Tari tari 1人の少年   作:一塔

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よろしくお願いします



笑ったり、笑ったり

  相手チームからのサーブで試合が始まった。

  久々のコートに独特の雰囲気、竜司は胸を躍らせていた。

  ピピィッ

  相手チームからジャンプサーブが飛んできた。

  ボールは竜司正面、達也も心の中で良しと呟きながらセットアップに移った。

  「あ!」

  だがボールは竜司の手を弾いてベンチに向かっていった。

  「ぐぅあ」

  「・・・・」

  会場が静寂に包まれた。

  「ははは、悪りぃウィーン」

  竜司が弾いたボールはウィーンの頭に直撃したのであった。

  「・・・和奏、竜司くんで大丈夫?」

  「失敗だったかも」

  気付いたらベンチに座っていた沙羽と和奏はキョトンとした様子で呟いた。

  達也はすかさず竜司の元に駆け寄った。

  「チャンスサーブでしょ、久々なのは分かるけどしっかりしてよ」

  それだけ言い残してポジションに戻っていった。

  ピピィッ

  2本目のジャンプサーブ、またしても竜司の正面、先程のサーブとは打って変わり、強烈な物となっていた。

  トン!

  アンダーレシーブで綺麗な弧を描きボールがセットアップしていた達也の元に上がった。

  選手二人が攻撃に入ってくる。

  達也の選択肢は自分だった。

  トスを上げる振りをして左手でボールを相手コートに落とした。

  ピッ

  まずは1点が入った。

  「おいおい、いきなりツーアタックかよ」

  「ナイスカットだったからね」

  笑いながら互いの拳をコン!と合わせた。

  達也のサーブ、ジャンプフローターで相手を崩した。

  「相変わらずえぐいサーブだな」

  サーブを見ながら竜司が呟いた。

  相手は二段トスでレフトにあげ、レフトはクロスに打ち込んだ。

  ドン!と重いスパイクを竜司が拾った。

  ボールが重かったこともあってボールは相手コートに帰った。

  相手はセッターにきちんと返し、Aクイックを使ってきた。

  これに反応した竜司だがボールを弾いた。

  「くそ!」

  「いいよ、ナイスタッチ」

  悔しがる竜司に優しく達也が言葉をかけた。

  相手サーブ、フローターサーブを竜司が綺麗にセッターに返し、お返して言わんばかりにAクイックを使い、得点を稼いだ。

  「どう?」

  「大丈夫です」

  「よし、ナイスキー」

  達也は選手達に声をかけてコミニュケーションをかけている。

  互いにサイドアウトの展開になっていった。

  ここで竜司が前衛に上がった。

  相手チームも意識はしていた。

  相手チームのサーブにセッターがアタックラインの所から平行トスを上げた。

  ブロックをしようと2枚ブロックでボールを囲うように手をネットの上から出してきた。

  (よし、そんなに高くないし止まる!)

  ブロッカーは確信した様子であったがあざ笑うかのように竜司は指先でチョンとボールを返した。

  ブロックを越えて相手コートに落ちた。

  「チッ!フェイントか」

  予想とは違う攻撃に相手は苛立った様子で呟いた。

  序盤は点の取り合い、ローテーションが一周した所で試合が動いた。

  相手の唯一のジャンプサーブが決まりだした。

  8ー6

  ピィッ!

  強烈なサーブが飛んできた、竜司の正面ではないが無理矢理、態勢を崩しながらも綺麗にセッターに帰った。

  達也はチラッと相手コートに視線を向けた。

  その仕草に一瞬釣られた相手の選手はツーアタックを警戒したが、それは罠だった。

  Aクイックに入ってきた選手にトスを上げて得点が決まった。

  「相変わらず上手いな」

  竜司は達也の一連の動作を見て賞賛した。

  まるでコート全てを支配しているようだ。

  次は達也のサーブ、相手を崩したがレフトとがアタックライン内に強烈なスパイクを叩きつけた。

  「オッケー、今のはしょうがない」

  精神的に来ていたチームメイトに竜司が声を上げた。

  相手のサーブ、レシーブが崩されて、二段トスがレフトにあげるが大きなブロックに捕まる。

  10ー7

  ピィッ!

