魔法戦士リリカルSEED Strikers 作:ぬらりひょん
機動六課部隊長八神はやては、極めて優秀な魔導士であり、指揮官である。
得手不得手はあるものの、総合的に見ればこれ程優秀 な人材は管理局内でもそうはいないだろう。
「実を言うとな、出会った時からずっと思っとったんよ。この人には、秘められた無限の可能性があるって」
そんな彼女は現在、任務中にしか見せない極めて真剣な表情でそう語っていた。
「この可能性を埋もれさせるのは罪や。何らかの形で拾い上げな、私はこの先の人生で絶対後悔する……そう、思っとった」
そこまで言って振り返ったはやての表情に、ふと満足げな笑みが浮かぶ。
「そういう意味では、これも私の夢やったのかもな。機動六課と並んで、私がどうしても実現させたかった 夢……そうっ!」
その視線は、自分の部下であり、同時にかけが得の無い友の晴れ姿に釘付けになっていた。
「キラくんに女装をさせるこッブフォッ!」
「笑うならせめて言い切ってから笑ってくださいっ!!」
「ッククッ!ごめっ、堪えきれんかった……ップフッ」
「いっそ笑えばいいじゃないですか!そんな風に堪えられる方が却って不愉快ですっ!」
「アハハハハハハッ!!キラくん女装似合いすぎっ! 私天才やわっ!!」
「やっぱり笑われても腹が立つので殴ってもいいです か? 割りと本気で」
「なんでや!理不尽やろっ!」
「僕の方がよっぽど理不尽な目にあってますよっ!!」
「えぇやん似合うとるし!警護任務に女装して参加した前代未聞の管理局員として武勇伝を語り継いでいけばえぇやん!」
「武勇伝どころかとんだ黒歴史ですよっ!」
「これで私の夢も叶って一石二鳥やね!」
「僕からしたら悪夢ですけどね!むしろ一生夢のままでいてほしかった!というか夢であってほしい!」
「もうキラくんさっきから何なん? 反抗期?」
「貴女に対しては年中無休でそうですね!」
「あ、わかった生理?」
「僕は男だよアホかっ!!」
「部隊長に対してアホとはなんや!」
「言動と行動がアホなんだから仕方ないでしょう!?」
「ねぇなのは。私達今任務中だよね?」
「う、うん。そのはずなんだけど……」
低レベルな言い争いを繰り広げるハイレベルな美女(一 人は女装だが)二人。
その様子を苦笑して見守るフェイトとなのはの言う通り、現在この四人はここホテルアグスタで行われているオークションの会場警備という立派な任務の真最中である。
にも関わらず、部隊長であるはやてとその補佐であるキラは、任務そっちのけで子供のような口喧嘩を続けていた。
正直、このままでは真面目に仕事をしている部下達に示しがつかない。
そう思ったなのはは、相棒であるレイジングハートに今のキラの姿を映像として記録するよう指示しつつ、 二人の仲裁に入った。
「はやてちゃん、いい加減にしないと怒るよ。キラくんはもうちょっと目線をこっちに向けようか」
「はい、わかりまし……って何さりげなく録画してるん ですかやめてくださいっ!」
「?」
「いや、そんな『何を言ってるんだろうこの人』みたいな感じで首を傾げないでください!そして録画をやめてくださいっ!」
「なんで?」
「そんな映像残したって黒歴史にしかなりませんよ! 誰が得するって言うんですか!
「するよ?」
「誰が!?」
「私が」
「なぜ!?」
「最近気付いたんだけど……」
「え?……あ、はい」
「キラくんが恥ずかしがったり困ったりしてる姿を見るとね……」
「見ると?」
「テンション上がるんだ」
「忘れてください!そんな性癖は今すぐ忘れてください!!」
ますますヒートアップするキラに対し、なのははほっこり顔で録画を続ける。
どうやら止める気は毛頭無いらしい。
はやては、そんな二人の姿を満足げに一瞥すると、置いてきぼりで一人困っている様子のフェイトへ視線を向ける。
「ほなここの警備はあの二人に任せて、私らは反対側を見回ろうか」
「えっ、でも……」
「大丈夫大丈夫。ほら、いこいこ!」
「ちょ、はやて!? 押さないで……って言うかキラはあ のままで大丈夫なの!?」
「大丈夫やって!メイクや着付けは私が徹底的に教育したシグナムに任せたから、今のキラくんを男やと気づく人はそうはいないはずや!」
「いや、そういう問題じゃなくっ!」
この場で唯一キラの味方をしてくれそうなフェイトが強制的に連れて行かれる。
これでもう、なのはを止められるものは誰もいなくなった。
「なのはさんっ! いい加減にしないと僕でも怒ります よ!?」
「いいよ!怒った顔も可愛いから!」
「駄目だこの人!早くなんとかしないと!」
普段よりも二割増しで怖い笑顔を浮かべながらキラに迫るなのは。
結局、オークションが開始される直前まで、キラは自らの歴史上最も屈辱的な姿を撮られ続けた。
◇
同じ頃、ヘリポートに到着した後別行動となっていた他のフォワードメンバーは、全員既に指定された持ち場へと到着していた。
地元の部隊が警備を担当する正面のロータリー付近を除く、ホテルの敷地の東・西・北を機動六課フォワード部隊が担当する。
そんな中、新人であるティアナら四人は、それぞれ東がスターズ分隊のスバルとティアナ、北がライトニング分隊のエリオとキャロという配置で警備を行っていた。
現状、森林に囲まれたホテル周辺に異常は無い。
索敵と全体の指揮を担当するシャマルに異常なしと報告を入れると、少し力みがちだったティアナの肩から少し力が抜けた。
(今日は八神隊長の守護騎士団全員集合かぁ ……)
そんなティアナに、暇を持て余したスバルが念話で声をかける。
(……そうね。あんたは結構詳しいわよね、隊長達や副隊長達のこと)
普段であれば任務中の雑談には積極的じゃないティアナだが、あまりにも手持ちぶたさだった為、素っ気ないながらもスバルの話に付き合う。
(うん、父さんやギン姉に聞いたことがあるんだよね。 まぁ、八神部隊長達の能力とか詳しい事は特秘事項だから、私も詳しいことは知らないんだけど)
スバルの父、ゲンヤ・ナカジマは陸士部隊の隊長であり、尚且つ部隊長であるはやてとそれなりの親交がある。
ともなれば、娘であり管理局員であるスバルにもある程度情報が入るのも不思議ではない。
そんなスバルの返答に、ティアナは物憂げな表情を浮かべて顔を伏せる。
(レアスキルもちの人はみんなそうよね…)
思わず呟かれるティアナの本心。
特別な力や才能を持つ者に対する嫉妬のような感情が溢れだし、それを自覚しているからこそ更なる自己嫌悪に陥る。
(え? どうしたのティア?)
