魔法戦士リリカルSEED Strikers 作:ぬらりひょん
「はぁ…はぁ……ッ!?」
安静が必要な身体で無理をしたせいか、全身に痛みが走った。
重い身体を強引に動かし、何とか目の前の扉を開ける。
そうやってキラがたどり着いたのは、人気のない屋上だった。
「はぁ……はぁ……はぁ………クソッ、何やってんだ僕は」
備え付けのベンチに座り、自嘲的に呟くキラ。
その瞳に力はなく、儚げに揺れている。
先程知った事実は、ようやく立ち直ったキラの心を再び折るには十分だった。
そもそもキラは、たまたまはやての姿を見かけ、助けてくれたお礼を改めてする為に病室を抜け出したのだ。
それがこんな結果をもたらすなど、誰が予想出来ただろうか。
「……守られるだけで……誰かが傷付くのを見ていることしか出来ないなら……」
そう言ってフェンス越しに見える景色に目を写すキラ。
ここは屋上。落下すれば、いかにコーディネーターと言えど死は免れないだろう。
そんな時だった。
「やめたまえ。ここは病院であって死刑台ではない」
「えっ!?」
背後からの声に驚き、振り返るキラ。
そこには、キラと同じく入院患者用の服を着た男性の姿があった。
少し癖のある金髪に整った顔立ちをしているその男性は、愉快げな笑みを浮かべながらこう続ける。
「見たところ君はここの入院患者のようだが、こんなところで何を?まさか、本当に飛び降りに来たわけではあるまい」
「……別に…ただ、風に辺りに来ただけです。少し、頭を冷やしたくて」
無遠慮な男性の態度に戸惑いながらもキラは答える。
それに気を良くしたのか、男性はキラの隣に腰掛けた。
「ふむ。君の顔には見覚えがあるな。確か、三日前にここに運び込まれていたな」
「え?どうしてそれを…」
「何、たまたまその場に居合わせただけだよ。私は四日前からここに入院していてね」
「……は、はぁ」
一方的に語る男性のペースに完全に乗せられるキラ。
すると、不意に男性の目が細まり、柔和な表情が鋭くなる。
「そう言えば、三日前に空港跡地で何か大きな事件があったらしいな。なんでも、テロリストによる襲撃があって、対応に当たった管理局員から死傷者も出たとか」
「ッ!」
男性の言葉にキラの息が止まる。
顔色も悪くなり、あからさまな動揺が見てとれる。
管理局側に被害があったことは知っていたが、死者も出ていたとは知らなかったのだ。
その動揺も無理もない。
「……その様子を見ると、君は三日前の事件に巻き込まれた口かね?」
「………」
男性の質問に対し口を閉ざすキラ。
だが、その様子を肯定と解釈したのか、男性は言葉を続ける。
「まぁ、無理に聞こうとは思わない。何があったかなど、聞いたところで意味はない。だが、あまり思い詰めない方がいい。今更何を思った所で、何かが変わるわけではないのだからね」
「………貴方に、何が」
「何もわからんさ、君のことなど。だが、だからこそ言うのだよ。無駄なことはやめたまえ」
キラの言葉を最後まで聞かず、男性は言葉を重ねる。
何もわからないと言っておきながら、その様子はまるで全てを見透かしているようだった。
キラの言葉を、心を、その全てを。
「いや、違うな。過去を悔いるのは良い。だが、それだけでは何も変わらない。大切なのは、今を、未来をどうするかだ」
「……今と、未来を」
「そうだ。自分が何を悔いているのかわかっているなら、とるべき行動は自ずと見えてくる。違うかね?」
「………」
男性の言葉に、キラは考える。
自分が何をするべきなのか。どうすれば、誰も傷つかずに済むのか。
(……そうだ、簡単なことじゃないか)
そして、答えを得る。
自分の弱さが、周りを巻き込んだ。
自分の心が弱かったから、なのは達を信じることが出来なかった。
自分の力が弱かったから、敵を倒すことが出来なかった。
ならば、どうすればいいのか。
(強く……なる)
強くなる。
誰かを守れるくらい、誰にも守られなくて済むくらい、自分が強くなる。
そうすれば、少なくとも自分の手が届く範囲の人が傷付くのを止められるだろう。
(僕は…強くなる)
そして、その手段を既にキラは知っている。
あの時、ミゲルに襲われた自分は、確かに魔法を使えていた。
つまり、キラ・ヤマトには魔法の才が少なからずあると言うことだ。
「……答えは得たようだな」
キラの様子から察したのか、男性はそう言って立ち上がった。
「では私は戻るとしよう。そろそろ診察の時間でね」
「あ、はい。すみません…なんか、励ましてもらったみたいになっちゃって」
キラの言葉に、男性は再び愉快そうに笑みを浮かべる。
「気にすることはない。私としても、こんなところで君に退場してもらっては面白くないのでな」
「えっ?それって……」
男性は捨て台詞のようにそう言うと、キラの言葉を待たずにその場から立ち去る。
その背中に向けて、キラは必死に伝えるべき言葉を探す。
「あ、あのっ!」
「……ん?」
男性がキラの呼び掛けに振り返る。
次のキラの言葉は、男性にとって意外なものだった。
「ありがとう…ございました」
「……!」
その言葉に、男性の表情が一瞬固まった。
だが、すぐに笑みに変わる。
「ふっ……君からその言葉を聞くことになるとはな」
男性はキラに聞こえない程度の声で呟くと、再びキラに背を向ける。
「君が今後、この世界でどう生きていくのか……しばらくの間見守らせてもらおう」
その顔には、最早仮面は必要ない。
「キラ・ヤマト君」
この世界で、再び再会を果たした二人。
キラ・ヤマトとラウ・ル・クルーゼ。
