『
だが俺が視力を取り戻す一週間の間──またキンジとアリアが喧嘩した。大喧嘩だ。それはもう収まったが、とにかくキッカケとなった日が本当に修羅場だった。喧嘩の理由は・・・・・死んだと思っていたキンジの肉親である『カナ』さんがキンジの部屋に来ていたからだ。アリアが、カナさんとキンジは元恋人同士であったと勘違いし、そこから色々とあって・・・・・これまでに無いほどキレたということだ。
そして今はキンジと俺、寝室でアリアがカジノ警備をする時の服を試着している所。これもキンジが、
『頼む朝陽! この任務一緒にやってくれ! 』
としがみついて頼んできたからだ。どうやら進級するための単位が1.9単位ほど足りないらしく、俺が頼み込まれた任務──カジノ「ピラミディオン台場」の私服警備でちょうど1.9単位貰えるらしい。必要生徒数5名とあり、女子推奨とのことで諦めろと言いたかったが・・・・・教務科からなんとオーケーが出た。ホントすみませんね、カジノの従業員さん。女子が欲しかっただろうに。
「おーキンジは中々似合ってるじゃないか」
「俺には自分がやる気のない社長のように見えるのだが」
「大体合ってると思うぞ」
カジノを警備するにあたって、他の客が不快にならないように俺たちも客として潜り込むのだ。
キンジの役は『青年IT社長』で俺はキンジのボディーガードとなっている。それぞれの服は武偵校の防弾制服と同じ防弾繊維で作られているから万が一の時は安心してこの服に命を預けられる。
「な、何なのよこれ! 」
というアリアの深刻そうな呻き声が隣の寝室から聞こえてきた。俺とキンジは互いに顔を見合わせ・・・・・
「どうした? 荷物にゴキブリでも混ざってたか? 」
キンジがそう言いながら寝室の扉をガチャりと、ノックも無しに開けてしまった。中にいたアリアはビックリしたのか、頭についているウサギの耳を立て大きく肩を震わせた。
「エ、エロキンジ! 紅鳴館でノックしろって言ったの忘れたの!? 見るなぁ! 」
見るなと言われたら見たくなる。そんな人間の心理に素直に従い、キンジの肩から覗き込むようにして見てみると、そこにいたのは普段のクールなアリアではなく──真っ赤な顔で恥ずかしがっているバニーガール姿のアリアだった。そういえば忘れてた、カジノには必ずバニーガールがいるってことを! でもなんだろ・・・・・
「ちっとも魅力を感じられない」
「黙れ変態! 」
そうだ。こういう服装はスタイルの良い大人な女性が着るものであって、アリアのようなお子様が着てもただの仮装としか見えないからか。すると、キンジがため息をつきながら、やれやれという仕草を見せた。
「ア──」
その一言で何かを察したらしく、アリアはキンジの頭をに飛びつき太ももで挟み込むようにロックした。
「パッドは正義! パッドはおしゃれ! パッドは悪くない! 」
アリアは犬歯をむき出しにしながらそう言うと、上体を思い切り反らした。キンジは為す術もなく床に脳天を打ち付け・・・・・完全に意識を手放してしまっている。
アリアはギロっと俺を睨むとズンズンと迫り来る。バニーガール姿だから可愛いけど怖い。
「朝陽ぃ? アタシに何か言いたいことある? 」
「いや・・・・・一つだけあるが」
「言ってみなさい」
「パッド詐欺罪で訴えてやる」
アリアの額にビキビキと怒りマークが浮かび上がり始めた。フッ、俺はこの1週間、自分の超能力の質を高めてきたのだ。アリアのパンチくらいなら防げるはず。
「自分の言ったことを後悔しなさい! 」
「望むところだ! 」
アリアがホルスターのガバメントを抜き、俺が超能力を発動しようと手をかざした瞬間───
玄関の扉がギィィンと甲高い音をたて真っ二つに斬り裂かれる音が響いた。それと同時に氷のように冷たく、俺たちがよく知っている部類の殺気が寝室に向かってくる。俺はその凄まじい殺気に身に覚えがあり──逃げようとベランダに走り出そうとしたが、アリアに防弾制服の袖を握られ、さらに頭にガバメントの銃口を突きつけられて不可能になった。アタシを置いていくな、ってことか。お前がバニーガール姿でなければ今すぐ逃げられたのに!