そんなティアナの複雑な心境を、スバルはその純粋さ故に察することが出来なかった。
(……何でもないわよ)
平静を装いそう言うと、ティアナは一方的に念話を切る。
スバルが何か言いたそうにしていたのはわかったが、今それを聞いてしまうと恐らくティアナはその優しさに甘え、スバルに辛く当たってしまうだろう。
そんな格好悪い姿を、大切なパートナーである彼女に見せたくはなかった。
(六課の戦力は無敵を通り越して、明らかに異常だ)
熱くなりかけていた頭を冷やし、冷静になって思考する。
その対象は、あまりにも強力な機動六課の戦力について。
(八神部隊長がどんな裏技を使ったのか知らないけど、隊長格全員がオーバーS、副隊長たちだけでもニアSランク。他の隊員たちや管制だってエリートばっかり。あの年でもうBランクをとってるエリオと、レアで強力な 竜召喚士のキャロは二人ともフェイトさんの秘蔵っ子。 危なっかしくはあっても、潜在能力と可能性の塊で優しい家族のバックアップもあるスバル……)
考えれば考えるほどその過剰過ぎる戦力に疑問が浮かび、同時に自分の場違いさに嫌気が差しそうになる。
(やっぱり、うちの部隊で凡人なのは私と……アイツだけ)
そんなティアナの心の支えになっているのは、皮肉なことに最も気にくわない存在であるキラだった。
自分と同じ、魔法に関しては平凡な力しか持たないにも関わらずそれを努力と知恵でカバーし、一騎当千の隊長陣からも一目置かれる実力を持つキラ。
才能が無くても本人の努力次第で強くなれるということを体現したキラの存在は、現在のティアナにとって唯一の希望だった。
(そうだ。私は立ち止まるわけにはいかない……)
揺れていた瞳に力が宿る。
自分の未来の為、かけがえの無い存在だった兄の汚名を返上する為、こんなところで足踏みをしている暇はない。
「証明するんだ。特別な才能や凄い魔力が無くったって……ランスターの弾丸は、敵を撃ち抜けるって」
自分に言い聞かせるようにその言葉を噛み締めるティアナ。
本人は自覚していないが、思いの他その声は大きくなってしまっていた。
「……ランスターか。懐かしい名前だな」
「ーーーえ?」
不意に聞こえたのは、昔を懐かしむような男の声。
ティアナの言葉を聞いていたかのようなその声に振り返ると、そこには正装姿の青年が無防備に立ち尽くしている。
その青年は呆けるティアナの姿を一瞥すると、柔和な笑みを浮かべた表情でこう続けた。
「お前、もしかしてティーダ・ランスターの妹か?」
「なっ!?」
青年の口から出た兄の名前に、今度こそティアナは驚愕した。
「兄を……知ってるんですか?」
そう訊ねながら、ティアナは改めて青年の姿を確認する。
歳は二十代半ばといったところか。
もし管理局員なのであれば、過去に兄と一緒に仕事をしたことがあるのかもしれない。
そう思ったティアナは、期待と緊張から思わず息をの み、青年からの返答を待つ。
「あぁ、知ってるさ。何せ、奴とは互いに殺しあった仲だからな」
だが返ってきたのはティアナが期待した答えではなかった。
「ーーッが!?」
一瞬、何が起こったのか理解出来なかった。
気が付いたら自分の身体が壁に叩きつけられていて、先程自分が立っていた場所に先程の青年がバリアジャケットを纏って立っていた。
クロスミラージュが咄嗟の判断で対物理攻撃のバリアと衝撃緩和の為の魔力障壁を張っていなければ、ティアナの身体は今頃ひとたまりもなかっただろう。
「アンタ……一体っ!?」
目の前の青年を敵だと判断したティアナは、直ぐ様クロスミラージュをセットアップし追撃に備える。
だが、内心では激しく動揺していた。
先程の青年の言葉が引っ掛かっているのだ。
「……そうだな。折角の運命的な出会いだ……一つ自己紹介しておこうか」
ティアナの問いに、青年は心底面白いといった笑みを浮かべて答える。
「俺の名前はミゲル・アイマン。お前の兄貴を殺した男だ」
その瞬間、ティアナの中の理性が弾け飛び、目の前が真っ白になった。