Tari tari 1人の少年   作:一塔

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よろしくお願いします


乗り越えたり、飛び乗ったり

  音楽発表会も終わり、合唱部もひと段落ついた。

  心残りと言えば音楽発表会に合唱部全員で参加したかった事であった。

  そうすれば観客の心ももう少しは動かせただろうと思っていた。

  声楽部を辞めてから朝練はない、いつもより遅い時間に登校した来夏は下駄箱で後輩達から退部届を渡された。昨晩も弟の誠から退部すると言われて結局残ったのは最初のメンバーだけであった。

  それでも諦めるつもりはなかった。

  まだ文化祭や卒業式、歌うチャンスはいくらでもある。

  やれる事はやろうと来夏は心に決めていたが、昼休みに入り、教頭先生に校長室に呼ばれた。

  1人だけではなく、大智も呼ばれていた。

  ノックをし、中に入ると校長の椅子に腰掛けている教頭先生から廃部通知書を渡された。

  「部員が5人未満では部活動として許可出来ません」

  「えっ?」

  「よって貴方たちの部は廃部とします」

  「え、あの、俺、もうすぐ県大会なんですけど」

  「どのクラブも部員を集めて限られた部費をやりくりしながら規則に則って部を運営しているんです」

  「それは」

  「何故、自分だけ特別扱いしてくれると?」

  大智の異議を唱えさせる前に教頭先生が口を挟んだ。

  「でも、校長先生はそんなこと」

  「規則は生徒手帳に書いてあるでしょう、校長先生が入院中の今、学校の運営管理は私が代理として行っています」

  それには来夏と大智も言い返せなかった。

  教室に戻って来夏は沙羽と和奏に報告をした。

  「来夏はどうするの?」

  机の上に腰を降ろしている沙羽が口を開いた。

  「頭数揃えても意味が無いって事が分かったからもっかいちゃんと人を集める、うちはまだ4人いるし」

  やっぱり来夏は諦めていなかった。

  来夏の言葉に沙羽も安心した表情を浮かべた。

  「1、2、3、4」

  沙羽は来夏、自分、和奏、そして誰もいない机を指差した。

  「んっ」

  和奏は自分が差されたことに今口にしている紙パックの野菜ジュースを飲みながら少し驚いた表情を見せた。

  机の中に退部届があるが提出するタイミングを逃してしまった。

  あと1人という事で来夏は机で頭を悩ませている大智に視線を向けた。

  「そうだ、田中、もうバトミントン辞めて合唱部に入ったら?」

  「はぁ⁉︎」

  「だって県大会でられないんだったらもう部活終わりでしょう」

  「終わりって言うな!」

  突発的な言葉に動揺したが大智もまだ諦めていなかった。

  「まだ大会だって諦めてないし、俺はいつかバドミントンの・・・」

  少し顔を赤く染めた大智が急に口を閉ざした。

  不思議そうに来夏達が視線を送った。

  「うるせーチビ!」

  怒声を吐きながら大智は席を立って廊下に向かった。

  「な、なんだそれ!」

  チビって言葉に来夏も言い返したがそそくさといなくなった大智に何も言えなかった。

  それを見てニヤニヤしながら沙羽が口を開いた。

  「確かに〜」

  「なんだと!」

  来夏は沙羽に鋭い視線を送った。

  「それより、竜司くん大丈夫かな?風邪って話だけど」

  「昨日、雨の中自転車のってたからね」

  席にいない竜司の机を見て沙羽がポツリと呟いた。

  朝のホームルームでは風邪って報告があった。

  和奏の言う通り、原因は雨の中、自転車を走らせていたからに違いはなかった。

  誰の所為でも無いが自分の為に無理をしてくれたと思っている沙羽は心が痛かった。

  「みんなでお見舞いに行こうか」

  心配している沙羽を見て来夏が提案した。

  「うん、それ賛成!和奏も行くでしょ」

  「えっ、ごめん、放課後は補習授業があるから後から1人で行くよ」

  沙羽の言葉に申し訳なさそうに答える和奏にしょうがないかと表情を浮かべた。

  「よし、じゃあ、先に2人で行ってるからまた連絡するね」

  「うん、ありがとう」

  和奏は飲み干した紙パックの野菜ジュースを潰しながら答えた。

 

 

