俺、ヤンデレ神に殺されたようです⁉︎   作:鉛筆もどき

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気づいたら八千文字、後悔はしていない



第18話 理子のハジメテ

『朝陽───』

 

 目を開けるとそこは真っ暗な空間、そしてどこからか声が聞こえる。かろうじて何か言っているのが聞こえるがその内容は分からない。

 

『朝陽───』

 

 ノイズで聞こえない。だが俺を呼んでいる声の主は俺の前にいる。なんとなくだが・・・・・怒っているような雰囲気を感じ取れた。

 

『朝陽───』

 

 ソレは何かを持って俺のすぐ横まで歩いてくる。だが近づいて来るにつれ何故か妙な安心感が湧き、俺は再び眠るように目を閉じた・・・・・

 

 

☆☆☆

 

 

 頰を引っ張られる感覚と鼻をから脳天に突き抜けるようなひどい臭いで目が覚めた。最初に目に飛び込んできた光景は窓ガラス越しに見える数々の機械。そして視界の隅にいるヒゲ面のおっさんだ。あたりを見回すと、ここが四方10mほどの立方体のような部屋で何かの撮影器具が揃っていることがわかる。そして部屋の真ん中で異様な存在感を放つピンク色のベッド。

 

(頭は・・・・・まだ冴えてる、ってことは拘束されている時間は長くないか。せいぜい1時間程度だ)

 

 私は椅子に座っていて両手は背もたれの後ろで縛られ固定されていて、胸とお腹を縛る縄は身動き一つ出来ないようにキツく巻かれている。両足はそれぞれ椅子の足に縄で固定されていてつま先ぐらいしか自由に動かせない。そして何より──目の前に移動してきたヒゲ面の男が椅子に縛られている俺、いや私の頰をベタベタ触ってくるのだ。

 

「あの、気持ち悪いのでやめてくれますか? 」

 

 心の底から思っていることを理子に鍛えられた女声で言うと、男は元々細い目をもっと細くし、

 

「ヘっ、ボスは良い女を連れてきたもんだなぁ」

 

 と、私の顔に小汚い顔を近づけてきた。男の口から違法薬物特有の刺激臭が漂ってくる。

 

「──ッ⁉︎ 」

 

 私の唇にあと数センチで男の汚い唇に触れそうになり、咄嗟に頭を後ろに反らし勢いをつけて男の顔面へと頭突きを食らわせる。

 ゴスッと私にとっては気持ちの良い打撃音がし、男は声にならない叫びをあげて後ろに倒れこんだ。倒れた際に後頭部が地面と盛大なキスをしたようで男は頭を押さえてゴロゴロと転げ回っている。

 

(いい気味だな。私にそんな汚い唇を押し付けようとした罰だ)

 

 男は痛みが引いてきたのか顔を真っ赤にしながら立ち上がると、性懲りも無くまた私の前にやってきた。

 

「このアマ! 調子にのるなよ! 」

 

 怒りを露わにしたその顔に向かって精一杯のドヤ顔を向けると、男は右手を大きくあげ私を殴ろうとしたが──仲間とおもわれる男達が部屋に入ってくると悔しそうにその右手の拳を壁へと叩きつけた。

 

「おいおい、()()に傷つけちゃダメだろう」

 

「・・・・・すまん。だが叩いてない」

 

「オーケー、お前の気持ちもよく分かるぞ」

 

 口元に深い傷跡を残した目つきの悪いボスと呼ばれている男が出てきた。そのボスは右手で私の頰を挟み込み、見定めるようにして私の各部位を眺める。

 

「こいつのおかげで薬の値段が2桁上がったからな。なあ嬢ちゃん、なんでメイド服でこんな深夜に出歩いてたのかな? 」

 

「当主様に命じられた事を果たしていたまでです。帰してくれませんか? 」

 

「可愛いこと言っちゃって〜ホントは、俺たちに誘拐されること期待しちゃってたんじゃない⁉︎ 」

 

 ボス含めゲラゲラと笑い声が部屋中に響きわたった。・・・・・バカなのか?

