからって遠慮はいらないわ! 今の自分の全力全開をぶつけるつもりでいきなさい!」
溢れる闘志を剥き出しにして仲間を鼓舞する、新人フォワード部隊の指揮官、ティアナ・ランスターの姿があった。
「はぁ……どうしてこうなったんだ」
その姿に、今度は思わず口に出して呟いてしまうキラ。
そもそも、キラがなのはの教導に参加したのはつい最近だ。
たまに自主訓練を一緒にするエリオとキャロはまだしも、スターズの二人はその戦闘スタイルや特性、傾向等まだ不明な点が多く、とても模擬戦で新人達の身になるよう立ち回れる自身がない。
(大体、つい昨日までまともに顔も合わせてくれなかったくせに急に模擬戦だなんて……)
そう言って、中央でフィールドの設定をしているこの模擬戦の発案者であるなのはを睨むキラ。
その言葉通り、確かに昨日までのなのははキラに対してどこかよそよそしく、教導に関してもいつもの積極性がなかった。
といっても、原因には心当たりがありすぎる上、キラ自身も未だになのはと顔を合わせると気恥ずかしいことこの上ない為、どちらかと言えばそれは都合がよかった。
それが、今朝になって突然積極的に話しかけてきたかと思うと、一緒にティアナの訓練を見てほしいと言いだしたのだ。
そして、現在のこの状況である。
(何か考えがあってのことなんだろうけど……正直嫌な予感しかしない)
両手に握った愛機F4Uを構えながら、キラは油断なくなのはの挙動を伺う。
するとそれに気付いたなのはは不適に微笑むと、改めてフィールド上の五人を見渡し声をかける。
「それじゃあ、改めて説明するよ!」
その声を合図に、フィールドの風景が一変する。
数多くの木々に囲まれていた森林地帯が、一瞬にして大小様々な建造物に囲まれた市街地に変化した。
「制限時間は三十分! 建造物は触れるし当たると痛いけど、非殺傷設定でも壊れるから、避けるもよし、砲撃で撃ち抜くもよし、自由に動いて有効活用するように!」
「「「「はい!」」」」
なのはの言葉に返答し、それぞれのデバイスを構え戦闘体制に入るフォワード四人。
なのははそれに頷くと、今度はキラの方へと視線を向ける。
「キラくんは出来るだけ飛行魔法は使わないように。それ以外は特に制限は付けないから、全力で相手をしてあげて」
「………はい」
なのはに対する不満を押し殺し、そう返答するキラ。
一度やると決めたら決して考えを改めないなのはのことだ。キラが何を言ったところで徒労に終わることは目に見えている。
(……ならいっそ、フォワードの皆のためにも全力で相手をするしかない!)
覚悟を決め、臨戦態勢に入るキラ。
突撃思考のティアナのことだ、初手から何か仕掛けてくるに違いない。
何が来ても応戦できるよう、ティアナの作戦を何パターンも予測し、それに備える。
「それじゃ始めるよ! レディィィ……ッ」
そう言いながら、なのはが真っ直ぐに伸びた腕を上げる。
フォワードの四人の表情に緊張が走り、それを見るキラは小さく息を吐き、身体から力を抜く。
「……ゴォッ!」
そして上空に掲げたなのはの腕が降り下ろされ、戦いの火蓋が切って落とされた。
「スバル!エリオ!」
「うん!」
「はい!」
直後、キラの予測通りフォワードが動いた。
先手必勝と言わんばかりに前衛のスバルとエリオが駆け出し、それを援護するようにティアナが直射型の魔力弾を放つ。
「まずはセオリー通り、か」
だが、この攻撃はキラの予想の範囲内だ。
ティアナの魔力弾を同じ直射型の魔力弾で撃ち落とし、スバルとエリオの追撃に備える。
「ぅおおぉぉぉぉっっ!!」
気合いの入った声と共に、彼女らしく真正面から拳を叩き付けるスバル。