  放課後、ウィーンと一緒に補習授業を受けた。

  この調子だと夏休みも返上して補習を行わなければならない。

  「ふぅーやっと終わった」

  今日の補習授業は国語、間違った本で勉強しているウィーンは本来の国語が苦手のようだ。

  大きく背伸びをしてそそくさと教室を後にした。

  特に気にもしなかった和奏は荷物をまとめて竜司の家に向かった。

  途中に果物を買い、快速に自転車を走らせ、来夏から聞いた住所の元にたどった。

  江ノ島大橋を渡り、目的地に辿り着くついた。

  二階建てのアパートの202号室のインターホンを鳴らしたが中に人がいる気配はなかった。

  「あ・・・いないんだ」

  携帯を開いてメールを確認すると来夏から「家に行ったけどいないみたい、もしかしたらいつのようにサボってるだけかも」と送られていた。

  来夏のメールを確かにと思いながら帰ろうとした時であった。

  「和奏?」

  自分の名前が後ろから聞こえたので振り返るとそこにはマスクをして、手にはスーパーの紙袋を持ち、顔が赤く染まっている竜司が立っていた。

  「竜司くん、大丈夫なの?」

  「あ、ああ、大丈夫」

  歯切れの悪い返答が返って来た。これだけで体調が悪い事は伝わってきた。

  ポケットから鍵を取り出して、ドアを開けた。

  そしてそのまま、倒れた。

  「竜司くん⁉︎、竜司くん!!」

  倒れた竜司を見て、慌てて駆け寄った。

  竜司の上半身を抱えて額に手を当てた。

  「すごい熱、とりあえず寝かせなきゃ」

  女性の力では竜司を抱えることは出来なかった。

  上半身を抱えて、引きずりながら部屋に入り、ベットに寝かせた。

  このまま置いとく訳にも行かずに和奏はため息をこぼしながらキッチンに向かった。

 

 

 

 

  「んっ、んー」

  目を開けるとそこにはお馴染の白い天井が広がっていた。

  おかしいなと思いながら記憶を辿ったがコンビニに行ったところまでしか思い出せなかった。

  キッチンの方でトントンと音が聞こえる。

  「誰かいんのか?」

  「起きた?」

  「和奏⁉︎どうしてここに」

  予想もしない人物の登場に驚いた。

  「覚えてないの?玄関で倒れたからベットに運んだんだよ」

  「いやー思い出せない、そっかありがとな」

  「それより、病人なのにコンビニ弁当って、今、お粥作ってるから」

  「いや、後は自分でやるよ、風邪うつるといけないし」

  身体が怠いがピークの時よりはずっとましだった。

  和奏の事を考えての発言だったが首を横に振った。

  「竜司くん、1人だと何するか分からないから」

  「ははは、信用されてないのね」

  苦笑いを浮かべる竜司に和奏は軽く微笑んでこくりと頷いた。

  そしてキッチンに向かうと耐熱の手袋をして鍋を持ってきた。

  「はい、これ食べ終わったら薬買ってきてあるから飲んで」

  「ああ、悪いな」

  「ケーキ4つ」

  「ケーキ好きだな、分かった」

  和奏の提案を受け入れて和奏が作ったお粥を口にした。

  「どう?」

  「うまいよ!」

  お粥なんて小学生の時にお母さんに作ってもらった以来だ。懐かしい味もあるが美味しかったのでお粥にがっついた。

  「ゆっくり食べないと身体に悪いよ」

  うまい!という言葉に和奏は嬉しく微笑んだ。

  お粥を食べて、薬を飲んで、竜司に睡魔が襲ってきた。

  重くなった瞼を閉じて、夢の世界に向かった。

  「竜司くん、そろそろ私行くけど・・・なんだ寝ちゃったのか」

  ゆっくりと腰を床に降ろしながらふぅーとため息をついた。

  なんか疲れたなと思い、部屋にある机に頬杖をつき、竜司の寝顔を見つめていた。

 

 

 

  サッカー部も引退して朝練も無くなった。朝練がある時は5時半に起きて、家を6時半に家を出て7時から練習を行っていた。だが現在では朝練が無い為、8時に家を出ても十分間に合う。

  しかし、サッカー部を引退しても身体が5時半に起きると覚えている。

  いつものように5時半に起き、身体を確認すると薬が効いたのか、身体の怠さはすっかりなくなり快適な目覚めだった。

  5時半に起きて竜司は身体が鈍らないようにランニングをしていた。

  今日の身体の調子なら大丈夫だろうと思い、ベットから降り、クローゼットを開けようとした時に気付いた。

  制服のまま、床に転がって寝ている和奏がいた。

  (ずっと看病してくれていたのか)

  寝息を立ている和奏を見て、ふと微笑んだ。

  クローゼットの中から薄手の布団を取り出して起きないようにそっとかけ、いつものようにランニングに出かけた。

  走るコースは決まっていないがだいたい10kmほど走ると1時間もかからずに自宅に着く、6時半前に家に着き、中に入ると転がったまま背伸びをして寝ぼけた顔をした和奏が目を覚ました。