 

「ま、取引までたっぷり時間はあるんだ。ちょっとくらい俺たちで楽しんでも問題ないよな? 」

 

 さらに笑い声が大きくなる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「今俺たちは5人だ。全員一気にヤレるよなぁ⁉︎ 」

 

「ボス! 一番イイところ俺が先いいっすか⁉︎ 」

 

「バカ野郎! 俺が最初に決まってんだろ! 」

 

 ボスは笑いながら調子にのったことを言った部下の頭を叩いている。

 ボスは私を縛っている椅子ごと撮影器具とベッドが置いてある場所に持っていくと、乱暴に縄をほどき、在ろう事か女性である私を──本当は女装だが──ベッドの上になげた。反発力の高いベッドだったから痛くなかったけど女性に対する配慮が足りないんじゃないかな?

 

「うっひょー! パンチラゲットォ! 」

 

「お前・・・・・バカがバレるぞ」

 

「うるせえ! 」

 

 こっちのセリフだ! と言いたいところだがボスが私の上に乗っかってくるのでそれは阻止された。気持ち悪い笑みを浮かべ私の胸を触ろうとしてくる。強襲科、しかもSランクの私であればこんな奴らは即逮捕出来るがあえてしないでおこう。

 

「たっぷり遊んでそれを撮影する。いい顔しろよ? 」

 

 部下達もボスの周りに集まってくる。ボスが上、部下が左右に2人ずつ興奮した目で私を見てくる。

 

(もうすぐだな・・・・・)

 

 私はドヤ顔でボスと部下達に向かってニヤリと口を開いた。

 

「貴方達の心と同じくらい小さいムスコさん達で私を満足させることなんて不可能でしょう? 」

 

 おっと、これは煽りすぎたか? まだ煽りたいけど殴られたら小夜鳴先生に怪しまれるしこれぐらいが妥当か。

 

「このアマ・・・・・今すぐその生意気な顔を歪めてやる! 」

 

 興奮と憤怒に駆られ上気した顔のボスと部下合計5名は私のメイド服を乱暴に剥ぎ奪り───

 

「そこまでよ! この悪党! 」

 

 突如工場の天井に穴があき、そこから顔見知りの後輩武偵4人がラペリングせず素早く飛び降りてきた。

 

「なっ⁉︎ 」

 

 男達のボスは降りてくる4人の武偵に目が釘付けになり一瞬動きが固まったが、部下達に指示を出し腰のベルトから瞬時に拳銃を取り出すとその武偵達に発砲した。だが4人の武偵はそれを察知していたようでその銃弾は虚しくも床のコンクリートを抉るだけとなる。4人の武偵はボスの持っている拳銃の射線上にボスの部下がくるように立ち回り、次々と部下達を無力化していく。

 ついに最後の部下が倒れボスを残すのみになり、ボスは私の首に腕をまわし乱暴に立ち上がらせた。今の私はこの薄汚いボスの盾にされている状態だ。4人の武偵は私のせいで撃つことができず、悔しそうな表情を浮かべている。

 

「お、お前ら! 近づいたらこいつを撃つ! 今すぐ出て行け! 」

 

 震える手で私の髪に銃口を押し付けた。私は発砲直後の銃口の熱さに顔を少し歪ませ・・・・・その熱さに我慢が出来なくなり、思いっきりボスの足を踏みつける。

 

「うぐあああぁぁぁ⁉︎ 」

 

 首にまわしている腕から逃れ、拳銃を持っている手を捻り上げる。簡単に手元から落とした拳銃を空中でキャッチし部屋の隅へ床に滑らせ、ボスの腹に色々な恨みを込めた回し蹴りを食らわせる。ドスッ、と鈍い音が響き渡りボスは吐きそうな声をあげ、身体を丸めるようにしてうずくまった。

 

