俺、ヤンデレ神に殺されたようです⁉︎   作:鉛筆もどき

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第13話 封印

 理子と作戦会議をするため、人気のない場所まで行き、理子にどうしたらアツアツのカップルに見えるか聞いたところ、

 

『 手繋いで、アーンして、ダーリンハニー言っとけばとりあえず大丈夫だから』

 

 とかなんとか言ってた。我は賢者だ。少しくらい()()()()がおきたって俺は劣情を催さない。俺たちはとりあえず開会式にでるため、競技が行われる会場に足を運ぶ。それにしても今日は暑いな……湿度も高いし、汗かきそうだ。

 

「理子、手を繋ぐのは開会式終わってからでいいよな? 」

 

「何言ってるの? 終わってから繋ぐとか不自然だと思うよ? あれだけラブラブだったのになんで開会式の時は手を繋いでなかったの? って」

 

「いや、今日暑いし、湿度も高いから汗かくと思うぞ」

 

「ダーリンが汗かいてきたら手離すから」

 

 おい、まあ汗だもんな。それにしても怪しまれるか? そこまで気づくやついないと思うが……まあ怪しまれないことに越したことはないからな。ギャルゲーのプロの言うことは間違いない。

 でも……でもッ!!

 

「恥ずかしいよ! 皆の前でとかやばい! 」

 

「キョー──ダーリンの意気地無し」

 

「それは言わないでくれ! 」

 

「だったら! 文句言わない! 」

 

 やるしかないか……まあここで何か言ってても無駄だしな。暗殺のターゲットだし。

 

「分かったよ! ほら、行くぞ」

 

 俺は理子の手を握ると戦場(開会式)へと向かう。理子は少しびっくりしたようだが、諦めたようようにギュッと握り返してきた。

 

 初めて握る女の子の手はとても柔らかく、そして小さいものだった。こんなか弱そうな手をしているのに拳銃とナイフを振り回してるんだな。

 守ってあげたくなるような小さな手に、自らの心臓の鼓動が速くなるのが分かってしまう。おい、俺よ。こんなことでドキドキしてたらまるで……

 

「ダーリン、耳あかいよ? やっぱりDTだったんだね! 」

 

「うるせえ! 初めてなんだから黙っとけ! 」

 

「いつも変態のことしかしてないのに? 」

 

 確かに、ハイジャック機から落ちた時に理子にしがみついた。もちろん理子の双丘にあたってたけどあの時は必死だったんだ。軽口でもたたかないと怖かったし。

 

「とにかく行くぞ! 開会式に遅れたらさらなる誤解を生みそうだしな」

 

 俺と理子は手を繋いだまま、アドシアード開会式へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 アドシアード会場に着くまで俺と理子はうんざりするほど注目された。武偵校生徒からの視線もかなりあったけど一番困ったのはテレビ局に取材を申し込まれたことだな。そりゃ理子はモデル並に可愛いからな。外見だけは!

 そんなこんなで開会式が始まった。武偵局のお偉いさんや校長先生の話、あとは生徒代表が宣誓をして終わった。ホント、ここの校長は話が短くて助かるよ。前世の校長の話は長すぎて足が棒になりそうだったからな。

 

 開会式の後は各個人がそれぞれ与えられた仕事にいくのだがそれはほとんど1年生がやることになっている。2年生以上はほとんどの人が仕事はなく、観戦しているやつがほとんどだ。それに加え、一般人にはただの祭りなので当然屋台で仕事もある。いわゆる祭りと同じ感じだ。内容も射的とかヨーヨーとか。それも可哀想なことに1年生がやるのだが。

 

 俺と理子はラブラブカップルということを知ってもらわなければいけないので屋台を時間をかけてまわる計画だ。同級生はもちろん、先輩や後輩からの視線ひとつひとつが槍となり俺の心に精神攻撃を仕掛けてくるのは覚悟しているが、物理的な攻撃はやめていただきたいな。物理的な攻撃がきたら理子を盾にしよう! 名案だ。

 

「ねえダーリン今変なこと考えなかった? 」

 

「1mmも考えてないから」

 

「よし、じゃあ行こっか! 」

 

 理子の天使のような笑顔とともに俺達は屋台へと足を運ぶ。まだ始まったばかりなのに一般人が多く、屋台も賑わっていた。親子連れで来ている人たちも少なくない。親御さん、ここに純粋無垢なお子さんを連れてきちゃダメですよ・・・・・

 

「ハニー、少し混んでるから手離すなよ? 」

 

「ダーリン優しい! 」

 

 一気に大衆の何人かを敵にまわす発言をし、この祭り騒ぎのなかでも「リア充死ね」だの「男のほう死ね」なんて聞こえてくる。様々な人たちの恨みを背に受け、心にダメージを負いながらも先へと進む。

 人があまり密集していないところまで着くと、理子に腕を引っ張られた。後ろに振り返り、理子に、なんだよと言おうとした所でいきなり理子が顔を近づけてきた。理子の童顔とも言える顔が間近にある。これに慌てない男子はいないはずがない!

