Tari tari 1人の少年   作:一塔

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よろしくお願いします


近づいたり、離れたり

  相模湾流域練習試合が終わり、来夏達と楽しく笑いながら帰った。

  いつもの分かれ道でみんなとは別れた。

  家の方向が一緒な竜司と和奏は江ノ島大橋を自転車を押しながら歩いていた。

  「和奏、ありがとな」

  「えっ?」

  いきなりの言葉に何の事か分からず和奏は首を傾げた。

  「今日の試合の事、説得してくれただろ」

  竜司は微笑みながら呟いた。

  今思い返すと和奏は少々言い過ぎたと思っていた。

  「和奏が説得してくれなかったらまた後悔するところだったよ」

  「ううん、私こそ生意気な事を言ったよねごめんね」

  「いいんだよ、本当の事を言ってくれたんだから、そうじゃなかったら自分の気持ちにまた嘘をつく所だった」

  「・・・竜司くん」

  「あ、でもバカって言った事は忘れないから」

  「そこはいいんじゃないかなぁ」

  「フフッ」

  竜司と和奏は小さく笑った。

  「バレーって楽しいな」

  「バレー続けるんでしょう」

  「ああ、バレー部の奴らにも入ってくれって頼まれたし」

  いつもと同じ笑顔で答える竜司だがいつもより楽しそうに和奏は思えた。

  転科してきて悪い事ばかりじゃなかったけど、ようやく和奏は転科して良かったと思えた。

  「あ、そういえば」

  竜司はふと思い出しかのように呟いた。

  「明後日の土曜日に帰省するからお土産買ってこうと思ってるんだけどまだやってる?」

  前に和奏を送りに来た時にお土産はここで買うと言っていた事を思い出した。

  携帯を開いて時計を確認するとまだ5時前だ。

  閉店は6時なのでまだ間に合う。

  「まだ大丈夫だよ」

  「じゃあ、今から行ってもいいか?」

  「えっ」

  「まずいか?」

  「ううん、大丈夫だと思うよ」

  「なら決まりだ」

  それだけ言い残して竜司は自転車に跨って江ノ島大橋を横断していく。

  少し緊張した趣で和奏も自転車を走らせた。

 

 

 