「隠れるぞアリア」
「ど、どこに!? 」
その侵入者の足音はどんどん近づいてくる。
「と、とりあえずベッドの下だッ! 」
「分かったわ! 」
アリアから先に行かせたあと俺は寝室の窓をわざと開けた。既にそこから逃げたと惑わせることが出来ればこの場は逃げられる!
俺たちが隠れ終えた瞬間──いつもは何の音もたてない寝室の扉がその時だけは何故か不気味な音をたてゆっくりと開いた。ベッドの配置上、扉付近は見えず足音だけが部屋に響くことがさらに恐怖を倍増させる。
「キンちゃん!? 大丈夫!? 」
ちょうど俺たちから見える位置に気絶しているキンジに侵入者は駆け寄る。侵入者はその柔らかそうな太ももにキンジの頭をのせると、よしよしとするようになで始めた。なんてうらやまけしからんことだッ!
「今すぐあの泥棒猫を殺しに・・・・・八つ裂きにするから。ああ憎い。憎い憎い憎い憎い憎い! 」
そう言うとキンジの頭を床に優しく置き、音もなくスッと立ち上がった。俺の後ろに隠れてる泥棒猫がガタガタと震えているのが掴まれている手からよく分かる。
アリアよ。そんなに震えていたら床に震えが伝わって侵入者にバレるだろうが。
──いや普通だったら感じ取ることなんて不可能だろうけど、アイツだったら愛の力とか言って感じ取りそうで怖いんだよ。
「ふーん・・・・・ベランダから逃げたんだ」
侵入者はモーニングスターと深紅に染まっているバトルアックスを床に叩きつけ、床材は嫌な音をたて砕け散った。アリアはその音に大きく肩を震わせ、悲鳴をあげそうになるのを自らの手で口を塞ぐことによって堪えている。
「絶対に・・・・・殺す」
侵入者はこの部屋にはいないと思ったのか、その凶悪な武器達を引きずりながら寝室の扉に戻っていく。再び不気味な音をたて寝室の扉が開き───パタンと扉が閉まった。それから再び戻ってくる事を警戒しそのままの体勢で待つ。アリアに関しては蛇に睨まれた蛙のように身動きひとつしない。それから数分後、俺たちはベッドの下から恐る恐る這い出ると、気絶しているキンジ以外誰もいなかった。つまり、先ほどの侵入者はいなくなったわけだ。
「ふぅ。よかったなアリア」
「ええ。危うく殺されるとこだったわ」
「一応リビングも見とくか」
ホルスターからそれぞれ銃を抜き、俺たちが寝室の扉に視線を向けた瞬間───
「ネェ、ドコイクノ? 」
突如、上から侵入者が俺たちの目の前に現れた。上に鉄棒のようなものにでも足を引っ掛けて固定しているのか、俺の口と相手の目が同じ高さになっている。真っ黒の長い髪の毛は床に付き、目はどこまでも深い黒になっていて、口元は笑っているのか大きく歪んでいる。
そんなホラゲーのような現れ方にホラー耐性のないことで有名なアリアを横目で確認すると───恐怖のあまり立ったまま失神していた。
「フフフ。ヤットデテキタネ」
「な!? 何で分かった!? 」
「そこの泥棒猫が震えてたから・・・・・スグワカッタヨ」
それからというもの、侵入者──白雪は本気でアリアを殺しにかかり、俺はキンジが起きるまで全力でアリアを守り続けた。ちなみに、白雪が襲ってきた理由はアリアがキンジを太ももで挟んでいる所だけを目撃したから、と聞いた。確かにバニーガール姿で、キンジの頭を太ももで挟んでいるシーンだけ見ればそういう事をしていると勘違いされてもおかしくない。というか、白雪さんどこからキンジを監視してたんだよ・・・・・
カジノの私服警備当日、俺とキンジは制服の乱れを直しつつ、都営カジノ『ピラミディオン台場』へと入っていく。日本でカジノが合法化されてから第一号として作られたらしい。ピラミディオンとの名前通り、ピラミッド型の形をしており、数年前に何処かの国から日本に漂着したと大ニュースになった。それを改造して・・・・・今のカジノになったそうだ。
「さて、行きますか」
「やりたくない・・・・・」
キンジの愚痴をスルーし、自動ドアを抜ける。最初に見えてきたのはレーザー光線で彩られた噴水がある派手なエントランス・ホール。そこを抜けるとカジノ・ホールだ。キンジがカウンターで合言葉を言い、一千万円ほどの色とりどりのチップを貰っていた。ここは安価で楽しめる場所と、一般人が見たら目がくらむほどの大金を賭ける場所まである。今回行く場所は後者の方だ。
「ご注文はウサ耳ですか? 」
「ドリンクいかがですかー? 」
透き通った女性の声がした方を見ると──海に繋がるプールの上を水上バイクで素早く注文を聞くため、あちらこちらに走っていた。それも、スタイル抜群のお姉さん達がバニーガール姿でだ。
「俺、心の底から来てよかったって思うよ」
「運転上手いもんなー」
「そっちかよ! 」
しばらくそのお姉さん達を見ていると、キンジが急に中腰になり、引きつった顔になった。これでも一応ボディーガードだ。何者かに攻撃されたのかと肝を冷やしたが・・・・・ピンクツインテとキンジを罵っているアニメ声を聞いてホッと胸をなで下ろした。
「どうしたアリア? 本体のパッドさんでも落としたか? 」
俺がニヤニヤしながらアリアに言うと、ビキッ! とアリアの額に『D』の文字に血管が浮かび上がった。
DieのDかな?