この再会が、今後の二人にどのような結果をもたらすのか。
今はまだ、それを知る者はいない。
◇
少し、時間は遡る。
病室に戻ったなのはが目にしたのは、もぬけの殻となったベッドだった。
「……って、なんで!?」
慌てて病室を出てキラの姿を探すなのはだったが、一向に見つからなかった。
トイレを含めた、今のキラが行きそうな場所を探したが、どこにまその姿はない。
ナースステーションで確認したが、キラの姿を見かけたという声は上がらなかった。
「もう、一体どこにっ…?」
一抹の不安を拭い去れないなのは。
キラの身を狙う人物がいる以上、最悪のケースも想定しておかなければならない。
そう考えた時、視界にフェイトとはやての姿を見つけた。
「フェイトちゃん!はやてちゃん!」
「なのは?」
「なのはちゃん?どうしたん、そんな真剣な顔して」
なのはの様子に戸惑うフェイトとはやて。
そんな二人に、なのはは若干の焦りを含めた口調で尋ねた。
「二人とも、キラくん見なかった?」
「ッ!何かあったん?」
「ううん、そういうわけじゃないんだけど……少し目をはなした隙に、キラくんが病室からいなくなってて」
なのはの言葉に、フェイトとはやては直ぐに状況を理解した。
その表情も、自然と引き締まったものとなる。
「病院内はどこまで探したん?」
「とりあえず、考えられる場所は全部」
「それじゃ、外におる可能性が高いな。手分けして探す?」
「そうだね。確かまだ絶対安静の筈だし、何にしても早く病室に連れ戻さないと」
そう言って、三人が動き出そうとしたその時だった。
「病院内だというのに何やら騒々しいな。何かあったのかね?」
「え?」
なのはが振り返ったその先には、そんな三人に声をかける男性、ラウ・ル・クルーゼの姿があった。
◇
「こんなところにいたんだね、キラくん」
「……なのはさん」
数分後、屋上に訪れたなのはは、キラの姿を見つけると安堵の息を吐いた。
対するキラは、そんななのはの様子に首をかしげている。
「あの、どうしたんですか?」
「どうしたんですか、じゃないよ!」
未だに状況を飲み込めていないキラに、さすがのなのはもつい語気を強めてしまう。
「キラくん、自分の怪我がどれ程のものかわかってるの!?絶対安静だって私言ったよね!?なのにこんなところで、一体何をしてたの!?」
「えっ……と……その、すみません、特に理由があったわけじゃ」
「理由もなくこんなところに来たの!?そんな身体で!?」
「あ、はい。あいや、じゃなくて!」
なのはの剣幕に思わずたじろぐキラ。
その様子に、自分が少し頭に血が昇っていたことを自覚し、一旦息を吐いて落ち着きを取り戻すなのは。
「はぁ……もう、ホントになに考えてるのキラくん」
「えっと……すみません。ちょっと色々あって」
落ち着きを取り戻し、キラの隣に腰掛けるなのは。
そんな彼女に、キラは申し訳なさそうに答える。
「それで、何でこんなところに来たの?ちゃんと話してくれるんだよね?」
「……はい。ただ、その前に一つ聞いておきたいことがあるんですが、いいですか?」
そう言って表情を引き締めるキラ。
「……うん、いいよ。何が聞きたいのかな?」
なのはも、キラのその様子に何かを察し、それを承諾する。
「………聞きたいことは二つです。一つは、三日前の事件で死傷者が出たというのは本当ですか?」
「ッ!?なんでそれを!」
キラの質問が予想外だったのか、驚き戸惑うなのは。
それに構わず、キラは続ける。
「その反応は……つまり本当ってことですね」
「ッ!それはっ」
つい言葉がつまるなのは。
そんななのはに、畳み掛けるかのように質問を続けるキラ。
「それじゃあ、その事実を隠してたのはなぜですか」
「……それは」
「……僕がその事実に耐えられないと思ったから、ですね?」
確信を持ってそう尋ねるキラ。
それに無言をもって肯定と答えるなのは。
キラの言う通りだった。
なのはは、キラの精神的な脆さにいち早く気付いていた。
その為、この事実をキラに、伝えるのは得策ではないと判断し、意図的に伏せていたのだ。
「ごめんね、キラくん」
「いえ。その判断は正しいです。実際、その事実を知った時は正直かなり堪えましたし」
謝るなのはに苦笑で応えるキラ。
そんなキラの様子に、なのはは表情を歪める。
結果的にキラは事実に気付き、心により深い傷を負ってしまった。
キラの事を思って行ったことで、より一層キラを傷つけてしまったのだ。
「ずっと黙っているつもりはなかったの。キラくんの容態が落ち着いてから、ちゃんと言うつもりだった」
「わかってます。なのはさんが僕を気遣って事実を伏せていたってこと、ちゃんとわかってます。だから謝らないでください」
そう、悪いのは決してなのはではない。
そんな気遣いをさせてしまった、弱い自分が悪いのだ。
「僕が弱かったから、なのはさん達のことを信じることが出来なかったから、沢山の人を傷つけてしまった」
「ッ!違うっ!それは違うよキラくん!」
キラの言葉に思わず立ち上がり、それを否定するなのは。
だが、そんななのはに構わずキラは続ける。
「だから、僕は強くなりたい」
今までに無い、強い意思をもって言葉を紡ぐ。
「誰かを守れるくらい、強くなりたい」
そんなキラの言葉を、なのはは黙って聞いていた。
キラの言葉と瞳に宿る、強い意思を感じとりながら。
「だから、お願いですなのはさん」
こうして、キラ・ヤマトは、
「僕に、魔法を教えてください」
魔導士への道を一歩踏み出した。