魔法戦士リリカルSEED Strikers   作:ぬらりひょん

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PHASE-6

キラが目を覚ました時、戦闘は既に終わっていた。

というのは、自分が病室らしき部屋のベッドで横になっているという現状から、何となく察する事が出来た。

 

「そっか……僕、気を失って」

 

そう呟いて身体を起こすキラ。

瞬間、身体中に激痛が走る。

どうやら傷は完全に癒えていないらしく、特に左腕はまともに動かすことすら出来なかった。

すると、丁度タイミング良く病室の扉が開き、見覚えのある女性が姿を現した。

 

「キラ…くん?」

 

呆然とした様子の声に顔を向けると、そこには私服姿の高町なのはが立っていた。

 

「き……」

 

「……き?」

 

「キラ……くん」

 

「あ、はい。キラです…けど」

 

「目、覚ましたんだね」

 

「えっと、はい」

 

「良かった。じゃあ早速で悪いんだけど……」

 

「?」

 

「選んで。魔法か物理」

 

「それは何を決める選択肢なんですか!?」

 

怒っていた。

圧倒的に怒っていた。

その表情こそ笑顔であるが、目は欠片も笑ってはいな かった。

その様子はまるで、

 

「……魔王」

 

「何か言った?」

 

「あ、いえ、何でもありません」

 

デバイスを突き付けられた。

なぜだろうか。あのミゲルを前にした時以上に命の危険を感じていた。

 

(あれ~?なのはさんってこんな人だったっけ~?)

 

冷や汗を流しながら愛想笑いを浮かべるキラ。

そんな情けない姿になのはも冷静になったのか、溜め息を一つ吐くとデバイスを下ろし、肩から力を抜いた。

 

「はぁ……まぁ、冗談はここまでにして」

 

「冗談には見えませんでしたけど」

 

「冗談はここまでにして」

 

「あ、はい、とても愉快な冗談でした」

 

また目が笑っていない笑顔だった。

 

「キラくん、身体は大丈夫?」

 

「え?」

 

「まだ完全には癒えていないんだから、起き上がっちゃ駄目だよ。ほら、横になって」

 

「え、あちょっと」

 

途端に真面目な表情になると、キラの身体を寝かせるなのは。

それも、キラの身体を気遣い、出来る限り痛まないようにだ。

一変したなのはの様子に戸惑いながらも、言われた通り横になるキラ。

そして落ち着いたところで、なのはもベッドの横にある椅子に座った。

 

「言いたいことや聞きたいことは色々あるけど、一先ず安心したよ。キラくん、三日間も眠ったままだったんだよ?」

 

「えっ?」

 

そのなのはの言葉に目を見開くキラ。

言われて病室に設置してある情報端末を見ると、確か に、あの襲撃があった日から三日が経過していた。

 

「僕は、三日間ずっと……?」

 

「うん。それくらい重症だったってことだよ。言っておくけど、無茶したことに関しては怒ってるんだから、ちゃんと反省しなきゃ駄目だよ?」

 

「……それは」

 

無茶をしたという自覚はあった。

だが、あの時は無茶をしなければ生き残れなかったのは事実だ。

そう思ったキラの様子からは、明らかな不服の色が目に見えていた。

同時に、今のキラにはなのはのその言葉を素直に信じられる気がしなかった。

あの時、自分の知ってる世界が存在しないと断言された瞬間、自分の存在が何なのかわからなくなった。

同時に、自分を含めた全てのものが信じられなくなった。

それは、今もなお変わってはいない。

優しい言葉をかけてくれるなのはのことも、今は信用する事が出来ない。

 

「貴女には……関係、無いでしょう」

 

堪らず、そんな冷たい言葉を吐き捨ててしまうキラ。

それを見て、なのはは困ったように微笑むと、視線を外して動かないキラの左手にそっと触れた。

 

「私が言う無茶って言うのはね、戦ったこと自体ではないの。むしろ、初めての戦闘で魔法を使いこなしていたことには素直に凄いと思ったし、関心もした」

 

ただね、と言って、なのはは改めてキラを見つめる。

その瞳に見つめられたキラは、直視出来ず思わず逸らしてしまった。

 

