魔法戦士リリカルSEED Strikers   作:ぬらりひょん

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PHASE―35

ティーダ・ランスター。

物心つく前に両親を失った彼女にとって、兄の存在は唯一の肉親であり、また目標でもあった。

執務官志望のエリートで、同期の魔導士の中でも頭一つ飛び抜けた才能を持っていたティーダは、得意の精密射撃魔法を駆使し着実に実績を重ね、管理局内での評価を上げていき、執務官試験の合格も確実だろうと噂される程になった。

そんな兄への評価を当時のティアナはまるで自分のことのように喜び、同時に誇らしく感じていた。

私も兄のようになりたい。優秀な兄の妹として、相応しい人間になりたい。いつしかティアナは兄の背中を追うようになっていた。

だが、そんなティアナの願いを嘲笑うかのように、運命は彼女からその全てを奪い去った。

 

それはティーダにとって、何てことのない任務のはずだった。

ある違法魔導士の追跡任務。相手は甘く見積もってもランクにしてせいぜいB-程度の魔導士で、見るからに魔法戦闘の実践経験も乏しい。

当時既にAAランク認定されていたティーダにとって、それは油断さえしなければ確実に勝てる相手だった。

だから、油断した。してしまった。

実行犯を拘束したその一瞬の隙をつかれ、何らかの方法で隠れ潜んでいた犯人の仲間の凶弾を背中から受けた。

結局その傷が致命傷となり戦闘不能となったティーダは、犯人に逃げられ、救援に来た仲間の腕の中で息を引き取った。

知らせを聞いて駆け付けたティアナは、物言わぬ姿となった兄に泣きながら怒鳴り散らした。

 

――嘘つき!

――絶対に一人にしないって!大きくなったら部下にしてやるって!約束したのにっ!

――一緒に戦おうって!一緒に生きていこうって!……約束……したのにっっ…!!

 

そう泣き叫びながら兄の亡骸にすがり付くティアナの姿は、あまりにも痛々しかった。

なぜ、自分ばかりこんな辛い目に遭うのか。

なぜ、自分ばかり大切なものを奪われなければいけないのか。

運命を呪ったティアナは、そして決意する。

大切な時間を、大切な約束を、大切な人を奪った犯人を………必ず、この手で―――。

 

 

 

 

「―――ア"ァァァァァァァッッ!!」

 

その咆哮と同時に放たれた無数の弾丸が、禍々しい程の色を宿して標的に迫る。

執念。怨念。そういった負の感情を剥き出しにしながら、ティアナは駆け抜ける。

相手が自分の弾を空中で大きく左に旋回しながら回避したのを確認して、その導線上に更に誘導性の魔力弾をばら蒔く。

激情に身を任せながらも、以外な程冷静な自分の思考に驚くティアナ。

それがなのはによる教導の賜物であることを実感し、初めてティアナはその成果に肯定的な気持ちを抱いた。

自分が思っていた以上に自分は強くなっていた。

あのはたすら基礎を積み重ねていくだけの教導は、決して間違ってなどいなかった。

そう改めて実感し、そしてだからこそ感じた。

 

「ハッ! 小賢しいんだよっ!」

 

自分は結局、魔導士として平凡の域を出ないのだと。

本物の天才には、どんなに努力しても劣ってしまうのだと。

それは、自らが渾身の力を込めて放った魔力弾を大した力も込めた様子もなく、たった一振りの剣閃でかき消す敵の様子を見て確信に変わった。

 

(ホンット、これだから天才ってやつはっ!)

 

凡人の血の滲むような努力を、天才はたった一振りで無に帰す。

その理不尽なまでの力の差に、それでも、とティアナは歯を食い縛った。

 

「関係ないわよっ!例えどんな手段を使ってでもっ!!」

 

こちらの攻撃が通用しないのは予想の範囲内だ。

どれだけ軽くあしらわれたとしても、最低でも敵の足を止めることは出来た。

それなら、まだ希望はある。

ランスターの弾丸が、敵を撃ち抜く可能性はまだ残っている。

 

「アンタはっ!私があぁぁぁっっ!!」

 