  「おはよう、昨日はありがとな」

  「・・・えっ⁉︎嘘、寝ちゃったの」

  「ああ、気持ちよさそうに寝てたぞ」

  恥ずかしいと思い顔を手で覆った。

  改めて竜司の顔を見るとある事に気付いた。

  「すごい汗、何してたの?」

  「ランニング」

  「・・呆れた」

  その言葉に和奏は怒りを通り過ぎてため息を零した。

  熱あった人が普通に次の日にランニングをするかなと思っていた。

  いい意味でランニング出来るまで体力が回復したという事だ。

  「それより、朝飯食ってくか?」

  「うん」

  ろくに言葉も聞かずに答えた事を知る由もなかった竜司は軽く返事をして朝食を作り始めた。

  和奏は髪留めを解き、手鏡を取り出して髪を手櫛で直していた。

  直し終わり、髪を降ろしたまま荷物を取り立ち上がった。

  「じゃあ」

  「ん?どこ行くんだ?」

  「帰るよ」

  「朝飯食ってくって言ったろ、もう出来んぞ」

  「あっ」

  そういえばと思い出した。

  そういえばキッチンからいい匂いがすると思っていた。

  「すぐ出来るから待ってろ」

  昨日の夕飯から何も食べてない和奏はいい匂いにお腹が反応してしまっていた。

  ここは竜司の言葉に甘える事にした。

  「うん」

  和奏は振り返り、荷物を置き、朝食が出来るのを待った。

  机に頬杖をつきながら部屋を見渡した。

  改めて見るときちんと整理整頓されていて綺麗な部屋だ。

  見渡しているとアルバムと書いてある本に視線が止まった。

  気付いたら手を伸ばし、アルバムを開いて見ていた。

  (小さい時の写真かと思ったら、高校の時なのかな)

  白浜坂高校じゃない制服を着て、友達と写真に写っていた。

  ページをめくりながら今度は部活動の写真が出てきた。

  (あれ、サッカー部じゃないの?これって)

  「はい、そこまで」

  「あっ」

  アルバムに集中していた和奏は竜司が近寄っている事に気付かず、アルバムを取られてしまった。

  「朝飯出来たぞ」

  「うん、ありがと」

  アルバムをしまい、キッチンに行く竜司を見ながら和奏の心は上の空であった。

  キッチンからご飯、味噌汁、サラダ、卵焼き、鮭、デザートに和奏が買ってきたイチゴを持ってきた。

  机に並べて竜司が向かい合う形で朝食を取ることになった。

  「いただきます!」

  「いただきます」

  竜司はランニングも行った事もあり、どんどんご飯を口にしていく。朝から良く食べれるなぁと思いながら和奏は味噌汁をすすった。

  「美味しい」

  率直な感想に竜司は和奏を見ながら微笑んだ。

  卵焼きに手を伸ばして口に運んだ。

  程よい甘みが口の中に広がる。

  「私より上手かも」

  「和奏も料理するんだな」

  「うん、私も中学3年の時にお母さんが亡くなって、お父さんと2人だから料理はなるべく私もするの」

  「・・そっか和奏も大変だったんだな」

  竜司は食べる手を止めて呟いた。

  「ううん、私はまだお父さんがいるから竜司くん程じゃないと思うけど、竜司くんは強いよね」

  「俺は強いか?」

  「うん、私はまだお母さんの事を引きずってる」

  「俺は何か打ち込めるものがあったから、それを糧にして頑張っているだけだ、和奏にはないのか?好きな事」

  悲しい表情を浮かべている和奏に竜司は何かないかなと思っていた。

  「昔は音楽が好きだった、お母さんと良く歌ったんだけど、高校受験とかでそれも無くなって、お母さんが曲を作ろうって言ってくれたんだけど・・」

  「作らなかったのか」

  「・・・うん、お母さんはいつも会うたびに曲を作ろうって言ってくれたんだけど、私がそれどころじゃなくて、お母さんが亡くなって、音楽が楽しく無くなっちゃて、何の為に歌ってるのか分からなくなっちゃたの」

  「だから音楽科から普通科に?」

  「うん」

  どうしてこんな事を竜司に話をしているんだろうと和奏はふと思った。

  久々に胸の内を晒した気分だった。

  「そっかでも好きな事に理由なんていらねぇと思うよ」

  竜司の言葉に和奏はドキっと胸が高鳴る音が聞こえた。

  好きじゃない。

  お母さんと約束も叶える事が出来なかったのに好きでいる訳がない。

  心の中でそう呟いた。

  だがまるで竜司に心の中を覗かれたかのように。

  「好きじゃなかったらそんなに考えねぇよ、心のどこかにほんのちょっとの好きな気持ちがあればそれは好きなんだよ」

  やっぱり竜司は強いな。

  そう思わせてくれた。

  「音楽発表会の時の和奏はいつもより楽しそうだったぜ」

  「あっ」

  音楽発表会で歌った「心の旋律」、お母さんがいつも鼻歌を歌っていた歌だった。

  小さい頃のお母さんとの楽しい音楽の思い出が戻ってくる、そんな歌だった。

  気付いたら楽しかった。

  歌ってこんなに楽しいんだとも思った。

  「答えは急いでださなくてもいい、とりあえず今は飯な」

  「フフッ、そうだね」

  ありがとうとは言えなかったが心の中で和奏はそう呟いた。




ありがとうございました
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