  相手のサーブがネットにあたり、ボールの勢いが弱くなった。

  前衛レフトが飛び込みながら上げた。

  達也は後衛、ネットの上からボールを返すことができない、達也の選択はレフトバックにいる竜司へのバックアタック。

  ブロックが1枚、竜司はレシーバーがいない所を見て軽くボールを打ち込んだ。

  「いいよ、大したことない、ついてないだけだよ」

  竜司が前衛に上がった。

  味方のサーブがネットにかかり、相手のポイント。

  相手のミスに一気に叩見かけるようにサービスエースを決めてきた。

  12ー8

  相手のサーブに崩されて、レフトに上がる、今度は2枚ブロック、竜司は軽くブロックに当てて、自分でもう一度セッターに返した。

  達也はもう一度竜司にトスを上げた。

  ブロッカーがもう一度自分のポジションについていた為、ブロックは1.5枚、角度を付けながら軽くボールを打ち込んだ。

  ピピィッ

  ここで試合が止まった。

  相手のタイムのようだ。

  12ー9

  海星高校がリードを上げていた。

  リードしている海星高校がタイムを取った。

  「なんで勝ってるチームがタイムを取るの?」

  「それはきっと、僕らの実力にびびってるんだね」

  「いや、それはない」

  来夏の問いかけに自信満々でウィーンの答えを聞いた沙羽がいち早くツッコんだ。

  「達也は気付いたみたいだな」

  タイム中にストレッチを始めている竜司が呟いた。

  「どういう事?」

  竜司の呟きに気になった和奏が首を傾げて考えた。

  「簡単なことだよ、ペースは完全に海星高校にあるけど、実際に点数は開いていない、向こうと違ってこっちは派手さがないから押されているように見えるんだよ」

  和奏の疑問に汗をタオルで拭きながら達也が答えた。

  達也に説明に白浜坂高校のベンチにいた竜司以外の人がなるほどと頷いた。

  「でもどうするの?その事は相手に気づかれたんでしょう、きっと対処してくるんじゃないの?」

  「その点も大丈夫です、そろそろ全開で行けるよね」

  沙羽の鋭い読みであったが達也はニコリと笑って竜司に視線を送った。

  「ああ、アップ完了だ」

  竜司も笑顔で答えた。

  「まって、どういう事?竜司くん全力じゃなかったの?」

  「そうだけど」

  達也の答えを整理して沙羽は竜司に問いかけると当たり前だろという表情を浮かべた。

  「手を抜くとは卑怯だよ竜司」

  「卑怯言うな、こっちはノーアップだったんだぞ、いきなり全開でやったら怪我するだろ、卑怯っていうなら達也だろ、達也の指示なんだからな」

  ウィーンがけしからんと言うように竜司に向かって言い放つとすぐに事情を説明した。

  達也はニコッと笑っていた。

  試合が始まる直前に二人で話をしていた事にみんなが気がついた。

  そういえば、竜司はフェイントと軽くボールを打ち込んでいた事をみんなが思い出した。

  ピピィッ

  タイムアウトの終わりを告げる笛が鳴り響いた。

  コートに向かって6人の選手がコートに戻っていった。

 

 

 

  サーブは白浜坂高校から始まった。

  海星はきちんとセッターに返し、クイック攻撃を使ってきた。

  クイッカーは腰を捻ってライト側に打ち込んだ、ライトバックで守っていた達也が真上にボールを上げた。

  二段トスで竜司に上がった。

  ネットから離れていて、言うならば悪いトス、竜司はブロックのタイミングを外して軽くブロックに当て、リバウドを取り、セッターの達也に返した。

  大きく助走を取り、トスを待った。

  (竜司の好きなトスは速いトスと・・・これだ)