速度、威力共に申し分ない。直撃すれば、下手なミッド式の魔導士なら一撃で昏倒するだろう。
それをキラは、半球型に展開した魔力シールドで受け流し無難に回避する。
「う、わわっ!?」
運動エネルギーごと拳を受け流されたスバルは、そのままキラの後方へと身体を投げ出され、大きな隙が生じる。
その隙を突こうとばかりにF4Uを構えるキラ。
『Photon Slash. 』
聞き覚えのあるその魔法に、キラの身体が一瞬止まる。
直後キラの背後に姿を現したのは、ストラーダを振りかざしたエリオだ。
持ち前の速さを生かした、死角からの純粋魔力刃による一撃。
彼の保護者であり、同時に魔法の師でもあるフェイトが得意とする戦法で、つい最近キラが訓練に付き合った際練習していた技だ。
(思い切りも良くて速さも申し分ない。けど……)
だが、だからこそその攻撃をキラは予測していた。
「ッ!?」
ストラーダの刃を降り下ろそうとしたその瞬間、不意に身体の自由を奪われるエリオ。
いつの間にか、その四肢はバインドによって捕縛されていた。
設置型の捕縛魔法ディレイドバインド。
特定空間に侵入した者を捕縛するその魔法を使った戦法は、キラがクロノによってその身体に叩き込まれたものだ。
「良い攻めだけど……」
身体の自由が効かないスバルに、身体の自由を奪われたエリオ。
そんな二人に挟まれた位置にいるキラは、おもむろに自身の武器であるデバイスを上空に放り投げる。
弧を描いて上空を舞うF4U。
その間に、キラは空いた両手をスバルとエリオに向け、
「二人とも、攻撃が素直過ぎるよ」
既に準備していた直射型の射撃魔法、フォトンバレットを撃ち放った。
「「ッッ!?」」
防ぐ間も無く直撃を受け、各々逆方向に吹き飛ばされるスバルとエリオ。
対してキラはその様子を一瞥すると、戻ってきたF4Uを悠々と取り、そのまま片手で構え次の攻撃に備える。
「………ッ」
時間にすればほんの十秒にも満たない攻防であったが、その間に前衛二人をまとめて返り討ちにしたキラ。
そんなキラの技量に、思わず奥歯を噛み締めるティアナ。
予想はしていたが、やはり自分とは比べ物にならない程強い。
相手の先の先の手まで予測し、対抗手段を即座に考え実行する思考速度。
そして魔力不足を補って余りあるあの魔力コントロール。
キラの強さを構成するそれらは、全てティアナが今最も欲しているものだ。
「上等よ。こっちは端から手段を選んじゃいられないのよ。この模擬戦で盗めるだけ盗んで、その上で勝ってやるわ! 出来るわね、クロスミラージュ!」
『Yes.』
両手に構えた愛機、クロスミラージュにそう呼び掛けながら、その形態をワンハンドモードに変化させるティアナ。
高位の魔法や精密射撃を行う際の形態であるワンハンドモードは、数が減った分魔力消費率も減少し、効率良く魔力を運用できる。
全ては、キラの魔力運用に対抗するための策だ。
(スバル! まだ動けるわね!?)
キラの動向を伺いながら、吹き飛ばされたスバルに念話を送るティアナ。
(うん! さすがに直撃は痛かったけど、これくらいならまだ戦えるよ!)
それにすかさず返答するスバル。
高密度に圧縮された魔力弾の直撃を受けながらも、彼女はすぐさま立ち上がって体制を立て直していた。
(OK。キャロはエリオに治癒魔法を!)
(はい!)
未だ立ち上がれずにいるエリオにはキャロを向かわせ、受けたダメージを回復させる。
それをさせまいとF4Uをキャロに向けるキラの前に、立ち上がったばかりのスバルが立ち塞がる。
(エリオが回復するまで二人で時間を稼ぐわよ! クロスシフト、いけるわね!)
(任せて!)