 

「理子! そんなにくっつくな! 」

 

 すると、理子は真剣な目で俺の目を見つめ、小声で囁いてくる。

 

「尾行者。紺色の服で紺色の帽子。後方5m 」

 

「知ってる! だからひっつくなって! 」

 

 実は明らかに俺たちを見る目が違うやつがいた。まるで獲物を見つけ、狩り時を狙っている虎のような獰猛な目だ。理子は少し驚いたような顔をしたが、すぐに演技に切り替えた。

 

「さっすがダーリン! じゃあ射的いこ! 」

 

 少し大きめの声で理子が言うと、俺を引っ張り射的の屋台があるところへ行く。紺色の服来ている男も俺たちについてきた。バレバレなんだがいつまでついてくる気だ? さっさと帰ってくれないかな……

 射的の屋台につくと、1年生が頑張ってコルクの弾拾いや会計をしていた。これだけ見ると変わってやりたいんだがな。去年俺たちもやってるんだ。

 

 代金を払い、理子にコルク銃を渡す。武偵校の屋台のコルク銃は少し強力にしており、その代わりコルク銃の銃口部分が一定ラインを超えてはいけないという特殊ルールがあるのだ。つまり台から身を乗り出して撃つのは禁止ということだ。しっかりとした距離から正確に撃つ、というところがいかにも武偵校らしい。

 

 理子は探偵科といっても武偵、綺麗なフォームでコルク銃を構え『 テディベア』のキーホルダーを狙う。どうやらペアルックできるよう二つセットになっているようだ。狙いを定め、引き金にかけた指に力を込めていく。

 

 聞き心地の良い音でコルクが飛んでいくが……撃ち出された3発のコルクはキーホルダーを掠めるだけで1発もまともに当たることは無かった。

 不思議に思っていると、理子が困ったような顔をこちらに向けてくる。

 

「当たらないよ! ダーリン、最後の1発当てて? 」

 

「え、ああ。やってやるよ」

 

 俺は理子からコルク銃を受け取り、アイアンサイトでしっかりとキーホルダーの真ん中に狙いを定め、撃つ!

 

 ポン! ───カラカラン。

 俺の撃ったコルクはキーホルダーにしっかり当たり、1発で地面へと落ちた。1発で落ちるはずないんだけどな。さては理子め、わざと掠めさせて奥の方に寄せていたな? 驚きのテクニックだな。

 

「やった! ダーリンありがとう! 」

 

 理子は俺の腕に強く抱きついてきた。そう、これが問題だ。身体全体で抱きつかれた、つまりあたるものがあたっているのだ! 理子の柔らかい双丘が!!

 予想外の出来事に素がでそうになるが寸前でこらえる。

 

「ああ。後でつけような! 」

 

「うん! ダーリン大好き! 」

 

 射的の屋台をやっている1年生全員に見られた。やめてくれ。そんな冷たい目をしないでくれ……俺だって好きでやってるわけじゃないんだ!

 

 

 

 それからというもの、一緒にヨーヨーをしたりスーパーボウルすくいをしたり、昼食を一緒に食べたりした。だがその間も紺色の服の男は尾行を続けていた。そろそろ行動を起こしそうだな。俺は昼食を食べ終えたあと、理子と一緒に紺色の服の男を人目につかない場所へと誘導し始める。ごく自然に、急激な変化に気づかせないよう人ごみから徐々に抜ける。

 

 そして、今は誰もいない第一体育館の裏へと来た。紺色の服の男は周りを見渡し、人がいないことに気づいたような素振りを見せた。

 

「なあ、何が目的なんだ? 」

 

 俺は紺色の服の男に尋ねるが、返事はない。その代わり身体をひねり、背中に手をのばして何かをとろうとしている。そしてその手つきは背中にあるナニカを抜刀するようで────

 

「まずい! 理子逃げろ!! 」

 

 そばにいた理子を突き飛ばし、俺は腰に固定している雪月花を流れるような速さで抜刀する。直後、10mもあった距離を無駄だとでも言うほど一瞬にして俺の目の前まで移動し、その男は振り上げた太刀で俺を一刀両断すべく、躊躇なく振り下ろした。

 

 俺はとっさに雪月花でその男の太刀をいなすが、その斬撃は信じられないほど重い。その男の腕に象でも飼っているんじゃないかと言えるほどだ。この速さと斬撃の重さで畳み掛けられたらヤバイ!