兄の仇をこの手で討つ。

その約束だけは、必ず果たしてみせる。

その思いを乗せた魔力弾が、再び撃ち放たれる。

シュートバレット。幼い頃兄から教えてもらった射撃の基礎攻撃魔法。

ティアナにとっては慣れ親しみ、同時に極め尽くしたーーランスターの弾丸。

 

「ーー大した密度の魔力だ。だが!」

 

その完成度を、その努力を認めながらも、むしろ認めた上で敵は嘲笑う。

そんなものをいくら極めたところで俺の脅威にはならないとばかりに、剣を振り上げる。

その油断が、その驕りが、ティアにとって唯一付け入る隙になることを知らずに。

 

「なにっ!?」

 

魔力弾を、叩き切ったはずだった。

だが、先程まで感じていたような手応えがまるでない。

直後に感じたその寒気に、殆ど反射的にミゲルは上体わ逸らせて回避運動をとった。

何かが頬を掠めたようなその感覚に、ミゲルは続けて目を見張る。

今自分の顔の横を魔力弾が通過した。それを本能が感知した。

だが、見えなかった。

その弾速が速すぎて見えなかったというわけではない。もしそうだとしたら気付くのが遅れた時点で避けられなかったはずだ。

となると、考えられる可能性は一つ。

文字通り、見えなかった。

視覚的に捉えることが出来なかったのだ。

 

「幻術魔法か!」

 

攻撃の正体に気付いたミゲルは、忌々しげに表情を歪める。

 

幻術魔法 オプティックハイド。

対象の周囲に複合光学スクリーンを展開し不可視状態にする魔法で、その効果は肉眼だけではなくレー ダーやセンサーの類いにも適用される。

だが、その分魔力消費も大きく、更には精密な魔力運用技術が要求される極めて高度な魔法だ。

並みの魔導士なら自分に展開するだけでも困難なその魔法を、ティアナはあろうことか自身の魔力弾に展開させた。

通常オプティックハイドは、対象が大きく動くか大量の魔力を使うかのどちらかで解除されるようになっている。

なので、魔力の塊である魔力弾に適用させるとなると、更に精密かつ繊細な魔力運用能力が必要となる。

 

(となると初弾のシュートバレットは幻術魔法で作ったフェイクか。ただでさえコントロールの難しい幻術魔法の平行処理……そんなもん、AAAランク並みのスキルじゃねぇか)

 

それを理解しているからこそ、ミゲルの動揺は大きかった。

少なくとも、事前に得ていた情報では、ティアナ・ランスターにそこまでの技術は備わっていなかったはずだ。

となれば、最早前情報はあてにならない。

 

「認識を改めるぜランスター」

 

改めて、ティアナを全力で倒すべき敵として認識するミゲル。

そもそもミゲルの仕事は、今後の脅威となる六課の新人フォワードメンバーの戦闘データの収集だ。

前回の戦闘で、既にエリオ、キャロ、スバルのデータはとってある。

だが唯一、手の内を全て明かさず状況を切り抜けたティアナだけは、十分なデータを取ることができなかった。

それを懸念したミゲルの雇い主が今回の仕事を与えたのだが、どうやらそれは間違いではなかったようだ。

 

「畳み掛けるわよ、クロスミラージュ」

 

『all light.』

 

自分の攻撃はやり方次第では通用する。

今の攻防でそれに確信を持ったティアナは、再度オプティックハイドを発動する。

それも今度は自分自身に。

 

「ちっ!」

 

ティアナの姿が消えたのを見て、ミゲルは思わず舌を打つ。

やはり、肉眼は愚か魔力探知にも引っ掛からない。

並みの魔導士であれば、ティアナが何かアクションを起こさない限りその位置を特定することは不可能だろう。

 

「何度も同じ手が!」

 

だが、少なくともミゲルの潜在的な魔力素質は魔導士としては破格のAAAだ。

それに比例した魔力量を余すことなく駆使すれば、幻術魔法など多少無茶な方法ではあるが対処出来る。

 

「通用すると思うなっ!!」

 

声と同時に、ミゲルは剣型のアームドデバイス『インヴォーク』 を地面に突き立てる。

するとそこを起点として、周囲360度に強力な魔力波が発生した。

発生した魔力波は大した攻撃性は無いものの、周囲の木々を大きく揺らしながら勢い良く広がっていく。

するとその大きな魔力の波に当てられたことによって、オプティックハイドの効果がかき消され、不可視状態だった魔力弾が姿を露にした。

その数は五。それもそれぞれ直射型、誘導制御型、自動追尾型を織り混ぜ、判別がつけにくくなっている。

 

(本当に大した魔力コントロールだ。だが!)

