魔法戦士リリカルSEED Strikers   作:ぬらりひょん

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PHASE-3

夕刻のミッドチルダ北部。

そこにある臨海第八空港の跡地に、キラの姿はあった。

 

火災から一夜明けた今日。

キラははやてと共にミッドチルダの中央区画にある首都クラナガンに行き、地上本部にて事情聴取を受けた。

だが、結果はかわらなかった。

昨日、なのはとはやてから聞かされた事実以上のことはわからなかったのだ。

キラがいた世界は、次元世界、管理外世界のどこにも存在しない。

この事実は、強固な壁となってキラの前に立ち塞がっていた。

結局、キラの身柄は処遇が決まるまで陸上警備隊104部隊に預けられることとなり、日が暮れる頃にはミッドチルダ北部に戻ってきていた。

そして現在、キラは本人の希望で昨日の火災現場まで来ていた。

もちろん、キラ一人というわけにはいかないので、はやての部下が一人護衛としてついている。

 

「僕の記憶にある地球は……どこにも存在しない」

 

火災の爪痕が残る空港跡地を見つめながら、キラは呟く。

 

「じゃあ、どうやって僕はこの世界に来たんだ」

 

その表情に苦悶が浮かぶ。

 

「わからない……何もわからない」

 

自分が何者なのか、どこから来たのか、キラは知っているはずだった。

少なくとも、知識として残っている記憶が、それを証明してくれるはずだった。

だが、それも今では信じられない。

キラがいた世界そのものが存在しないと言われた今、自分の記憶すら、信じることが出来ない。

 

「僕は一体……誰なんだ」

 

誰に問い掛けるわけでもなく、キラは空港跡地に向けてそう言葉を漏らした。

ここに来たのも、悪足掻きのようなものだった。

ここに来れば、もしかすると何か記憶へと繋がる手懸かりがあるかも知れないという、淡い期待を抱いていた。

だが、それも徒労に終わった。

結局記憶は戻らず、何の手懸かりも得られなかった。

 

暫くして、背後から足跡が聞こえて来た。

 

「キラ君、申し訳ないんですが、そろそろ時間です」

 

声の主は、護衛としてついていたはやての部下だった。

見ると、確かにはやてと約束した時間が近付いていた。

 

「……はい、わかりました」

 

ここにいても得られるものは何もない。

それを悟ったキラは素直に従い、空港跡地に背を向けた。

その時だった。

 

「なんだよ、もう帰るのか?」

 

キラの背中に向けて、そんな声が掛けられた。

 

「えっ?」

 

慌てて振り返るキラ。

その視線の先に、一人の男の姿があった。

夕日を背に立つその男は、灰色の軍服のような服に身を包み、その手には両刃の剣が握られていた。

 

「バリアジャケットにアームドデバイス……貴様、魔導士か?」

 

そう言いながら、キラを下がらせ前に立つ護衛の魔導士。

その瞬間、

 

「お前に用はねぇんだよ」

 

『Accel zamber』

 

その言葉と同時に、男の姿が閃光となり瞬く間に接近し、一太刀で護衛の魔導士を切り伏せた。

 

「がはっ!?」

 

「お、案外硬いな」

 

咄嗟にバリアジャケットを展開したので致命傷は免れたが、それでもかなりの威力だったらしい。

バリアジャケットは中破し、身に纏う本人も立ち上がれない程のダメージを負った。

それを確認した男は、護衛の魔導士を完全に認識の外に外した。

どうやら男の興味の対象はキラただ一人らしい。

 

「そんなっ……どうしてこんなこと!貴方は一体!?」

 

「……ま、覚えてないのも仕方ねぇか。何せ互いに顔合わせるのはこれが初めてだし」

 

「何を……何を言ってるんだ!僕はっーー!」

 

「ミッドチルダに来たばかりって言いたいんだろ? わかってんだよそんなことは。つかか察しろよ」

 

呆れた様子で応える男の言葉に、キラは目を見張った。

男はキラが昨日ミッドチルダに来たばかりだということを知っていた。

それを知った上での言葉だとすると、つまり男はミッドチルダに来る以前のキラを知っていることになる。

 

