俺、ヤンデレ神に殺されたようです⁉︎   作:鉛筆もどき

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前回 理子を助けてブラドを倒しました。そしたらレキが来ました。



第20話 峰・理子・リュパン4世

 

 ────タァン!!

  レキのドラグノフの銃口がパッと輝く。俺は瞬時に自分を完全に覆うような氷壁を作り上げ、その弾は貫通する寸前のところまでめり込んだ。ヘリは俺たちから少し離れた上空に位置どり​──レキがドラグノフを抱え、ヘリから飛び降りた。シュタッとキレイな着地を決め、俺の方へ歩いてくる。

 

「レキ、どういうつもりだ」

 

  綺麗な翠色の髪の毛の少女​─レキは俺の問いかけを無視し、10mほど離れたところで立ち止まった。

  ・・・・・心の奥底でナニカが俺に伝えてくる。

 

『殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ! 』

 

  『殺せ』という言葉が壊れたラジオのように繰り返される。そんなことお構いなしにレキはそのショートヘアをなびかせながら再び俺にドラグノフを向けた。レキは相変わらずの無表情で​──しかし、何処となく怒りを感じる。

 

「やはりその眼・・・・・もうダメですね。ここでアナタを殺します」

 

「・・・・・なぜだ。なぜ俺を殺す? 」

 

「風は()()を殺せと言っている。私はその命令を実行するまで」

 

  風─​─その単語を聞いた瞬間、激しい怒りの感情が俺の心の底から噴火するように溢れ出てきた。そして俺の中にいるナニカの記憶が頭に次々と流れ込み​───

 

「・・・・・ぁぁぁぁあああああああああ⁉︎ この裏切り者! 俺に力を貸すと言ってきたのはこのためだったのか⁉︎ 」

 

  俺は妖しく輝いている【雪月花】 をレキに向けた。レキはお構いなしに淡々とドラグノフを構える。

 

「朝陽さん、ここでお別れです」

 

  俺はレキを殺さなければという使命感に駆られ、駆け出そうと氷壁を破壊しようとしたところで​──レキが発砲してきた。その弾丸は氷壁を易々と貫通し、俺の右肩に鈍い音をたて着弾する。防弾制服は貫通できず、ポロッとその弾丸は重力に従うように落ち​・・・・・

 

 

  直後、目を焼き尽くすような白い光と頭の中をグチャグチャにするような甲高い音がその弾丸から解き放たれた。視界は真っ白、耳は黒板を爪で引っ掻いているような音しか聞こえない。自分が今どこにいるかも分からない。その苛立ちを全てレキにぶつけた。

 

「ああぁぁぁあああ! 殺す! 絶対殺してやる! あのオンナもアイツもアイツも! 全員殺してやる! 」

 

  熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い。

  痛みと憎しみに心を狂わせながらレキを殺すために必死に雪月花を振り回す。切先は虚しく空を切るだけと知っていても、レキを殺すために振り回し続けた。だが、その行動に終止符を打つようにレキの声がやけにハッキリと聞こえてきた。

 

「私は一発の銃弾。銃弾は人の心を持たない。故に、何も考えない。ただ目的に向かって飛ぶだけ」

 

  レキはそれに付け足すように新たに言葉を紡いだ。

 

「神弾、私に神を屠る力を・・・・・与えたまえ」

 

  俺は咄嗟に雪月花を身体の前まで持っていき​──

 

 

 

 金属を斬った甲高い音と 何かを斬った感触、それに防弾制服を貫通し俺の心臓部へと侵入していく感覚が同時に沸き起こり、意識はそこでプツンときれた・・・・・

 

 

 

 

 

 

  規則正しい電子音のようなものが聞こえてくる。全身に気だるさを感じ、何事かと目を開けたが・・・・・何も見えない。というのも、何かが視界を遮っているのだ。これじゃ見えるはずない。俺は視界を遮っている何かを外し、再び目を開けた。

 

(・・・・・何も見えない? )

 

