寮につき自分の部屋まで戻ると、本来あるはずの扉が真っ二つに斬られていた。切断面もキレイだし良い太刀筋だったんだろうな……って違う!! これじゃセキリュティなんてあったもんじゃない! しかも中から刀と刀が切り結ぶ音が聞こえるし!
血相を変え俺は靴を脱ぎ捨て、急いでリビングまで走る。すると、白雪とアリアが鬼気迫る顔で凄まじい戦闘を繰り広げていた。 特に白雪のほうは目が怖い。刀の振る速度と切先が完全にアリアを殺す感じだ。アリアは必死に耐えているが所々防弾制服が斬られ、血をにじませている。
白雪はアリアの二刀流を完全に捌いているようで、白雪が着ている戦闘袴らしきものには傷の1つもついていない。
(これは……アリア負ける? てか殺される! )
俺のことは2人には見えておらず、集中しきっている。どうする? この状態でもアリア劣勢なのに白雪が超能力を発動し始めたら絶対に負ける。白雪はもう狂気に染まり、残酷な笑みを浮かべている。もうあれだ、白雪じゃなくて鬼雪だ。
「フフフフ、キンちゃんもうすぐこの泥棒猫を……」
「アンタ! なんなの! 」
鬼雪は、こうして考えている間にもアリアの身体に少しずつ傷をつけている。
2人が大きく互いの刀を弾き合い、同時に鬼雪は自身の刀から手を離す。放物線上に鬼雪の刀は床に落ち深く突き刺さった。アリアも弾かれた刀を手放しホルスターからガバメントをドローしようとするが、白雪はそれよりも早く懐から札を取り出し、詠唱を始めた。星伽家の文様が描かれているそれは本来切り札として出すものだ。
(まずい! あの札の色は!? )
星伽家の黒い札を出すということはすなわち、この寮が一瞬にして灰になることを意味する。文字通り灰だ。そんなもの、ここで放たれても困る。
白雪を傷つけず、なおかつ意識を戻させる為の策は……俺が
いつもはすんなりと氷が出来てくれるはずだがやはり出てこない。こうなったら一点集中だ!
手のひらの中央一点だけに出力を全力でかける。身体の奥深くから絞り出されるような、得体の知れない感覚が身体全体に襲いかかる。それらを気合いで無視し、極限まで集中させると、手のひらに小さい氷の塊ができた。それは質量を持った普通の氷。
だが! これで十分だ! これなら!
俺は、残酷な笑みと狂気に染まった目をしている白雪のうなじに氷を投げる。ただ投げても白雪は気づかない。だから、その氷が白雪の戦闘袴に入りこむように投げた。背中に急に冷たいものが入れば、驚いて少しは周りが見えるようになるはず! それがダメだったら白雪に直接攻撃しなければならない。
俺が投げた氷は綺麗な放物線を描き、見事陶器のような、白雪の綺麗なうなじにあたる。氷は滑るように白雪の背にはいり─────
「ひゃう!? な、なに!? 」
よかった……戻ってくれた……
白雪に直前まで纏っていたどす黒いオーラは霧散し、いつもの嫉妬した時のただの怖い白雪になった。これなら話も通じるし大丈夫だろう。俺の投げ入れた氷も今は冷たがってないし、溶けたか。
『白雪、ひとまず落ち着こうか……』
「あ……朝陽君……ごめんね…ってなんでマバタキ信号なの? 」
『いや、まずなんでこの状況になったのか説明を』
「それはね……この泥棒猫がいけないんだよ!! 」
再びその目に狂気を宿らせるが、なぜかベランダからでてきたキンジを見て一気に明るいオーラを纏った。
まるで忠犬だ。でもキンジ、飼い犬に手を噛まれるということわざもあるんだ。襲われないよう祈るんだな。
一方アリアは、壁に背をつけ傷に応急処置を施している。だがその目はいつでも戦闘が再開できるようにハッキリとした敵意を持っている。
『アリア、どうしてこうなった? 』
「アイツがいきなり仕掛けてきたのよ! 泥棒猫って」
『じゃあ……キンジか』
この
「キンちゃん! この泥棒猫とは何もしてない!? 」
「してない! 大丈夫だ! アリアにも聞いてみろ! 」
「そうよ! な、何を馬鹿なこと言ってんの!? 」
「ホントのホント!? 」
キンジは呆れたような顔を見せると、不意に白雪に顔を近づけ目を合わせる。キンジは何か言ったようで、白雪の顔はどんどん赤く染まりおとなしくなった。
ケッ! これだから天然タラシは……
「じゃ、じゃあキンちゃんとアリアはそういうことしてないんだよね? 」
「そういうことって? 」
「その……キス……とか……」
キス、その言葉を白雪が発した瞬間キンジとアリアの周りの空気が凍ったような気がした。キンジは冷や汗を浮かべ、口元をひきつらせている。
対してアリアは顔に収まらず首まで真っ赤に染め、何かを言いたそうにパクパクと口を開けている。お前は金魚か!?っと言いたいが、あいにく喋れない。アリアはよほど恥ずかしかったのか、俯いてしまった。
白雪は2人を見てナニカを察したようで、再びドス黒いオーラを纏い始めている。目も真紅に染まり……あれ? 幻覚だよね? 目が紅いとか流石に幻覚だよね!? 激昂状態で目の色が変わるとかモンスターなの!?