  「ありがとうございました」

  圭介はふぅーと息を吐きながら額に滲んでいる汗を拭った。

  閉店まであと1時間ぐらいとなり、この時間ならお客さんもあまり入ってこない。

  一旦自宅に戻って夕飯の支度をしようとしていたら外から笑い声が聞こえて来た。

  「こんにちは」

  「やあ竜司くん、久しぶりだね」

  「この前はありがとうございました」

  笑顔で出迎えてくれた圭介に竜司は頭を下げながら、前に沙羽の家に忘れ物をした際に車を出してもらったことに対して感謝を述べた。

  「いいよ、気にしなくて、また何かあったら言ってくれ」

  「はい、ありがとうございます」

  笑いながら答える圭介に竜司は再度頭を下げた。

  「今日はどうしたんだい?」

  「明後日に静岡に帰省するのでお土産をと思いまして」

  「そうか、俺は夕飯の支度をしてくるからゆっくり見ていってくれ」

  「ありがとうございます」

  そう言い残して圭介は家の中に入って言った。

  竜司は店に並べられていたお土産を見ながらどれにしようか悩んでいた。

  江ノ島限定の物や特産物の商品が並べられている。

  どれにしようかと考えていると店の奥から和奏が現れた。

  着替えてくると言って、分かれたが意外にも早く戻ってきていた。

  「竜司くん決まった?」

  「もう少し」

  商品を見つめながら竜司は答えた。

  その姿にレジに座って和奏は楽しそうに見ていた。

  結局、買うものが決まったのは閉店時間を1時間過ぎた7時ぐらいだった。

  買った商品を大事そうに手に持ちながら竜司はお金を支払った。

  「悪かったな遅い時間まで」

  「大丈夫だよ」

  「竜司くん、良かったら夕飯食べて行きなよ」

  帰ろうとする竜司を見つけて圭介は口を開いた。

  「でも」

  「気にする事はないよ」

  圭介の言葉に竜司は甘える事にした。

  家に帰っても夕飯は無いので買って帰ろうかと思っていたのでちょうど良かったとも思えた。

  家の中に案内されて、リビングにある木製の椅子に座った。

  夕飯はごはんと味噌汁、きゅうりの浅漬け、シャケであった。

  「頂きます」

  きゅうりの浅漬けを一口食べるとあまりの美味しさに驚いた。

  和奏のお粥も美味しかったがここの家族は料理が得意なんだなと思った。

  「美味しいかい?」

  「ええとっても」

  「たくさん食べてくれよ、じゃないと」

  「じゃないと?」

  「明日の朝ごはん「あードラにごはんあげなきゃ」」

  圭介との会話の途中に和奏は大きい声でリビングを離れていった。

  「どうしたんですか?」

  「いや、和奏が朝ごはん作ると偶に昨日の残り丼って言うものが出でくるんだ」

  「昨日の残り丼ですか」

  夕飯を見ながらもしそうなったらごはんの上に来るのはきゅうりと鮭、鮭はともかくきゅうりは間違えなく合わないだろうと竜司は思っていた。

  考えただけで食欲がなくなっていった。

  「そういえば今日の練習試合に出たんだって?」

  今日の練習試合、相模湾流域練習試合の事を言っているのだろう。

  「はい」

  「和奏が嬉しそうに話をしていたからな、決心はついたのか?」

  「はい、もう一度バレーを続けて見ようかと思います」

  竜司の言葉に圭介はにっこり微笑んだ。

  「白浜坂高校はインターハイもベスト8に残っている、割といいチームなんじゃないか?」

  「ベスト8?」

  圭介の言葉に竜司は引っかかっていた。

  今日やった感じではベスト8どころか1回戦も勝ち抜く事は難しいと思っていた。

  「ああ、インターハイの結果を確認したらじ準々決勝で海星高校に負けていたけど」

  「そうですか、3年生が残ってたからかな、そんな感じはなかったですけどね」

  「可能性はあると思うよ、海星高校相手にも惜しい所まで行ってたからな」

  「何対何だったんですか?」

  「25ー17 26ー24だったかな」