  目を開けても、何も見えない。ただ目を閉じている時の光景のままだ。昨日は確かレキが来て、ブラドを殺し損ねて──何だっけ? 重要な何かが思い出せない。思い出そうとすると頭痛がする。

 

  その時、ゴソゴソッ​─​──と俺の横で何かが動く音がした。手探りで音のした方向に手を伸ばすと、指先が毛のようなものに触れる。

 

(何か・・・・・いる? )

 

  さらに手を伸ばし手のひら全体でそれを触ってみて​──それが人の頭だと分かるのにそれほど時間はかからなかった。

 

(とりあえずこの人の頭でもナデナデしてるか・・・・・)

 

  不安になりつつも、そのやわらかい髪の毛を指先でクルクルと絡ませたりと色々撫で方をしていると、その頭が少しだけ動いた。

 

「んむにゃ? 」

 

 可愛らしい声をだし、その頭の主は気持ち良さそうな声で俺に撫でられ続けている。

 だが、少し経つと気持ち良さそうな声を出していた頭の主は突然、ガバッ! と起き上がり、俺の手は届かなくなってしまった。残念な気持ちを抑えその手を引っ込めると、その頭の主は俺から逃げるのではなく、逆に俺を絞め殺すかの勢いで抱きついてきた。

 

「い、痛いよ! 誰かわかんないけど! 」

 

「ホントにきょーじょー君おきてるのだ⁉︎ 夢じゃ・・・・・ないのだ? 」

 

「夢だったらと願いたいのは俺の方なんだが」

 

 そう言うと、その頭の主は絞り出すように声をだした。

 

「よかったのだ! ホントに・・・・・意識戻って、よかったのだ・・・・・」

 

  ああ、この声は​──平賀さんの声だ。顔らしきものが俺の顔に押しつけられ、生暖かい液体が俺の頰にポタポタと落ちてくる。俺を掴んでいる小さな手も小刻みに震えていて、それでも力強く俺を離すまいとしている。

 

「えっと、平賀(あや)さん? もしかして​──」

 

「泣いて、ひっく・・・・・なんか。えぐっ・・・・・いないのだ・・・・・うぅ・・・・・」

 

  必死に泣くのをこらえ、それでもポロポロと(あや)の涙は俺の頬を伝い続ける。こんな時、俺はラノベの主人公なんかじゃないからここで暖かい言葉なんて思いつかない。だけど、

 

(あや)、心配かけてゴメンな。もう大丈夫だから」

 

  俺のせいで泣かせてしまった女の子に謝罪の言葉くらいはかけられる。俺は片手でそっと文の頭を包み込むようにして、そっと抱き寄せた。すると、文はより一層俺を抱きしめる力を強くし​──決壊したダムのようにボロボロと涙を流し始めた。部屋中に響き渡る悲痛な泣き声を聞きながら、俺みたいな人間でも心配してくれる人がいるんだなって痛感させられた。

 

  それから文が泣き止むまでずっと文の頭を撫で続けていた。小さい身体全体で俺を押し退けてベッドに入り込んできた時はビックリしたね。今は泣き疲れたのか赤子のように身を縮こめ、俺の首に手をまわして寝てしまった。お前はコアラか、と心の中でツッコミをいれながら文を俺の腕から引き離そうとすると、

 

「きょーじょー君・・・・・」

 

 と言って余計に俺を抱きしめる力が強くなった。寝言で俺の名前を呼ぶのはドキッとするからやめてもらいたい。

  ベッドと文の右腕に首を挟まれ、俺の腕は文の左腕と両足​──太ももの付け根あたりでしっかりホールドされている。おまけに文の可愛い寝息がすぐ横で聞こえるんだ。文だって女の子、腕に当たるものは当たってるし、手の位置だって見られたらまずい。見られたら最後、社会的な死が俺を迎えに来る。さて、そろそろ俺の中の悪魔を退治しなくては。

 

