俺が絶叫し、隣にいる理子はビクリと肩を震わせた。手に持ってるのは……ナイフとリンゴ。俺に切ってくれてるのか⁉︎ こんな日が来るとは……生きてて良かった!
「よく生きてたね、さすがキョー君! 理子心配でしょうがなかったんだから……」
「本音を、どうぞ」
「死ね変態」
「グハッ⁉︎ 」
クソッ! なんて刃物を持ってやがる⁉︎ 一瞬にして心をここまでズタズタにするなんて……理子も腕をあげたな!
「ま、とりあえず復帰おめでとう。死にそうになってたのはほんとだよ? 」
「ああ……わかってる。あの時は
「それだけは感謝してあげる。ありがとう」
「どういたしまして」
俺は寝転がりながら理子が切ってくれたリンゴを食べる。だが、重要なことに気づいてしまった。俺がリンゴを食べる際に絶対に残しておくもの!それはッ──
「リンゴの皮はどうした!? 」
「え? 食べないと思って捨てた────」
「なんだとだと!? あの神のような存在の食べ物を!? 」
「文句あるなら食べるな! 」
「食うよ! せっかく美少女に切ってもらったのに食べないわけないだろ! 」
美少女にリンゴを切ってもらい、それを食べる。前世の俺の夢であり、今の俺の夢でもある!据え膳食わぬは男の恥、というのはここであってるのか
知らんがとにかく! 食わなければならない!
「ねえそんな怖い顔しなくてもリンゴは逃げないよ? 」
「お前が逃がすだろ」
「あげるから……心配した理子がバカみたい……」
俺は理子の切ってくれたリンゴを食べながら、俺が死ぬ寸前の時のこと、キンジとアリアが乗った飛行機などを話した。どうやら、あのバカップルは助かったらしい。学園島の横にある空き地島に緊急着陸とかふざけてやがるなあいつ。
理子は、買い物付き合ってもらうから! 約束破ったら殺す、と言い残してどこかに行ってしまった。
ぷんぷんガオーはどうした! いつもそれだろ! なんてツッコミをいれる隙もないほど素早く病室から出ていったからな。俺の前で性格変わりすぎだろ。
理子がいなくなったし……暇になったな。リンゴを食べながら今季のアニメ消化でもするか。さて、何から見ようか? 最近リアルで戦闘ばかりだし日常系で癒されようかな……
「おい、また病院の世話になるのか? いい加減Aランクに落とすぞ」
ゲッ! この声とキツイ言い方は……まさか……ノックくらいしてくれよ。
「アラン先生、またお世話になります」
「超能力の使いすぎとはSランクも堕ちたものだな。今すぐAに落としてやりたいな! 」
「あれは理子を助けるためであって! ……仕方ないことだと思いますし」
アラン先生は俺の言い訳を鼻で笑い、ゴミを見るような目で追い打ちをかけてくる。
「だったら峰の下着とお前の制服を繋げて離れないようにしたのは何故だ? 助けるのに必要なのか? 」
「いやそれは……パラシュートで降りてる状態だったので理子にも俺を支えてほしかったんです。雨で滑りましたし……」
「ハッ! まるでヒモ男だな! 」
もう泣いていいですか? 泣いても誰も文句言いませんよね? 死にそうだった人間にこの仕打ちは酷いよ……
「まあ仲間を助けたのは加点するとしよう。お前と峰が恋人関係というのも黙っておこう」
「え? 待ってください! それは誤解───」
「誤解も何もあるか! 男女がそういう格好でハグしたら恋人関係だろう! 」
アラン先生は目つきの悪いその顔を赤く染め、大人とは思えないほど遅れた知識を披露した。俺と理子が恋人関係? 理子は美少女だから別にいいけど理子のファンクラブに何されるかわかんないし怖いんだよ! 一刻早く誤解を解かねば!
