俺、ヤンデレ神に殺されたようです⁉︎   作:鉛筆もどき

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第16話 これなんてホラゲ?

 雲一つなく晴天に恵まれた本日、運に恵まれていない俺は額に汗を浮かばせながら平賀さんのいる装備科へと足を運んでいる。最悪だった6日間のことを慰めてもらうためだ。

 

 脳挫傷で入院した日から6日間、俺は理子に『女の子』というものを教えられた。言葉遣い、恥じらい、仕草、そういった女の子らしさをつける訓練だ。言葉遣いと仕草はいいとして、なぜ恥じらいを覚える必要があったのかは理解できないがな。

 そして俺の容姿はというと、身長179cm。身長と俺の顔つきで髪型はセミロングと決まった。童顔ではないと思うんだが何故か似合っていたのが憎たらしい。

 

 アリアも目を引きつらせ、心底嫌そうな顔をしながら「ご主人様ご用件はなんですか? 」とお経のように唱えていた。

 だが今はそれでもマシになっているほうだ。

 最初のほうは「ご、ごしゅ……ごしゅ!」とかセリフの最初しか言えなかったしな。しかも顔を真っ赤にして。それはそれで見ものだったんだがニヤニヤしてたら変態と罵られて顔面に正拳突きをくらわされたのは最早テンプレと化している。

 

 そんな地獄を思い出し、ゲンナリしながらトボトボと歩いていると嗅ぎなれた硝煙の匂いと共に金属を溶接しているような音、何人かの装備科の生徒であろう声が聞こえてきた。どうやら外で大型のロボット──しかも本格的な造りでアームの関節部分は外側から見た目硬そうな金属で覆われており、かなり気合が入っている。それを横目に俺は平賀さんのもとへと急いだ。

 ロボットを作っている装備科全員に睨まれたが気のせいだと思っておこう。こんなの気にしていたら人生やっていけないからな。

 

 俺は平賀さん専用の作業室の前まで少し早歩きで行く。

 扉の前まで行くと何か妙な違和感を覚えた。いつもは絶え間なく金属の溶接音やらドリルの音がするもんだがそれが聞こえてこない。平賀さんはこの部屋で一人の時は何かしらの作業をずっとしてるはずなんだけど・・・・・休んでるのか?ま、いいか。

 

 俺は扉を二回、コンコンとノックをし、─中から返事がないので─ノブを回し部屋に入る。

 天井には最近取り替えたばかりであろう蛍光灯が光っており、辺りに散らばった何かの部品と部屋の角に設置してあるデスクトップ型のパソコンと睨み合っている平賀さんを照らしている。平賀さんの小さな頭には不相応なデカめの派手なヘッドホンがドドンと鎮座。ノックの音が聞こえないってことは音楽でも聞いてるのか?

 

「平賀さーん? 何してるの? 」

 

 普段なら充分聞こえる声だが、反応してくれない。デコピンでもするか。

 俺は平賀さんに気づかれないように背後まで忍び足で近寄ると、中指を親指の腹にあて、平賀さんの後頭部に狙いを定める。

 そして力を中指に集め──勢いよくその力を解放する!

 

「ギャアァァァァー!! 」

 

 ベチッ! と心地よい音がしたが、それとは反対に今まで平賀さんから聞いたことのないような絶叫を室内に響かせ、後頭部を両手で押さえながら椅子から転げ落ちた。

 

「だ、誰なのだ!? 」

 

 目に涙を浮かばせジト目で後ろ───俺を見るとアリア並の速さで顔を真っ赤に染めた。よほど恥ずかしかったらしく、わぐわぐと口を開け閉めしている。

 

「なーに見てるの? 」

 

 俺はディスプレイに映し出されているインターネットサイトを見ると・・・・・

 

『男が落ちる10のテクニック♥』

 

 無駄に凝ってある背景と共に映し出されているのは年頃の女子が見てそうなタイトル。そしてその下にイラストと箇条書きで信憑性に欠けているテクニックとやらが書き出されている。

 

「見ないでなのだー!! 」

 

「うぐぅ!? 」

 

 平賀さんに思いっきり指を両目に突っ込まれた。

 もう少し手加減してくれませんかね!?