  俺が素数による煩悩退治を開始しようとしたその時、文は不意に顔を俺の耳に近づけてきた。文からシャンプーの香りがフワッと鼻孔をくすぐってきている。

  そして​─​─俺の中の悪魔を助長させるような寝言を言い放った。

 

「きょーじょー君・・・・・好きなのだ・・・・・」

 

「​──ッ⁉︎ 」

 

  好き、その言葉で自分でもビックリするくらい心臓が跳ねた。

  好き・・・・・いやいや、それは like の好きであって love の好きではないだろう。ほら、ラノベでよくあるじゃないか。幼馴染と一緒に寝てたら寝言で好きって言われるやつ。ああいう展開だよ。

  あれ? でもそのあとの展開って大体は幼馴染に告白されるパターンで・・・・・まあ確かに文は可愛いし? 守ってあげたくなるし? ってそういうこと考えるな! 絶対 like の方だから、落ち着け童貞17歳。こんなに動揺してたら童貞乙って理子にバカにされるに決まってる。とりあえず深呼吸して、寝よう。

 

「キンジ! アンタ私の荷物くらい持ちなさいよ! 」

 

「キー君は乙女心分かってないね」

 

「そうだぞ遠山、将来良いお嫁さんもらえないぞ〜」

 

「俺の両手塞がってんのにどう持てと⁉︎ あと綴先生は病院内で葉巻吸わないでください! レキもカロリーメイト食うならアイツの病室の中で食えよ! 」

 

  外からピンクツインテと金髪ロリと狂人とネクラの声が聞こえるがきっと気のせいだろう。うん、絶対気のせいだ。声が似てるだけだ。遠山と綴って人も世の中にたくさんいる。世の中狭いなあ。

  ガラガラガラ、と扉の開く音と近づいてくる足音がする。この部屋俺一人じゃなかったんだな。他の患者さんに迷惑かけて申し訳ないな・・・・・あはは・・・・・やばい!

 

「デデドン! 」

 

(くっ! 理子てめえ! 部屋に入る時にその効果音で笑わせるんじゃねえ! )

 

「まだ朝陽寝てるわね。いつまで寝てるつもりかしら」

 

「まあ事あるごとに入院してるキョー君にとって安らぎの場所なんじゃない? 実家のような安心感、ていうの? 」

 

「コイツは放っておいても大丈夫だろう。今日は起きそうにないな」

 

  よし、諦めて早く帰ってくれ。この()()()()を見られたら綴先生に何されるかわからん。

 

「・・・・・いえ、今のキンジさんの言葉で朝陽さんの眉頭同士が僅かに離れました。口元も私たちが入室した時から僅かにですが緩んでいます。これは嬉しい時の反応です。つまり、朝陽さんは起きています。さらに言うと、朝陽さんの掛け布団の凹みに違和感を感じます。おそらく・・・・・誰か朝陽さんと添い寝してます」

 

  レキィィィィィ‼︎ 余計なことを言うんじゃねえよ! 末代先まで呪ってやるぞ⁉︎ その鋭い観察眼は俺じゃなくて探偵科で披露してくれよ! 狙撃科から転科しろよ!

 

「ほほぅ・・・・・いい度胸してんなぁ、こいつは! 」

 

  綴先生は少し怒気を帯びた声を発すると、俺の上にある掛け布団を剥ぎ取るように一気に捲った。

 

「なっ⁉︎ 」

 

「平賀さん⁉︎ 」

 

「まさかのあやや⁉︎ 」

 

  アリアとキンジ、理子の驚いた声が同時に響き渡り、綴先生の舌打ちが心を抉るようにして聞こえてきた。ここから先は一つでも回答を間違えたら地獄への片道切符を渡されるッ!

 

「よぉ京条。平賀と仲良く何してんだぁ? 」

 

  グロックのスライドを引く音、そしてカラーンと薬莢が床に落ちる音がさらに俺にプレッシャーを与えてくる。既に起きていることはバレているので素直に質問に答える。

 

「な、何にもしてないですッ! 」

 

「だったらなんで平賀がお前のベッドにいるんだぁ? 」

 

  どうする? 文が勝手に入り込んできたと言ったら罰を受けるのは文だ。女子を裏切るなんてこれから先の高校生活では死を意味する! だがどうする? 俺が無理やりといったら地獄行きだ。事故ってことにするか?