「アンタ・・・・・覚えておきなさいよ」
「はいはい。それより、ちゃんとウェイトレスやれてんのか? 」
「あたしはちゃんとやってる。何故か私に注文してくる人はいないけど」
アリアの言葉にキンジは苦笑いをした。そりゃそうだろう。バニーガールというものは大人の女性がする格好であって、見た目がロリロリしているアリアが着るものではない。でもそんなことを言ったらこの場で風穴開けられるからやめておこう。
「じゃあな。うまくやれよ」
「ええ。そっちも頼むわ」
アリアと別れ、俺たちはカジノの奥へと位置を移した。ここは映画で見るようなドレス姿の美女やイケメンスーツ男など、明らかに金持ちと分かる場所だ。
本物のギャンブラーが集まる場所にとうとう来たらしい。キンジの目も鋭いものに変わり、俺もより一層警戒する。それからキンジの後に続き歩き回っていると、
ホールの一角にやたらと人が集まっている場所を発見した。
(有名人でも来てるのか? )
キンジも気になるようで、近づいてみると───
「ああ・・・・・養ってもらいたい・・・・・」
「なんて恥ずかしがり屋さんなんだッ! 可愛い! 」
「胸元がすっげえな・・・・・」
などと、スーツ姿のイケメンや男の従業員までもが携帯で写真を撮っている。そんなに可愛いのなら俺も見てみたいものだが。
「撮影はご遠慮下さい! 」
「入口の注意事項として書いております! 」
撮られていた人物はどうやら従業員さんらしいな。
・・・・・って白雪さんじゃないですか。
白雪は男達から逃げるようにしてスタッフルームへ引っ込んでしまい、男達は大金をスった時よりも深いため息と悔しそうな顔を浮かばせ撮影会は解散となった。
「朝陽、ちょっと白雪の様子を見てくるから。待っててくれ」
「ん。変なことすんなよ? 」
「しねえよ! 」
キンジは周りの客に気づかれないようにスタッフルームへと忍び込んでいってしまった。今この瞬間から一人ぼっち。護衛対象も当分は出てこないだろうし、トイレにでも行こう。
ちょうど通りかかった可愛いバニーガールのお姉さんにトイレの場所を聞き、ホールを抜ける。どこに行っても豪華で派手な装飾が煌びやかで目がおかしくなりそうになりながらも、何とかトイレまで着いた。
(何でトイレまでこんなにキラキラしてるの? )
そう思ってしまうほどトイレも壁面も、床すらも輝いていた。これじゃ出るものも出ないだろう。俺がトイレに来たのは単なる暇つぶしではない。ロリ神に聞きたいことがあるからだ。
「クソッ! こんな・・・・・こんなはずじゃ・・・・・」
嗚咽交じりの声が個室から聞こえてくる。少し気まずいが、その隣しか個室が空いていなかったのでそこに入る。綺麗な便器の蓋に腰掛け、
(おーい。ちょっと話いいか? )
『お、いいよ! でもトイレの中じゃ窮屈そうだし、こっちに来なよ! 』
(は? どうやって)
「おいロリ。何で俺を殺した? 」
「勘違いしては困るよ。今君は生と死の狭間をさまよってる状態なんだ。死んではいないさ」
「だからって電気流すことはねえだろ!? 」
「電気ではないんだけどね。魔力的なやつだよ」
目を開けたら転生の間にいました。目の前で
「それで、君は私に何の用で? 」
「俺が瑠瑠神に乗っ取られたってことは知ってるか? 」
「もちろん! 」
「・・・・・何で瑠瑠神が一年も待たずに来た理由も知ってるか? 」
「もちろん! 」
もちろんしか言わんのかこいつは。
「・・・・・そのことを俺に伝えようとはしなかったのか? 」
「もち・・・・・ろん? 」
こいつ! 人が不幸になるってわかっていて何も言わなかったのか!? 信じられん! このダメロリに制裁を与えねばならないな。
俺は静かにロリ神に近づく。俺の考えが伝わったのか、ロリ神は後ずさって両手を前に突き出し、『来ないで』のポーズをとっているが、そんなの俺には知らん。
「この薄情者がぁ! 」
「
「お前が知らせてくれたらレキにも撃たれずに済んだのに! 」
ロリ神は屈んでいる俺をポコポコと叩いているが、幼女のパンチなど効かぬわ!