「それじゃ……貴方は」

 

全てを理解し、キラは改めて男の姿を見る。

その顔に見覚えはない。

だが、着ている服に見覚えはあった。

それは、キラがいた世界にあるコロニー、プラントにある軍隊、ザフトの制服によく似ていた。

 

「そう。俺の名前はミゲル・アイマン。ザフトの軍人で、お前に殺された男だ」

 

 

キラがミゲルと接触してすぐ、ミッドチルダ臨海第八空港の敷地内全域に魔力結界が張られた。

その魔力反応を感知した陸上警備隊104部隊は現場へと向かっていた。

 

 

(港跡地にはキラ君達がおるはずや。もし結界を張った魔導士の狙いがキラ君なら、護衛がいるとはいえ安心は出来ひん)

 

思考を巡らせながら、はやては自分の軽率な判断を悔いる。

 

(完璧に私の判断ミスや。頼む、無事でいてや!)

 

その思いを代弁するように、握る拳に力がこもる。

すると、その手に人形のような小さな手が重なった。

 

「はやてちゃん、大丈夫ですか」

 

身長約三〇センチ程の銀髪の少女が、心配した様子ではやての表情を伺ッていた。

リインフォースⅡ。

はやてのユニゾンデバイスである彼女も、はやての補佐として今回の出動に加わっていた。

 

「ありがとうなリイン。私は大丈夫」

 

そう言って、初めて笑顔を見せるはやて。

だが、その笑顔が作り物であることを、長年はやてのデバイスとして側に居続けてきたリインフォースは見抜いていた。

 

「……わかりました、信じます」

 

 

下手な励ましで安心させられる程簡単な主ではないことを、リインフォースはよく理解していた。

 

「だから、マイスターはやても信じてあげてください、キラさんを」

 

だから、自分なりのやり方で思いを伝えた。

こんな時、後悔するより大切なことがある、ということを。

 

「……リイン」

 

リインフォースの言葉に、それに込められた思いに、はやては正気を取り戻した。

そして、少し照れ臭そうな笑みをリインに向ける。

 

「あはは。まさかリインに説教されるとは思わなかったわ。私もまだまだやなぁ」

 

「そんな大したこと言ってないです。主が不安な時それを支えるのは、ユニゾンデバイスである私にとって当然のことなのですよ!」

 

胸を張って高らかにそう言うリインに、はやての気持ちも少し軽くなる。

思えば、これまで辛いときや苦しいとき、どれだけ彼女の明るさに救われてきただろうか。

 

(本当に、ありがとうな)

 

リインフォースを微笑ましく見つめながら、はやては後ろ向きだった思考を立て直す。

 

(私が弱気でどうするんや。絶対助けたる。せやから、それまで持ちこたえてや、キラ君!)

 

目線を前に見据え、気持ちを強く持つはやて。

その瞳に、もう迷いは無かった。

 

 

『Accel Bullet』

 

機械的な声と同時に魔力弾が複数形成され、ミゲルの周囲に滞空する。

その一つ一つが、生身のキラにとっては必殺の威力だ。

 

「いけ」

 

『Fire!』

 

その魔力弾が、一斉に放たれる。

追尾性こそないが、速射性と弾速は高い。

 

「ッッ!?」

 

咄嗟に横に飛び、回避を試みるキラ。

だが、その先には既に、

 

「遅ぇよ!」

 

拳を振り上げたミゲルの姿があった。

 

「なっ!?」

 

その姿を認識した時点で回避は間に合わない。

そう判断したキラは、腕を交差させて防御する。

直後、鈍い音と共に激痛がキラを襲った。

 

「ぐっ……がはっ!?」

 

防御に使った左腕の骨が折れた。

それを理解するよりも先に追撃の蹴りを受け吹き飛ばされる。

そのまま瓦礫に身体を強く打ち付け、崩れ落ちる。

 

「ハッ!モビルスーツに乗っていなければこんなものかよ!」

 

『Accel Bullet』

 