 

「おいどうした。早く答えろ」

 

  コツコツとグロックで俺の頭を叩き、身の毛もよだつような殺気を出し始めた。ヤバい、早く答えなければッ!

 

「えっと! これはその、じ、()()です! 」

 

「あぁん? 」

 

  噛みました! ()()です! と言おうとしたが綴先生に手で口をおさえられてしまった。その手が俺の口を圧迫する力はどんどん強くなり、今は口で息を吸うことが出来ないほどになっている。

 

「心配して来てみれば、事後だってぇ? 」

 

ひはふんへふ(違うんです)! ひひあひはひへふ(言い間違いです)! 」

 

「問答無用! 」

 

  綴先生の怒りがこもった腹パンを食らい、俺は堪らず唸り声をあげながら身体をくの字に曲げた。胃液が食道から上がり吐き出しそうになるが、寝てる状態で吐いたら片付けが大変になるので懸命に我慢する。あまりの打撃の強さに腹の皮膚と背中の皮膚がくっついているような錯覚を覚え、左手でお腹辺りを触ると・・・・・これまでの人生で上位に食い込むほどの痛みが走った。 俺は痛みに顔を歪ませながらも、

 

「事故で・・・・・言い間違い・・・・・」

 

 と綴先生に文字通り死ぬ気で伝える。すると、綴先生は俺の首と腕にまだ抱きついている文を引き離し、

 

「本当かどうか確かめてくる」

 

 と言い残し、個室から出て行ってしまった。ゴメンよ文。

 

「死ねロリコン」

 

「アンタがそういう人だとは知ってたけどそこまでするとは思わなかったわ」

 

「俺はロリコンじゃない! 本当に事故なんだ! 」

 

 声からドン引きされている事が分かり、腹の痛みに耐えながら必死に弁解する。どうせ信じてもらえないだろうがな!

 

「アンタのそういう事は()()()()治らないのね」

 

「キョー君は知らないと思うけど、手術中に心臓何回か止まったらしいよ? それでも治らないって相当末期だと思う。変態終末期? 」

 

「変態終末期とかふざけたことはどうでもいい。心臓止まったって・・・・・なんだ」

 

 確かに、レキが来てブラドを殺し損ねたことまでは覚えているのだが・・・・・そこから先で俺の心臓が止まることなんてあったのか? すると、俺の心の中での問いに答えるようにレキが話し始めた。

 

「私が貴方を撃ちました。殺す気だったので心臓を狙いましたが​───」

 

「ちょっと待て。なぜ俺を殺そうとした? 」

 

「それは貴方が瑠瑠神に乗っ取られていたから。だから私は風の命令により撃ちました」

 

「俺が・・・・・瑠瑠神に? 」

 

 冷や汗がタラリと顔を流れる。正直、琉瑠神という言葉を聞いただけで吐きそうだ。だけどアイツは俺と約束したはずだ。『1年間俺に近づくな』って。そんな約束、守るわけないってか?

 レキは少し間を置いてからゆっくりと話し始めた。

 

「貴方は私と会ってから完全に乗っ取られました。ブラドと戦っている時は感情だけに干渉する形でしたので、言動と瑠瑠神の象徴である蒼の瞳だけ朝陽さんに投影されたようですね」

 

 自然と手足が震えてくる。この先は聞いちゃいけないような気がする。だが聞かなければならない。瑠瑠神の全てを知っていないとアイツは倒せないから。

 

「だったらあの場で朝陽が理子を守るような行動をしたのはどう説明するんだ? 瑠瑠神なら朝陽に近づいた異性を容赦なく殺そうとするはずだが」

 

「これは推測ですが・・・・・私たち全員を()()殺したいからでしょう。朝陽さんに憑依してではなく、瑠瑠神自身の手で殺すために」

 

