魔法戦士リリカルSEED Strikers 作:ぬらりひょん
ミッドチルダ南東地区上空
機動六課に配備された輸送ヘリJF704式。
先の出動でも活躍した本機は、管理局武装隊制式採用の輸送ヘリコプターだ。
その性能はヴァイスに「前から乗ってみたかった」と言わせ、アルトには「JF704式が配備されると聞いて急いで来た」と感動させる程高水準となっている。
その機体サイズからは想像できないほどの高い運動性を 持っており、パイロット次第ではあの航空型ガジェットII型の追跡を振り切るポテンシャルもある。
そんなJF704式は現在、六課のフォワード陣全員と数名を乗せ、ミッドチルダの南東地区上空を飛行中だった。
円形に縁どられた強化ガラスの窓からは、快晴の日差しとオフィス街の情景が一望できる。
だが、もちろんこの情景を楽しむ為にヘリを飛ばしている訳ではない。
機動六課フォワード部隊は、地上本部から要請を受け、その現場に向かっている途中だった。
「ほんなら改めて、昨日の隊長会議で話されたことと、今日の任務について説明するな」
そう言ってはやては、コックピットへと繋がる扉の前で空間投影モニターを展開させながら、フォワード陣へ任務の説明を始める。
向かい側に座ってはやての話を聞くのは、新人フォワード陣四人とリィンフォースⅡ、六課の主任医務官であるシャマル、そしてそれに挟まれた位置にザフィーラが狼の姿で座っていた。
「まずは前回の貨物車両占拠事件についてや。現在この事件の重要参考人として挙がってきたのがジェイル・スカリエッティという超広域指名手配犯で、ロストロギア関連の事件や他にも様々な次元犯罪の関与をしてきたとされる次元犯罪者の大物や。この男の技術力があれば、ガジェットの様な自律飛行型兵器を作成することは可能やし、それを使ってロストロギアを狙っているのも説明がつく」
ジェイル・スカリエッティ。
人体実験や生命操作、生体改造のエキスパートで、違法実験に手を染めなければ間違いなく歴史上稀に見る天才と断言出来る人物。
「昨日の隊長会議では、このスカリエッティの線で捜査を進めていく事が決まった」
そんな人物と現在敵対関係にあるという事実に、フォワード陣の顔にも緊張が走る。
それを感じ取ったのか、はやての隣に立つフェイトが穏やかな表情を浮かべてその言葉に続く形で口を開いた。
「こっちの捜査は主に私が進めるんだけど、皆も一応、頭に入れておいてね」
フェイトの言葉に声を揃えて「はい!」と返答する新人フォワードの四人。
その様子に満足げな笑みを浮かべたリィンが、先ほどまでスカリエッティの姿を映していた空間モニターの横まで飛んでいき、ブリーフィングの進行を引き継ぐ。
「で、今日これから向かう先はここ、ホテル・ア グスタ」
彼女が口を開くと同時に、モニターに映し出されていた画像も切り替わった。
映し出されたのは、周囲を森林に囲まれた高級ホテル。 均等な感覚で植えられた木々と、手入れの行き届いた芝生を中心に置いた来客者の車などが発着するロータリーがエントランス正面にあり、そこから白を基調とした配色の建物が繋がっている。
そして、屋上にはプールやヘリポートがあり、他にも多目的な用途の建造物がそのホテルにはある事が伺えた。
「私たちの任務は、ここで開催される骨董美術品オークションの会場警護と人員警護です」
再びモニターの画像が切り替わり、ホテル外観から、内部にあるオークション会場が映し出される。
「オークションには取引許可の下りたロストロギアも少なからず出品されるため、その反応をレリックと誤認してガジェットが現れる可能性が高いとの事で、私たちが警備に呼ばれたです」
眉毛を八の字にして説明するリィン。
本人は極めて真面目だが、その愛らしさのせいもあり微笑ましげな雰囲気となってしまう。
「この手の大型オークションだと、密輸取引の隠れ蓑にもなったりするし、色々油断は禁物だよ」
フェイトが警戒心を促す意味でリィンの説明を補足をする。