「アラン先生! それは間違った知識です!! 別に恋人同士じゃなくてもそういうことは───」
「教師である私に反論とはいい度胸だな! 罰として、今日は喋れなくしてやる!」
アラン先生は履いているジーパンから数珠をとりだし、よく分からない言葉を唱える。唱えている最中も俺は必死に弁解するが、何故か声が出しにくくなってきている! 俺が恋愛ドラマでも見たらどうだ、と勧めた時には完全に声が出ていなかった。
『あれ? ほんとに声が出ない! 先生元に戻して! 』
「フフッ、口パクじゃ分からないな」
『そんなひねくれた性格してるから結婚出来ないんだよアホ教師! 』
「あ? 結婚は出来ないじゃなくてしないんだよ! 教師への暴言の罰として、峰との関係をバラしてやる! 」
『しっかり分かるじゃねえか! 俺は理子と恋人関係じゃないって信じてください! 』
俺の必死の口パクは既に病室から出ていくアラン先生に届かず、無意味に口を動かしただけとなった。まずい、まずいぞこの展開は! あの教師は本気でやるつもりだ! 過去にもこういうことあったしな。
他人事だと思ってたあの頃の俺を殴りたい! 俺は携帯を取り出し、情報科の知り合いに頼んでジャミングをしてもらおうかと思っていた時、校内ネットの通知音が病室に鳴り響いた。
なんだろう……冷や汗が止まらない。目から水が流れそうになるのをこらえながらも俺は恐る恐る校内ネットを開く。最新! という文字の下に、教務科アランより報告、という題とリンクが貼られてあった。
そこにアクセスしてみると……
【本日、2年の京条朝陽と、同じく2年の峰理子が交際関係に発展していることが判明した。私独自の調査によると、もう進むところまで進んでいるという。この報告でショックをうけた者もいるだろうが、この悔しさを犯人逮捕や調査などにぶつけてほしい。諸君らがより一層立派な武偵になることを期待している】
……なんだこの文章は⁉︎ 早えよ! てか進むとこまで進んだってまだ何もしてねえよ! デタラメばっかりながしやがって! すぐに弁解のページを……
その時、携帯に何通、いや何百通ものメールが届いた。だいたいの予想はできてるけど……ちょっと覗いてみるか。
俺は意を決してメールを開く。
『お前抜けがけしやがって! 殺す! 』
『俺たちの理子様を盗みやがって! 殺す! 』
『轢いてやる』
『コロスコロスコロスコロスコロスコロス』
最後のやつ誰だよ! 怖いよ! もうメール見たくないよ! 恐怖で俺が携帯を窓から放り投げようとした時、着信がなった。それも教務科からの連絡の時になる一番危険度の高いやつだ。すぐさま俺は携帯を耳に当て、応答する。
『綴だ。今すぐ私の尋問室に来い。来ないと……』
『行きます! 今から全速力で支度します! 』
と、素早くメールで返事をし、急いで着替える。綴の尋問室だと⁉︎ ろくなことにならないな! 俺の担当医からは安静にしてるように、なんて言われたが無視だ無視!