「それって・・・・・つまり​──」

 

「そうです。瑠瑠神は、私を含めた貴女達を直接殺したいから朝陽さんの感情に干渉し全力で守った。あの場で一番殺されそうになっていたのは理子さんです。だから瑠瑠神は理子さんに対する感情だけを歪めて、理子さんを守るように仕向けた。こう考えればあの場での朝陽さんの豹変ぶりも納得がいきます」

 

  さっきまで不思議に思っていたこと。それはあの場での理子への言動だった。なぜ理子にその気がないのに愛してるって言ったのか、なぜあそこまでの嫉妬心が溢れ出てきたのか。それが・・・・・やっと理解できた。レキがあの場に来たのは何らかの方法で俺が瑠瑠神と接触してることを知ったからか。

  それにしても、感情に干渉するだけだった瑠瑠神がレキが来た途端に俺を乗っ取ったのは疑問に思う。​レキが来たらマズいことでもあるのか?

 

「私は神弾​───風から授かった瑠瑠神の力を一時的に弱める弾丸で貴方を撃ちました。ですが、着弾寸前に貴方の刀で半分に斬られてしまい、片方は心臓近くに埋まりましたがもう片方は外れました。朝陽さんの心臓の近くにまだ神弾が残っているはずです」

 

「・・・・・瑠瑠神を仕留めることが出来るなら俺を殺して、武偵三倍刑で自分も死刑になっても良いって考えか? 」

 

「はい。風の命令ならば」

 

「俺の目が見えなくなってるのは」

 

「貴方を殺す過程で武偵弾​──閃光弾を至近距離で浴びました。それによる一時的な失明とのことです」

 

 武偵弾って・・・・・確か一発でも数百万はくだらないとされる超特殊弾だ。そんな弾丸まで使うほど俺を殺しにかからないといけなかったってことか。

 

「割れた神弾がまだ俺の心臓近くにあるってことは瑠瑠神が俺に干渉してくることはもうないのか? 」

 

「いえ、割れたことによりその効力はだいぶ失われてしまいました。朝陽さんに再び憑依することができる力まで回復するには・・・・・多く見積もってあと1年です。感情に干渉することが出来るようになるのはもっと早い時期になると思います」

 

  つまり・・・・・1年以内に瑠瑠神をあのロリ神(ゼウス)が消滅させることができるくらいに弱らせろってことか。無理に決まってんだろ! 瑠瑠色金が近くに無い状態で乗っ取られたのに敵うわけない。どうすりゃアイツを倒せる? そもそも瑠瑠神を倒すことなんて出来るのか? 相手は神だぞ? 物理攻撃すら当たらないかもしれない・・・・・無理ゲーじゃねえか。

 

「とりあえず、来てくれて悪いんだが今は1人にしてくれないか? 」

 

「え、ええ。わかったわ」

 

「朝陽、何かあったらすぐ言えよ」

 

  俺の今の気持ちを悟ってくれたのか、すぐに部屋から立ち去る足音がした。​───たった1人を除いて。

 

「理子、なんでまだここにいる? 」

 

「いや・・・・・今の話がちょっと意味わからないすぎて足が動かないだけ」

 

  そういえば理子は俺が転生者ってこと知らなかったな。信じなさそうだけど・・・・・理子も俺のせいで巻き込まれた、言わば被害者だ。

 

「これから俺が言うこと、信じてくれるか? 」

 

「・・・・・うん」

 

「じゃ、話すぞ」

 

  理子は俺のベッドに腰かけてきた。手を伸ばせば届く距離だ。それから、自分も何か打開策はないかと考えながら、俺が転生者だということ、瑠瑠神の存在、全てを話した。いつものおちゃらけた理子ではなく、自分のことのように真剣に聞いてくれた。俺が話し終えると理子も、過去にブラドに監禁されていたことを詳しく話してくれた。その話も終わり、理子がポツリと妙に暗い雰囲気で呟いた。