 

「ご、ごめんなのだ! 」

 

「いいよいいよ・・・・・こんなことは日常茶飯事だよ」

 

 回復した視力で平賀さんを見下ろす。眉尻を下げ、しょんぼりとした顔は・・・・・何この小動物可愛い!

 でも言葉にしたらきっと殴られるだろうな・・・・・これは前回の教訓だ。

 

「平賀さんもこんなの見るんだね。まさか気になる男子でも!? 」

 

「いないのだ! 」

 

「ふーん・・・・・いい話のネタになると思ったんだがなあ」

 

 平賀さんは神妙な面持ちで俺の顔をジーッと見つめてきた。俺も見つめ返すと、頬と耳がさらに赤くなって逸らされてしまった。

 ・・・・・大事なことだからもう一度言おう、何この小動物可愛い!!

 

「なんでここに来てるのだ? 」

 

「話し相手になってほしいなって思ってね」

 

「話し相手なら・・・・・その・・・・・理子ちゃんにしてもらえばいいのだ」

 

「あ、そういえば平賀さんには話してなかったな」

 

 俺はアラン先生の嘘情報だということや、訂正出来ないことなど1から全部話した。最初は不機嫌そうだったが、話していくうちにヒマワリのような晴れ晴れとした表情になっていくのが目に見えて分かった。俺が理子と付き合ってないことがそんなに嬉しかったのか?

 

「じゃ、じゃあ本当の本当に理子ちゃんと付き合ってないのだ!? 」

 

「本当だよ! これは信頼できる友人しか話してないから内緒にしといてね? 」

 

「承知したのだ! 」

 

 平賀さんはルンルン気分なのか室内を走り回りながらジャンプするという奇行を繰り広げ始めたが、これが危なっかしい。そう、平賀さんは極度の運動音痴なのだ。自転車は補助輪が無いと乗れず、走る競技では必ずと言っていいほど転ぶ。そんな平賀さんが室内で、しかも何かの部品があちこちに散らばっているにも関わらず走ると・・・・・

 

「あやや!? 」

 

 やはりつまずく。そこから前に倒れ込む未来が容易く予知出来たので俺は平賀さんの前方に先回りし、

 

「ほら、コケるから危ないよ」

 

 と、自分の身体で平賀さんが倒れないように立った。ポスッ、自然と平賀さんが俺に抱きつくような体勢になった。平賀さんの顔は羞恥心でマグマが噴き出すんじゃないかと思うくらい真っ赤だ。平賀活火山だな。

 

「あああありがとう!! なのだ!! 」

 

「平賀さんは軽いから大丈夫だよ。それより、怪我はなかった? 」

 

「大丈夫なのだ! ・・・・・やっぱりきょーじょー君は優しいのだ」

 

「俺が・・・・・優しい? 」

 

 このゴミ条やらクズ条やらと言われ、仲間からは変態と罵られゴミを見るような目で見てくる。そんな俺に今、平賀さんは優しいと言ったのか?

 そんな事を言われたのは・・・・・本当に久しぶりだ!

 

「平賀さんありがとう!! 」

 

「わ、なんなのだ!? 」

 

 泣きながら平賀さんに抱きつこうとしたら顔を真っ赤にした平賀さんのパンチがみぞおちにめり込み、またうずくまった。

 それから少しの時間が流れ、今は平賀さんと『恋バナ』というものをしている。俺は特に好きという人はいないから一方的に聞いてるだけだが。

 

「理想のタイプを、どうぞ」

 

「理想じゃなくて・・・・・本当に好きな人でいいのだ? 」

 

「え!? さっきいないって・・・・・」

 

「は、恥ずかしかったからなのだ! 」

 

 平賀さんに好きな人!? これは大ニュースだ! やっぱり平賀さん並の技術力を持った人かな? そうだとしたら他校の生徒か。いや、年上かもしれん。まあとにかく、めでたいことだ!