  点数だけでは試合の内容が分からないが思っていたよりも点数を取っていた。

  「まあでも、話を聞くと1セット目は2軍、2セット目は3軍だったらしいけど」

  圭介の言葉に竜司は驚いた。

  竜司がいた頃はどんな大会も2軍や3軍は試合に出る事はなかった。当時は力を見せつける為にどんな相手にも全力で戦っていたからだ。

  「竜司くんの時とは違うと思うよ、でも僕らの時はそれが普通だったから、監督が変わって方針が変わったんだろう」

  なるほど、それは一理あるなと竜司は考えた。

  「岡崎監督の後は確か柏木監督でしたっけか?」

  「うん、柏木一平、ちなみに僕らの代のエースだよ」

  「・・・・」

  「どうかしたのか?」

  「いや、最近、坂井さんの代の人を良く聞くなと思いまして」

  海星高校歴代最強と呼ばれ、唯一全国大会で優勝している代、竜司からしてみれば尊敬する大先輩方だ。

  「はは、柏木は今年、歴代最強のチームを作ったって言ってたよ」

  「自分も話は聞いています、全国大会はどこまで進んだんですか?」

  歴代最強のチームが全国大会でどこまで通用するのか興味が湧いてきた。

  「全国大会は準優勝だ、優勝は愛知の城聖高校」

  「城聖高校?」

  聞いた事のない高校に竜司は首を傾げた。

  「城聖高校には一人化け物がいる、高校2年で日本代表入を果たして、超高校級選手と言われている男がいる」

  そんな選手がいた事に驚きを隠せずにいた。

  竜司が1年の時は全国大会に出場していないので存在を知る事もなかった。

  「そんな人が」

  「知らないのも無理はない、中学時代はサッカー部だったんだからな」

  「へぇ、サッカー部からの転向選手ですか」

  まるで俺とは逆だなと思い、苦笑いを浮かべた。

  「彼の名前は西尾優希、覚えていた方がいい、君が怪我をしなければ対戦した新人なのだから」

  「西尾優希か・・・」

  「随分嬉しそうだな」

  「ええ、是非対戦してみたいです」

  笑顔で答える竜司に圭介も笑顔を見せた。

  もう大丈夫だろう。

  「話が長くなったね、食べよう」

  「ええ」

  二人は止めていた手を動かして夕飯を食べ続けた。

 

  和奏も戻ってきて夕飯も食べ終わり、竜司は帰宅していった。

  帰宅する前に圭介はインターハイ決勝のDVDを渡した。

  倒す相手なら少しは研究した方がいいと言っていた。ちなみに入手場所は一平からの贈り物らしい。

  いつもより多い皿を洗いながら圭介は呟いた。

  「いつからなんだ?」

  「何が?」

  圭介の言葉の意味が分からず和奏はドラを抱き抱えた。

  「竜司くんと付き合っているんだろう」

  「ええっ⁉︎」

  ニャーと言いながらドラは和奏の驚きの声に反応して手をかいくぐり逃げ出した。

  「違うのか?」

  「ち、違うよ」

  明らかに和奏は動揺していた。

  「でもこないだだって二人で帰ってきてたし、俺はてっきり付き合っているのかと思ったよ」

  こないだというのは沙羽の家で打ち上げをした事の時だ。

  その時から圭介は疑っていたのだ。

  「もう〜竜司くんに変な事言ってないよね」

  「・・・・あっ!」

  洗い物の手を止めて圭介は思い出したかのように声を上げた。

  「言ったの⁉︎」

  ドン⁉︎と机を叩きながら和奏は身を乗り出した。

  「いや〜、変な事というか、昨日の残り丼の事は言ったけど」

  その言葉に和奏は落ち込んだ様子で机にうっぷした。

  「あーどうしよう」

  「気にする事はないよ、竜司くんも笑ってたし」

  「竜司くんが良くても私が良くないの」

  絶対に引かれたと思い込んでいた和奏は頭を悩ました。

  「罰として一週間朝食作ってよ!!!」

  「ええ〜」

  嫌がる声に和奏は睨みつけた。

  「分かったよ」

  渋々圭介は両手を上げて頷いた。

 

 

 