 

「キョー君も・・・・・色々あったんだね」

 

「お前こそ辛く苦しい生活によく耐えてきたな」

 

 理子は俺の言葉を聞くと、急に黙りこんでしまった。それが何分、何十分も続き、もうこの部屋にいないのかと思ってしまうほど沈黙が続いた。どうせ理子のことだから秋葉とかに買い物でも行ってるのだろう​──そんな考えが頭に浮かび、掛け布団を手探りで見つけ出したところで・・・・・理子が消え入りそうな声で俺に質問してきた。

 

「・・・・・理子はキョー君の視界から消えてなくなった方がいいのかな? 」

 

 ​──それは自分の耳もおかしくなったと惑乱するほどおかしな質問だった。

 

「は? ・・・・・それは俺が嫌いになったからか? それとも瑠瑠神に殺されるのが怖いからか? 」

 

「どっちも違う。理子はキョー君に迷惑をかけすぎてるから居なくなった方が良いかなって。ハイジャックの時も、今回の件のことも。それに​───男達に誘拐されたのだって知ってる」

 

  理子は苦しそうに声を絞り出した。今俺の目が見えるのであれば​──きっと俯いたまま暗い表情をしている。

 

「いつもいつも理子の自分勝手。その度にキョー君は命を危険に晒してる。今回の件だって理子の復讐のためにキョー君は闘ってくれた。あの時アンテナの裏で怖くて動けなかった理子に手を差し伸べてくれた。そのおかげでブラドを倒すことが出来た」

 

  理子は俺の手に自分の小さな手を重ねてきた。小刻みに震えているその手は・・・・・恐怖に支配されていたあの時と同じだった。

 

「でもそれはキョー君とキー君、アリアがいたから。

 理子はアイツの言ってた通り、リュパン家の優秀な遺伝子を全く引き継いでいない。曽祖父のように一人で盗むことは出来ず、お父様のように優秀な仲間を引き連れても計画は失敗した。どう足掻いても理子は『落ちこぼれの4世』。どれだけ努力しても報われない」

 

  自分の無力さに悔しそうに俺の手を握る力が強くなっていく。理子の言葉はまるで自分を言い聞かせているように思える。

 

「理子がブラドに勝てる実力があればキョー君が瑠瑠神に乗っ取られることもなかった。生死の境を彷徨って、起きても一時的に失明してるし心臓の近くに弾丸が埋まってる。それも理子がいなければこんなことにならなかった。理子と一緒にいるだけでキョー君は不幸になる。だから・・・・・もうキョー君の視界に映らないとこに行くよ。もちろん、キー君とアリアでも見つからない場所に」

 

  涙を必死に堪えるような声で絶交を持ち出してくる。俺に迷惑をかけないために。

 

「さよなら()()。今まで・・・・・こんな理子に楽しい思い出を作ってくれてありがと」

 

  今まで俺の手をギュッと握りしめていた理子は、切なげな声で別れを告げると諦めるようにしてその手を離した。

 

 ​ ・・・・・迷惑をかけたから、自分が『無能』だから俺から離れていく。自分が無能だから俺やキンジ、アリアにも迷惑をかける。友達を不幸にするくらいだったら絶交した方がマシだ。​​─​​─そんな身勝手なこと、認めるわけにはいかない。

  俺はこの部屋からでようと立った理子の手首を強く掴んだ。

 

「・・・・・キョー君離して」

 

「理子、話を聞け」

 

「離してよ! もうキョー君に迷惑かけたくない! 」

 

「理子!! 」

 

  俺の怒鳴り声に理子がビクッと肩を震わせたのが掴んでいる手首から伝わってきた。俺はそのまま理子に逃げられないように強く手首を掴みながら話す。

 

「はぁ・・・・・確かにお前はいつも面倒ごとを持ってきて、バカだしうるさいし行動があざとい。何がぷんぷんがおーだよ、顔面パンチするぞ。俺に女装を強制させるわ平気で遅刻するわ、挙句の果てに敵対したと思ったらブラドにボコされて助けを求めてくるわで悪いことだらけだ」