「
取り敢えずプニプニの頬から手を離してやると、ジト目で俺を睨み──ツーンとそっぽを向いてしまった。反省が足りないようだが、これ以上やっても話が進まないしやめておこう。
「瑠瑠神は何故、約束を破った? 」
「別に、あの女は約束は破ってないよ」
フン! と腕を組みながら俺に衝撃的な事実を叩きつけてきた。約束を破ってない? 一年間近づくなという約束だったはずだ。俺はまだ三年生にもなってないぞ。
「それはどういう事だ? 」
「君にとってはあまりにもご都合主義すぎるかもしれないけど。ある程度の力を持つ神は自身の世界を作り、その世界の時間を操ることが出来る。例えを言うとあの女の世界に君が一時的に取り込まれたこともあったよね。その時あの女は自分の世界の時間を遅延させていたわ」
「は・・・・・なんだそのチートは」
確かに、以前瑠瑠神の世界に連れてかれたことはある。手足もがれて最悪な気持ちになった。だがそこで瑠瑠神と対峙した時間は三十分もない。一人で武偵校に登校した時間も合わせれば一時間も経っていなかったはずだ。それなのに、瑠瑠神の世界から抜け出した時は丸二日も過ぎていた。それが可能ということは・・・・・自身の世界を作り、その世界の時間を操れるという事だ。つまり、
「瑠瑠神は自身の世界で一年進ませて、俺に会いに来たってわけか」
「そういう事になるわね。一年間近づくな、時間も進めるなって約束なら良かったんだけどね。ま、瑠瑠神は君のいる現実世界でも時間の流れを変えられるけどね」
なんて事を考えるんだ瑠瑠神は・・・・・私はしっかり一年間も待ったんだよ? とか言いそうだな。後で時間を進めるなって言っても聞かないだろうし。むしろ俺の方が約束を破ったって言って殺されるんじゃないだろうか。
「神様がそんな特技を持ってるなんて聞いてなかったぞ。何で言ってくれなかった? 」
「こっちはこっちで大質量の瑠瑠色金から発せられる力を閉じ込めるのに精一杯だったんだ。言いたくても言えない状況だった」
「怪しいな」
こいつの事だからアニメでも見てて伝えるのめんどくさいって言いそうなんだが。
───そういえば、時間を操れるってことは俺の心臓付近に埋まっている神弾も、瑠瑠神の世界に取り込まれて時間を進められたら効力を失うのか?