  夏休みに入って一週間がたった。

  来夏は海の家に来ていて、沙羽は海の家のバイトを行い、大智は海岸でバドミントンの練習をウィーンと和奏は補習授業を受けている。

  竜司はバレー部に迎えられ体育館に来ていた。

  朝9時から練習を行い、13時には部活が終わる、今は11時、15分の休憩に入っている。

  久々のボールを触り、頭のイメージと実際のプレーのズレがあり、頭を悩ませていた。

  練習前に買った飲み物を一口含んで、ため息を吐いた。

  「佐原先輩、何かあったんですか?」

  「中西か、いやブランクって怖いなって思ってただけだ」

  中西 光輝《なかにし こうき》白浜坂高校2年生、バレー部の福キャプテン、誰にでも優しく、周りから信頼されている。

  「ブランクですか」

  「ああ、イメージと実際のプレーとのズレがな」

  「凄いですね」

  「何がだ?」

  「いや自分はそこまで考えた事がなくてイメージはあるんですけどそれの理想が高すぎて結局意味がないというか」

  困ったように喋る光輝に竜司は立ち上がりながら声をかけた。

  「イメージが高ければ高いほど努力すればいい、イメージ通りになるようにな」

  サラッと言ってしまう事がやっぱり凄いなと光輝は思っていた。

  「そういえば、俺まだチーム全員の名前が分かんなくて紹介してくれる?」

  「分かりました」

  大きい声で返事をすると全員を集めて紹介していった。

  2年 海野 貝 レフト 175cm 65kg

  2年 塩崎 海星 センター 184cm 78kg

  2年 鮫島 海田 センター 186cm 82kg

  1年 嵐山 波 リベロ 161cm 52kg

  1年 塩田 水木 ライト 165cm 60kg

  光輝が1人1人紹介していった。

  「佐原竜司だ、短い期間だけどよろしく頼む」

  竜司も軽く挨拶をした所で練習を再開した。

 

 

  練習が終わった後は竜司と光輝は視聴覚室に来ていた。

  圭介からもらった今年のインターハイ決勝の湘南海星高校対橘南高校の試合のDVDを見るために来ていた。

  試合を見ながら淡々と点を重ねていく海星高校には余裕の表情が見える。

  「うわ、ここでバックアタックか!」

  ディグであげたボールはレフト側に飛んでいき、達也はボールの落ち際に手首の力でライト側、アタックライン前にトスを上げた。

  このトスを見た光輝が驚きの声を上げた。

  バックアタックを決めて、点差は24対14と大きく開いていた。

  最後はサービスエースでインターハイ優勝を決めた。

  「ブロックを振るのは達也の十八番だ、それよりもバックアタックを決めた選手と最後のサービスエースの選手は知ってるか?」

  竜司が元海星高校だと言うことはバレー部は知っている。

  「え、ええ、バックアタックを決めた選手は佐野 誠《さの まこと》です、東京の海綾中学出身です、もう1人は東 大五《あずま たいご》です、彼は愛知の名古屋成徳中学出身です」

  「海綾に成徳か名門出か」

  二つの中学は全国大会に出る名門中の名門、バレーをやってる人ならほとんどの人が知っている名前だ。

  「2人とも海星高校の1年生レギュラーです」

  「今年の1年生は当たり年のようだな」

  海星高校は全国から人が集まる高校、中学が名門でも簡単にレギュラーを取れるわけではない。

  その点から見ると2人は相当の実力なのだろう。

  「確かに今年の海星高校は最強かもな」

  「でもどうしてDVDがあるんですか?」

  「海星高校対策の為にもらったの、海星高校に勝つ為に」

  さりげなく言った言葉に光輝は唖然としてしまった。

  「本気ですか、あの海星高校に勝つなんて」

  全国大会にも出場するほどの実力の相手に弱小のチームが勝てるなんて光輝は思っていなかった。

  けど竜司は光輝の言葉を聞いて鼻で笑った。

  「最初から諦めてどーすんだ」

  「・・でも」

  「まあ、確かに今の実力を考えたら厳しいなぁ、でも俺がいる・・・なんてかっこいい言葉を言えたらいいんだけど、最低限でもセッターともう一枚スパイカーが欲しいよなぁ〜おれ、怪我してるし」

  頭の後ろで腕を組みながら呟く竜司に光輝は真剣な表情を向けた。

  「セッターとスパイカーがいれば勝てるんですか?」

  「勝てる・・・とは言えないが勝率は上がるよな」

  光輝は少し黙った後に口を開いた。

  「・・・いますよ、2人とも」

  「まじか⁉︎」

  「ええ、1人は3年生の田中照、そしてもう1人はうちのキャプテンの風間大河という男が」

  その言葉に竜司は息を呑んだ。

  それなら本気で勝ちを狙えると思ったからだ。

  「なら」

  「いいえ、2人ともバレーはやらないでしょう、インターハイでやめてますから」

  その言葉に竜司は驚いた表情を見せた。

  せっかくのチャンスが遠ざかっていくのがわかった。




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