 

「だったら! なおさら理子がいない方が​───」

 

  全部言い終わる前に俺は言葉をかぶせる。言い終わってしまったら俺の手を斬り落としてでも部屋からでようとするだろうから。

 

「それでも、お前は良いところを持ってる。表で完璧を装って裏では俺でも弱音を吐くほどの努力をしてる。作戦立案をするのが異常なほど早いし、頭の回転も早い。おちゃらけた雰囲気で場を和ませるのはお前にしかできない。ご先祖様に持っていないものをお前は持ってるんだ」

 

「・・・・・そんなこと、誰だってできる​」

 

「いいや、無理だ。それに、お前がいなかったら今頃俺はブラドに殺されて天国で一人寂しく泣いてるよ。お前がいたから・・・・・不本意だけど瑠瑠神に干渉されてブラドを倒すことができた。全部お前のおかげだ」

 

  俺は理子が立っているであろう場所を向く。目が見えなくても、しっかり理子に伝えられるようにしっかり目を開けて伝わるように。理子は俺にとって必要不可欠だって、そう言い聞かせるように。

 

「でも・・・・・理子は落ちこぼれの4世。だから曽祖父やお父様みたいな優秀な遺伝子なんて持ってない」

 

「自分が生まれ持った遺伝子は絶対に変えられない。でも遺伝子がすべてじゃないだろ。ご先祖様は理子とは違う。だからこそご先祖様に出来ないことが理子には出来るだろ? 例えばお前が得意のハニートラップとか」

 

  その言葉を聞くと、理子の俺の手から逃げようとする力が徐々に弱くなっていくのが分かった。もう理子のあんな姿を見たくない​──その一心で言葉を紡ぐ。

 

「お前は自分の持ってる才能の使う所が間違ってる。だけどそれを無理に使おうとするから落ちこぼれの4世って言われるんだよ。魔法職が剣術で戦士職に勝てるわけないだろ? それと同じだ。ちゃんと魔法で勝負すればお前は落ちこぼれから天才にだってなれるさ」

 

「でも・・・・・理子弱いんだよ? キョー君に助けてもらえなかったら今頃また檻にいれられてた。今だってすごく迷惑させてるし・・・・・」

 

「俺だって弱いよ。1年に弱み握られるわアリアの尻に敷かれるわで本当に自分がSランクでいいのかって思う時もある。人に迷惑をかけた回数も数えるのが面倒になるほどだ。俺もお前に迷惑かけてるだろ? 」

 

  そう言うと理子は何も言わず、黙り込んでしまった。俺は理子を優しく引き寄せ、もう抵抗しなくなった理子の頭を手探りで探し​──柔らかい髪にポンと手を置く。

 

「俺たちは偽物とは言え恋人同士だ。だったらお互いに迷惑をかけてでも一緒に楽しく過ごしたいだろ。明日のことは神様にだって何があるか分からない。だから今だけでも笑ってくれよな」

 

  言いたい事を言ってスッキリしたけど・・・・・なかなかクサいこと言ったな。目が見えねえからどんな反応されてるか分からんけど・・・・・ドン引きとかされてないよな?

 

「キョー君・・・・・」

 

「なんだ? 」

 

「理子はこれからすごい迷惑をかけるかもしれない。それでもキョー君は理子を助けてくれる? 」

 

「言っただろ? 互いに迷惑をかけてこそ恋人同士だ。視界から消えるとかそんなこと言わずにさ、楽しくやっていこうぜ。ハニー」

 

「ありがと​──ダーリン」

 

 目はまだ見えないけど​───理子が眩しいほどの笑顔を浮かべたような気がした。

 

 

 

 




次回かその次あたりになぜ瑠瑠神が朝陽を乗っ取ることが出来たのか、約束を破ったのか書きます。まだまだ未熟者ですが、鉛筆もどきをよろしくお願いします。

活動報告更新しました。

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