不様に崩れ落ちるキラに、容赦なく魔力弾を放つミゲル。

だが、圧倒的な力の差に油断したのか、先程よりも弾数は少ない。

それでも、手負いのキラにそれの回避は困難だ。

 

「こ…のっ!!」

 

直撃だけは避けようと、痛む身体に鞭を打って横に飛ぶキラ。

結果、魔力弾自体は回避できたものの、それにより生じた爆発の余波がキラの身体を襲った。

 

「ーーッッ!?」

 

激しい痛みに、声にならない悲鳴をあげるキラ。

最早、立ち上がることすら困難だった。

 

「無様だな。全く、こんな奴に俺は殺されたってのかよ」

 

地に転がるキラを見て、ミゲルは呆れた様子でそう言い放つ。

その言葉に、キラは顔を上げて応えた。

 

「どう…いうことだ。僕が……貴方を殺したって……」

 

「おいおい忘れちまったのか? ヘリオポリスで、連合の新型に乗ったお前に俺は殺されたんだよ。まぁ、あの時はまさかコーディネーターが乗ってるとは思わなかったけどな」

 

「ヘリオ…ポリス」

 

キラの脳裏に、身に覚えのない映像が浮かぶ。

横たわる灰色のモビルスーツ。

その上で赤いパイロットスーツに身を包んだ兵士が、作業着姿の女性に銃を向ける。

女性の危機に咄嗟に叫び、一言二言言葉を交わした後その場から飛び降り、女性のもとへと向かう。

 

「……これ、は…記憶? 」

 

脳裏に浮かんだ映像。

それが自分の記憶なのかわからない。

少なくとも、それが自分の身に起きた出来事だとは思わなかった。

まるで、他人の視点から撮った映像を見せられているかのような感覚だった。

 

「あ? 何ぶつぶつ言ってんだお前」

 

様子のおかしいキラに、訝しげな表情でそう問い掛けるミゲル。

だが、キラがその問いに応える様子はない。

 

「ちっ。あぁもういいわ。ちゃっちゃっと終わらせるぞ、インヴォーク」

 

『Roger』

 

そんなキラの様子にしびれを切らしたのか、ミゲルは剣型のアームドデバイス、インヴォークの切っ先を突き付ける。

すると、切っ先が上下に割れ、中から砲身が現れる。

 

 

『Photon Blaster』

 

デバイスの音声と同時に、砲身に魔力が集束し、光が集まる。

その魔力の大きさは、素人目に見ても一目瞭然だ。

その莫大な魔力を前にして、ようやくキラは正気に返った。

 

「ッ!?まずッーー!!」

 

だが、既に手遅れだった。

最早、キラにミゲルの攻撃を回避する力は残されていない。

 

「安心しろ、殺しゃしねぇよ。そういう命令だからな」

 

『Fire 』

 

そして、放たれる魔法、フォトン・ブラスター。

基礎的な砲撃魔法だが、使用する者の技量によっては絶大な攻撃力を発揮する。

その魔法が、抵抗する術を持たない手負いのキラに迫る。

 

(こんなところで……)

 

記憶を無くし、異世界に飛ばされ、訳もわからぬまま攻撃を受け、ボロボロになって地に伏せる。

そんな理不尽な運命に、いい加減嫌気がさした。

 

(こんな…ところでっ)

 

激痛を無視し、手を伸ばし、そして掴みとる。

この状況を打破する、唯一の手段を。

 

「こんなところでっ、やられてたまるかあぁぁぁっっ!!」

 

その叫び声と同時に、魔力砲が直撃する。

着弾の影響で爆発が起こり、辺りの瓦礫を吹き飛ばした。

 

「っと、威力の調整ミスったか? 」

 

その光景に、ミゲルはあっけらかんとした様子でそう呟く。

だが、爆煙が晴れるにつれて、その表情は鋭いものへと変わっていった。

 

「へぇ。こいつぁ予想外だ」

 

爆煙が晴れた先にミゲルが見た光景。

それは、管理局の汎用デバイスを構え、防御魔法プロテクションを展開するキラの姿だった。

 

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