もはやソレは白雪ではない。闇雪だ。
「したのね? ふふふふふふふふ……」
その袴のどこに隠し持っていたのか聞き出したいくらい凶悪な武器が床にゴトリと鈍い音をたてでてきた。
左手にモーニングスターと、右手に刃の部分が異様に紅く染まっているバトルアックス。闇雪はそれらをオモチャのように軽く持ち上げた。
アリアのそばまで行こうとするのを俺とキンジが必死に止める。俺たち男、しかも武偵校の強襲科Sと元強襲科Sランクが2人がかりで闇雪をアリアから離そうとするも逆に引きずられてしまう。
(どれだけ力あるんだ……!? )
『キンジ! 全力、出せ! 』
「お前こそッ……! 」
闇雪がバトルアックスを頭上に構えた。もうダメだと思い俺は闇雪の前に立ちはだかり【雪月花】を抜刀しようとする。その瞬間、真っ赤な顔を下に向けプルプルしていたアリアは意を決したようにカッ! っと目を開き顔をあげた。
「そ、そういう事はしたけど! でっでも! 」
なんだかヤバイこと口に出しそうな気がするな……
「大丈夫だったのよ! 子どもはできてなかったから!! 」
ん? 子ども? それってそういう行為……よし、絶対キンジ殺す。相棒がロリコン だったのは意外すぎるな。どうりで白雪がアレだけアプローチしても気づかないわけか! 許すまじ。
『キンジ』
「待て! なんで子どもができるんだよ! 」
「だ、だってお父様が言ってたもの! キスしたら子どもができるって!! 」
「できるわけないだろ!! 」
ホームズ家ももうちょっと教えてやれよ! まあそういうことしてないんなら……あ、でもキスしたんだよな? はい、殺す。
『キンジが俺より先か……許せない。殺す』
「待て! そんなことより白雪の暴走を……」
俺とキンジが白雪を見てみると……何もかもを失ったような顔で壁にもたれかかっていた。ドス黒いオーラなど微塵もなく、ただただ現実を直視出来ないようだ。
俺達が声をかけようと近寄ると急にビクリと身体を震わせ、立ち上がった。そしてそのまま帰ってしまった。
『……白雪可哀想だ』
「すまん……だけどアリアも誤解を生むようなことは言うな! 」
「じゃあ子どもはどうやってつくるの? 教えなさい! 教えないと風穴開けるわよ! 」
「そ、それは朝陽に頼め! 俺は白雪を探しに行くから! 」
とっさにキンジに声をかけようとしたが声を封じられていることに気づく。グロックで足止めしようとしたが、時すでに遅し。もうエレベーターにのって行ってしまった。
『俺は寝る。おやすみ』
「寝るのはいいけど、あたしに子どものつくり方を教えてからよ! 」
『 離せ!! 』
アリアは俺の腕に身体全体でホールドするように抱きついた。もちろん、年頃の女の子がそんなことをすればあたるものがあるわけで……ない。成長しなさすぎじゃないか!? まな板に腕をつけてる感じだぞ!
「教えてくれるまで離さない! 」
『無理。しっかりパートナーを見つけてやれ! 』
「だったらあんたがパートナーになればいいじゃない! ほら、あたしがいいって言ってるんだからいいの! 」
アリアさん、そういう発言はアウトなんです! 特に俺みたいな年頃の男の子にそういうことは言わないでください! 淡い期待……待て! 俺よ、冷静に考えろ。いいか? 相手はあのアリアだ。ロリだぞ? 手をだしていいわけない、犯罪ものだ。いやでも、アリアも高校2年生だしあっちがいいって言ってるんだ。これは合法的に……なるわけないだろ俺! 何を考えてる! 劣情を催すな!