教務科の命令は絶対だからな。逆らったら何されるかわからん。
俺はかつて無いほどのスピードで支度をして、病室から飛び出た。だがその先にいたのは、白衣をまとい、右の頬に縫い傷がある俺の担当医。鋭い雰囲気をもつ人なのだが、なかなかのイケメンだ。
『あ……ジャック先生……どうも』
「なんで抜け出そうとしているのかね? 」
『綴先生に呼び出されて……許可をお願いします』
「綴か……行っていいぞ。あと、綴に今夜ディナーに行こうと言うのを忘れていてな。言っておいてくれ」
『え?……分かりました』
あの綴にこんなイケメンな男がいるだと!? 聞いてないぞ! 俺の偽りの恋人関係より、綴に男がいるってことの方が情報の価値としては上だろ! でもこんなこと言ったら……良くて尋問による人格崩壊、悪けりゃ死亡だな。
「ところで、なんで携帯で筆談やってるんだ? 」
『アラン先生に喋られなくされました。では! 』
綴先生の早く来いということを思い出し、病院内を早歩きで抜ける。走ったらジャック先生が豹変するからな。病院を抜けたあとは、重い体を無理やり動かし、
出発しそうになっている武偵校行きの電車に飛び乗る。
すると、横にいる武偵校生徒が話しかけてきた。
「あれ? 京条先輩? 」
『あ、確か……間宮あかりだったか? 』
「はい! そうです! ところでなんで筆談なんですか? 」
『色々あってな』
アリアの戦妹の間宮とその仲間達がそばに立っていた。こんなところで再会するとは……理子のこと聞かれなきゃいいけど……
「また入院してたんですか? 」
『なんでそのこと……』
「頭に包帯まいてるのでそうかなと思いまして」
頭に包帯? 俺は頭に怪我なんてしてないぞ? だが、触ってみると確かにまいてある。理子に何されたんだ俺!? 傷ついてたら許さんぞ。
『あーまあそんな感じだ。あかり達は? 』
「色々と買うものがありまして! それとライカが言いたい事があるそうですよ」
「ちょ! あかり! 今は別にいいって……」
言いたい事? 俺が最低とかか? そのテの話は今日はもう聞きたくないよ……
「えっと先輩」
『なんだ? 俺が最低だってことはわかってるよ』
「そうじゃなくて……あたしを
『え?? ……誰かと間違えてるんじゃないか? 』
「京条先輩で間違いないです! 」
『なら……いいけど。ホントに俺でいいのか? 』
「はい! ありがとうございます! 」
まさかの戦妹の申し込みとは、予想の遥か上だな。
こんな俺が兄になったらバカにされるのは目に見える。ライカは強襲科でAランクとっている優秀な武偵だ。メンタル面もしっかりしてそうだが……一応言っておくか。
『俺なんかの戦妹になったらバカにされると思う。でも一応俺が兄になるわけだし、困ったことがあったら何でも言ってくれ』
「はい、よろしくお願いします! 」
『おう、俺は武偵校に行くから次の駅で降りる。申請はそっちで出しといてくれれば許可するから。じゃあな』
感謝の言葉を背に受け、嬉しい気持ちになりながらもこれから尋問を受けることになることを思い出し、一気に萎える。何されるか誰も分からない、それが綴の怖さであり、強さでもあるからだ。
武偵校最寄りの駅で降り、ダッシュで武偵校に向かう。途中、
はぁ……こんな厄日がこれからも続くのか⁉︎ メンタル的に辛いぞ! まあ生きますけども。
「おー入っていいぞ」
気だるそうな声が中から聞こえ、それを合図に少し重たいドアをあけると、椅子が2つ、テーブルが1つという警察の取り調べ室と変わらない風景が見える。
綴は椅子に座り、絶対に違法なモノが混入しているであろう葉巻を吸っている。テーブルの上には何故かカツ丼が置いていた。……食えと?
「さて、お前に1つ聞きたいことがある」
『理子の件ならデマ情報ですよ』
「そんなのはどーでもいい。別のことだ」
『なんでしょうか……』
「アドシアードに出場する気はないか? 諜報部門でだ」
『アドシアード……ですか』
アドシアード、それは日本中の武偵校から選抜で選ばれた武偵が腕を競い合う行事。毎年ここ、東京武偵校で行われる。各部門に1人づつ代表が選ばれるのだが、見事優勝すれば将来は安定と言われるほどの大金と名誉が手に入る。俺にとっては良い知らせだ。だが、
『誘っていただいたのはありがたいんですが、俺はでません。辞退します』
「ほぅ……理由を聞こうか」
『俺には武偵校で1度もやったことがない技がまだあります。それらを使えばいい所まで行くと思いますが、自分の手の内を晒したくないんです。たとえ審査員の方にも』
審査員はおそらく武装検事、武偵のSランクが束になってかかっても瞬殺するほどの実力を持っている。将来何かあって敵対した時に少しでも生き残れる可能性は残しておきたいからな。
綴は俺の目を見て何かを感じ取ったようで、長いため息をついた。
「ま、断ることはわかってたけどな、一応だ。これも教務科の仕事でな。カツ丼食ったら帰れ」
『メールでいいじゃないですか! 』
ここに来るまでにどんな修羅場にあったことか!