 

だがそんな小細工をしたところで、一つ一つの魔力弾に大した威力は無い。

 

「まとめてぶった斬る!」

 

『wide zamber.』

 

広範囲への攻撃を前提とした近接用斬撃魔法ワイドザンバー。

その範囲は使用する者によって差異があるが、高ランクの魔導士だと全方位をカバー出来る者もいる。

ミゲルもその例に漏れず、一振りで全ての魔力弾を斬り捨ててみせた。

 

「ッ!?」

 

だが、それすらもティアナは予測していた。

ミゲルが回避ではなく迎撃すると予測したティアナは、五つの魔力弾の中に閃光魔力弾を紛れ込ませていたのだ。

 

対キラ用として編み出した戦法だが、どうやら思いの外汎用性があったらしい。

炸裂した魔力光がミゲルの視界を包み込み、真っ白になる。

まんまと嵌められたミゲルだったが、後悔や怒りを感じる暇も与えてはもらえなかった。

強力な魔力の奔流を、背後から感じたからだ。

 

「クロスミラージュ!」

 

『Yes. Everything is in readiness.』

 

ティアナの呼び掛けに対し、彼女の相棒であるクロスミラージュが応える。

瞬間、その周囲に五つの魔力スフィアが形成された。

誘導制御型の中距離射撃魔法クロスファイアシュート。

ティアナが得意とするその魔法をクロスミラージュが単体で生成し、以降の制御をティアナに譲渡する。

オプティックハイドの並列処理とを行っていたティアナの代わりに、各魔力弾の生成をデバイスであるクロスミラージュが担当する。

攻撃をデバイスが担当し、そのサポートを魔導士が行う。

これは、なのはとの模擬戦の最中、ティアナが自ら気付き模範した戦法だ。

 

「クロスファイアシュートーー」

 

そしてティアナは、慣れ親しんだ得意魔法に新しいアレンジを加える。

すると形成された魔力スフィアがティアナの前に集束し、回転しながら発射体制に入った。

これもまた、ティアナが自ら気付き、模範したものだ。

 

「ーースパイラルシフトッッ!!」

 

次の瞬間、集束した五つの魔力スフィアから魔力砲が放たれた。

それは螺旋状に高速回転しながら、今だ視界が回復せず立ち尽くしているミゲルへと襲いかかる。

だが、目視出来ずともその膨大な魔力を察知したミゲルは、迎撃に自動追尾効果を付与した魔力弾を撃ち放った。

これで相殺は出来なくても、ある程度威力を軽減することは出来る。

そうすれば、防御魔法で辛うじて防ぐことが可能だろう。

ミゲルはそう判断し、防御魔法を発動して攻撃に備えた。

 

「躱せぇっ!!」

 

だが、それすらもティアナの予想の範疇だった。

クロスファイアシュートは誘導制御型の射撃魔法だ。

その効果は、アレンジを加え『スパイラルシフト』となった今も変わらない。

魔力砲はティアナの制御に従い、迎撃しようと迫る自動追尾型の魔力弾を紙一重で回避すると、ほぼ万全の威力のままミゲルへと迫る。

 

「なにぃっ!?」

 

「いけぇぇぇぇぇっっ!!」

 

そして直撃し、爆発した。

その威力は少なくともAAランク。ティアナの全身全霊を込めた魔法だ。

防御魔法があまり得意ではない上、咄嗟に生成した完成度の低いミゲルのプロテクションでは防ぎきれないだろう。

 

「……ふ…ふふ」

 

勝利を確信したティアナの口許に笑みが浮かぶ。

特別な才能がなくても、大きな魔力が無くても、ランスターの弾丸は敵を撃ち抜ける。

それを証明出来たと、心からの喜びに打ち震えていた。

 

「これで……やっと……」

 

自然と、その瞳からは涙が零れた。

魔力を大量に消費した影響から、全身から力が抜けその場に崩れ落ちる。

 

「………お兄ちゃん」

 

その震える声は、先程までとはまるで別人の、年相応の女の子のものだった。

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