「ねえ、はやくしてくれない? あたしだって眠いのよ」
アリアはソファーにしなだれるように座る。いつものことだが、今日は一段と違く見え……ないぞ! 落ち着け落ち着け落ち着け! だが、どんどん俺の中の悪魔が天使を倒している。悪魔が俺に囁きかけ、アリアを襲うのも時間の問題だ! こうなったら最終手段ッ!!
俺はグロックをセミオートにし、自分の右太ももを防弾制服越しに発砲する。
ドン! と鈍い音と共にこみ上げる激痛に劣情は抑えられ涙目になりながらも、驚いているアリアのもとまで行く。
『そんなに知りたいのならネットで調べてくれ。お前知りたいことが嫌っていうほどあるから……俺のパソコン使っていいから……』
アリアは怪しげな顔を俺に向けたが、何も言わず俺のパソコンを起動させるため寝室へ行く。
俺も素早く寝巻きに着替え、寝室でアリアがパソコンを起動しているのを横目にベッドに寝転んだ。痛い、自分で撃った太ももも痛いけどRFCに傷つけられたのも結構ヤバイ。明日起きれるか? まあいいや。
あ、アリア……ヘッドホンつけ────
アリアに大事なことを言おうとするが、津波のように押し寄せてくる眠気に抗うことはできなかった。
「起きなさい!! 」
朝のきつい日差しと共に、俺はアリアの
なんでや! 普通フライパンでカンカン音を鳴らしてで起こすもんだろ!
「アリア! かかと落としは……声でた! キタコレ! 」
「キタコレじゃない! なんなのよ! 」
眠たい目をこすり、視界がクリアになっていくと同時にアリアの顔が真紅と言えるほど赤くなっているのが分かった。
「なんでそんな顔赤いんだよ……」
「だ、だって! あんたがあんなの見ろって!! 」
アリアが指差した方向を見ると、俺のパソコンの神々しい閲覧履歴に泥を塗るような、
「おおおおおおおいいいいい!! 何調べてんだ!? 」
「あんたがパソコン使っていいって言ったから! 」
「そんなこと言って……たよクソッ!! 」
4時間目が終わり、食堂へと逃げる。RFC御一行も食堂の中まで暴れないようだ。食堂のオバチャン達怒ると怖いからな……怒らせたら明日はないだろう。
ともあれ、俺は不知火と武藤のいる席に行く。武藤は俺が来るのを見ると、目にたくさんの涙を浮かべた。
不知火は苦笑いしながらも武藤を慰めている。とてつもなくシュールな光景だが、だいたい予想はついている。
「遅くなった。すまない」
「いいよいいよ、京条君も大変そうだし」
不知火、RFCのほうを見てそんなこと言わないでくれ。
「誤解だよ……武藤、俺は理子と付き合ってない」
「ほ、ホントか? 」
「本当のことだから泣くな。てか、お前は白雪じゃなかったのか? 」
「いや、性格が腐ってるお前に理子さんみたいな彼女ができてなんで俺にはできないんだって絶望してたんだ」
俺の友達に不知火以外ロクなやつはいないのか? それと武藤は後で死刑だな。
「そういえば遠山君は? 」
「ああ、アイツはアリアに呼び出されてた」
「遠山君も大変だね」
学食のカレーを食べながら、俺と武藤と不知火で理子と付き合っていないことを証明するために色々と策を出しあった。3人寄れば文殊の知恵、なんてことわざがあるがそんなものは無意味。どれも有効な策じゃないからだよ!
昼休みが終わり、不知火と武藤はそれぞれの科の訓練を受けるため作戦会議はそこで終わってしまった。このあと何しようか……任務でも受けるか。
俺は依頼掲示板がある教務科棟の前まで来ると、アリアとキンジが一緒にいた。キンジは頭にたんこぶ量産していた。そしてなぜだか知らんがコソコソとしている。悪いことするんじゃないだろうな?
「アリア、キンジ。何やってるんだ? 」
「朝陽か……実は教務科に忍び込もうと思って」
「悩みなら聞くから自殺なんてやめとけ」
「違う! アリアが白雪の弱みを握ろうと潜り込みたいらしいんだ」
詳しく聞くと、白雪が綴先生に呼び出されたらしい。それで昨日の恨みを晴らすってわけか。
「そうか……じゃあ俺は任務に行く」
「あんたも来なさい! 」
「ですよね……」
なんでこんなことに巻き込まれんの? 瑠瑠神! 俺の運気を返せ!!
長くなったので切りました。
もうちょっと短く面白くまとめられるようにしたい……
白雪→鬼雪→闇雪→ ??