  高いトスがネット近くに上がった。

  助走を力強く踏切、大きくジャンプし、ブロックの上からコート奥に打ち込んだ。

  レシーバーは一歩も動けず、竜司を直視した。

  ラインズマンは遅れてフラッグを降ろした。

 

  その仕草を確認して竜司と達也は抱き合った。

  「よーし!」

  唖然としていた選手達が遅れて喜びを現した。

  ベンチに座っていた来夏達も立ち上がり、拍手を送った。

  会場がどよめいた。

  相手選手も動揺が隠しきれていなかった。

  続けてサーブを打つと、動揺もあり、崩れた。

  二段トスを打ち込んだ相手のレフトエースのスパイクも難なく拾う竜司、分かっていたかのように達也がセットアップをし、竜司の好きな高いトスを上げた。

  今度は2枚目の横、クロスに叩き込んだ。

  試合の流れが一気に変わる瞬間だった。

 

 

 

  スパイクを次々に決めていく竜司を見ながら嬉しそうな表情を浮かべて薫はベンチで竜司の姿を追っていた。

  バレーを辞めてからボールに触っていなかった事はプレーを見て分かった。バレーからサッカーに転向したのも聞いていた。

  薫から見て竜司の状態は現役の時と同等かそれ以上の実力を秘めていた。

  サッカーを始めた事により、足腰の強化、体幹の強化に繋がり、全体の筋力アップに繋がっていた。

  足腰が鍛えられた事でジャンプ力、瞬発力が上がっている。体幹が鍛えられた事で空中視線が良くなり、相手コートを見る事が出来、スパイク力も上昇している。

  だが2年間ボールに触っていなかったからボールコントロールなどが上手くいっていないようだがその他だけなら全国でも中々いない。

  全国を何度も経験している薫がそう思っていた。

 

 

 

  点差は16対22、白浜坂高校の大量リード。

  本気を出した竜司を止める力は海星高校にはいなかった。

  相手のレフトエースがスパイクを打ち込んだ、竜司が拾ったが少しネットに近かった。

  バレーをやらなかったツケというのだろう。

  だが竜司は気にしないで前より早く助走を始めた。

  達也はスパイクの形を取った。

  相手選手がブロックに飛んだ。

  ニヤッと笑って、スパイクを打つフリをしてとっさにオーバーに変えて、レフトに速いトスを上げた。

  達也のプレーにブロックがつられて、竜司にブロックが1枚。

  竜司は力一杯、ボールを叩きつけた。

  ドン!と音をしながら床に当たったボールは二階の観客席に飛んで行った。

  相手の心を打ち砕くようなスパイク。

  「ナイス達也!」

  「ナイスレシーブ」

  ハイタッチを交わし、笑顔でいる二人を見ながら和奏も嬉しそうに見ていた。

  次のサーブをネットにかけて、17対23、その後も達也のツーアタックで17対24、で白浜坂高校のマッチポイントとなった。

  「最後だよ竜司」

  ボールを竜司に投げながら達也が声をかけた。

  こくりと頷いて集中した。

  ピピィッ

  笛が鳴り、ボールを高く上げた。

  エンドラインの右端に立っている竜司は高く上げたボールが落ちてくるタイミングに合わせて大きくジャンプしてジャンプサーブを打ち込んだ。

  ストレートに真っ直ぐ放たれたボールは誰の手に触る事なく、相手コートに突き刺さった。

 

 

 