 俺は片手でグロックを抜き、男に突きつける。

 

「何者だ? 暗殺者だったら即逮捕だが? 」

 

「そうだね・・・・・言うならば君の父親だ」

 

 ・・・・・は? 俺の父親だと? この世界に俺の父親なんていない。前世の父親は普通のサラリーマンだ。こんな高い戦闘力なんてもっていない。

 

「ふざけるな、とりあえず拘束させてもらうぞ」

 

「君にそれができるかな? 」

 

 男が太刀を持つ手に力をいれた瞬間、俺はそいつの手に発砲した。パァン! と乾いた音をたて、放たれた音速の銃弾は─────男が着けていた手袋ごと手を貫通した。

 

「あ、防弾じゃなかったのか」

 

「キョー君後ろ!! 」

 

 突然叫んだ理子の声に反射的に後ろに振り向きながら雪月花を横薙ぎに振るうが、もう遅かった。理子に言われる、いや、言われてからも俺の前にいるその男は()()()()()1()()()()()()()()。よく見ると片方の男は砂となり、崩れていくのが見える。そして俺は本物のほうの男の強烈なミドルキックが背中に炸裂した。

 

「カハッ! 」

 

 背骨がメキメキと軋む音をたて吹き飛ばされた。地面を勢いよく転がり、ようやく止まった時には手をのばせば届くような距離に男がいた。太刀を下に向け、顔を突き刺そうと切先が迫ってくる。

 その即死コースを右手と左手のダガーを展開し、大量の火花を散らしながらなんとか顔の横に逸らせた。

 地面に深く突き刺さり、その隙に跳ね起きの要領で男の顔面にドロップキックを食らわせる。しっかりとした手応えを感じ、男は少し仰け反った。

 

(追撃のチャンス! )

 

 俺は超能力で雪月花全体をより鋭くコーティングするように氷を張り巡らせる。超能力の使用で辺りの気温が急激に下がり、ダイヤモンドダストが出現する中、もはや槍とでも言えるような雪月花を右手で地面と水平に構え、右足を1歩下げる。体勢を低く保ち、力を切先の一点に集中させ────一気に解放する!!

 

氷纏月花(ひょうてんげっか)・斬!! 」

 

 大気を切り裂く鋭い音と、辺りのダイヤモンドダストがキラキラと輝かしく舞うなか、その男に直撃したはずの雪月花は────

 

 

 

 二本の指だけで真剣白刃取りされ、男に完全に止められていた。

 

「なっ!? 」

 

「ハハハハハ! 成長したね! 朝陽君! 」

 

 男は俺の名前を呼び高らかに笑っている。男はおもむろに自らの首に爪をたて、顔の皮を剥ぐように手を動かす。俺と理子が驚愕している中、見えてきた顔は確かに父親と呼べる人であった。ソイツは……

 

「シャーロック! なんでここに!? 」

 

 そう、イ・ウーの頂点に君臨する、未来予知に匹敵するほどの世界最高の頭脳。そしイ・ウーに集められた"天才"たちの能力を全て我が物として扱える超人。ソイツが今俺の目の前にいる。

 

「息子がしっかり恋人ごっこしてるかの確認だよ」

 

「余計なお世話だ! あと俺とあんたは血は繋がってない! 」

 

「それと、朝陽君が成長出来ているかの確認だ」

 

「推理出来てるんだからいいだろ! 怪我させやがって! 」

 

 イ・ウーにいた頃からホントにこいつの考えることは分からないことだらけだ。気まぐれで動いているとしか思えない。

 

「勿論推理出来ていたよ。だからあることを伝えようと思ってね」

 

「話しておきたいこと? 」

 

 シャーロックは少し目を細めると、これから起きるナニカについて話し始めた。

 

「今遠山君と神崎君と星伽君が"デュランダル"と戦っている」

 

「ッ!? なんで!? 」

 

「キョー君! 携帯見て! 」

 