『綴先生、交際されてるんですか? 』
「……なんでそんなこと聞く? 殺されたいのかぁ? 」
『武偵病院のジャック先生に今夜ディナーに行かないか? って伝言を頼まれましたので』
綴先生は俺が筆談に使っている携帯を素早く取り上げ、これでもかってくらいジャック先生からの伝言を見つめている。
「嘘じゃないだろうな? 」
携帯を返してもらい、返事を打つ。綴先生はソワソワしているのか、少し身体を左右に揺らしている。
完全に恋する乙女ソレだ。
『お世話になっている先生方に嘘はつけませんよ』
「そうか……もう出ていけ」
『え……カツ丼は……』
「今度だ」
綴先生は顔を真っ赤に染めている。普段ラリってる目をしながら、生徒達に銃弾を撃ち込んでるとは思えないね。あれこれ考えているのか、幸せそうな表情を浮かべたと思ったら頭を左右にふってさらに顔を真っ赤にする。
口元もゆるゆるだ。幸せそうだし、今日は帰るか。
俺は諜報科棟を出て、武偵校を後にし──ようとしたところでRFC様御一行が俺に向かって突撃してきた。その数ざっと100人。中には3年生のSランクまでいる。え? 俺終わった? なんか向かいのビルの屋上にもスコープの反射光が見えてるし。さっきはこんな人数いなかったよね?
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスコロス」
「理子様、俺、守る。俺、結婚」
「貴様の血は何色だああああ!?!? 」
「理子様! 理子様理子様理子様理子様理子様理子様」
どうした、特に最後のヤツはなんだ! 狂ってしまったか……ってそんなこと考えてる暇ない! 俺は弁解するため、その場にわざと立ち止まる。
RFC御一行は俺の周りを囲み、団長らしき3年生が出てきた。なかなかのイケメンなんだけど残念な人だな……
「理子様がお前とお付き合いなさっているのは
『いや、それはアラン先生の───』
文字を打っている最中、後ろから何か飛来物が飛んできたのが気配で分かった。反射的に俺は右手をあげ……
ガチッ! と無情にも携帯に直撃し、真っ二つに割れてしまった。
(あ……やっちまった……)
憎き飛来物は野球ボール。野球部の誰かがバットで特大ホームランでも打ったのだろう。でもなんでさ……俺の携帯に当たるんだよ!! 不幸にも程があるだろ!
いや俺が! 反射的に右手で防ごうとしたのがいけないんですけど!
「危ねえな……で、なぜ沈黙しておるのだ」
『いやアランのせいで喋れなくなってるんだよ! 』
「そうか……その沈黙は肯定を意味するんだな」
『ちっがーう!! 』
「皆のもの! この不届き者に天罰を与えよ!! 」
「「「かかれー!! 」」」
刀剣を片手に迫り来る強襲科、そして狙撃科の援護が一斉に襲いかかる。Aランク以下のヤツらはなんとかできるはずだ。だが3年のSランクが何故か居る。アンタら任務中だろ?
だが俺は覚悟を決めて
もちろん、そんなことはSランク先輩が許してくれるはずもなく、俺の逃げる先に先回りしてきた。俺は袖のダガーを展開し、腕を躊躇なく突き出す。
アリアでも避けきれない攻撃だが流石Sランク先輩である。片手で俺の腕を外側に弾き、先輩の回し蹴りが俺のみぞおちに深くめり込んだ。目で追える速度ではなく、受け身も取れずに俺を囲んでいる輪の中心に弾きとばした。
正面戦闘は無理そうだな。しょうがない、超能力で氷の槍でも作って応戦するか。俺は超能力を発動させ氷の槍を……あれ? 出来ない。
なんで? 超能力さん休まないでよ! なんで発動出来ないの!? 詰んだ、これは詰んだわ。
こうして、第1次RFC集団リンチ事件の幕があがった……。
RFC(理子様ファンクラブ)
3秒で思いつきました。他の作品を書いている方と名前がかぶっていたら速攻で改名します。
アラン先生は女です