ティアナの指示に従い、キラへ接近するスバル。
先程のように勢いのある一撃必倒の拳ではなく、小刻みに拳を繰り出しキラの意識を引き付ける。
「驚いたよ。直撃を受けてもまだそんなに動けるなんて」
スバルの攻撃を最小限の動きで回避しながら、キラが感心したようにそう声をかける。
そんなキラに対し、負けん気のある笑みと共に鋭い蹴りを繰り出しながら、スバルは応える。
「頑丈さと突破力が私の売りですから!」
「そっか。うん、真っ直ぐで素直なスバルらしいね」
「はい! ありがとうございますっ!」
「おっと!」
お礼の言葉と同時に繰り出された鋭い後ろ回し蹴りを、上半身を後ろに反らせることで回避し、そのまま勢いを殺さずバック転で距離を取るキラ。
その間に魔力弾を三つ生成し、着地と同時に撃ち放つ。
一つは追撃しようと前へ出たスバルに。
そして残った二つは、
「なっ!?」
スバルの後方で、砲撃魔法を放とうと構えていたティアナに向けて。
「くっ!」
自身へ向けて放たれた魔力弾をリボルバーナックルで弾き飛ばすスバル。
だが、それが限界だ。
ティアナへ向けられて放たれた魔力弾を撃ち落とす余裕は無かった。
「ティア!」
スバルの叫びもむなしく、二つの魔力弾の直撃を受けるティアナ。
炸裂した魔力から生じる煙に紛れ、その安否は伺い知れない。
だが、スバルのような強靭さを持たないティアナにとって、魔力弾二発の直撃は致命的だろう。
そう確信していたキラは、次の標的を回復中のエリオとキャロに切り替える。
「スバル!」
「えーーッ?」
その一瞬の隙を、彼女が見逃すはずはなかった。
突如としてキラの背後から聞こえてきた声に振り返ると、そこには魔力弾二発の直撃を受けたはずのティアナの姿があった。
(まさかーー幻術!?)
幻術魔法。
ティアナ・ランスターが使用する魔法の中で最も特殊で有用性のある高位魔法だ。
対人だけではなく、機械のオートスフィアやガジェットドローンにも効果があるのだが、その扱いの難しさから使い手は少ないとされている。
ティアナが使用したのは。その中でも特に高位のフェイクシルエットという幻術魔法だ。
肉眼や簡易センサー類では見抜けない程の精度を誇るその魔法は、キラの観察眼をもってしても見抜くことは出来なかった。
「くっ…!」
スバルとティアナに挟まれたこの状況に、キラの顔に初めて焦りの色が浮かぶ。
そして思い出す。
スバルとティアナが最も多用しするフォーメーション、クロスシフト。
それは、二人の同時射撃により敵を一瞬で制圧するというものだった。
そして今、
「リボルバァァァッーー」
「クロスファイアァァァッーー」
二人の拳と銃口から、一撃必倒の射撃魔法が放たれようとしている。
(ーーッ)
読み合いでティアナに敗北したという事実に、キラのなかで初めての感情が芽生える。
負けたくない。同じなのはの教導を受けた身として、負けるわけにはいかない。
そのコントロール出来ない感情はキラを支配し、本能的な行動を促した。
「F4U!」
『Ok.』
「「ーーシュゥゥゥゥゥトッ!!」」
ほぼ同時に放たれる二つの射撃魔法。
リボルバーシュートとクロスファイアシュート。
スバルとティアナが自身と信頼を置く、文字通り一撃必倒の射撃魔法だ。
その二つの魔力弾の挟撃を受けたキラ。
もし直撃を受けたのであれば、間違いなく無事では済まない筈だ。
「………」
消費したカートリッジを交換しながら、油断なくキラの居た位置を伺うティアナ。
キラの姿は今だ晴れない煙の中だ。
正直、自信はあった。
今の攻撃は完全に隙を突けたという確信があった。
少なくとも、戦闘不能とはいかずとも無視できない程のダメージを負わすことは出来た筈だ。
そう思っていたからこそ、
「今のは良い連携だったよ。正直、デバイスがF4Uじゃなきゃ今ので決まってただろうね」
自分の背後から聞こえてきたその声には、驚きを隠せなかった。
「ーーッ!?」
声のした背後を慌てて振り返るティアナ。
そこには、スバルとティアナの挟撃を受けたはずのキラの姿があった。
だが、その姿は先程までとは大きく変わっている。
バリアジャケットはトリコロールカラーのコートから、肩が剥き出しの紺のレザーコートへと変わり、F4Uは槍剣型から双剣型へと変化している。
「F4Uの第二形態……まさかここで使うことになるとは思わなかったけど、丁度良かったかもしれない」
そう言いながら、片方の剣の切っ先をティアナに突き付けるキラ。
その瞳は完全にティアナを捉え、決して逸らそうとはしない。
「勝負だよティアナ。僕は君に勝ちたい」
それは、キラ・ヤマトがティアナ・ランスターを己のライバルとして認識した証しでもあった。
「……上等よ」
そして同じように、ティアナの瞳にも最早キラしか映っていない。
「やってやろうじゃない。私は、アンタなんかに負けないっ!」
そして、同時に駆け出す二人。
この直後から、戦いは苛烈を極めていく。
キラ・ヤマトとティアナ・ランスター。
この二人が、互いをライバルと認めあったことによって。