そしてそれに反応するように、空間投影モニターに映る画像が再び切り替わった。
「現場には昨夜からシグナム副隊長とヴィータ副隊長他、数名の六課隊員が既に警護についているです。一応今のところはガジェットなどの反応は無いとのことですが、私たちが到着した後も副隊長たちは一緒に警護についてくれるです」
映像には、腕を組んでエントランスの入口に仁王立ちするシグナムや、出品物の警護に付いているヴィータの姿が映しだされる。
それを確認させつつ、リィンの説明は続く。
「また隊長たちは直接会場内部の警護につくので、フォワード陣はシグナム・ヴィータ副隊長両名の指示に従ってくださいね」
そういって微笑むリイン。
その言葉に、フォワードの四人は先程と同じように声を揃えて返答した。
「説明はこんな所かな。とりあえず、到着まで皆は自由にしててええよ」
ブリーフィングを終えたはやてが展開していた空間投影モニターを閉じる。
そんなはやてに、ふとエリオが手を挙げて声をかけた。
「あの、八神部隊長。一つよろしいですか?」
「ん? なんや、エリオ」
首を傾げて答えるはやて。
するとエリオは、おずおずと遠慮がちにではあるが、真っ直ぐにはやてを見て問いかける。
「その、キラさんはこの任務に参加しないんでしょうか?」
エリオのこの質問に、その他のフォワードメンバー、特にティアナは露骨な反応を見せる。
それらの反応を一通り見たはやては、素の彼女に近い少し悪戯っぽい笑みを浮かべて質問に答えた。
「キラくんならもう現地に着いとるよ。多分今頃私の顔思い出して怖い顔しとるんやないかな~」
「は、はい?」
はやての答えに首を傾げるエリオ。
その様子を背後で見ていたなのはとフェイトは、少し呆れ気味な笑みを浮かべて互いに笑い合っていた。
◇
ミッドチルダ クラナガン南東
ホテルアグスタ オークション会場
オークション会場となるホテルのエントランスは、多くの人で賑わっていた。
その誰もがきらびやかな衣装に身を包み、気品のある立ち振舞いをしている。
そんな中、受け付けを担当するスタッフは慣れた手つきで次々に来場するお客様を案内していく。
「いらっしゃいませ、ようこそ……?」
そしてまた同じように次の来場者を案内しようとしたスタッフは、不意に身分証のようなものを差し出され思わず首をかしげた。
顔を上げて持ち主の姿を確認すると、そこには他とは一線を画す程美しい女性三人が、こちらを見て微笑んでいた。
「こんにちは。機動六課です」
身分証を差し出してそう挨拶したのは、水色のドレスに身を包んだ機動六課の部隊長、八神はやて。
そしてその両隣には、それぞれ紫とピンクのドレスに身を包んだフェイトとなのはの姿があった。
「これはこれは、ようこそ。本日はよろしくお願いします」
目麗しい美女の姿に目を奪われつつも三人を会場内へと案内する受け付けスタッフ。
はやて達はそれに軽く頭を下げて礼を返し、誘導に従って入場する。
「ほな、うちはオークションの主催者に挨拶してくるな。なのは隊長とフェイト隊長は先に会場内に入って出入り口や避難経路を確認しといてくれる?」
「了解」
指示に頷き、はやてから離れて会場内へと入場するなのはとフェイト。
既に入場を開始してることもあり、会場内には既に多くの来場者の姿があった。
このオークション会場には出入口が複数あり、また避難用の出口も別で用意されている為、その確認だけでも多少時間がかかってしまう。
「それじゃ、私は反対側の出入口を見てくるね。ここはよろしく、フェイト隊長」
「うん、任せて」
フェイトにそう一声かけ、反対側の出入口へと向かうなのは。
残されたフェイトは、今入場した入口付近の警備状況や、避難経路と出入口の確認を行う。
(うん、さすが高級ホテルだけあって警備もしっかりしてる。これなら安心かな)
思っていた以上に優秀な警備状況に少し安心するフェイト。
これなら、よっぽどのことが無い限り隊長陣の出番は無さそうだった。
(……そういえば、キラは先行して会場入りしてるって聞いてたけど……どこにいるんだろう?)