「ふぅ、女性に対する配慮というものが足りませんね」

 

 決まったッ! この圧倒的勝利と決めゼリフ! これでカッコいいと言われるに・・・・・男の時にカッコいいって言われたかった。

 

「あの、大丈夫でしたか? 」

 

「お怪我はありませんか? 」

 

「お、お姉さんスゲー! 何か武術でもやってるのか⁉︎ 」

 

「あの回し蹴り、見事でござった」

 

 4人は私に近寄ると、それぞれ違った言葉を私にかけてくれている。うむ、後半2人は私の心配などしてない様子だがまあ良いだろう。

 

「ありがとう、あなた達のおかげで助かったわ」

 

「いえいえ! こちらこそ危ない目に合わせてしまってすみませんでした! 」

 

 短めの髪を頭の左右でまとめ上げたツインテール──間宮あかりが頭を下げてきた。しかも何回も。そこまで謝んなくてもいいけど・・・・・

 

「あかりさんが天井でコケた時はバレたかと思ってヒヤヒヤしましたよ」

 

 と、黒髪ロング──佐々木志乃があかりを茶化すように意地悪そうに言った。てか私が聞こえた足音ってあかりがコケた音だったんかい!

 

「お姉さん! 今度アタシと闘ってみないか⁉︎ 」

 

「いや、あの無駄のない動きと蹴り、某と一緒に忍術はどうだろうか」

 

 金髪ポニーテールと忍者──火野ライカと風魔陽菜、お前らが脳筋だということは充分わかった。てかライカ、私の戦妹(アミカ)であるお前が脳筋って兄さん驚きだよ。ん? 今女装中だから・・・・・おにぇーちゃん? どうでもいいわ!

 

「ライカ、なんで私に闘わせようとするんだよ。あと風魔、貴女にはキンジがいるだろう」

 

 やれやれとため息をすると、4人ともなぜかキョトンとした顔で私の顔を見てきた。・・・・・なんで? 変なこと言ってないよ?

 

「どうかしましたか? 私、変なことでも? 」

 

 するとライカは首をかしげて他の3人の気持ちを代弁するように前に出た。

 

「あの、なんでアタシと陽菜のこと知ってんだ? 」

 

 なぜ知ってる? そりゃライカは私の戦妹だし陽菜だって・・・・・あ、ヤバい! 今のことを知っているのは『俺』であって『私』じゃない! こいつらからすれば見ず知らずの女が知ってたらそりゃ怪しむ!

 

「えっと・・・・・私は紅鳴館という場所でハウスキーパーをやっていまして・・・そこで新しく雇われたハウスキーパー2名から学校での話をよく聞いたんです」

 

「うん? お姉さん紅鳴館って言いました? 」

 

「ええ、言ったわよ? 」

 

 あかり・・・・・さん? なんでそんな疑いの目を・・・・・

 

「アリア先輩が先週から任務で行ってるとこだ! ・・・・・あれ? でもそこのハウスキーパーさんが全員休暇をとってるって聞いたから、今紅鳴館にいるのは京条先輩とアリア先輩、遠山キンジ・・・・・先輩だけだったはずだよ? 」

 

 マズイ! 全員何かに勘付き始めたッ! やめろ、そんな疑いの目で私を見るんじゃない! てかなぜアリアは任務内容を後輩に教えてるんだ!

 そしてあかりがその疑惑を確信に変わる魔の一言を言った。

 

「確か──女性2人に男性1人だから、遠山キンジか京条先輩のどっちかが女装するって桃まん食べながら笑ってたような・・・・・」

 

 ・・・・・あのピンクロリツインテ(アリア)! マジでぶん殴る! 何ペラペラとそんな事まで喋ってんだ! ふっざけんなよ⁉︎ 私だってこんな格好したくてしてるわけじゃないんだよ⁉︎ そもそも──

 

「では今私たちの前にいるメイドさんは・・・・・」

 

「助けてくださりありがとうございました。では、私は仕事に戻ります」

 

 もう遅い? そんなことはやってみなければ分からないだろ、と自分に言い聞かせ、4人からそそくさ逃げるように退散し・・・・・

 

「何逃げようとしてるんですか? 行かせませんよ? 」

 

 と、佐々木志乃に袖を引っ張られた。フッ、女子に袖を掴まれたくらいで私が逃げ切れないとでも思ったか?