 

「じゃ、その人のこと教えてくれる? 」

 

「えーと・・・・・かっこよくて、でもちょっと性格がひねくれてるけど根はすっごい優しくて、その人が友達といる時はその人ずっと笑顔で、よく遊びに来てくれるのだ・・・・・あと! 背が高いのだ! 」

 

 遊びに来てくれるってことは一般人ではないな。といっても違う武偵校の制服なんて校内で見たことないし・・・・・

 

「その人ってこの高校か? 」

 

「そ、そう・・・・・なのだ」

 

「その人彼女いる!? 」

 

「いないと思うのだ」

 

「いない!? だったらアタックするしかないよ! 」

 

 平賀さんは口をもにゅもにゅと波打つようように動き、両手を心臓───俗に言う心の位置へと持ってきた。もう耳や首まで真っ赤になっているところを見るとよほど恥ずかしかったらしい。ま、友達に好きな人教えるって勇気いるもんな。

 

「あ、あああアタックしても、どうせ相手にしてもらえな────」

 

「平賀さん武偵憲章10条! 『諦めるな。武偵は決して諦めるな』だよ! 」

 

「そ、そんなぁ・・・・」

 

 追い討ちをかけるようで俺も心が痛むが! だがしかし! 想いの人は待ってくれないのだ! いつまでも想いを伝えられず後悔してきた友人を幾度となく見てきたんだ。平賀さんにはそんな後悔をしてほしくないからな。

 

「その人の名前教えてくれる? 」

 

「えあ!? それは・・・・・うぅー・・・・・」

 

 何故かジト目で俺を睨んでくるが、俺はジト目大好きなんでな! ごちそうさまです!!

 

「その人の名前は・・・・・」

 

「あ、言ってくれるんだ・・・・・」

 

 

 

 

 

 

「あ・・・・・あさ────」

 

 けたたましい電子音が室内に響き渡った。俺のポケットに入っている携帯の着信音だ。それが平賀さんの告白を今は言うべきではないとでも忠告しているかのようにかき消した。ポケットから携帯を取り出し、ため息をつきながら応答する。

 

『はい、京条です 』

 

『一般棟の2階音楽室に来い』

 

『え! ちょっと待って───』

 

 プーップーップーッ。

 ・・・・・切りやがった。せっかく平賀さんの好きな人聞けたのに! 許すマジ! てか今の声誰だよ!

 

「ごめん平賀さん! この話はまた今度! 」

 

 俺は平賀さんの部屋から出ようと荷物を持ちノブに手をかけ────袖を引っ張られた。

 振り返れば、切なげな表情を浮かべ行ってほしくないという意思表示が全身からにじみ出ている平賀さんが上目遣いで攻撃してくる。

 

「平賀さん、教務科からの指令だったらすぐ行かなきゃならないんだ」

 

「分かってるのだ・・・・・だから1つだけ願いを聞いてほしいのだ」

 

「ん? なんでもいいぞ? 」

 

「じゃ、じゃあ・・・・・これから『平賀さん』じゃなくて『あや』って呼んでほしいのだ! 」

 

 大事なことだからもう一度言おう。何この小動物可愛い! 上目遣いでお願いとか、これは動画を撮っておくべきだったッ! なんという不覚! 俺としたことがッ!

 

「じゃ、あや! また来てもいいか? 」

 

 俺は再度、(あや)の目をしっかり見て聞くと、

 

「大丈夫なのだ!! 」

 

 思わずドキッとしてしまうような屈託のない笑顔で俺を見送ってくれた・・・・・

 

 

☆☆☆

 

 

「貴様! わっわわわたしにその・・・・・きっききキスをしたってのは本当か!? 」

 

「とりあえず落ち着いて」

 

 俺は音楽室に2人きりでいる。音楽室に入る前から『火刑台上のジャンヌ・ダルク』という曲がピアノで弾かれていたから見当はついてたんだがな。俺が入ってくるのを見るや否や、雪のような白い肌をしているジャンヌの顔が真っ赤になった。そして自らが座っている椅子を倒すような勢いで立ち上がると、人差し指をこちらに向けてきて──という流れ。

 

「ジャンヌ・ダルクさん? なんで───」

 

「私の()()()()()に答えろ! 」

 

 し、しちゅもん? ・・・・・()()か、盛大に噛んだな。真っ赤な顔で震えているところを見るに、自分の失態には気づいているようだがそんなことは今は関係ないってか。

 

「俺は貴方様と」

 

「私様と!? 」

 

「キス・・・・・しました」

 

 はわわわわわ、と両手を口に持っていき、これ以上耐えられないという仕草を見せ───顔を伏せた。

 

「ジャンヌさん、本当にゴメンなさい! でも仕方なかったんです」

 

「わわわたしはファーストキスだったんだぞ!? 」

 

「俺もですから・・・・・ごめんなさい」

 

 瑠瑠神ぃ! お前のせいでまためんどくさいことになったじゃねえか!