 理子に言われ、俺が急いで携帯を開くと画面に表示されていたのは『ケースD7 』。これは、『 事故であるか不明確だが、保護対象者の身の安全のため極秘裏に解決せよ』という状況を表す。だがシャーロックの言う通りならば白雪は救助され、一緒に戦っているということだ。

 

「……キンジ達はどうなる? 」

 

「デュランダルに見事勝利するよ」

 

「ならよかっ───」

 

「でも、その後彼らは無残に殺される」

 

「なッ!? なんで! 」

 

「それは朝陽君、君の右腕の印が全て知っているよ」

 

 シャーロックに言われた印、それは過去に瑠瑠神につけられたものしか考えられない。嫌な予感が全身を襲い、冷や汗が流れる。気のせいだ、あの悪夢を見させられた時からさほど時間なんてたっていないはずだろ?

 そう自分に言い聞かせ、それでも急いで制服を脱ぎ確認してみる。

 

「なんだよこれ・・・・・」

 

 恐る恐るみてみると、二の腕部分につけられた小さなバツ印は薄緑色に光っていた。その光はまるで瑠瑠神が近くにいることを示すモノに見える。

 瑠瑠神に見せられた()()を思い出し、自然と手足が震えてくるが、懸命にこらえシャーロックに聞き出さなければいけないことを聞く。

 

「今俺が行けばどうなる」

 

「それは……分からない」

 

「分からないだと!? ふざけてるのか!? 」

 

「僕にも推理できないものはある。神の行動は予測つかないからね。君次第だ。臆病者の如く逃げるも良し、勇敢に立ち向かっていくのも良しだ」

 

 逃げたい。心の底から逃げたいと思う。もう手足切断と死ぬのは勘弁だ。あんなに痛い思いをして何になる。今俺が行ったところで何が出来る? 神相手に人間1人増えたところで戦力は変わらない。相変わらず無力だ。だから逃げた方がマシ。だけど───

 

「今から行けば……まだ間に合うか? 」

 

「それは間に合う。僕が保証しよう。場所は地下倉庫(ジャンクション)だよ」

 

「そうか。教えてくれてありがとう」

 

 逃げたほうがマシだ。だが今まで一緒に過ごしてきた仲間を裏切るわけにはいかない! 俺は地面に落ちていたグロックを拾い上げ、理子にシャーロックと一緒にいるよう言い残し、全力で地下倉庫(ジャンクション)に向かった。

 

 

☆☆☆

 

 

「デュランダル! 未成年者略取未遂の容疑で逮捕よ! 」

 

 下の階からアリアの声が聞こえてくる。よし、まだ死んでない! 間に合う! 俺は急いで非常階段で下の階層まで降りる。1秒でも早くアイツらを巻き込まないようにするために!

 下の階層の出口につくと、そこは壁のように巨大なコンピューターが無数に立ち並ぶスーパーコンピューター室。そしてそれらは何かによって全て凍らされていた。

 

「アリア! キンジ! 白雪! ソイツから離れろ! 」

 

「朝陽!? ちょうどいいわ! こいつを連行するの手伝って! 」

 

 アリアの手によって対超能力者用の手錠をかけられたデュランダルであろう人物は近づいてくる俺に目を向ける。

 刃のような切れ長の眼はサファイアの色をしている。髪は氷のような銀色で二つの三つ編みを丁寧に結ってある。美しい、場違いながらもそう思ってしまった。

 

 だが、俺とデュランダルが互いに目を合わせた瞬間────まるで何かに取り憑かれたように暴れだした。

 

「アアアアアアアアアア!? 」

「な、なに!? 暴れないで! 」

 

 キンジとアリアが押さえ込もうとすると、2人は簡単に弾き飛ばされてしまった。デュランダルは対超能力者用の手錠を目に見えない何かによって破壊し、両手で頭を抱えるようにしている。

 

「白雪! ソイツから離れろ! 」

 

 デュランダル戦で力を使い切ったのか、弱々しくフラフラしている白雪をそばまで来させた。キンジとアリアは吹き飛ばされたが、しっかりと受け身をとったようで今は俺の横に並んでいつでも戦闘ができるように警戒している。デュランダルは少し暴れたあと、急におとなしくなった。

 いや、もう違う()()()が完全に入り込んだ、とでも言えるのだろうか。デュランダルはこちらに振り向き、元々サファイアの色をしていた眼は薄い緑色に変化していた。そして俺を見ると口を大きく歪め、こう言った。

 

 

 

 

 

「朝陽、会いに来たよ」

 

 

 

 

 

 

 









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