 

「逃げようとしたらあかりさんの鷹捲(たかまくり)が先輩を襲いますよ」

 

 すみませんでした許してください! 鷹捲とはジャイロ効果によって増幅・集約した体内のパルスを利用した振動破壊の技って聞いてるが、それは問題ない。問題なのはソレを食らうと服がビリビリに破けることなんだよ! どうする? 銃で脅して逃げるか? でもグロックを見せた瞬間ライカが無力化してくるだろうし・・・・・あかりを傷つけようものなら、あかりラブな佐々木志乃がヤンデレ化して襲ってくる! 風魔だって筋弛緩剤の毒を持ってるかもしれない。おまけにこのメイド服、ものすごく動きづらい! まさに四面楚歌ッ!

 

「私は・・・・・遠山キンジです・・・・・」

 

 頼む! 嘘だとバレるな!

 

「遠山先輩だったらさっき『貴女にはキンジがいるだろ』って言いませんよ」

 

「・・・・・降参です。もう勘弁してください」

 

「そこのベッドに腰掛けてくだされば許してあげます」

 

 なぜ・・・・・鬼の2年が奴隷の1年に命令されているのだろうか。下克上なの? とりあえず私はベッドに腰掛ける。さっき拘束しておいた男達5人に聞かれると困るので全員意識を刈り取ってから、だ。あかり達は私を包囲するよう位置どり、私をジロジロと見てくる。

 

「このお姉さんが・・・・・京条先輩だと⁉︎ 」

 

「某も信じられないでござる・・・・・」

 

「でも、京条先輩ってなんで」

 

 あかりを除いた3人は息を合わせたように、

 

「「「何故女子の私たちより可愛いんですか(でござるか)⁉︎ 」」」

 

 と、盛大にツッコミをいれられた。女であれば喜んだけど俺は男だ。可愛いとか言われてもちっとも嬉しくないんだが⁉︎ ライカに関しては俺であることが信じられない様子。あかりも驚きすぎて口をポカンとあけ、どこか遠くを見つめているようだったが・・・・・元々大きい目をさらに大きく開けた。

 

「ヴェ・・・・・」

 

「ヴェ? 」

 

 

「ヴェアアアアアアアアッッ‼︎ 」

 

 後ろにバタンと倒れるとお腹の上で手を組み、この世の終わりのような顔をすると、

 

「私より胸も・・・・・顔も・・・・・」

 

 そこで力尽きたのか、気を失ったように首が横に倒れ口から何か白い球体のようなものが出て行くのが見えた──ような気がした。効果音をつけるなら、チーンというところだな。佐々木志乃は倒れたあかりを揺さぶっているがまだ魂が抜けているのか一向に動く気配がない。

 

「とにかく、先輩もここから早く立ち去ったほうがいいですよ? 依頼されてるんでしょ? 」

 

「さすが我が妹、わかってらっしゃる。今何時か分かるか? 」

 

「えっと、6時50分ですね。それにしても先輩は災難でしたね、麻薬工場の管理人達に誘拐されるなんて。でも先輩の力で簡単に捕えられたはずじゃ・・・・・」

 

「妹よ、その話はあとでしよう。それより一つ頼みがある」

 

「何ですか? 」

 

「・・・・・走って帰ると朝食に間に合わないから乗せてくれない? 」

 

 目覚めたのが大体、気絶させられた1時間後だから車で1時間以内に行ける場所だ。運悪く遠かったら、いやこの場合100%遠いところだろう。私は運が悪いからな。図々しいお願いだと思うがここは後輩を頼るしかない。