「自分の身体を省みないような戦い方は、私、好き じゃないな」

 

そう言ったなのはの瞳から察した。

彼女は、キラの自らを省みない戦い方に対し、本気で 怒っていた。

同時に本気で心配もしていた。

出会ってまだ数日しか経っていないキラに対し、彼女 は本気の感情で向き合っていた。

 

「キラくんの身体の傷やデバイスの魔法の使用記録か ら、キラくんがどんな戦い方をしたのかはわかった。 少なくとも、左腕がここまで壊れちゃったのは、その戦い方のせいだよね?」

 

「……そんなことまでわかっちゃうんですか」

 

「伊達に戦技教導官やってないからね」

 

キラの問いに対し、小さく胸を張って答えるなのは。

そんな可愛らしい仕草に、思わず笑みが浮かぶキラ。

そして、なのはが言いたいことを素直に認められるくらいには、気持ちが落ち着いていた。

 

「すみません。僕が間違っていました」

 

「うん!素直でよろしい」

 

結局のところ、なのははキラが戦ったことに対しては 怒っていなかった。

その戦い方に対して怒っていたのだ。

その怒りはキラを本気で心配するからこそ芽生えたのだろう。

そしておそらく、それはなのはに限ったことではない。

きっとあの八神はやても、同じようにキラを心配し、 怒っているに違いない。

 

「……ありがとう」

 

それが、今のキラには堪らなく嬉しかった。

あの時、自分が存在していた筈の世界を否定され、まるで自分自身を否定されたかのように感じた。

そして、言い様の無い孤独感に苛まれ、何を信じたらいいのかわからなくなった。

そんな時に現れた敵の存在。

自分が知らない自分を知り、自分が知らない自分の罪を知る存在に怒りを覚え、同時に恐怖した。

世界のことも、自分のことも、自分を殺そうとする存在のことも、何もわからない自分に怒り、恐怖した。

 

「本当に……ありが…とう」

 

だが、そんな自分の身を案じ、その未来もまとめて心配してくれるなのはの、ありのままの感情に救われた気がした。

過去の自分ではない、今ここに存在している自分を受け入れ、純粋に心配してくれるなのはの言葉は、キラの孤独に震えていた心を温かく包んでくれていた。

 

「どういたしまして」

 

そう言ってキラの手に包み込むようにして触れるなの は。

キラの涙が止むまで、なのはは暫くそうしてくれていた。

 

 

暫くすると、なのはは医者を呼んでくると言って席を 立った。

キラを襲った存在のことやキラの今後の処遇に関して何も言わなかったのは、なのはなりの配慮なのだろう。

その配慮は、実際有り難かった。

いくら気持ちが落ち着いたとは言え、不安が拭えないのは事実だ。

それもそうだろう。いくら何でも、短い時間で色々な事があり過ぎた。

記憶を無くし、世界を否定され、挙げ句の果てに殺されかけたのだ。

しかも、その相手からは人殺し呼ばわりだ。

気持ちが落ち着いたとは言え、気持ちのの整理がつくのには時間がかかるだろう。

 

「……人殺し…か」

 

ミゲル・アイマンの言葉を思いだし、そう呟く。

キラは元いた世界でミゲルとMSでの戦闘の末勝利し、結果的に彼を殺したらしい。

 

「まぁ、自分を殺そうとした人間の言葉を馬鹿正直に信じるのもな……」

 

そう言ってみるものの、ミゲルの言葉に思い当たる節があるのも事実だった。

キラの記憶にあるC.E.の知識の中には、MSに関するものも多く含まれていた。 それは、戦争とは無関係の平和な場所にいては決して身に付くことのない知識だ。

ということは、少なくともキラが戦場に近い環境に身を置いていたことは間違いないだろう。

 

「戦争……か」

 

ぼそりとその単語を呟いてみる。

口に出してみても、その単語が自分に馴染みある単語とは思えなかった。

とその時、視界の隅、窓の外に見知った顔を見付けた。

 

「はやて…さん?」

 

それは、キラのもう一人の恩人、八神はやての姿だっ た。

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