ふと、フェイトの脳裏に会場内の警備班との打ち合わせの為、先に会場に着いていると聞かされていたキラの顔が思い浮かぶ。
最近少し過剰労働気味だと聞いていたので、どうしても心配になってしまう。
(昨日も隊長会議の後、遅くまで資料作成を手伝ってくれていたし……無理してないといいけど)
会場内の動きに油断なく目を光らせながらも、昨夜のキラの姿を思い浮かべて心配げに眉をひそめるフェイト。
そんな彼女の瞳が、不意に気になる光景を捉えた。
(? あれは……)
舞台から一番遠い出入口付近で、一組の男女が何やら揉めているようだった。
男性の方は富豪を絵に描いたような容姿をしており、どうやらそれを餌にもう片方の女性に言い寄っているようだ。
だが言い寄られている方の女性の反応は芳しくなく、明らかに対応に困っていた。
(………まぁ一応、これも警備の仕事かな)
大事になりそうな雰囲気では無いが、困っている人を放っては置けないのがフェイトという人間だ。
なんの躊躇いもなく近付いていき、男性の方に声をかける。
「すみません、少しよろしいですか?」
「ん? なにか……おぉこれはこれは、私に何かご用かな、美しいお嬢さん」
不意に声をかけられ不機嫌そうに振り返った男性は、しかしフェイトの姿を見た途端態度を好意的に一変させた。
その手のひら返しな態度に、若干の不快感を覚えるフェイト。
だがそんな感情は微塵も表情に出さずに、極めて当たりの良い微笑みを浮かべて言葉を返す。
「失礼、本日こちらの警備を担当させていただきます管理局の者です。大変申し訳ないのですが、会場内でのそういった行為は控えていただいてもよろしいですか?」
身分証を差し出しながら浮かれ顔の男性にそう告げるフェイト。
すると男性は羞恥と怒りに顔を真っ赤にすると、反論しようと口を大きく開け、しかし言葉が思い浮かばず結局不機嫌そうに押し黙ってしまう。
それを肯定と受け取ったフェイトは、「ご協力、ありがとうございます」と小さく礼を述べると、言い寄られていた女性の手を取って会場の外へと連れ出していく。
「ごめんなさい、少し強引になってしまって」
そうして人気が少ない落ち着いた場所に辿り着くと手を放し、改めて女性と向き合った。
(綺麗な人だな)
一目見た瞬間、フェイトはそう思った。
フェイト自身は平均的な女性よりも背の高い方だが、この女性は更に高い。
何かスポーツをやっているのか胸は控えめで、尚且つ体格は一般的な女性よりやや大きめだが、身体のパーツ一つ一つのバランスが良く、健康的でスレンダーなモデル体型といったところで、身にまとう淡い青色のロングドレスが良く似合っている。
顔の方も綺麗に整っており、コーヒーブラウンのセミロングの髪と実にマッチしている。
そして何より目を引いたのは、アメジストの綺麗な瞳……。
「……………って、あれ?」
そこまで考えて、ふと気付くフェイト。
今まで挙げてきた特徴は、どこか聞き覚えがあるものばかりだった。
もう一度、じっくり女性の顔を見てみる。
「~~~ッ!」
フェイトにじっくりと顔を見られ、女性は恥ずかしそうに視線を逸らす。
だが、その反応は少しーー否、かなり過剰だ。
まるで、一番出会いたくなかった人にうっかり出会ってしまったような……。
「ーーあっ」
そこでようやく気付いた。
自分より高い身長。バランスの取れた体格。コーヒーブラウンの髪。アメジストの瞳。
この特徴に当てはまる人物を、フェイトは良く知っていた。
「もしかして………キラ?」
「………………」
フェイトの問いかけに対し、女性ーー改めキラ・ヤマトは、目に涙を溜め無意識に艶やかな表情を浮かべながら、無言で肯定を表した。
前にも先にも、キラが割りと本気で死にたいと思ったのはこの時が初めてだった。
ご無沙汰してます。作者のぬらりひょんです。
いつもご愛読ありがとうございます。
気が付けばもう10月も残り僅かですねー。
月日が経つのは早いもので、このSSを書き始めてから気が付けば1年と5ヶ月が経ってました。
これだけ経ってるのにまだ物語は序盤なんですよねー……えぇ、私の努力不足です大変申し訳ないです。
これからはもう少しテンポ良く物語を進めていきたいと思います!
と言うわけでホテルアグスタ編に突入した訳ですが、ここでお知らせを一つ。
サウンドステージの内容ですが、後日番外編というかたちで書きたいと思っています。
本編ではあまり描けないような要素を多分に含んだ内容にしようと考えています。
すずかにはやてとの仲を誤解されたり、エリキャロをフェイトとの子供だと誤解されたり、なぜか高町家に挨拶にいくことになったり……etc
まぁようはラブコメ全快でいこうかと。妄想垂れ流しです。
ハーレムにするつもりはないのでやりすぎには注意しますが、せっかくの番外編なのである程度やりたい放題にさせていただきたいと考えてます。
なので、どうか広い心で作者の妄想にお付き合いしていただけると嬉しいです。
では、また次回のあとがきで。
最後までご覧いただきありがとうございました!