  相模湾流域練習試合が終わった。

  1位 湘南海星高校 1勝1引き分け

  2位 相模中央高校 1勝1敗

  3位 白浜坂高校 1敗1引き分け

  試合の結果を生徒会が読み上げていった。

  そして大会の目玉、最優秀賞MVPが発表される。

  MVPの選定は各高の推薦によって決まる。

  「最優秀賞は・・・白浜坂高校、佐原竜司選手です」

  生徒会の発表に竜司は驚いた表情を浮かべていた。

  途中出場であり、最下位の高校からの選出はまずありえないだろうと考えていたからだ。

  ステージに上がり、賞状とトロフィーと白浜坂商店街の商品券1万円分をもらった。

  嬉しそうな表情を浮かべながら自分の列に戻っていった。

  相模湾流域練習試合は幕を降ろした。

 

 

 

  「はい、優勝はしましたが、内容としましては後でビデオをご覧になってもらった方がいいかと」

  試合後、体育館外で薫は電話をしていた。

  電話の相手は。

  「監督の危惧して通りに彼は試合に出てきました、この先も試合に出るようなら唯一の障害になり得るかも知れません」

  「・・・そうか、やっぱり出てきたか、だが彼のプレーはビデオで見る事にする、今日はご苦労だったな、そのまま上がってくれ」

  「分かりました」

  そう言うと薫は電話を切り、ポケットにしまった。

  大きくため息を吐いた。

  「ため息ばっかりしてると老けるぞ」

  「それは違うんじゃないかな」

  薫の後ろから竜司と達也が現れた。

  「久々にお前のプレーが見れて良かった」

  達也は軽く微笑んだ。

  竜司も笑顔でこくりと頷いた。

  「これからもバレー続けるんだろう」

  「ああ、みんなには来てくれって言われたし、久々のコートに立って改めて思ったよ、バレーは楽しいな」

  「本当に変わらないね竜司って」

  3人は嬉しそうに笑った。

  竜司が再びバレーを始まる事が嬉しかった事もあるがかつての仲間が集まっていた事も理由の一つだ。

  「次会う時は春高予選だな」

  全日本春の高校バレー、インターハイ、国体と並ぶ高校3代大会。

  春高バレーの開催時期は3月であった為、3年生の出場がなかったのだが、女子で高等学校卒業後直ちに実業団チームに入る生徒にとっては、長期間ブランクが開くことが大きな問題となっていた。

  これを受けて日本バレーボール協会や全国高等学校体育連盟等、関係各方面による協議の結果、2010年度から選抜優勝大会を廃止し、この大会をその代替として1月開催に変更、3年生も本大会に出場可能とした。

  「でも大丈夫なのか、いくら2軍って言っても海星高校が俺らに負けるほどだったら全国大会でも勝てないだろう」

  今日戦った海星高校を見て、竜司は2軍だと思っていたが、天下の海星高校、2軍でもそれなりの選手が集まっていてもおかしくはなかった。

  それで負けてしまうとは少し違和感を感じていた。

  「フフッ、竜司、今日の相手は2軍じゃない」

  「そうなのか?」

  「うん、今日は今年の新入部員が主になってるだけ、本来ならうちの4軍選手かな」

  「なんか聞かなきゃ良かった」

  戦った相手が全員1年生だという事に竜司は頭を悩ませた。

  海星高校とは違う高校に行けばエースを張れる選手ばかりであった。だがそれも海星高校なら4軍程度、相変わらず層が厚いようだ。

  「1軍には誰がいんだ?純平と中島はどうなったんだ」

  「俺らの代はお前が辞めてからほとんどいなくなった、今いるのは純平と中島と俺らだけだ、一応全員1軍だ」

  「マジかよ」

  竜司が入部した当初は同じ1年生が20人は軽く超えていたが、今は四人しかいないようだ。

  「純平はリベロ、中島はセンターだ、今年の1軍は1年生が入っている」

  「1年生でか」

  「ああ、はっきり言って俺らが1年生の時より力は上だと言ってもいい」

  「へぇ〜面白じゃん」

  「全くお前って奴は」

  「そっちの方が竜司らしいね」

  3人は楽しく笑った。

  その笑い声は大きく賑やかなものであった。




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