 

「まったく、世話のかかる兄ですね」

 

「面目無い」

 

 それから気を失っているあかりを担ぎ上げ、男達の1人を引きずりながら外へ出ると車輌科のナンバーのワゴン車が止めてあった。運転席に座っているのは幼顔の女子だ。おそらく武偵──それもインターンの子だろう。その子と会釈を交わしをワゴン車のトランクに詰め込む。他の男達もあかり達と協力して詰め込んだあと、私もワゴン車の後ろの一番出口から近い席に座った。行き先は紅鳴館で現在地は紅鳴館から1時間かかる廃工場、これは祈るしかないな。

 

 ワゴン車は慣性を感じさせないゆっくりとしたスタートで出発する。運転手の巧みなテクニックにより、普段は車酔いする私でも気持ち良く乗れる。その安心感と、紅鳴館と武偵校女子寮をほぼ往復した疲れが眠気となって私を襲った。私はその睡魔に抵抗せず、むしろ受け入れる形でその眠気に身を委ねた──。

 

☆☆

 

 

「──先輩・・・・・先輩・・・・・先輩起きてください! 」

 

「んあ? 」

 

 ライカの声が真上から聞こえる。妙に柔らかい枕が私の頭を支えているのが感触でわかった。この柔らかい枕から頭を外すのは少し勿体無いな・・・・・そんな浅はかな考えに従い、その状態のまま目を開ける。車の窓から太陽の光が差し込み一瞬視界がボヤけたがすぐに回復した。

 

(あかりと・・・・・佐々木? なんでこっちをニヤニヤと見てるんだ? あと運転手の幼女よ、貴様は何故私を睨んでいる)

 

 目の前の光景は起きた直後の私からすればおかしいと思う光景だ。だが第三者視点で見ればそれは当然のことだったのかもしれない。ここでようやく頭の回転が速くなってきて・・・・・私はライカに身体を預け、さらに肩枕してもらっていることに気づいた。

 

「あ・・・・・ごめん! 私重かっただろ? 」

 

「そ、そんなことはいいから早く行ってください! 遅れますよ! 」

 

「悪い! みんなも俺のおごりで今度スイーツ食べ放題に連れてってやるから、ありがとう! 」

 

 普段はクールでみんなのお姉さん的立場にいたライカが顔をりんごみたいに真っ赤に染めていた。ゴメンよ・・・・・恥ずかしい思いをさせちゃったな。

 

 心の中でライカに土下座しながら現実ではワゴン車のドアを乱暴に開け、全速力で紅鳴館に戻る。強襲科で鍛えた足腰は悲鳴をあげることなく紅鳴館の禍々しい扉まで辿り着き、バタンと館内に響き渡るほど強く開けた。鳥たちの応援する鳴き声を背に館内をバタバタと走り食堂へと駆け込み───小夜鳴先生が食事をする時の私の定位置に戻った瞬間、アリアと小夜鳴先生は一緒に食堂へと入ってきた。アリアも料理を運んできたキンジも、

 

(どこに行ってたんだよ)

 

 と言わんばかりの表情だ。まあでも、1つ言いたいことがある。小夜鳴先生に気づかれないように呼吸の乱れを戻す。よし、準備は完了だ。せーのッ、

 

(私、お疲れ様!! )

 

 食事後、アリアとキンジの働きにより無事理子のロザリオをゲット。私はその間小夜鳴先生にバレないように寝ていたからこれはキンジから聞いたことだ。午後の5時あたりにキンジの今は亡き親族であるカナさんに変装した理子が来ると、私達の仕事ぶりを小夜鳴先生は我が子のように自慢げに話し少し多めの給料をいただいてハウスキーパーという仕事はキンジ、アリアとも笑顔で終わることが出来た。

 

 

 

 理子との取引のため午後11時、紅鳴館から少し離れたビルの屋上に来ている。そのビルは日本一高いビルらしく湿った海風が俺たちを叩きつけるように強く吹いている。理子は俺が胸ポケットからロザリオを出すと目をキラキラさせて飛びついてきた。