 

「そうだろう! というか、なぜ私とキスなんかしたんだ! 私にはお前とした記憶なんてないぞ! 」

 

「それには・・・・・深い事情がありまして」

 

「事情だと!? ふざけるな! 私とキスするのに事情なんて────」

 

「ゴメンなさいその件はまた今度お願いします! 」

 

 1から話すと日が暮れるどころか理子との計画の見直しに遅れるッ! 俺は心からジャンヌに謝り、理子のいる女子寮にダッシュで向かう。背後から俺を呼ぶ声はきっと気のせいだ!!

 

 

☆☆☆

 

 

 昨日からひと夜明け、俺は女装している。というのも今日が理子の計画した泥棒計画実行日なのだ。そして今日に備えて早めに起きたんだがメイク役の理子が起きてくれなかった。これが何を意味するかと言うと・・・・・

 

「キー君、アリアお待たせ! 」

 

「もう遅いじゃない! ()()よ! 」

 

「ごめーん! 」

 

「おい朝陽、お前は誰だ」

 

「俺だよ朝陽だよ! バッチリ俺の名前言ってるじゃねえか! 」

 

 セミロングの髪、パッチリとした目、目立たない鼻、小さく可愛げのある口、理子が俺を見て不思議な顔をしている。明らかにわざとだ。そして俺を見て肩を震わせているアリアは後で一発殴る。

 

「それにしても理子、なぜカナの姿で来てるんだよ」

 

「理子はもう顔バレしてるし、キンジの好きなカナで応援してあげようと思って! 」

 

「・・・・・行くぞ」

 

 キンジはイラついた顔をしたが、すぐにそっぽを向いてしまった。アリアはキンジに「カナって誰よ! 」としつこく聞いているがことごとく無視されている。

 カナ───キンジの肉親であり、今は亡き人。カナさんは男女関係なくその視線を奪うほどの美貌を持ち、そこらのアイドルとは比べ物にならないほどだ。アリアはヤキモチを妬いているのが見え見えであり、結果としてキンジもアリアも不機嫌になってしまった。

 この状況・・・・・見るに堪えないな。俺は理子に近寄り、キンジとアリアに聞こえない声量で尋ねた。

 

「おい、雰囲気悪くなったじゃねえか。なんでカナに変装してくるんだよ」

 

「嫉妬しているアリアが見たかったからだよお! 」

 

 目をキラキラさせグッと拳を握った理子は小声で、そしてハイテンションで答えた。もうダメだコイツ!

 

 

 

 それから駅のホームでナンパされたこと以外特に不思議なことは起きず、安全に館につくことが出来た。・・・・・できたんだが、

 

「ここってホントに横浜市内か? 」

 

 キンジとアリアは少し後ずさった。それもそのはず。この紅鳴館、周囲を囲む真っ黒な鉄柵と茨の茂み、トドメは館本体がホラーゲームに出てきそうな雰囲気をしているのだ。よく見れば軒下のような場所にコウモリが二本の足を器用に使いぶら下がっている。怖ッ!!

 

 俺達はこのホラゲ洋館からいつでも逃げれるように警戒しながら門へ進み、理子がチャイムを鳴らした。

 ピンポーンと一般家庭で鳴る普通のチャイムに驚きつつも、中から出てくる人物がどんななのか。やはりホラゲに出てくるような人物なのだろうか。

 

 ギィっと扉が開くとアリアの小さい悲鳴をあげた。視線が扉に集まり、中から出てきたのはホラゲの住人・・・・・ではなく、俺達の知っている人だった。それと同時にとてつもない不安が俺達に襲いかかる。

 

「あなた達・・・・・ですか・・・・・」

 

 中から出てきた途端に苦笑いをしたその人は、185cmの高身長、切れ長で知的そうな目をしている武偵校屈指のイケメン非常勤講師、小夜鳴先生だった。

 

(はい! つみました! )

 

 

 




可愛いは正義。
鉛筆のデコピンは人差し指ではなく中指派です

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