「おいロリ神。俺の心臓に埋まっている神弾は一年しか効力を発揮しないぞ。それも時を進められたらヤバイんじゃ・・・・・」
「ああ。それは心配しなくていいよ。璃璃神がついているからね」
「璃璃神? なんだその瑠瑠神と名前が似てる神様」
「璃璃色金に宿る神だよ。他にも、緋緋色金に宿る緋緋神だね。瑠瑠神入れてこの三体は姉妹なんだよ。
それでその三体はお互いから力を吸収することが出来る。双方の意思とは関係なしに、力が強い方が強制的にね」
三体も・・・・・力が強い方が強制的に力を奪い取れるってことは瑠瑠神もその二体から力を吸収してた可能性もあるな。
「君が考えている通りだよ。君が地下倉庫で瑠瑠神と約束したあの時、彼女の目が金色に見えていたのは緋緋神から力を吸収して、自身の持つ鮮緑と緋色が混ざりあったから。本当は金色じゃなくて黄色だったんだけど。光の三原色と同じだよ。ちなみに、璃璃神は薄い青色だ」
「だから金色に・・・・・てことは、だ。俺の瞳は黒色で、鮮緑でも薄い青色でもないってことは──心臓に埋まっている神弾が瑠瑠神の力を打ち消してるってことか」
「ご名答! 神弾には璃璃色金が含まれているの。それで璃璃神が瑠瑠神を抑えることが出来る期間は一年間。それより早い場合だってある」
「そうか・・・・・そう言えばもう一つ、瑠瑠神とか緋緋神って色金がそばになくても活動出来るのか? 」
瑠瑠神はいつも不意に俺の前に現れる。いったいどこから俺に憑依してきたと本人に問いたいが、愛の力と言われて終わりそうな気がする。ジャンヌやブラドと戦った時に瑠瑠色金が近くにあったとは思えない。もしかすると、どれだけ離れていても関係なく活動できるかもしれない。俺はその最悪の場合に肝を冷やしたが、ロリ神の一言でそれは杞憂に終わった。
「ある程度は離れてても大丈夫だと思う。そのことはあの三姉妹にしか分からないわ」
「そうか。だったら瑠瑠神はどこから俺の元に来れたんだよ・・・・・」
今までのロリ神との会話や瑠瑠神との話を思い出して何かヒントにならないかと必死に記憶を探る。そして──何か頭の中で引っかかるような違和感を覚えた。だがその違和感の正体は分からないまま。すると、ロリ神が俺の目をじっと見つめてきた。
「早く帰った方がいいんじゃない? カジノが大変な事になってるよ」
そう言われロリ神に肩をトンと押された。後ろを振り向くと、どこから伸びているのか分からない無数の紫色の手が俺に迫ってきていた。
──いつも現実に引き戻される時に伸びてくる手だ。
「なあロリ神」
「なんだい? 」
「こんな事言うのもアレだが・・・・・頼りにしてる」
「・・・・・うん。すごく嬉しいよ。やっぱり君にそういう事を言われると実感させられるよ。君と私は────だってね」
「え? ・・・・・なんて言った? 」
聞こえなかった部分を聞こうとするより俺を引っ張る無数の紫色の手の方が速く、また暗闇に引きずり込まれるような感覚が俺を襲ってきた。意識が落ちる瞬間、ロリ神──ゼウスは少し笑っているような気がした。
目が覚めた。目の前にあるのは個室の壁──ではなく頭がジャッカルというイヌ科動物の頭をした全身黒い大男だった。手には半月型の斧を持っていて、おおきく振りかぶっていた。そしてそれは俺の頭めがけて振り落とされ──
「──ッ!? 」
俺の頭に届く寸前に真剣白刃取りでとめる。右足でジャッカル男の顎を蹴りあげ、手から離れた斧を床に滑らせる。ジャッカル男は右手で俺の首に掴みかかろうとしたが、その手を外側に弾き、ジャッカル男の懐に潜り込む。その空いた腹に拳を叩き込むと・・・・・砂に手が埋まるような感触が拳全体を包み込んだ。
「うううぅぅぅぅぅ」
人間が決して出せるような声の低さではない呻き声をあげ、ジャッカル男は黒い砂人形のように固まったかと思うと・・・・・ざあっと崩れてしまった。
「何が・・・・・痛ッ!? 」
ジャッカル男に叩き込んだ拳に強烈な痛みが走った。見ると、右手全体に黒い砂のようなものが張り付き、それら一粒一粒が生き物のようにザワザワと蠢いていた。
俺は個室から飛び出し手洗い場ですぐ右手を洗ってみたが、水を弾くばかりで落ちることはなかった。
『に、逃げろ! 化け物が来るぞ! 』
トイレの外──カジノ・ホールから多くの人の足音と悲鳴が鳴り響き、一斉に出口へと逃げていくのが分かる。
俺は右手の黒い砂を張り付かせたままトイレのドアを勢いよく開ける。すると、カジノ・ホールから何発もの銃声が聞こえてきた。俺は人混みをかき分けながらカジノ・ホールへと全力で走る。床に大量に散らばっている黒い砂に足を滑らせそうになるのを何とか堪え、何とかキンジ達が見えてくる位置にまで辿り着くと、
そこは────『巣』と呼べるほど大量にジャッカル男がひしめき合っていた・・・・・
あれは伏線と呼べるものだったのか?