 

「理子、これがお前の望む物だろ。渡すからアリアの母親が冤罪だって証明してくれるか? 」

 

「いいよ! 証明してあげる! 」

 

「そうか。なら良かった」

 

「ただし! ダーリンが理子の首にロザリオかけてよ! そうじゃないと、プンプンがおーだぞッ! 」

 

「・・・・・バカ丸出しなハニーよ、かけてやるから近寄れ」

 

 アホな理子のリクエストによりアリアが少し不機嫌そうな表情を浮かべたがまだ許容範囲だろう。でも理子の幼顔が妖艶なものに変わってきてるし──またろくでもないことをアリアにするんだろう。理子は俺と身体が密着するくらいまで近づき、おねだりするような上目遣いで見てくる。この顔が・・・・・とてつもなく可愛いのだ。大半の男はこれですぐ落ちるが俺は落ちない──はずだ。

 

「ほれ、かけてやる」

 

 理子の妙に色気のある首筋にスッと優しくかけてやると、

 

「くふっ! ご褒美だよダーリン」

 

 何が、俺の口からその言葉が出る前に俺の唇が理子の唇で塞がれてしまった。理子のバニラのような甘い香りが鼻の奥まで突き抜け、あまりの出来事に抵抗できなくなる。

 

 ──キスされているのか?

 そんな疑問が頭の中を駆け巡り混乱の渦に飲み込まれている俺からそっと離れ、悪戯な笑みで挑戦的な目つきをする。

 

「ハニー・・・・・これは一体どういうことだ」

 

「ダーリンに日頃の感謝、だよ! 理子の初めてだからそれ。ついでにキー君もヒスったし? 」

 

「なんだと? 」

 

 理子の初めてはちょっと意味深だが、キンジがヒスったって、ヒステリアモードになったということか? 変態だな・・・・・

 

「なぜこんなことをした? 大体、お前の母さんの形見ってのもあるがそれ以外にもこれを俺たちに盗ませた理由でもあるのか? 」

 

「・・・・・アリアは『繁殖用牝犬(ブルード・ビッチ)』って呼ばれたことある? 」

 

 俺と理子のキスで顔面真っ赤に染めているアリアに唐突に理子が質問した。アリアは、分からないとでも言いたげな表情だ。

 

「腐った肉と汚水しか与えられず狭い檻で暮らしたことある? 悪質ブリーダーが犬にやる人間版だよ」

 

 理子は狂った笑い声をあげ、その妖艶な顔から一転、悪魔にような表情となり理子の殺気がビルの屋上全体に満ち渡る。そこにいる理子は飛行機の中で戦った『武偵殺しの理子』と同じであり──

 

「私は理子だ! 数字の『4』でもない! 遺伝子でもない! 私は峰・理子リュパン4世だッ! アリア、お前を倒せば私は『理子』になれる! 自由になるために私の生贄になれッ! 」

 

 理子は感情のまま全てを晒し、アリアと同じ二つ名の『双剣双銃(カドラ)』の理子として俺たちに襲いかかり────

 

「ウグっ! 」

 

 バチッ! という放電音が小さく響いた。見れば小さな悲鳴をあげた理子の背後には本来いるはずのない人物がテーザーガンを持ち、静かに立っている。切れ長の目には異常と思えるほどの冷静さがうかがえた。

 

「遠山君、神崎さん、京条君、動かないでくださいね」

 

「なんで・・・・・ここにいるんですか⁉︎ 小夜鳴先生! 」

 

「さて皆さん、授業を・・・・・始めましょう」

 

 そう言った小夜鳴先生の口元は少しニヤけているような気がした。

 




あかりの「ヴェアアアアア」のためにこの話を書いたと言っても過言ではない。
あかり達は麻薬工場の強襲という任務で工場にやってきました。脳筋妹キャラ爆誕。

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